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いつも読んで下さる皆様、ありがとうございます。

ブクマや評価、感想はいつも励みになっております。

 太陽の塔へは王宮の北側の門を通るのが普通らしい。他の門から行けないこともないんだけど、遠回りだし、塔の周りを囲む森には北門と塔を結ぶ道以外の道がないから、余程のことがない限り外から回り込むことはない。この辺はセレーネも同じだ。

 レイ達と一緒に王宮の北側の区域に向かえば、門前に既にクロード王子達が集まっていた。甲冑を身に着けていない二人が研究者だろう。近衛兵の中にはクラウスさんの姿もあった。

 一瞬目が合ったけど、知り合いだとバレるわけにはいかないから、気付かなかったフリをして視線を外す。

「クロード、お待たせしました。そちらの準備は整っていますか?」

「ああ、大方な。カミーユとマナミ・カンザキが来次第、出発できる。二人も同行することになった」

 さっき聞いた時はまだ確定ではなかったけど、ちゃんと決まったらしい。よかった、と内心安堵していると、クロード王子からじっと視線を向けられる。

「ローザ、だよな……?」

「はい、左様でございます」

「髪形が違うから、随分雰囲気が違って見えるな」

 こっちが普通なんです、とは言えないから、「そうでしょうか?」と適当に言い繕って微笑う。レイが隣で溜め息を吐きたそうにしていた。

 しばらくすると、カミーユ君とカンザキさんが小走りにやってきた。――のはいいんだけど、何か視線を感じると思えば、カンザキさんに物凄く睨まれてた。

(そりゃそうだよね……本来なら、“ローザ”は参加しないはずだし……)

 ただのライバルならともかく、“ローザ”はヒロインに危害を加える存在だ。警戒どころか敵意を向けられたとしても仕方ない。

 とにかく彼女の神経を逆撫でしないようにしようと、私はさり気なくレイ達と距離を取って調査隊の後方についた。

 先鋒はソレイユの近衛隊で、うちの護衛はレイの護衛をする人以外は後衛についたからちょうどいいだろう。

 北門を出て外堀を越えると、目の前には鬱蒼と茂る森が広がっている。森の入り口付近は、普通の森と変わりない感じだったけど、五分も歩けばこの森の異様さが分かった。

(話には聞いてたけど、ここまでとは……)

 森に生えている木々全てが、恐ろしいくらいの巨大樹なのだ。

 ここのことを知らない人から見れば大昔からある森なんだな、で終わるだろうけど、ここが森になったのは、太陽の塔ができてしばらく経ってからだ。セレーネもそうだけど、元々、塔の周りには森なんてなかった。

 何十年、何百年と塔の核に魔力を籠める内に、塔から少しずつ漏れた魔力がこの森を形成したと言われている。魔力が生命力の一部だとよく分かる例だ。

 森があると動物や魔物が棲みつきやすくなるから、最初の頃は伐採していたという話だけど、それも追いつかなくなって今では道の両側だけ伐っているそうだ。

(それでもぎりぎりっぽいな……)

 今歩いている場所も、地面から出てきた根っこで歩き辛くなっている。これはちょっと放置するだけで、すぐに道がなくなるだろう。

 上を見上げても、幾重にも重なった木々の葉が見えるばかりで、空はほとんど見えない。隙間から光が差し込むから薄暗いといった程度で済んでいるけど、夕方には真っ暗になるに違いない。

(日帰りできる距離といっても、遅くなるのは危険か……)

 火属性の人間は夜目がきくけど、他の属性の人間はそういうわけにもいかない。

 どれくらい歩いただろうか。後ろを振り返ってみても、森の入り口は見えず、前も相変わらず木々に覆われた道が続くだけだ。

 太陽の塔まであとどれくらいだろうと考えていると、不意に森の奥から微かに遠吠えが聞こえてきて足を止めた。

 聞こえてきた方を見つめていると、護衛をしてくれているヴェルナーも立ち止まる。

「どうかされましたか?」

「遠吠えが……」

 そう言っている間にまた一つ聞こえる。さっきよりも近い。

 ヴェルナーが他の護衛と目配せして何かを確認すると、その内の一人がレイの傍にいるヴォルフへと報告に行った。

「私の傍を離れませんよう」

「分かりました」

 さっきのは、きっとゲームでも出てくるダークウルフだろう。普通の犬がこんな所に住んでいるとは思えない。

(防御魔法は使えるけど、ヴェルナーと息が合ってないと邪魔になるだけかな……)

 ゲーム内ならともかく、魔物との戦いがどういうものかは私にはまだ分からない。

 それでもいざという時のために防御魔法を使う心積もりはしておこうと考えていると、森の中から落ち葉を踏む音などが聞こえ始めた。

 最初に遠吠えが聞こえた方角だけではない。反対側の森の中からも似たような音が聞こえてくる。

 距離はまだ遠いのだろう。音自体はとても小さいから、恐らく風属性の人間しか感知できていない。

「ヴェルナー、囲まれているかもしれません」

 小声でヴェルナーにそう言う。彼からは土属性の魔力を感じるから、音には気付いていないだろう。

 ヴェルナーは心得たように頷く。対処の仕方は彼らが知っているから、私は分かったことをただ伝えればいい。

 周囲に警戒しながらも調査隊は進む。ずっと同じような道が続く森の中じゃ、戦いやすい場所も何もないから、進んだ方が得策という判断なのだろう。

 しかしそうやって進んだのも数分足らずだった。

 両脇の森からはっきりと草葉が擦れ合う音が聞こえ始め、ヴェルナーや近くの護衛達が剣に手を掛けるのが見えた。

「両殿下、お退がり下さい」

 前の方を行く近衛兵からそんな声が聞こえたかと思えば、ヴェルナー達も私や研究者二人を囲むように前に出る。

 研究者二人は男性だけど、年齢からして兵役に出たのは十年以上前だろう。彼ら二人も守られる側だ。

 森の中から微かに魔力の気配がする。

 どこにいるかは分からないけど、すぐ近くまで来ているような気がした。

「ダークウルフだ!」

 前方からそんな声が上がったとほぼ同時に、目の前の森から黒い影が飛び出してくる。

 一直線に向かってくるそれに心臓が嫌な音を立てたけど、ヴェルナーの剣が影を薙ぎ払う方が早かった。

 致命傷に至らなかったのか、狼のような獣は地面を転げた後、体勢を立て直す。

 気付けば周りには似たような獣が五、六頭いた。真っ黒な毛並みのものもいれば、ところどころ灰褐色の毛が交ざっているものもいる。真っ黒な狼からは他よりも強い魔力を感じるから、これがダークウルフなんだろう。色が交ざっている方はハーフに違いない。

 その中の一頭が吠える。

 風属性の魔力が膨らんだのを感じたかと思えば、ちり、と鋭い何かが頬を掠った気がした。

「ちっ!」

 ヴェルナーの舌打ちが聞こえる。

 別の狼が吠えると同時に飛んできた火の塊は、ヴェルナーの声と共に隆起した地面の壁に当たって散った。

「こいつら、結界内の魔物にしては魔法を使うぞ! 気を付けろ!」

 ヴェルナーは声を上げながら、跳びかかってきた灰褐色の狼の牙を左腕の甲手で受け止める。

 右手からはダークウルフが迫っていた。

「ヴェルナー!」

 咄嗟に風の障壁を作る。

 ダークウルフが怯んだ隙に、ヴェルナーは噛みついたままの狼に剣を突き立て、素早くダークウルフを斬り伏せていた。

 辺りを見回せば、他のダークウルフや狼も護衛や近衛兵が概ね仕留めていた。

 何頭かが森の中へと逃げるのが見えたけど、怪我をしているように見えたからもう襲ってはこないだろう。

 ほっと胸を撫でおろしていると、ヴェルナーがやって来て頭を下げた。

「申し訳ございません、お怪我を……」

「え?」

 怪我なんてしてないけどと首を傾げていると、「頬に傷が」と指摘される。

 そういえば、鋭い風か何かが当たったような気がすると頬を触れば、少しだけ痛みがあった。けど、かすり傷レベルだ。

(かまいたちみたいなものかな……)

 風属性の攻撃魔法だったんだろうけど、目に見えないから何とも言い難い。

 しかもあの時、私の前にはヴェルナーがいたのだ。私は頬を掠った程度だけど、ヴェルナーはあれを真正面から受けていたのではないだろうか。ぱっと見、似たような掠り傷は見当たらないけど。

「私のは、大したことありません」

 指に魔力を籠めて念じれば、痛みはすぐに消えた。

「それよりも、貴方の方が怪我をしているでしょう。左腕は大丈夫ですか?」

 防具の上からとはいえ、狼にがっつり噛まれていた。

「牙は通してないので大丈夫です。それに私はアミュレットを所持しておりますから」

 目立った怪我がないのはそのお蔭なんだろうか。

(意外と効果がある……?)

 他の護衛や研究者も無事みたいだし、前方にいるレイ達の方も怪我とかはしていないみたいだった。

(まぁ、怪我ならカンザキさんが治してくれるだろうし……)

 それに護衛の中にも支援魔法が少し使える人がいる。私はとりあえず成り行きを見守っていればいいのかもしれない。


 それから二度、ダークウルフの襲撃があった。

 ゲーム内では道中の戦闘が三回だったから、私からすれば起きても不思議ではないことだったんだけど、ヴェルナー達からすれば異常事態のようだ。

 森の中とはいえ、王都のすぐ近くにダークウルフの群れが三つも出るなど、本来はありえないことだ。

 確かに、王宮の中でもそんな話は聞いたことがなかったから、基本的に出ないのが普通なんだろう。その辺は私もゲームの感覚に引きずられてるのかもしれない。

 それともう一つ、最初にダークウルフと遭遇した時にヴェルナーが言っていたけど、どの群れのダークウルフも、結界内で生まれ育ったダークウルフとは思えないくらい強いらしい。

「――結界外の魔物の強さもそれぞれですが、あれはダークウルフの中でも強い部類です」

 流石に三回も戦っていると無傷というわけにもいかない。治癒魔法を使いながら、出てきたダークウルフはどれくらい強いのかと訊いてみれば、そんな答えが返ってきた。

「私は最初、結界内の領地に派遣されましたが、その後国境の討伐軍に志願しまして、外の魔物もいくらか見慣れています」

「同じダークウルフでも見た目が違ったりするのですか?」

「いいえ、見た目は変わりません。ただ、魔力量が違います。それを瞬時に感知できるまで大分かかりました」

 ヴェルナーは苦笑するけど、そういうのができるのはかなりの精鋭の部類に入ると叔父から聞いたことがある。勘がいい人間はともかく、普通の人は実戦で何年も経験を積んでようやくちょっと身に付く程度らしいから、ヴェルナーは相当努力したんだろう。

 ちなみに、フェガロ家は代々勘がいい家系らしく、叔父が何やら自慢げに話していた。

 ヴェルナーの怪我を粗方治し、近くにいた他の護衛の怪我も治していく。護衛で治癒魔法が使えるオリヴァーもいるけど、彼は戦闘にも参加するのだから、私が治した方が彼の魔力の消耗が少なくて済む。

 レイ達は大丈夫だろうかと前の方を見たけど、そっちはカンザキさんが積極的に声を掛けて治してくれていた。

 戦闘には参加してないけど、魔法攻撃を完全には防ぎきれなかったらしく、ちょっとした切り傷とか軽い火傷を負ったらしい。

 アミュレットの性能にもばらつきがあるようだ。

(まぁでも、ゲーム通りなら戦闘はあと一回だけか……)

 太陽の塔に着く一歩手前で、ボスみたいなダークウルフが出るだけだ。他のダークウルフよりも大きくて、HPも倍くらいあったけど、一頭だけだったから比較的戦いやすかったのを覚えている。

(ゲームでは、の話だから、実際は大変かもしれないけど……)

 でも、狼というのは元々集団で狩りをする生き物だ。群れで来られたら厄介だけど、一頭対十数名の兵士ならこっちの方が有利なんじゃないだろうか。

 ヴェルナー達の予想以上に強いダークウルフが出てるみたいだけど、何だかんだと言いつつしっかり撃退はできているのだ。太陽の塔までは無事に到着するかもしれない。

 そんなことを考えていると、上空から微かに鳥か何かが羽ばたく音が聞こえてきて顔を上げた。

(鳥……? にしては、音が――)

 違和感を覚えるのと、木々の葉に覆われた空の向こうに魔力の塊を感じたのはほぼ同時だった。

「退避っ!」

 誰かの切羽詰まった声が響く。

「ローザ様!」

 近くにいたヴェルナーが私の身体を地面に引き倒した。

 生い茂った葉の隙間が赤く染まったかと思えば、炎の海が瞬時にそれらを焼き尽くして目の前に広がる。

「土の精霊よ……!」

 ヴェルナーが防御魔法を使ったけれども、土属性の防御壁でも防ぎきれなかった。

「くっ……」

 防御壁は砕け、凄まじい熱風に煽られる。

(風よ、守れ……!)

 心の中でそう唱えたけれど、まともに目を開けられない状態では、自分とヴェルナーの周りに障壁を作るので精一杯だった。

 熱風がおさまると同時に風の障壁も消える。

 緑に覆われていたはずの空にはぽっかりと穴が開き、陽が差していた。その真ん中に見える影――。

「ワイバーン……!」

 近くから震える声が上がった。

 けれど、誰の声かなんて確認してる余裕はない。

 蝙蝠のような翼に鋭い爪を持つ二本の足、鱗に覆われた身体、長い尻尾――。

 実際に見るのは初めてだけど、ドラゴンのような姿は絵で何度も見たことがある。どう見ても見間違いようがない。

(うそだろ……)

 血の気が引いていくのが、嫌というほど分かった。


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