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更新が遅くなってしまってすみません。

前話までにブクマ・評価をして下さった皆様、ありがとうございます。

 亜麻色の緩くウェーブのかかった髪。目は薄いグレーかと思っていたけれど、よく見ると少しだけ紫がかっている。物腰は落ち着いているけど、顔立ちはとても華やかな美少女――エミリア・フォンテーヌ。

 あのゲームでは同じライバル役で、クロード王子の婚約者候補として最有力と言われていた令嬢が今私の目の前に座っている。

 なんだか妙なフラグを立ててそうなクロード王子と私の間に入ってもらおうと、ここ最近必死に声を掛けていたけれど、正直なところ、私は彼女の人となりをよく知らない。

(いや、友達になれるならなりたいよ。話せる人ほとんどいないし……けど……)

 こうやって面と向かって座ってみると、話題らしい話題も浮かばなかった。

 事の発端は一時間目の授業の時。誰かとペアを組むように言われ、私がぼっちだと察したのか、エミリア嬢の方から声を掛けてくれたのだ。最近頑張って挨拶したり近くに座らせてもらったりしたのが功を奏したのかもしれない。

 一時間目が終わって別の教室に行く時にも一緒に行こうと言ってくれて、これは昼食も誘えるんじゃないかと期待していたら、流れでそのまま一緒に食堂まで来れたのだ。

 いつも傍にいる取り巻きっぽい令嬢二人はちょっと離れたところに座っている。

(普段、何話してるんだろう……)

 前世だと、テレビの番組とか芸能人とか、他のクラスの人の噂話だとか、そんな話題が多かった。あんまりついて行けないことも多かったけど、今考えると、まだ輪に入れてた気がする。

(社交界の話とか全然分からない……)

 授業中は魔法学の話をしていればいいからよかった。独学でも先取りしていたから、話について行けないということはなかった。

 けれど、社交界の話となると、私が知っているのは夜会とかに参加した後のレイから偶に聞く話くらいだ。誰それがどうしたとか、どういう話題で盛り上がったとか、何処そこのなんとかさんはいい人だから今度会ってみないか、とか――。

 男陣の話をしたって何の意味もない。女には女の世界がある、というのはちゃんと知っている。

(また勉強の話に戻ってもいいかな……昼休みの間も勉強の話とか、嫌がられるかな……?)

 そんなことを悩みつつ、もくもくと昼ご飯を食べていると、クロード王子の声が聞こえてきた。

「ローザと、エミリア……? 変わった組み合わせだな」

 そんなこと言うな、王子。頑張ってようやくこの状況にまでこぎつけたんだから。

(あれ、今、呼び捨てにした……? クロード王子、エミリア嬢と結構仲良い?)

 私も最初はフェガロ嬢と呼ばれていたから、名前呼びはそれなりに親しい証じゃないだろうか。

「クロード殿下、それにレイ殿下も。先に頂いております」

 一度立ち上がって会釈するエミリア嬢に、私も慌てて会釈する。

「俺達も一緒にいいか?」

「え、ええ……」

「もちろんですわ」

 どっちが隣に座るんだろうと内心ひやひやしたけど、レイが隣に座ってくれてほっと胸を撫でおろす。クロード王子はエミリア嬢の隣に座った。

 こうして並んでると絵になるなぁ、とぼんやりと考える。ゲームでも二人が揃って出てくるシーンとかありそうだけど、こんな感じだったんだろうか。

(普通にアリだな)

 流石、最有力候補の令嬢だ。彼女を引き込もうと思った私の判断は間違ってなかった。

「それにしても、珍しいな。二人が一緒にいるとは思わなかった」

 クロード王子の視線はこっちを向いている。これは私が答えるべきなんだろうか。

「支援魔法の授業で二人組を作るように言われまして、エミリア様が私に声を掛けて下さったのです。そこから昼食までご一緒下さって」

 にこりと微笑って答えると、レイが横から「そうだったんですか」と相槌を打った。

「フォンテーヌ嬢、ローザがご迷惑を掛けませんでしたか?」

 何でそうなる。授業中に変な行為とかしたことないんだけど。

「いいえ、とんでもございません、レイ殿下。ローザ様はとても博識でいらっしゃって、感心するばかりでしたわ。セレーネではこちらよりも魔法学の授業が進んでいるのでしょうか?」

「いいえ、授業の進度はセレーネもソレイユも変わりませんよ。ただ、ローザは幼い頃から家に籠って魔法書ばかり読んでいましたから」

 さりげなく嫌味を交えた言葉に口許が引きつりそうになるのを抑える。

 魔法よりも社交界が重要視されている二国では、そんな人間はちょっとした変人扱いを受ける。折角頑張ってエミリア嬢の好感度を上げたのに、これじゃあ台無しだ。

(レイのやつめ……)

 本当、優しそうな顔をして、こういうところは性格が悪い。

「殿下、そのような幼い頃のことを言わずとも……」

「本当のことじゃないですか」

 ばっさりと切り捨てられ、ぐぅの音も出なかった。

 どう弁明しようかと頭を悩ませたけど、私の予想とは裏腹に、エミリア嬢は感心したように頷いた。

「それでローザ様は魔法に関する知識が豊富なのですね。よく図書館に行かれてる姿も見かけますし、私も見習わなければなりませんね」

 それが彼女の素直な思いなんだろう。少しもお世辞や嫌味みたいなものは感じなかった。

(基本的に良い子なんだろうな……)

 同じライバルポジションでも、ローザと違って良きライバルといった感じだったんだろうか。

「へぇ、ローザはよく図書館に行ってるのか」

「え、ええ……」

 クロード王子の言葉に私は歯切れ悪く返す。

 図書館で調べてるのはセシル王女関連のことが中心だからあまり触れられたくない。

「何か調べ物か?」

「いいえ、調べ物というほどのことでは……付加魔法の参考書を探したり、珍しい本がないか見て回ってる程度ですので」

 そう言うと、ちょっとだけレイから視線を感じたけど、気付かないフリをした。

「まぁ。もう付加魔法の勉強までなさっているのですね」

「ええ、今まであまり手を付けたことがありませんでしたから、今の内に予習をしておこうと思いまして。少しも上手くいかないのでほとんど進んでおりませんが……」

 本当にあれからちっとも進んでないから苦笑しかできない。

(そっち方面もどうにかしないといけないんだけどなぁ……)

 この世界の付加魔法は極々初歩的なものばかりだ。

 魔物討伐で魔法攻撃に頼れないなら、魔法で武器そのものの攻撃力を上げればいい。それは至極当然の考えなんだろうけど、この世界で付加魔法等の支援魔法が使えるのは主に女性。でも大抵早い内に嫁いでしまうから、魔法研究に携わる女性は本当に少ない。ある程度の能力も要求されるから、支援魔法の研究は一番遅れている。

 私も、最初は単なる興味だった。前世の知識を元に色々とアイテムを作れないだろうかという程度のことしか考えていなかった。

 でも、レイやクロード王子、そしてセシル王女を見ている内に、私も何かやらなきゃいけないんじゃないかという思いが胸をよぎるようになった。

(結界の維持はしようと思ってたけど、それは自分のためでもあるし……)

 それ以外にももっと何かしなければ――。

 いずれは王宮を抜け出して平民として暮らすとしても、周りで頑張ってる人達を見ているのに自分だけ何もしないというのは良心が咎める。王女の役目を放り出そうとしている時点で十分無責任なんだろうけど、それまではやっぱりやるべきことはやらないといけないのだと思う。

(結界の維持はもちろん、他にも二国の現状を少しでも変えないと……)

 ちゃんとした研究者じゃないし、頭もそんなにいいわけじゃないから、前世の知識を元にした思い付きくらいしか実践できない。上手くいく保証も何もないけど、何か一つでもいいからセレーネやソレイユの現状は変えたい。それが今の私の思いだ。

 ローザとしてこの場にいる以上、自分の考えをそのまま口にはできないけど、色々試してみたいことがあるとぼかしながら言えば、エミリア嬢は真剣な顔で頷き返してくれた。

「私も以前から付加魔法には興味を持っておりましたの。今度、お時間がある時にお話を聞かせて下さい」

「はい、もちろんです」

 私の実験が上手くいかなくても、こうして同じように真剣に考えてくれる人がいれば、いつかは成功するのかもしれない。



「――ごきげんよう、管理人さん」

 私が挨拶をすると、管理人の老紳士は朗らかに「ごきげんよう」と返してくれた。

「この前借りた本、お返ししますね」

 二冊の本を渡すと、管理人さんは貸し出しリストと照らし合わせて確認する。

「はい、確かに。今日も何か借りていかれますか?」

「ええ、そのつもりです」

「そういえば、この前仰っていた私がここに寄贈した本ですが、リストを作ってみました。気になるものがあれば、どうぞ借りて行って下さい」

「まぁ、わざわざありがとうございます。お手間をかけてしまい申し訳ありません」

「いやいや、管理人とはいっても暇人と同じようなものですから」

 図書館自体は結構な蔵書数なのだけれど、残念ながら魔法学に熱心な学生が少ないから、利用率もかなり低い。私が来る時も、大抵このカウンターで本を読んでいることが多いから、暇だというのは本当だろう。

(自分の本を寄贈するくらいの人だから、この現状は寂しいだろうな……)

 セシル王女から好事家だとは聞いていたけど、話してみると本当に魔法学への造詣が深い人だった。元は伯爵家の人で、一時期研究者もやっていたらしい。支援魔法の適性はないそうなので、そっち方面の研究はしたことがないとのことだけど、長年蓄えた知識はその辺の教師では及ばないものだと感じた。うちの王宮の人だったら、是非とも家庭教師をして欲しいところだ。

 リストを有り難く受け取っていつものように二階へと上がる。

 タイトルをざっと見てみたけど、支援魔法系の本も少しはあるみたいだ。

 今一番必要なのは治癒魔法関係の本なんだけど、付加魔法の本もこの件が落ち着いたら借りてみたい。

 本棚からリストに載っている本を探し出して開いていると、一階の方から話し声が聞こえてきた。今日は他にも利用者がいるらしい。

 しばらくするとこちらへと歩いてくる足音が聞こえ始めた。支援魔法系の本棚に用があるなら女子かな、と思いながらも本のページを捲っていると、と聞き慣れた声が傍で聞こえた。

「――治癒魔法の本ですね」

 顔を上げて振り返ると、レイが近くの棚に並ぶ本のタイトルを指でなぞっていた。

「この前はこれを借りてましたね。その前はこっち」

 借りた本をわざわざ見せたことはないんだけど、よく覚えてるな。

(ちょっと怖いんですけど……)

「借りてる本の大半は治癒魔法の本だというのに、どうして付加魔法の勉強をしていると嘘を?」

 昼間の話を言ってるんだろう。あの時もらった視線はそういう疑問があってのことだったらしい。

「……別に、嘘というほどのことではありませんわ。治癒魔法の勉強と同時に付加魔法の勉強もしておりますし、昼間はちょうど付加魔法のことを考えていたので、そう言ってしまっただけです」

 付加魔法のことで試してみたいことがたくさんあるのは事実だし、セシル王女と逢うまでは付加魔法の勉強に取り組んでいた。勉強しているというのは嘘ではない。

「そうですか。昼間は付加魔法のことを考えていたのに、もう治癒魔法の方に思考が行っている、と。私が知ってる貴女は、一つのことを考え始めるとしばらくそれに没頭しているはずなのですが」

 なんとも厳しいところを突いてくる。

 会うのはせいぜいひと月に数度。私がレイのことを何でも知っているわけではないのと同じように、レイも私のことを何でも知っているわけではないと思っていたけど、そうでもないらしい。見てないようで色々と見ているんだなと実感させられた。

「何を考えてるんですか?」

 上手いはぐらかし方なんて思いつかなかった。けれども、ソレイユの機密事項をレイ相手といえども簡単に漏らすわけにはいかない。

 私はレイの追求から目を背けるように再び本に視線を落とした。

(ゲームでは、ヒロインとの親密度が上がる頃には、対象キャラは皆セシル王女のことを知っていた……)

 つまり、レイも少なくともヒロインが知る前に現状を知ることになる。レイに話す人間としてはクロード王子辺りが有力だろうか。

(だったら、余計に私がしゃべるわけにはいかないな……)

「ローザ、聞こえませんでしたか? 何を考えてるんです?」

 だんまりは許してくれないらしい。有耶無耶にさせてくれると有り難かったんだけど、と内心溜め息を吐いて口を開く。

「……何も。ただ、自分にできることはやりたいだけです」

 もう一度顔を上げてレイと目を合わせる。

 その目には猜疑心が宿っているように見えた。


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