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前話までにブクマ・評価をして下さった皆様、ありがとうございます。

 予定になかった人が同席することになったけど、クラウスさんは理解のある人のようでこちらも助かった。

 ずっと落ち込んでいたセシル王女が、お忍びといえど積極的に研究者のところに行くようになったのを不思議に思って独自にあれこれと調べたらしい。そこで王宮外の得体の知れない人間の存在が浮き彫りになり、騙されているのではないかと心配したそうだ。

 セシル王女は自身の状態を話すどころか王宮にも一度招き入れてしまっていたので、バレれば国王の怒りを買うだろうと、どうにか穏便にその人物を遠ざけようと説得しているところに私がやって来たのだ。

 なかなか真っ当な人だと思うし、まずはセシル王女を説得しようと、クロード王子やその周囲には何も話していなかったのは、私としても助かった。

 いずれはレイに協力のことは打ち明けようと思っているけど、全然違うところから私のことがバレるとまたややこしくなりそうだからそれは避けたいのだ。

 今回は男性の同席者がいるということで、寝室ではなくその手前の部屋のテーブルへと案内された。クラウスさんの分の椅子も用意されたけど、彼は固辞してセシル王女の斜め後ろに立つ。控えているというよりもこちらを監視している感じがしたから、まだ多少は警戒しているんだろう。

 それについては仕方ないので、あまり気にしないようにしながら、向かい側に座っているセシル王女を見つめる。

 彼女と直接会うのはこれで三回目だけど、彼女の魔力は相変わらず空っぽのままだった。

 試しにもう一度魔力を送らせてもらったけど、僅かに彼女の魔力を感じられたと思った時点で消えていってしまった。

 彼女の魔力も私の魔力も外に漏れ出ていないし、送り込む時間や量を増やしてみても反応は全く同じだった。

 もちろん、何の魔法も発動していないし、セシル王女の身体に異常もない。

 前回試したあらゆる治癒魔法が何の効果もなかったことを考えると、これが唯一の手掛かりと言えるんだけど、ここからどうやって原因を探っていったらいいのか。

 他人の魔力を利用して魔法を使う方法というのも、調べた限りではなかった。あったとしても、遠隔でそんな魔法を使える人間なんてそうそういないだろう。

 ソレイユ側の調査も似たような感じで、あまり進展は見られていないようだった。流石に研究者や王宮お抱えの治癒師がいるだけあって広範囲をとても細かく調べてあったけど、セシル王女の状態に繋がりそうものは見つかっていない。

「やはり、今のところは魔力を直接送り込むのが、解決の糸口に繋がる可能性が高いようですね……」

 しかしそれも現状では先が見えないので、セシル王女の表情は硬い。

「私もそのようには思います……ですが、先例もありませんし、一瞬で消えてしまうなんて、そこからどうしたらいいか……」

「何故消えてしまうかが鍵なのでしょうが、正直なところ、私も原因となりそうなものはこれ以上思い浮かびません……」

 今は――。

 考えられる可能性は、私に想像できる範囲で考えてみたし、調べもした。これ以上、となると、きっと私には思いつかないような突飛なことが原因になっているんだろう。

「ただ、幸いなことに、魔力を生み出す能力がなくなったわけではないと思います」

「魔力を、生み出す能力……」

「私が魔力を送り込んだ際に、一瞬でも感じ取れるということは、魔力を生み出せているということだと思います。これは魔力を持たない者にはない能力です。セシル様は決してそのような人達と同じになってしまったわけではないのでしょう。悲観せずに、もう少し原因を探ってみましょう」

 私の言葉に、セシル王女は力強く頷く。

「はい、もちろんです」

(とはいっても、こんな言葉、気休めにしかならないけど……)

 でも、魔力を生み出せているというのは間違いないのだ。体内に留められないだけで、魔力を持たない人間と全く同じになってしまったわけではない。

(魔力を持たない人間、か……)

 それは二国で言うと、平民の大半と極一部の下級貴族――極稀に魔力を持たない子も生まれてくるのだ――、建国の王が立つ前は、身分関係なく全ての人々。

(建国の王達ですら、最初は魔力を持っていなかった……泉の水を飲むまでは……)

 ならばセシル王女も泉の水を飲めば魔力が戻るのではないかと一瞬考えたけど、泉が起こす奇跡は一様ではない。飲んだら必ず魔力が手に入るというわけでもないし、どちらかというと奇跡が起こること自体が稀だと言われている。

(飲んで凶事が起こったら目も当てられないし……でもまぁ、そういうところは研究者の人達がとっくに考えてそうだな……)

 同じ方面を考えても仕方がない。そういった知識や発想は研究者達の方が豊富だ。逆に私が持っているもので使えそうなのは――。

(前世の、知識……)


 セシル王女の部屋で一人黙々と考えるのも失礼なので、もう少し違った方面から考えてみることを伝えて帰ることにした。

 王宮を出てラングロワ侯爵家で着替えを済ませた後、送ってくれたフィオレさんに礼を言って裏口から出る。念のため周りを確認してみたけど、特に見知った顔はなかった。

 そこからできるだけ細い道を選びながら繁華街へと向かう。今日は、レイやレイの護衛の目を欺くために、エマと出掛けると言って二人で出てきた。私がセシル王女の所に行ってる間に、エマには街をぶらぶらしてもらって、帰る前に合流することになっている。

(たまには息抜きをって言ったけど、思ったより早くなったからなぁ……息抜きできたかなぁ……)

 一応お小遣いも渡して、好きな所に行ってきて、と送り出したんだけど、一、二時間程度じゃ息抜きになってないかもしれない。

(どこかで時間潰してから待ち合わせ場所に行こうかな……)

 フェガロ家に雇われた私付きの使用人はエマだけだ。迎賓館のことは迎賓館に勤めている人達がやっているけど、学校以外では毎日私の傍に付き添っていないといけないエマは大変だ。週に一回くらい休んでもらいたいんだけど、真面目なエマはいつも首を横に振るので、今日くらいは自由に過ごしてもらいたい。

 あれこれと考えながら歩いていると、小さな広場に出ていた。繁華街の入り口にある大きな広場と違い、人の行き来はあまりない。周りにあるのも小さな邸宅や少し裕福な人達が住んでいそうな住宅で、穏やかな空気が流れている場所だ。

 考え事をしながら時間を潰すのにちょうど良さそうだと、座れそうな場所を見つけて腰掛けた。

 異国の町並みは、相変わらず、大分見慣れてきたようで、まだちょっと違和感を感じる。ふとした瞬間に、なんで自分はここにいるんだろう、と疑問が湧いてくることがあるけど、それもそういった違和感を感じた時が多い。

 悩んだところで意味がないから、そういうものだ、いるのだから仕方ない、と普段は流すようにしているけど。

(前世か……)

 何がきっかけで思い出したのかも分からないし、思い出す必要があったのかも分からない。

 これが幼馴染のあの子だったら、ゲームの設定もシナリオもたくさん覚えていて何かに活かせたのかもしれないけど、生憎、私は幼馴染にゲーム機を渡されてちょっとプレイしただけの人間だ。役に立ちそうな記憶は少ない。

(まぁ、ゲームとは大分違ってる部分も多いし、肝心のセシル王女が魔力を失くした理由はゲームでも出てこなかったけど……)

 それ以外で前世の記憶がある強みといえば、魔法が出てくる他のゲームなどの知識を活かした発想くらいだ。

(でも、こういうのって、大体呪い系なんだよなぁ……)

 病気系の時もあるけど、ありとあらゆる治癒魔法で治らないならその線は薄いと思っていい。呪い系の説も研究者や学者が否定したとセシル王女が言っていた。

 まだ知られていない呪いがあるのかもしれないけど、そんなものをどうやって突き止めたらいいのか見当もつかない。

 やはり、魔力を送り込んだ時のあの反応を元に考えるしかないのだ。

(といっても、他のゲームとかで似たようなものって……)

 味方にMPを分け与えるスキルがやっていることとしては一番似てるんだろうけど、それに対する反応なんて、ゲーム内では普通に相手のMPが増えて終わるだけだ。それ以外の反応なんてないし、MPが増えなければ失敗してるということだろう。

(でも、セシル王女の場合、最終的には消えてるけど、一瞬だけ魔力は生まれてるし……というか、私が送った魔力はどこに行ってるんだ……? 一緒に消えてる……?)

 外に漏れ出ているなら気付くはずだ。

 今更気付いたけど、セシル王女が作り出した魔力だけではなく、外から私が送り込んだ魔力もどこかに行ってしまっているようだ。彼女の身体の中には魔力がどこかに行ってしまうブラックホールでもあるんだろうか。

(ちょっと非現実的過ぎるかな……それだったら、まだドレイン系の攻撃を受けていると考えた方が納得できるかも……)

 ゲームでは何か吸ってそうなモンスターがよく持ってるスキルだけど、この世界の魔物でそういった話は聞いたことがない。

(いやでも、魔物についてはそこまで知ってるわけじゃないしな……)

 この辺は実際に討伐に出る将兵あたりが一番詳しいだろうか。

(でも、王宮に魔物が出たらそれこそ大騒ぎになるよな……遠隔でドレインが使える魔物がいても、それはそれで恐ろしいけど……)

 結界とか無視して遠くから攻撃できるとしたら、結界なんて役に立たないということになってしまう。絶対防御系の結界ではないということは分かっているけど、そこまで効力が薄かったら王族は何のために必死に維持しているのかと言いたくなる。流石にそんなことはないと信じたい。

 結界があることを考えると魔物の線もかなり薄くなる。けれど、魔物も魔力を持った動物だと考えれば、魔力を持った人間もドレインのような魔法を使えてもおかしくない気がしてきた。

(魔力を送り込むのは支援系に入るから、奪うのも支援系……? いや、ゲームだとドレインは攻撃系か特殊系に入りそうだな……)

 この世界の魔法に特殊系というのはないけど、支援系の一部が特殊系とも言えそうだ。

 調べるとなると今まで以上に範囲が広がるけど、他に手掛かりがないなら地道に調べてみるしかない。

(また図書館通いだな……)

 幸い、選択授業で攻撃魔法を選択したから、攻撃魔法系の本を漁ってもそこまで不審には思われないだろう。

 あとは夏休みまでにどれくらい調べられるかが問題だ。貴族の子女達は夏休みは領地に帰るから、学園も締め切った状態になる。当然学園の中にある図書館も利用できない。

(まぁ、夏休みには一度セレーネに帰るってレイも言ってたから、向こうで調べ物を続ければいいんだけど)

 一つ気に掛かっているのは、ゲームでの夏休み中のシナリオだ。

 太陽の塔の様子を見に行った後、ヒロイン達も夏休みに入るんだけど、学園の中にある寮も締め切ってしまうので、ヒロインは宿無し状態となってしまう。ゲームでは、ここで好感度が一番高いキャラが出てきて、夏休みを一緒に過ごせるという仕組みだ。

 大体はそのキャラの領地に招待されるらしいんだけど、レイのルートでは、セレーネに行くのではなく、迎賓館でレイと過ごしながらたまに小旅行に出掛けるというストーリーになっていた。

(え、帰るよね……? 帰るって言ってたよね……?)

 レイ以外のルートの時、レイがどうしていたのかは残念ながら知らない。というか、ゲーム内でも語られていないと思う。

 多分帰るんだと思うけど、レイのルートと同じように進むなら、帰らない方向になる可能性がある。

 カンザキさんが迎賓館に来るのは別に構わないけど、夏休みの間調べ物ができなくなるのはちょっと痛い。

(夏休み中は何冊まで借りていいんだろう……というか、そういう仕組みあるかな……)

 前世の学校での仕組みだ。この世界の学園にあるとは限らない。

(借りれなかったら、私だけ帰っていいかな……学園の外なら護衛だけいればいいだろうし……)

 ナディアやリュカも帰ったら話がしたいと手紙で言っていたから、そういった意味でもできれば帰りたいし。

 帰ったらもう一度、夏休みはどうするのかレイに聞いてみよう。

 今後の方針が決まったところでふと空を見上げてみると、太陽がほぼ真上に来ていた。そろそろお昼か、と思っていると、少し離れたところからお昼を知らせる鐘の音が聞こえてきた。

 エマには遅くとも昼ぐらいには待ち合わせ場所に行くと言っているから、そろそろ移動しないといけない。

(お昼まだだったら、クロード王子に教えてもらったお店に誘ってみようかな)

 そんなことを考えながら待ち合わせ場所へと向かった。



     ◇



「――申し訳ございません、途中でローザ様を見失いました」

 片膝をつき、頭を垂れる護衛の一人に、レイは「構いませんよ」と静かに返す。

 ニナが朝からエマと出掛けたため、護衛の一人にあとをつけるように命じていたが、レイとしては不審な行動をしていると分かれば十分だった。

「どの辺りで見失いました?」

「貴族の居住区の東側です」

 自国であれば、どこにどの貴族が住んでいるかも分かるが、他国となると紋章でも見ない限りは分からない。それは今報告をしている護衛も同じだろう。

(見失った場所が目的地とも限りませんし……)

 ニナは最近フォンテーヌ家の令嬢と親しくしているようだが、そこに招かれているのであればそう言うだろう。それ以外で貴族の邸宅に用があるとなると、皆目見当もつかない。

「エマの方はローザ様と広場で別れた後、繁華街へ。ローザ様を見失った後、繁華街を歩くエマを見つけましたが、こちらを気にする素振りが見えましたので、引き上げてきました」

「エマが……」

「はい。一見気付かずに買い物をしているようにも見えましたが、こちらにそうと気付かれないよう距離を測っているように見受けられました」

 護衛達もそれなりに訓練を受けている。視線に敏感で勘のいいニナならともかく、ただの使用人が彼らの尾行に気付けるとは思えない。

(姉上が気付いてエマに言った可能性もありますが……)

 それならばもっと分かりやすく監視の目を気にするだろう。

「フェガロ家もそれなりの者を用意したようですね……」

 ここに来るまで微塵もそんな気配を感じさせなかったことを思い返し、やはりあの家は一筋縄ではいかないとレイは改めて思う。

「いかが致しますか?」

 共に報告を聞いていたヴォルフが尋ねてくる。

「何もしなくていいですよ。監視もきつくする必要はありません。ローザが妙な行動を取っていることは分かりましたから」

 エマについては、レイがとやかく言うことではない。彼女は単なるフェガロ家が用意した使用人兼護衛だろう。

 当初、ローザ・フェガロの使用人はニナの世話係であるリディが務める予定だった。それを、王女と知らない者の方がいいだろう、フェガロ家から出した方が信憑性が増すだろう、と理由を付けて別の使用人を用意したのがフェガロ家だ。

 今までのエマの振る舞いから、本当に何も知らない人間が雇われたのだと思っていたが、この様子だとローザがニナであることは知らされているのだろう。

 それは別段構わない。姉にも護衛が付いているならば、レイとしても歓迎する。

 だが、独断でエマのような使用人を用意し、こちらに何も告げずにいた点については、一言物申したいところだ。

 フェガロ家は以前から、外戚としてニナに関することにはかなりの発言権を持っている。まるで自分達が後見人を務めているかのような発言をすることもあるが、父ローラントがそれを咎めることはない。

 いくら現当主とニナが伯父姪の関係に当たるとはいえ、臣下としての分を超えているのではないか。レイは父にそう進言したことがあるが、状況が変わることはなかった。何かしらの理由があるのだろうが、それについて父が口を開いたことはない。

(まぁ、大まかな方針はあちらも同じでしょうから、すぐに衝突することはありませんが……)

 いつか揉めることになると思うと少し気が重い。

(それよりも、今は姉上ですね……)

 こそこそと何かをしているのは確実だ。

(厄介なことになる前に、一度問い詰めてみましょうか)


更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

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