01
――ここ、ここ! ここでクロード王子がレイ王子と対決するんだけど、どっちもかっこよくて……!
そう言って悶える幼馴染に、「へぇ」と生返事を返す。彼女が見せてきたゲーム画面には、対照的な二人の王子が剣を交えている姿が映っている。絵は確かに綺麗だけど、自分で操作して戦えるわけではないので、それ以上の感想は浮かんでこなかった。
――剣持ってる人、好きでしょ? ――ちゃんは、どっちが好み?
名前を呼ばれた筈なのに、何て呼ばれたのか、頭に残らなかった。確かに、私の名前を呼ばれたと思ったのに――。
まぁいいか、と口を開く。私の回答を待っている幼馴染はわくわくした顔で私を見ていた。
――んー、どっちかって言うと……。
「――ニナ様、おはようございます。お目覚めの時間でございます」
不意に聞こえてきた声に、私ははっと目を開けた。声のした方を向くと、世話係のリディがそこにいた。
「リディ……」
「はい、ニナ様」
そう、私の名前はニナだ。ニナ・スキアー。
(夢、か……)
幼馴染との懐かしい夢。そう理解するのと同時に、ニナとしての記憶も頭の中を巡っていく。
(幼馴染……)
ニナとしての幼馴染ではなく、日本人だった時の私の幼馴染だ。
全く別の二つ分の記憶があるけれども、その片方――日本人だった私の記憶は、もう終わっている過去の記憶なのだと何となく分かった。
今見た夢は、私がここに生まれる前、ニナ・スキアーになる前の前世の夢ということなのだろう。
ぼんやりとしながらも身体を起こすと、リディがショールを肩に掛けてくれる。
「ニナ様、七歳のお誕生日、おめでとうございます。本日はご朝食の後、パーティーの仕度となります」
「……わかったわ」
「さぁ、お顔を拭いて下さいませ」
渡されたタオルを受け取り、顔を拭きながら夢の中身を思い返す。
(クロード王子と、レイ王子……)
画面に映っていたのは十七、八歳の王子二人。その黒髪の方、レイ王子は、私より一か月遅く生まれた異母弟――この国の第一王子、レイ・スキアーによく似ていた。
(確か、隣のソレイユ国の第一王子はクロード王子……)
クロード王子の顔はまだ見たことないけれども、無関係と考えるには共通点が多過ぎる。
(まさか、あの子が好きだったゲームの世界なの……?)
前世の私は男兄弟に囲まれて育った男勝りな人間だった。学校でもクラスの女子の話にはあまりついて行けてないこともよくあったけど、幼馴染のあの子だけはいつも私の傍にいた。
可愛いものが好きで、オシャレで、女子の会話にだってちゃんとついて行けてるのに、彼女はよく私の隣で乙女ゲーと呼ばれるゲームをしていた。
今思うと、彼女の周りでゲームに理解があるのが私くらいだったからだろう。もっとも、私は兄弟達の影響でRPGとかアクションゲームとかしかしてなかったんだけど。
(いや、今はそんなことよりも……)
この世界があの子の好きなゲームと同じ世界かどうかよりも深刻な問題が浮上している。
現在の私の立場だ。
セレーネ国第一王女、ニナ・スキアー。第一王女といっても、側室から生まれた王女だし、基本的に王位継承権は王子に与えられる。正室から生まれた同い年の弟レイもいるし、少し歳は離れてるけど第二王子のリュカもいる。
つまり、弟達が病気などで死んでしまわない限り私には王位継承権は回ってこないのだ。回ってきても困るから回ってこなくていいんだけど。
ただそれだけならいいけど、側室の王女なんて、宰相とか大臣なんかの有力者の子息に嫁がせて関係を強めるくらいしか使い道がない。いわゆる政略結婚だ。御免被る。
(え、絶対やだ……ちょっとくらい貧乏でもいいから普通に暮らしたい。結婚とか、いい人がいたらいいけど、好きでもない人と結婚したくない……)
父がどこまで私の希望を聞いてくれるか分からないけど、多分望まない結婚をさせられる確率が高い。
(……逃げよう)
できることなら平民になって、普通に働いて、普通に恋愛をして、自由に生きていきたい。
裕福な生活は、確かに捨てがたい部分もあるけど、その代償が政治の道具になることなら、私は自由を選びたい。
とはいっても、家出なんてそう簡単にできるものじゃない。匿ってくれる人とか、後ろ盾とか、あと資金だっている。七歳じゃ働くこともできない。
(とりあえずは……まず、そうだ、婚約者を作らせないこと……)
王族や貴族は早い内から将来の相手を決められるらしい。今はまだ七歳だからそんな気配はないけど、十歳とかになれば父もそろそろと考え始めるかもしれない。
(とにかく、縁談とか婚約者の話を持ち掛けられたら全部断って……あとは向こうから断らせるとか……? いやでも、王族相手の縁談を断るなんて難しいか……じゃあ、父上が嫁に出したくないと思うように仕向ける、とか……?)
こんなのを嫁に出したら王族の恥だと思うような何か――。
例えば、礼儀がなっていないとか、品位に欠けるとか。
(いや、私の人間性まで疑われることはあまりしたくないな……)
他には何があるだろうかと、王女としてマイナスイメージになりそうなものを頭の中に挙げていく。
(淑女とは言えない振る舞い……男っぽく振舞って、あとは、引き籠もりとかもいいイメージは持たれないはず……)
男っぽさと引き籠もりは両立できなさそうだけれど、完全に部屋に閉じこもらなくても、パーティーとかお茶会なんかの社交の場に出ないだけでも印象は悪くなるだろう。ずっと仮病を使い続ければ、その内誰かが「あれ仮病じゃね?」って気付くだろうし。
(よし、それでいこう)
父上には悪いけれど、私もただ人形のように政治の道具になるのは嫌だ。
誕生日パーティーまでの間に今後の方針を決めた私は、まず愛想良く振舞うことをやめた。「おめでとう」と言われたら最低限の礼は返すけど、愛想笑いはしない。パーティー中もにこにことはせず――というか、今後のことを考えてたら自然と真顔になった――、体調が悪いのかと訊かれてこれ幸いと早々に自室に戻った。
次の日からは華美なドレスをやめた。できるだけ質素で地味目の服を選び、今度から服を買う時は、半分はズボンにして欲しいと頼んだ。もちろん最初はリディを始めとした世話係に拒否されたけど、だったら今あるドレスを自分でズボンに作り替えると啖呵を切った。前世は男兄弟に囲まれてたのだ。母を手伝うために料理や裁縫、家事全般の腕はある程度磨いている。世話係達は半信半疑だったけど、ドレスの一つにハサミを入れようとしたところで止められ、一部ズボンを購入することを了承してもらえた。
それから、勉強の合間に身体を鍛えることにした。前世の兄や弟がそれぞれ空手や剣道を習っており、それに影響された前世の私も合気道を習っていた。この世界に合気道はないみたいだけれど、覚えている範囲で自主練をすればいい。
髪だけは流石に切らせてもらえなかったけど、なんてことはない、昔の私に戻るだけだ。
「――姉上、最近どうしたんですか……?」
久々に私を訪ねてきた弟は、出されたお茶にも手を付けず、不安そうな顔をしている。
こんな風に色々と振る舞いを変えてしまえば、そんな顔にもなるか、と納得する反面、弟のところまで話が伝わっていることに少し驚きを覚えた。
側室の子である私が住んでるのは、王宮の中でも少し離れたところにある別邸のような建物だ。教師陣は直接こちらにやって来るから、父に呼ばれたりこうしてどちらかがどちらかを訪ねたりしない限り、そう顔を合わせることはない。母は四年前に病で亡くなったから、余計に行き来が少なくなっているのだと思う。
「どうってことはないよ。ちょっと目標ができただけ」
「目標、ですか……?」
「そう、目標」
「服とか、話し方が変わったことも、目標があるからですか……?」
「そうだよ」
弟にはきっと私が別人のように見えていることだろう。それもあながち間違いではない。前世の私と、ニナ・スキアーは明らかに別人だ。
「どんな目標か、聞いてもいいですか……?」
怖ず怖ずと尋ねてくる弟に、一瞬答えようか迷ったけれども、きっと弟にはまだ理解できないだろうと口を開いた。
「政略結婚だけは、嫌なんだ。こんな風に振舞ってれば、誰も私と結婚したいと思わないだろうし、父上も恥ずかしくて嫁には出せないだろうから」
そう言って私は小さく微笑う。
「レイも、こんな変な姉が嫌なら、ここには来なくていいよ。でも、嫌じゃなかったら、偶に遊びに来て? 私、しばらくは表舞台に出ないだろうから」
やっぱりあまり意味が分からなかったのか、弟は「わかりました」と言いつつもしばらく首を傾げていた。
半引き籠もり生活を始めて、十年近くが経とうとしていた。半引き籠もりといっても、仮病を使って社交場に出ないだけで、建物の外には普通に出てたし、兵士達の訓練場にもよく足を運んでいた。
勉強の合間を見つけて訓練場に行くようになってどれくらいだろうか。訓練場の近くにある森から兵士達の訓練を眺めるのだ。訓練には混ざれなくても、兵士達の動きから学べることもある。実戦でどれくらい役に立つかは分からないけど――なんせ組み手の相手になってくれるのは庭師のフランツと偶に来るレイだけだ――、色々と頭でシミュレーションしながら動きを真似ている。
偶に訓練に混ざりたいと思うこともあるけど、流石に王女がそんな場所に姿を現したら騒ぎになるだろう。ズボンを穿いて地味な格好をしているから王女とはバレないかもしれないけど、女性が混ざれる場所じゃないし、偶にやってくる将軍とかに見つかったらバレる可能性が高い。社交場には顔を出してなくても、大事な国の行事には少しだけ参加している。護衛のためにも、将軍や副官あたりは私の顔を知っている可能性が高い。
色々と思い通りに行かない部分はあるけれども、婚約者を作らせないという目論見は成功している。そういう話は持ってこられても断固として拒否しているし、こんな問題のある王女だから、父もあまり強くは言ってこない。どうにかしたいとは思ってるようだけど、私がこうなったのは、母が幼い頃に亡くなったせいだと勘違いしているらしく、少し憐れんでいる部分もあるようだ。
(あとはどうにかして平民になれればいいんだけど……)
それはきっとかなり難しい問題だろう。
この九年で私もこの国のことを学んだ。王女が平民になるのは身分を剥奪された時で、それはそれに相当する何らかの重罪を犯した時だけだ。他国の例も併せて調べてみたけど、適用されたのは過去に数度。王女が后妃や他の王子、王女を殺そうとした例で、少し情状酌量の余地がある状況のものだけだ。悪質な場合は処刑されている。
自由になるためだけに流石にそんなことはできない。
(あとは文字通り逃げ出すか……)
ただ、逃げ出した後が問題だ。もちろん捜索隊が出されるだろうし、前世とは全く違う世界で一人で生きていくのは少し心許ない。十数年生きてきたとはいっても、大半が王宮の中だ。箱入り娘とあまり変わらないだろう。
(もっと街中に出る時間を作りたいけど……)
訓練場は私が住んでる別邸と比較的近いからまだ抜け出していけるのだ。けれども街中となると半日は必要だ。レイほどではないだろうけど、私も教養として勉強が義務付けられてるから結構忙しいのだ。
(少し減らしてくれないかな……)
確かにこの国のことを知るのは大事なことなんだろうけど、そういうのは私が王女として政略結婚をさせられる時に必要となるものだろう。当分結婚するつもりのない私からすれば、使い道の分からない知識が積もっていくだけだ。そういう勉強をするくらいなら、もっと実用的な勉強をした方がマシだ。
まぁ、私が今教えられている内容は、貴族が通う学園のカリキュラムに沿ったものと王女としての必須科目らしいから、色々要望を言っても変えてはくれないだろうけど。
(そういえば、レイの方はどのくらいの頻度で街に出てるんだろう……この前会った時は勉強の一環で偶に出てると言ってたけど……)
私も連れてってもらえないだろうかと考えていると、部屋のドアがノックされた。
「はーい。どうぞー」
間延びした返事をすれば、リディは軽く溜め息を吐きながら部屋へと入ってくる。
「ニナ様、またそのようなお返事を……もう十六歳におなりなのですから、少しは改めて頂きませんと……」
「こんなのでもお世話してくれてるリディには悪いけど、変えるつもりないんだ。ごめんね? それより、何か用事?」
「国王陛下がお呼びでございます。お仕度を……」
「こんな時間に?」
もう夜も更けてるし、そろそろ寝ようかと思ってた時間だ。
「はい。なんでもニナ様にお話があるとか……お早くお仕度下さいませ」
わざわざ呼び付けて話をしたいということは、縁談関係だろうか。
私は眉を顰めながらも、流石に父を待たせることはできないため、支度にとりかかる。流石に寝巻きじゃ王宮の中を歩けない。
こんな時間だから人は少ないだろうと、よく着ている簡素なワンピースを身に付け、父の元へと向かう。父はまだ執務室にいるとのことだった。
これは更に雲行きが怪しくなってきたと思いながら、部屋に足を踏み入れると、そこには弟レイの姿もあった。
「こんばんは、姉上」
「レイも呼ばれたの?」
「違いますよ。私が姉上を呼んだんです」
「レイが……?」
「正確には、姉上を呼ぶように父上に頼んだ、ですけど」
私に話があるなら直接私のところにくればいい。それをこんな風に父を通して父の執務室に呼び付けるとは――。
「じゃあ、用件は貴方に訊けばいい?」
「いや、私から言おう」
レイに尋ねてみたけれど、答えたのは父の方だった。
「先日、ソレイユ王と会談した際、互いの子息の交流も兼ねて交換留学を行おうという話が出た。期間は二年、まずはレイがソレイユ国の学園に行き、二年後、あちらの第二王子であるアルフォンス王子が我が国の学園に来る予定だ」
良好な同盟関係を続けるためにも王子同士を仲良くさせようという目論見だろうか。でも、その話で私が呼ばれる理由が分からない。
「姉上には、私の付き人として同行してもらおうと思ってるんです」
「は……?」
「姉上、学園にも全然顔を出してないでしょう?」
「出してなくても同じ内容の授業は受けてる」
「もう少し、人との交流を増やした方がいいと思うんです」
「私には必要ない」
「いいえ、必要あります」
「それはレイが決めることじゃ――」
おほん、と父の咳払いが聞こえ、私は口を噤んだ。
「ニナ、行きなさい。お前の振る舞いにはある程度目を瞑ってきたが、いつまでも自由にさせるわけにはいかない」
「父上……! っ、待って下さい。ソレイユ王との話は、王子の交換留学とのこと。レイとソレイユ国の第二王子がその対象となるのであれば、私の同行はあちらの迷惑となります!」
代わりにソレイユの王女も招くというのであれば条件は同じになるけど、あちらの王女は既に婚約者も決まっているという話だ。結婚前の王女を二年も留学に出したりしないはずだ。
「それは分かっている。故にお前には一貴族の子女としてレイに同行してもらう」
「は……それは私を貴族に降格させるということですか……?」
降格は有り難いけれど、貴族じゃまだ不十分だ。下げるなら平民まで下げてもらわなければ。
ほんの少し期待がよぎったけど、父は首を横に振った。
「いや、留学の間だけだ。王女という身分を隠して、貴族として行ってもらう。付き人ならばいても不自然ではない」
いや確かに、王子に付き人がいるのは普通だけど、女の付き人ってどうなんだ。
「私が推したんですよ。姉上は護身術にも長けているでしょう? 姉上は外との交流ができて、私も強い付き人が手に入る。一石二鳥じゃないですか」
自分も強いくせに何を言ってるんだか、と思ったけれど――。
「一緒に行きましょう? 姉上と一緒に出掛けることなんてなかったから、結構楽しみなんですよ」
無邪気な笑顔でそんな風に言われると、頷かざるを得なかった。一緒に過ごす時間はそこまで多くなくても、私は弟達や妹のことが好きなのだ。
「……分かった」
「ありがとうございます、姉上」
◇
王女が退室して二人きりになると、セレーネ王は深い溜め息を吐いて肩の力を抜いた。
「本当にこれでよかったのか……?」
父王に尋ねられ、レイは「はい」と静かに頷く。
「これで上手く行けばいいのだが……」
「行きますよ。王女として行くのでなければ、姉上も男のような振る舞いはできません。一貴族としてそんなことをしても、セレーネ王女としての評判は下がりませんし、我が国の品位だけを下げることになりますから。姉上は別にこの国を貶めたいわけではありませんので」
「それは分かったが、まさか貴族との婚姻を避けるためだけにあのような振る舞いをしていたとは……」
未だに信じられない、と彼の父は緩く頭を振る。
レイ自身、姉が変わった理由を最初は理解できなかった。まだ七歳になったばかりで、“政略結婚”という言葉が理解できなかったのだ。歳を重ね、その言葉の意味を理解し、ようやく姉が嫌うものの実情を知ったが、どうしてそこまで嫌うのかまでは未だに分かっていない。
王女はその地位に見合った貴族と結婚するのが普通だ。もちろん、王女に相応しいか吟味されるので、変な相手に嫁がされることはない。そこに政治的な思惑が絡むこともあるが、それは立場上致し方ないだろう。
「それも今だけです。上手くいけば、クロード王子との仲を取り持つことができるかもしれませんし、他の貴族の子息もいます。駄目でも最悪帰国後そのまま学園に通わせれば、少しは結婚してもいいと思える相手を見つけてくれるかもしれません」
レイは父を安心させるように笑みを浮かべる。
いずれこの国の王になる者として、レイも姉には有意義な結婚をして欲しいのだ。
◇
――レイ王子のルートの時はね、この子がライバルになるんだよ。
幼馴染の声が聞こえる。彼女に渡されたゲーム機の画面にはどこかで見たような容姿の少女が映っている。長い黒髪を緩く一つにまとめた女の子だ。今まで見せられたライバル役のキャラクターとは系統が少し違う。
――レイ王子のルートが解放されるまではほとんど出てこないから、どんなキャラかあんまり分からないけど、どうも悪女っぽいんだよね。
一人語りながらゲームを進める彼女に、ふぅん、と生返事を返す。
――ちょっとやってみる? ――ちゃん、この前レイ王子が好きって言ってたよね。
好きというか、あの二人のどちらが好みかと訊かれたら、黒髪の方が馴染みがあっていいなと思っただけだ。乙女ゲーだけあって両方とも美形に描かれてるから、他に選ぶ要素がなかったのだ。性格とか知らないし。
色々言ってみたけど、彼女は私にさせる気満々だったようで、ゲーム機をこっちに渡してきた。
画面の中では先程の見覚えのある少女がまだしゃべっていた。真面目に読む気はないけど、ふと名前の部分は目についた。
この子の名前はローザ・フェガロというらしい――。
「――は……?」
目を開いた時にはいつもの天井が映っていた。
前にも一度見た、前世の記憶を夢に見たらしい。
「ローザ・フェガロ……?」
それは少し前に亡くなった、母方の大叔母の名前で――。
そして、私がレイの付き人として行く交換留学先で名乗る予定の名前でもある。
――この子がライバルなんだよ。
――どうも悪女っぽいんだよね。
「は……?」
私が、ライバルで――悪女、だと?
2021.5.23 誤字脱字修正。報告ありがとうございました。