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少し間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
前話までにブクマ・評価をして下さった皆様、ありがとうございます。
誤字脱字の報告もありがとうございます。
翌日から、私は早速エミリア嬢と昼食を摂るために動いた。
一時間目はちょうど系統別魔法の授業で、レイ達は一緒じゃなかったから、朝の挨拶をして隣に座らせてもらった。――話はあんまりできなかったけど。
(やっぱ違うグループにいきなり入ってくのは難しいな……)
前世でも、私はいつの間にか入ってた目立たない子達のグループにいるばかりで、他の子に積極的に声を掛けることはなかった。違うグループとの交流なんて幼馴染に引っ張られていった時くらいだ。当時はちょっと面倒に思っていたけど、こうして考えると、あの子の行動力には脱帽する。
(まぁ、初日はこんなものだよね)
これ以上フラグが立たないようにできるだけ早く引き込みたいけど、焦ってもエミリア嬢に不審に思われるだけだ。
(次は魔法基礎学で、午後は選択科目か……)
魔法基礎学は男女合同だからレイの近くにいないといけない。――正直、もう付き人とかどうでもいい気がするんだけど、一応役目は役目だし、周りもそういう認識だろうからレイから離れろと言われない限りは近くにいるつもりだ。
そして午後の選択科目は攻撃魔法を選択したからエミリア嬢とは一緒じゃない。というか、女子すらいなかった。
最初に選ぶ段階でレイにも「本当にそれにするんですか?」と言われたけど、色々と独学してきたお蔭で防御魔法も支援魔法も二年で学べるものはある程度網羅してしまった。三年で習う内容も教えてもらえるなら何でも良かったんだけど。
元々選択科目は苦手な科目やもうちょっと伸ばしたいという科目を選ぶものだ。私が今伸ばしたいのは攻撃魔法なのだから他を選んでも仕方ない。
(攻撃魔法が使える子も少しはいるんだろうけど、女子は使い道がないからなぁ)
実際私も「いつ使うんですか」とレイに言われた。出奔計画が上手くいった後に活躍する力だから、「ただ色々使えた方がいいかと思って」と誤魔化したけど。
男でも女でも全ての系統を使えたらもっと選択の自由があるだろうに、なんて考えたことがある。ゲームでは、どっちの性別を選んでも初期ステータスは好きに振り分けられたから、“戦う女の子”も作れたけど、この世界ではそういうわけにもいかない。
(というか、これが現実ということだろうな……)
魔法の属性も、どの系統の適性が強いかも、全ては持って生まれたものだ。その人の資質によっては、努力すればある程度他の系統も使いこなせるようになることもあるけど、逆にどれほど努力しても使えない人もいる。
これには血統というものが関わってるんじゃないか、と私は思ってるけど、ただの憶測に過ぎない。ただし、フェガロ家に攻撃魔法が使える女性が多く生まれるのは事実だ。伯父達から聞いた話では、私の母も使えたということだから、私の攻撃魔法の素質は母から譲り受けたものなんだろう。
(セレーネの学園だったら、攻撃魔法を選択する女子もいたのかもなぁ……)
とにもかくにも、この学園の二年生で攻撃魔法を選択したのは私だけだったので、授業は攻撃魔法を選択した男子と一緒だ。
卒業後に待っている兵役のために攻撃魔法を伸ばしたい男子は多く、クラスは上級、中級、下級のグループに分かれている。私は攻撃魔法が苦手な男子達と一緒の下級攻撃魔法のグループだ。因みに、レイとクロード王子、アルベルト・ルーデンドルフは上級攻撃魔法のグループにいる。
先週も同じ授業があったけど、女子がこのクラスを選択するのは珍しいので、案の定、遠巻きにされた。そう積極的に交流するつもりはないけど、孤立するのはなかなか辛いものがある。
(まぁ、後悔はしてないけど……)
攻撃魔法を教師に見てもらえる機会なんてそんなにないから、そういった面ではともて有意義な授業なのだ。
二時間目の魔法基礎学は、この前借りた治癒魔法の本をこっそり読むことにした。
教科書と一緒に開いて参考書っぽく見せているから、近付かない限り何の本だかは分からないだろう。
一番の問題は、通路を挟んだ隣に座っているレイだ。一応向こうから見にくい位置に配置してみたけど、私がこの本を借りたことは知っているから後で小言を貰うかもしれない。
もっとも、この授業で私の思考がすぐにそれてしまうのはレイも承知済みだし、半分仕方ないと思っている節もあるから、大目に見てもらえる可能性もあるけど。
(基礎だけじゃ対処できない事態が待っているから、こっちを優先させてくれ、って言えたらいいんだけど……)
ゲームのシナリオ通りになるならば、現王の姉君も役目を務められない状態になるということだ。
魔力を使えない状態というのは、通常いくつかの原因が考えられる。
一つは、怪我や病気。この世界では、魔力は生命力と直結しているから、生命力が低下するような状況にある場合は、魔力の行使ができなくなる。無理すればできないこともないんだろうけど、命を縮めるだけだろう。
似たような感じで、魔力を使いすぎるとそれ以上は防衛本能が働いて使えなくなるらしい。ここまで来ると生命力にも影響が出てきて、病気なんかをしやすくなる。この世界での私の母が、これで亡くなった。私はまだ幼かったから、当時は最近流行っている病気で亡くなったとしか分からなかったけど、病気にかかる前にかなりの魔力を消耗して体力が落ちていたらしい。
そして最後に、封印。状態異常に似ているけれど、魔法によって魔力を行使できない状態にすることだ。呪いなんかとも似ている。世の中、善人だけで構成されてるといいんだけど、中にはやっぱり悪事を働く人間もいるわけで、魔力を持っている貴族や平民が罪を犯した場合、魔法を使えないように魔力を封印される。ただし、封印魔法は高度な魔法であり、使えるのは限られた人間だけだ。
(封印魔法が使われてる場合は、魔力そのものは感じられるって話だから、セシル王女には当てはまらないんだよな……)
そして怪我や病気をしているわけでもないし、魔力を使いすぎたということもない。使いすぎてたら王宮を抜け出す体力もないはずだ。
現王の姉君については、これから起こることだろうから、何が原因となるかは分からない。ただ、普通の怪我や病気なら王宮の治癒師が治せるだろうし、封印魔法は使える人間が極少数だ。封印されてると分かれば犯人はすぐに見付けられる。
(てことは、セシル王女と同じ状態になる可能性が高いということか……)
セシル王女のアレが状態異常で治癒魔法で治せるものならば、それを使える人間が必須だ。私も努力はしてみるけれど、必ず使えるようになるとは限らない。支援魔法の適性は持ってるけど、得意かどうかはまた別だ。
(私にできなかったら、国中の治癒能力が高い女性の治癒師を集めるか……あとは叔母上に頼るか……)
何やかやで魔力を使う必要性に駆られる人間が高い魔力と技術を持っている。王族の血に近いかどうかも関係していると言われてるけど、そう大きな差はないと私は思っている。
とにかく、王族で塔の魔力を維持するのに膨大な魔力を行使している叔母上が国で一番魔力を持っているということだ。支援魔法も得意だと聞くから、最終的に頼るのは叔母上になるのかもしれない。
(でも、それまでに原因を絞っておかないとな……)
やれるだけのことはやっておかなければならない。
そんな風に決意はしたものの、一週間経ってもセシル王女からの返事はなかった。
(やっぱり、他国の人間じゃだめか……)
重要な役目を継ぐ王女が魔力を失ったのだ。片方の塔の維持ができれなければ、結界は崩壊する。
セレーネとソレイユはとてもいい関係を築いているけれど、問題の解決ができなければ、それはソレイユの失態と見なされるだろう。
事の重大性を考えると父上に伝わっていないということはないと思う。けれど、意図しない形でセレーネにまで広まる可能性を考えると、一侯爵令嬢の介入は避けてしかるべきだ。
それに、二国においては、王族は結界の維持ができるから王族でいられるのだ。他の貴族達にもできるなら、王族に依存する必要はない。それができませんとなれば、王族の権威は地に堕ちる。
セレーネには役目を継ぐ予定のない私がいるから、国民に知られる前にこちらを頼ってくる形となるだろうけど、向こうにとってそれはきっと最終手段だ。
(ちょっとでも協力できればよかったんだけど……)
この一週間で調べたことや考えたことをまとめて、セシル王女に届けるのはありだろうか。
私から直接渡せなくても、レイにこの前セシル王女に遇ったことを話して、波風立たない方法で渡してもらうことはできると思う。
(ああでも、私が調べられるようなことなんて、研究者あたりがとっくに調べてるか……)
私にできるのは多分、実際に治癒魔法を使うことくらいだ。
でも、それだってソレイユ国の中から能力の高い女性を呼べば済む話だ。他国の私に頼む必要はない。
(無力だな……)
せめてゲームの知識があれば原因くらいは分かったのかもしれないけど、私が知っている範囲では王女の魔力消失の原因は語られてなかった。
ゲームとしては攻略対象との恋愛がメインだから、もしかしたらそこの設定がなされていなかった可能性もある。幼馴染と一緒にレイのルートのエンディングを見ながら、結局何が原因で王女はどうなったんだ、と思った記憶がある。RPGだとそこを解決して大団円、みたいなストーリーが多いから、これが乙女ゲーとの違いか、などとも思った。
(まぁ、原因を知っていたとしても、この国の人間には考え付かないような原因だったら、何でお前は知っている、ということになりそうだけど……)
私の中途半端なゲームの知識じゃ役に立ちそうもないし、そういう可能性も考えると、そもそもゲームの知識に頼ってはいけないのかもしれない。
(とりあえず、しばらく図書館通いだな……あと、魔力鍛錬も……)
役に立てなかったとしても、今の私にできるのはそれくらいだ。
◇
王宮の一室、クロード王子の執務室に招かれたのはレイとカミーユ・セルヴェの二人だった。この前いた、付き人のファースという男の姿は見えない。
クロードに席を勧められ、レイはソファーに腰掛ける。クロードはカミーユにも「座っていいぞ」と声を掛けていたが、伯爵家の彼は「いいえ、ここで結構です」と脇に控えたままだった。
「では、カミーユ、マナミ・カンザキの報告をしてくれ」
「はい。学園に通い始めてから二週間ほどとなりますが、吉兆や凶兆と思われるようなことは起こっていません。授業には周りよりも熱心に取り組んでいます。最初は魔法の発動もままなりませんでしたが、既に初級魔法の半分ほどは発動できるようになりました」
「それはまた、成長が早いようですね」
レイは思わず感心の声を上げる。
家で魔法基礎学を学んできた者はともかく、全く何もない状態から魔法を学び始めた場合、魔法の発動までは最低一か月はかかると言われている。
「ええ。これまで優秀と言われてきた者達よりも覚えが早いため、教師や周りの生徒の評価も高いです。ただ、平民であるがゆえ、言葉遣いや振る舞いに少々問題があるため、一部の貴族からは厳しい視線を向けられていますが……」
「そうか……」
「彼女曰く、彼女が育った国では“コウシツ”と呼ばれる特別な存在以外は皆平民だそうで、財力の差はあれども貴賤の差は基本的に存在しないそうです。昔はこちらの貴族のような階級も存在したらしいですが、撤廃されて久しいとのこと。ゆえに身分相応の振る舞いというものがそもそもないようですね」
「皆平民というなら、それもそうだろうな」
「年上に対する礼儀などはあるようなので、教師や年長者には丁寧な対応をしていますから、両殿下や上級生には無礼な振る舞いはしないと思います。ただ、同年の貴族達の心情としては微妙なところかと……」
「始まりの泉から現れたことは伏せているからな……貴族達から見れば普通の平民にしか見えないか……」
特殊な存在ということを告げれば貴族達も多少は大目に見れるかもしれないが、ほとんど何も分かっていない段階で公表するのは危険だ。せめて凶事の前触れでないことを確認しなければ、国中が混乱に陥る可能性もある。
「カミーユ殿から彼女に注意したりは?」
「一応してはいますが、あまり効果は見られませんね……話を色々と聞き出すために、私に対しては敬語を使わなくていいと言ってしまったものですから、余計に効果が薄いのかもしれません。それに関しては私の失策です。申し訳ありません」
「いや、大変な役回りの中、よくやってくれている。できるだけ彼女から話を聞き出すよう命じたのはこちらだから、気にしなくていい」
「ありがとうございます」
「まぁ、身分の問題については副次的なものでしょうから、ひとまず置いておいても問題はないでしょう。魔法の覚えが早いというのは、今後起こるかもしれない事態を考えると良いことです。あまり、使いたくない手段ではありますがね……」
始まりの泉から現れたとはいえ、本来は王族が務めなければならないことを王族外の娘が務めるとなると、王族の権威が揺らぎかねない。
「そうだな……」
「セシル様の状態はお変わりないのですか……?」
カミーユが不安げに尋ねる。
「ああ。研究者を中心に官吏総出で原因を探っているが、これといって成果はない……」
「セレーネの方でも調べてもらうように頼みましたが、成果は似たようなものでしょうね……」
同じ魔力を有することから、魔法研究に関しては情報共有が行われている。セレーネにしかない情報というのは恐らく存在しないだろう。
「もし、マナミ・カンザキが役目を務めることになった場合は、どう対処されるおつもりですか?」
レイの問い掛けに、クロードは難しい顔をしながらも口を開く。
「父上の方は、王家か公爵家の養子として迎えて、体面的には王族に連なる者としようというお考えだ。俺も最悪そうするしかないというのは理解できるが、実際には色々と厳しい部分が多いだろう。かといって、他に方法があるかといえば、他に良い案も思い浮かばない」
「そうですね……もし、養子にということであれば、それは我が国で引き受けるというのはどうでしょう? 彼女の容姿からしても、我が国の王族に連なる者とすれば、疑う者も少ないはずです。王家や公爵家の庶子まで話が伝わることはそうありませんから」
「いいのか?」
「はい。私から父上に掛け合いましょう。それに、彼女が役目を務めることになったとしても、それは何年も先の話です。その頃には私もある程度の権限を持っているでしょうから、私の一存で養子にすることもできると思います」
「すまない……助かる……」
頭を下げるクロードに、レイは「いいえ」と首を横に振る。
「結界に関することなんですから、お互い様です。ただ、もう一つ提案として、彼女を養子にする前に姉上に出てきてもらう、というのはどうでしょうか?」
セシル王女のことを聞いてから、レイが考えていたのはマナミ・カンザキではなく姉の力を使うことだ。泉から現れた不可思議な存在よりも、正統な王族である姉の方が、国民の安心感は高い。
そんな提案をされるとは思っていなかったのか、クロードは目を丸くした。
「姉……ニナ王女にか?」
「はい。月の塔維持の役目は私と同腹のナディアが継ぐ予定です。ですが、姉上も塔維持のための教育は受けています。といいますか、姉上は幼い頃から魔法に対する興味が強くてですね……教師をつける前から密かに魔法の勉強をしていて、もう既に塔を維持できるだけの魔力を身に付けてるんです」
「は? もう……? ニナ王女は俺達と歳は変わらないだろう」
「ええ、そうですね。私よりひと月早く生まれただけです」
レイは苦笑する。レイも初めて聞いた時は耳を疑ったが、王宮内で一番優秀な魔法教師も同意していたため、嘘ではないだろう。
「でも、良い話でしょう? クロードも姉上に会いたがってましたし、これを機に表舞台に引っ張り出すのもいいと思うんです」
にっこりと最後の一言を付け加えると、クロードは途端に顔を真っ赤に染め上げた。耳まで赤い。
「なっ、レイ……! お前、なんてことを……! そこは言わなくてもいいだろうっ!」
声を荒げるクロードに、レイは声を立てて笑う。そうして一頻り笑ってから、この部屋にはもう一人いたことを思い出した。
自分がよく彼の相談に乗っていたから彼に近しい人間は皆彼の想い人を知っていると思っていたが、カミーユも知っているとは限らない。
思わずカミーユの方を見れば、レイの意図が伝わったのか、カミーユは困ったように微笑う。
「よく、“お前も緑の目なのに色味が全然似ていない”と文句を言われてたので、何となくはどなたなのか知ってました。そう言われるのは大抵、セレーネからお帰りになられた後だったので」
「カミーユ!」
ばらすな! と声を上げるクロードに、カミーユは「すみません」と軽く首を竦める。が、あまり悪いとは思っていないだろう。
「クロード、そんなことまで言ってたのですか……姉上に会えないのも目の色も、カミーユ殿の所為ではないでしょうに……」
「分かってるっ。ただの八つ当たりだ……」
クロードはそう言って顔を赤くしたままそっぽを向いた。
その姿に軽く憐れみさえ浮かぶが、元を辿れば引き籠もっている姉とそれを何だかんだと許してしまっている自分達が原因だ。
(やはり、これを機に表舞台に引っ張り出さないといけませんね……)
姉はこの留学を終えたらまた引き籠もるつもりでいるだろうが、レイとしてはそんなことをさせるつもりなど、更々ない。




