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いつも読んで下さる皆様、ありがとうございます。ブクマや評価、感想もいつも励みになっております。

もうしばらく続きますので、お付き合い下さると幸いです。

 ――殿下! 殿下は間違っております……!

 ゲーム画面の中でローザ・フェガロが訴えていた。

 この夢久々に見たな、なんて頭の隅で考えながら、ローザの背景に目を留める。

(学園の教室、にしては装飾品が豪華だな……談話室か……?)

 授業に使う教室とは別に設けられている部屋だ。放課後残って少し話をする時とかに使われている。個人的には、こんな豪華な部屋いるのか? って感じだけど。

 ――どこの血筋かも明らかではない平民の娘を、王女の代役に立てるなど、殿下は二国を滅ぼすおつもりですか!?

 なんか既にヒートアップしてるけど、どういう流れだったっけと、必死に考える。

(えーと、これ多分、ローザが追放されるイベントで……これ自体は確か二度目の太陽の塔のイベントの前で……)

 ローザがヒロインに対して嫌がらせをしていたのを見咎められて、事情聴取されるという流れだった気がする。

(んで、理由が王女の代役には相応しくないから、と……)

 ――ねぇ、このキャラ、何でこんなにキレてんの……?

 幼馴染にそう尋ねたのは私だ。

 ――えーと、確か、レイっていうか王家を崇拝してるって設定なんだよ。主人公はほら、王家どころか貴族でもないし?

 あの時聞いた話が少しずつ頭の中に戻ってくる。

 ゲームのローザは血統主義という設定だった。王族を神聖視してて、結界の維持も王族だからこそできることだという思考の持ち主だ。周囲の人達は、始まりの泉から現れたヒロインを奇跡だと言って持てはやすけど、ローザは王族ではないヒロインが関与することに危機感を抱いていた。そしてレイには何度かそれを伝えたけど取り合ってもらえず、ヒロインに嫌がらせをして学園から追い出そうとしたのだ。

(王族じゃないとキツイってのは確かだけど、王族じゃないとだめってことはないんだよな……)

 王族以外の人間が一人で魔力を補充するのは難しいから、何人も集めないといけないけど。

 実際、公爵家の女性でも一人では厳しく、補充を数回に分けるか王家の血に近い女性を数人探す必要がある。もし下級貴族や魔力持ちの平民の力で維持しようと思うなら、塔に入りきれないくらいの人数が要るらしい。

 その辺になると流石に不可能だけど、どの道、王家の権威を守るためにも、王家の人間が役目を負うのが一番だ。

 ――国を亡ぼすつもりなどありません。彼女は前回立派に役目を務めているんです。次も彼女を選んで然るべきでしょう。

 画面の中にレイが出てきた。まぁ、レイのルートだから、レイが一番に庇うだろう。

 ――そもそも最初の時点でそのような者を選んだことが間違いだと申し上げているのです!

 ――魔法学に熱心で、魔力量も十分、人柄も良いという理由では納得できませんか?

 ――それについては俺も同意だ。皆で話し合った上で彼女を選んだんだ。これ以上何を責める必要がある?

 レイに続いてクロード王子も出てきて、そういえば出てきたなぁ、と幼馴染とプレイした時のことを思い出す。クロード王子の方がタイプらしい幼馴染は、彼が出てくる度に奇声を上げていた。

(てか、改めて考えると人柄関係ないよな……)

 魔法学に熱心というのも微妙だ。問われるのは魔力量と支援魔法の適性だ。

 ――それに、彼女が結界を維持してから何も起きていません。これが彼女を選んだのが最善だったという証拠です。

(そんな結果論で言われても……)

 何が起こるか分からないなら、不安要素は可能な限り排除して事に当たるのが正しいんじゃないだろうか。

 ローザの血統主義は行き過ぎかもしれないけど、“始まりの泉から現れた少女”というのは色んな意味で未知数過ぎて、大事な場面で抜擢するのはちょっとどうかと思えてくる。

(というか、魔力補充して数か月でまた結界が揺らぐなんて、異常事態としか言いようがないんだけど……)

 まぁ、その辺はゲームだから現実とは違うのかもしれない。

 ――ローザ、セレーネに帰りなさい。太陽の塔を維持する者へ危害を加えるなど、私の婚約者としてあるまじき行いです。婚約の件も考え直さなければなりませんね。

 ――レイ殿下っ、お待ち下さい! 私はただ、二国のことを思って……!

 言い縋るローザは、レイの合図でヴォルフ達によって連行されていく。

(あ、ちゃんとヴォルフ達だ)

 ゲーム内ではモブ兵士枠なのに、ちゃんと顔が描き分けてあることに少し感動した。そしてゲーム内では護衛も学園の中に入れるらしい。

 そんなズレた感想を抱いてる内に夢は終わっていた。



     ◇



 翌日、レイは朝からクロードを人気のない場所に呼び出した。

 マナミ・カンザキの後見人はソレイユ王家が務めているため、昨日の件をどう対処していくかについてクロードにも相談しておかなければならない。

 レイがマナミ・カンザキの身に起きたことを伝えると、クロードは驚いた顔をした。カミーユも担当の者に報告しておくと言っていたが、クロードの所まではまだ話が下りてきていなかったようだ。

「嫌がらせの件については聞いていたし、教師達にも注意を促していた。この前の報告では嫌がらせそのものは収まってきているようだと聞いていたが……」

「ええ、一時期は軽くなっていたようですが、昨日はマナミ本人に危害を加えようとしていましたね……」

「流石に、見過ごせないな。こちらも本格的に動かなければならないか……」

「はい」

 学園内のことであるため、クロードが中心となって動くことになるだろう。

「それで一つお伝えしておくことが」

「何だ?」

「マナミに接触した生徒の一人が、犯人はローザだと言ったようなんです」

「は……? ローザ、が……?」

「ローザがマナミのハンカチを盗むところを見た、と」

「本当なのか……?」

 レイは軽く首を竦める。

「そこは何とも……今のところ、そういった発言は一つだけですね。それと、昨日二階から花瓶を落とした人物も黒髪でしたが、ローザは昨日早々に迎賓館に戻った後、街に出ていたようなんですよ」

「誰かがローザのふりをした可能性が高いと?」

「私はそのように思っています。一度迎賓館に戻ってから再び学園に戻ってきて事を成すというのも、まぁ、不可能ではないのでしょうが、そこまでする理由が全く思い当たりません。ローザはマナミとはほとんど接触していませんから」

「犯人はローザだとマナミに言った生徒というのは分かっているのか?」

「ええ。ちょうど、マナミとその生徒が話しているのを私が見かけました。遠目ではありましたが、あれは恐らくモニカ・フレンツェルですね」

「モニカ・フレンツェル……?」

 クロードは顎に手を当てながら考え込む。彼にとってもモニカの名が出てくるのは予想外だったのだろう。

「ローザを陥れようとしているのであれば、クロードの婚約者問題が切っ掛けかと思ったのですが、モニカ・フレンツェルはその件に何か関わっていますか?」

「いや……最初の婚約者候補の一覧には確か挙がっていたと思うが、あれは伯爵家以上の家は皆誰か一人は一族の令嬢の名前を載せるからな……夏前に絞った候補の中には残していないし、フレンツェル伯爵家も特に婚約者選びで積極的に動いていたわけではない」

「では、モニカ・フレンツェルは誰かの協力者という可能性が高くなりますね。親族か同じ派閥の家か、もしくは親しくしている者……」

「親族や派閥となると、すぐには絞れないな……親しくしている者は、マリーナ・デュフォーと――」

 レイが考える人物と同じ人物が思い浮かんだのだろう。クロードと目が合う。

 クロードは頭を横に振った。

「いや、エミリアはない。確かにエミリアはまだ婚約者候補の中に残っているが、彼女は――」

「ローザをクロードの婚約者にと考えているのでしょう?」

 レイが知っていると思わなかったのか、クロードは軽く目を見張る。

「知ってたのか……」

「長期休みに入る直前、ローザがフォンテーヌ嬢本人からそう言われたらしいですよ?」

「なっ……休みの前に……!?」

 一気に顔を赤くしたクロードにレイは苦笑する。

「クロードよりも早く動いていたくらいですから、フォンテーヌ嬢はクロード寄りの人間だと思っていいでしょうね。クロードの意に反することはしないでしょう」

「ああ……この前のパーティーで、ローザ以外と踊るなと言ったのもエミリアだ……」

「では、尚更彼女の指示とは思えませんね」

 クロードもそれには同意したが、難しい顔をしたまま考え続けている。

「だが、モニカ・フレンツェルの交友関係を考えると、エミリア以外の候補者に従うとも思えない……」

「それなら、後はモニカ・フレンツェルの独断か誰かに唆されているか、ですね」

「エミリアには、最近モニカ・フレンツェルの様子がおかしくないか訊いてみよう。レイはどうするつもりだ?」

「とりあえず、今日の授業後にでもローザとマナミの両方に話を訊いてみようかと。マナミはローザが犯人だと信じているようなので、その誤解も解いておきたいですし」

「俺も同席していいか?」

「ええ、もちろん」

「あまり人目に付かない方がいいだろうな。場所は手配しておく」

「ありがとうございます」

 後でカミーユにも伝えなければならないと思いながら、レイはクロード共に教室へと足を向けた。



     ◇



 何でまた今更前世の夢を見たんだろうかと考えていると、レイから話があるから授業が全部終わった後、校舎に残っていて欲しいと言われた。

 話なんていつでもできるのに、わざわざ教室に残れということは、他にも同席者がいるということだろう。

 今朝あんな夢を見たばかりで、もしやそっち関連なんじゃ、と思ってしまうのは勘ぐり過ぎだろうか。

 とはいっても、カンザキさんとはほとんど関わってないから、ゲームのストーリー通りになんてなりようがない。

 じゃあ、他に何が? と考えてみても、私を呼び出すそれらしい理由なんて思い付かないまま、午後の授業も終わっていた。

(少し早く終わったな……他のところはまだ終わってないか……)

 午後の授業は選択科目だったため、一人黙々と初級攻撃魔法の練習をしていた。最初の頃は攻撃魔法が苦手な男子が数名一緒だったけど、やっぱり男子は多かれ少なかれ攻撃魔法に適性があるから、皆中級クラスに移ってしまった。まぁ、教師と場所の関係で隣り合った場所で練習はしてるけど。

(魔力量は私の方が多いのに、初級しか発動させられないってことは、やっぱり適性の有無が大きいか……)

 こればっかりは生まれついてのものだから、練習でどうにかなるものではない。

(補助具的なものを使って威力だけでも上げられたら、多少は使い物になるんだけど……)

 その内そういう道具を考えてみるのもありかもしれない、と思いながら演習場の隅に置いていた荷物を取る。まだまだ時間があるから図書館に本を返してから校舎に戻ろう。


 借りていた治癒魔法の本を返して校舎に戻ると、どこの授業も終わっているようだった。授業が終わったら中庭の噴水の所で待つようにと言われていたから行ってみると、既にレイがそこで待っていた。

 レイは私を見つけると、軽く溜め息を吐く。

「遅かったですね。帰ったのかと思いましたよ……」

「すみません。少し時間があったので図書館に本を返しに行ってました」

 レイ達も演習場での演習だったから、こっちが早く終わったのを知っていたのかもしれない。

「そうでしたか」

「それで、話というのは?」

「ここでは何ですから、場所を変えましょう」

 そう言われて、レイの後について行く。同席者はそこにいるんだろうか。

 校舎の中に入って二階へと上がり、レイが向かった先にあったのは談話室だった。

(やっぱり……?)

 夢で見た光景を思い出して口元が軽く引きつる。

(いやでも、ゲームのローザみたいなことにはなってないんだけど……)

 カンザキさんに嫌がらせをしたわけでもないし、太陽の塔に彼女を連れていくことに反対をしたわけでもない。というか、この前は結局魔力の補充なんてできずに引き返している。

「ローザ? どうかしましたか?」

「いえ、何も……」

 偶々場所が同じなだけで別の件だろうか、と思いながらレイに続いて部屋に入れば、クロード王子とカミーユ君、そしてカンザキさんの姿があった。

 嫌な予感しかしない。

「遅くなってすみません」

「いえ、私達もつい先程来たところですので」

 カミーユ君はにこやかに答えるけど、隣のカンザキさんは眉をひそめて顔を逸らした。

 相変わらずだな、と思いながら、とりあえず「皆様、ごきげんよう」と軽く会釈をする。カンザキさんも挨拶くらいしようよ、と思ってちらりと窺ってみたけどやっぱり目を逸らされたままだった。

 まぁ、仕方ないか、と思っていると、椅子を勧められたのでそこに座る。

「お時間を頂いてすみません。ローザとマナミにいくつか訊きたいことがあって集まってもらいました」

 レイはそう言って話の口火を切る。クロード王子もいるけど、ここではレイが仕切るようだ。

「まず、ローザに訊きます。そちらのマナミ・カンザキが最近嫌がらせを受けていたのですが、この教科書に見覚えはありますか?」

 レイはテーブルの上に一冊の教科書を置く。初級防御魔法学の教科書みたいだけど、表紙には刃物で傷つけた痕がいくつもあった。

(うわ……)

 これはもう嫌がらせというレベルじゃないだろう。狂気の沙汰と言ってもいいんじゃないだろうか。これをやった人間の精神面は大丈夫か、逆に心配になってくる。

「見覚えはございません」

「では、これは?」

 そう言ってレイは、今度はハンカチをテーブルの上に置く。シンプルなデザインでどこにでもありそうな感じだけど、私やレイの持ち物に同じものはない。他の誰かが持っているところも見たことがなかった。

「こちらも、見覚えはありませんわ」

 感じたままに答えたのだけれど、カンザキさんは納得が行かないようだった。

「そんな……嘘、吐かないで下さい……」

 震える声で言う姿は正しくヒロインといった感じだ。

「嘘と言われましても……どちらも見覚えがないので、そう答えただけなのですが……」

「でも、私、貴女がやったって、他の人から聞いて……」

 おっと、それは聞き捨てならない話だ。

 ハンカチの方は何をされたのか分からないけど、教科書の方も全くもって身に覚えのない話なのに、誰かが私を犯人だと言ってるらしい。

(私の知らないところでややこしい話になってるな、これ……)

「昨日だって、上から花瓶落とすとか……もうあんなことはやめて下さい……!」

 そんなことされたのか。てか、私じゃないって言ってるんだけど。

(今までの態度を見る限り、素で言ってるわけじゃないよな……)

 ゲームのセリフなんて、夢で見たもの以外は全く覚えてないから、カンザキさんがゲーム通りに演じているのかは分からない。でも、彼女がゲームでローザがどのような人間だったのか知っているのは確かだと思う。ゲームのシナリオも何も知らず、誰かの言葉を鵜呑みにしているわけではないだろう。

(どうしたものか……)

 私は軽く溜め息を吐く。

「申し訳ありませんが、昨日の話というのも全く存じ上げません。やめて下さい、と言われましても、私も困ります」

「ローザ様は、昨日授業が終わった後どちらに?」

 私達のやり取りを見かねたのか、カミーユ君がそう尋ねてくる。

 これはアリバイを確かめる流れだろうか。

(よりによって、昨日とは……)

 学園内にいなかったことは確かだけど、それを証明できる人として挙げれる人物が限られてくる。

「昨日は、授業が終わった後すぐに迎賓館に戻り、それから街に出ておりました」

「えっ、そんな……でも、花瓶を落とした人は黒髪だったって……」

「街にはお一人で?」

「使用人と一緒でした」

「そうですか。では、昨日の人物はローザ様ではないのでしょうね」

 カミーユ君はそう納得したけれど、カンザキさんは引き下がらなかった。

「待って! 使用人だなんて、そんなの、身内も同然の人なら口裏を合わせられます!」

 まぁ、確かに。

「マナミ、そういう言い方は……」

「本当に街に出てたなら、どこで何をしてたか、具体的に言えますよね!? 入ったお店の場所とか教えて下さい! 本当に貴女が来たか、私、訊いて来ますから!」

 何が何でも私に白状させたいのだろうけど、そこまで追及されると私も困る。

 ソレイユ王から口止めされているのだ。昨日行った場所は、ラングロワ侯爵邸と王宮とシャリエ伯爵の別邸です、なんて口が裂けても言えない。

「昨日は何処かに立ち寄ったわけではなく、ただ街を見て回っただけです」

「わざわざ街に行ったのにどこにも寄らないとか、おかしくないですか? そんなこと言って、本当は街にも行ってないんじゃないんですか?」

「マナミ、落ち着いて……」

(エマと落ち合うために大通りまでは行ったから、全くの嘘ではないんだけど……)

 でもまぁ、彼女の言い分を聞いていると、誰でも確かに疑問に思い始めるだろう。

 現にレイも先程から訝しげな視線をこちらに向けている。

「確かに昨日は遅くに帰ってきていましたが、本当に街に行ったのですか?」

「ええ、行きました。事実です」

「何をしに?」

「ただ街を見て回ったというだけではいけませんか? 少し気晴らしがしたかったんです」

 ここまで言えばレイはもう追及してこないだろう。レイは一つだけ私が口に出して言えない行き先――セシル王女の所――があることも知っているし。

(昨日は違うけど、レイにはそれで誤魔化しておくしかないな……)

「分かりました。ローザが早くに学園から戻ったことは、迎賓館の者達も私の護衛達も知っています。昨日見た人影は貴女ではなかったのでしょう」

「でもっ、それじゃあ、あれは誰だったんですか!?」

 カンザキさんが勢い余って立ち上がる。

「黒髪の女子なんて、学園にはほとんどいないじゃないですか……! 上級生の人だって、ローザ様がやったって言ってたのに……!」

「それについては、その人物が見間違えたか、誰かがローザのふりをしたと考えるべきでしょうね」

「っ、だったら、それは別にローザ様が指示しててもいいですよね……? 誰かに自分のふりをさせて、でも自分はその場にいなかったって証明して、あたかも別の誰かがローザ様を嵌めてるかのように自作自演することだってできますよね?」

 何でまた話をややこしくするんだ。この短い時間でよくそこまで思いつくな。

 クロード王子とか逆に感心した顔つきになってるんだけど。

「何故、私が貴女にそのようなことまで言われなければならないのですか? そもそも、私が貴女にそのようなことをする理由がないのですが?」

「それはっ……私の態度が気に食わなかったからでしょう!? 挨拶返さなかったくらいでこんなことするなんて……!」

 一瞬言葉に詰まったカンザキさんを見て、“王女の代わりに太陽の塔の核に魔力を籠めたから”という理由が使えなかったんだなと察した。

(ゲームじゃそれが理由だったもんな……でもその言い訳、発端は自分だと言ってるようにしか聞こえないよ……)

 周りが微妙な空気になってきているのを感じながら、小さく溜め息を吐く。

「挨拶を返されなかった程度でそのようなことをするほど、狭量ではないのですが……」

「じゃ、じゃあ、この前のパーティーで私がレイ殿下と踊ったのが、婚約者として気に食わないんでしょ!」

 踊ったのか。それは知らなかった。というか、私はレイの婚約者ではないのだけれど。

 部屋の中に沈黙が下りる。全員彼女の的外れな発言に二の句が継げないといった感じだ。

「え……? な、なんで皆黙るの……?」

 流石に空気がおかしいことに気づいたのか、カンザキさんも困惑した顔になる。

 確かにソレイユに来た頃はそんな噂も流れていたけど、その誤解は結構早い段階で解けていた。

(知らなかったのかな……ゲームでは婚約者ってことになってたし……)

 どうすんだよ、これ、という意味を込めてレイの方を見る。そもそもレイが付き人を私にしなければこんな誤解は起きなかった。

「あの、マナミ、誤解があるようです。ローザは私の婚約者ではありません」

「え……うそ……なんで……?」

 何でと言われても、本当は姉弟だからとは言えない。

「カミーユは、知ってたの……?」

「ええ……確かに一時期そんな噂も流れましたが、レイ殿下から違うとお聞きしていましたし……」

「クロード、殿下も……?」

「ああ。ローザがレイの婚約者だったら、俺はこの前のパーティーであんなことはできなかったな……」

 クロード王子は苦笑しながら言ったけど、カンザキさんにはただの追い打ちにしかならなかったようだ。

 私が犯人だと思いたかったみたいだけど、色々と前提がおかしいことに気付いてへたりと椅子に座り込む。

「じゃあ、何で私はいじめられてるの……」

 ぽつりと呟いた声は弱々しく、悲愴感が漂っていた。

(ゲームみたいにいじめられたから、レイのルートだと思ったってところかな……)

 彼女が何を思ってどう行動していたのかは知らないけど、レイのルートと似ているなら、そう思い込んでも仕方がないのかもしれない。

 でも実際は、ローザ・フェガロは犯人ではなく、シナリオ通りになることはないだろう。彼女がレイのことを好きなら、実はルートが確定していなかったという事実は結構なショックに違いない。

(ルートなんてこの世界には存在しないと思うけど、カンザキさんにとってはゲームの世界なんだろうな……)

 まぁ、本当に始まりの泉に突然現れてたし。自分が召喚される側だったら私もそう思い込んでそうだ。向こうの世界には魔法なんて存在しないのだから。

「マナミ、貴女にローザがやったと伝えた上級生は、どんな人物だったか覚えてますか?」

「え……? えっと、茶色い髪で、目は暗めの緑で……」

 ソレイユならどこにでもいそうな色だ。

「他に特徴は?」

「すみません、ちょっとしか話してないから、あまり覚えてなくて……あとは……」

 カンザキさんがぼぞぼぞと説明していると、ドアの向こう側から誰かが走り去っていく足音が微かに聞こえた。

 近くの部屋を誰かが使っていたのかと思ったけど、耳を澄ましてみても誰かがいる音はしない。談話室の周りは似たような部屋がいくつかあるだけで、授業で使うような教室は少し離れている。

(もう授業が終わって結構経つし、教室に残ってたとかじゃなさそうだな……)

 耳は良いけど、流石に離れた教室の音までは拾えない。

(別の談話室を一人で使ってたというのも考えにくいし……)

 この部屋の会話を盗み聞いていた可能性が高い。

「レイ殿下、私へのご質問は終わったようですので、お先に失礼してもよろしいでしょうか?」

 レイは私の意図を探るようにこちらをじっと見つめたけれど、すぐに「ええ、そうですね」と頷く。

「また何かあれば後で尋ねます」

「ありがとうございます」

 私は立ち上がって、「皆様、それでは」と会釈をして談話室を出た。


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