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第3話 青天の霹靂  後編

 「はぁ、はぁ......。ねぇ、待ってよ!」

私は肩で息をしながらゾンニッチリ君に呼びかけた。こっちをまるで気にかけずにドンドン行っちゃうからついて行くのもやっとだよ。

「大丈夫か? 多分この辺りだと思うんだが」

彼はこっちに振り向いたと思ったら周りを見回したりと忙しない。いつのまにか風谷自然公園の外れまで来てしまっていた。


「いや、来ないでぇ!」

柵の先の、薄暗い松林の中。確かに女の子の声がした。

「こっち!」

私はそう伝えるなり柵を飛び越えていた。さっきまでの息苦しさとは別の胸騒ぎを覚えていた。この声、この声は。


「カエデちゃん!」

林の中の開けた場所に倒れていた彼女に慌てて駆け寄った。

「ひ、ひなたちゃん......?どうしてここに?」

どこもケガしてなさそうなのは良かったけど、ひどく怯えている様子なのが気になった。

「理由は後で! それより何があったのか教えて」

「カ、カラス、カラスが......」

カラス?そ、そういえば羽ばたく音が近づいてくるような。生唾をぐっと飲みこんで音のする方を見てみると......。


「キミ、こんなところにいたのか! 探したんだぞ」

 ゾンニッチリ君がワタワタと飛んでくるところだった。


「それで、このキュートなお嬢さんは?」

 彼は私の肩にすうっと留まるなりそう尋ねてきた。

「カエデちゃんっていって、私の友達なの」

 手短に答えるとゾンニッチリ君は彼女を食い入るように見つめる。そんな目でみたら怖いって。

 「それで、一体どうしてこんな林の中にいるんだ? 花見なら......モゴォ」

 そんな訳ないでしょ。くちばしを塞がれた彼が不満げににらんでくるのを無視してもう一度聞いてみる。


 「カラスがどうかしたの?」

 「カ、カラスが私に向かってカミナリを......」

 「モゴモゴ」

 「カミナリって、あの?」

 「はい。空から落ちてくる、あのカミナリを」

 「モゴォーー!」

 さっきからゾンニッチリ君が口をはさみたそうにモゴモゴやってるので手を離してあげる。


 「お嬢さん、カエデと言ったか。その話本当だろうな?」

 「間違いありません。私に向かってドカーン、と」

 まずいな、と彼が呟いたのを私は聞き逃さなかった。


 「どういうこと? カラスがカミナリを落とすなんて聞いたことないけど」

 「ただのcrow(カラス)にできる訳がない。精霊の力だとすれば......」


 「ガアアァァー!」

 一瞬何かが頭の上を飛び去ったと思った途端しわがれた、そして野太い声が響き渡った。

 「来た!」

 ゾンニッチリ君につられて空を見上げると、そこに声の主はいた。墨汁のお風呂に飛び込んだんじゃないかって位真っ黒で、大きなカラスだった。


 「あ、あ......」

ふと見ると、カエデちゃんの膝が笑っていた。もう逃げるのもできなさそうだ。

「気をつけろ。 おそらくアイツには”サンダー”が......」

ゾンニッチリ君が言い終わらないうちにカラスは動いた。額の辺りが光ったと思った瞬間。


「危ない!」

私はとっさにカエデちゃんの腕を取って脇に倒れこんでいた。耳鳴りがする頭を振って見えたのは黒焦げの地面だった。黒焦げ。草も、土も。


「ゾ、ゾンニッチリ君!?」

思わず彼の名前を叫んでいた。まさか、カミナリに撃たれて......?


「勝手に殺すな!」

草陰からヒョッコリ現れた彼を見てほっと胸を撫で下ろした。良かった、ピンピンしてる。


 「アイツには”サンダー”の精霊がついてる。とびっきりデンジャラスな奴さ」

 「どうするの? 私、魔法なんて......」

 「ボクがやろう。キミはカエデを頼む」

 『ボクがやる』って、一体どうするつもりだろう。不安にかられながら倒れたままのカエデちゃんをゆっくり起こす。


 「カエデちゃん、大丈夫?」

 「ええ、助かりました」

彼女が服についた落ち葉を払おうとした時、またカラスががなりたてる。

「来いよカラス野郎! ボクが相手だ!」

カラスと相対したゾンニッチリ君は私たちを励ますように威勢良くまくし立てる。 ガァ、とうなったカラスの額が再び光り始めた。

「危ないゾンニッチリ君!」

眩しいからか怖いからか、とっさに目を背けてしまった。

「太陽よ、我に力を......」

「ガァァー!」

もの凄い音と光しか分からない。わたし......。


「......い、おい! 大丈夫か!?」

耳元の高めの声に、ゆっくりと目を開ける。カエデちゃんが心配そうに私の顔を見つめていた。

「......ゾンニッチリ君は? どうなったの?」

「ココだココ」 私の左肩に留まっていた。

「カラスはあっちだ」

翼で指し示された方を見ると、さっきのカラスが仰向けに伸びていた。


「カラスも精霊も気絶してる。今のうちに杖に戻そう」

「戻す......? 杖ってあの杖だよね?」

「......まぁ、一度説明しただけで分かってもらえたとは思ってなかったよ」

彼は呆れたようにため息を一つつくと、『精霊を杖に戻す方法』を教えてくれた。でも、これって......。

「これってカエデちゃんの前でやらないとダメ?」

もの凄く恥ずかしいんだけど。

「今やらなきゃダメだ。 急がないとまた逃げられる」

「私のことは気になさらず、どうぞ」

一羽と一人のタッグに押されて、私は泣く泣く杖を手にした。


「あれぇ!?」

カラスの前まで来た私は素っ頓狂な声を出してしまった。カラスの上に別の光るカラスがいた。

「それが”サンダー”の精霊だ。 早く杖に」

ゾンニッチリ君はうろたえた声を上げるけど、目の前のこの子はとても逃げるとか、そういう状態じゃなかった。怯えていた。弱っていた。私を見上げる瞳はとても不安げだったのだ。

「大丈夫だよ。怖くないよ」

慰める言葉が口を突いて出ていた。頭を撫でようとすると、さぁっと指が体の中を流れた。あぁ、この子は普通の生き物じゃないんだ。

「おうちに帰ろう」

そっと杖を目の前に出すと、精霊さんはコクリと頷いた。それじゃあ、恥ずかしいけど。


「太陽と契りしひよりが命じる。我と契約を結び力を貸したまえ、コントラクト!」

穏やかな光が杖と精霊さんを包み、精霊さんは杖に戻っていった。

「やったなヒナタ!」

「とっても凛々しかったです!」

だからそういう反応されると恥ずかしいんだって。火照る頬を手で押さえる。


「後はこの子ですね」

カエデちゃんが目の前にしゃがみ込んだ途端カラスはハッと目を覚ました。

「カァ、カァカァ......」

目立つケガはないけれど、精霊さん同様弱っていた。

「コイツ、カエデの腕時計に目をつけていたらしい」

「ゾンニッチリ君、言葉が分かるの?」

彼は当然だというように頷く。


「この時計は母から貰った物なので......」

やんわりと断ろうとするカエデちゃんにカラスは続けた。

「カァカァ」

「正直光る物なら何でもいいらしい」

光る物? 私はそう聞いてカバンの中から缶バッチを取り出した。

「じゃあね、これあげる!」

「カァ!」

カラスは大喜びで私が差し出した缶バッチを咥えた。気に入ってくれたかな。


「いいんですか?」

おずおずと聞いてきたカエデちゃんに私はうん、と答えた。

「コンビニでオマケとして貰ったものだし。別にいいよ」

「カァカァ!」

「良かったなカラス野郎」

ゾンニッチリ君、口が悪いよ。けどカラスは気にしなかったみたいで、そのまま飛び去っていった。......あれ?そういえば。

「カエデちゃん、ゾンニッチリ君が話していることとか......」

不思議におもわないの?そう尋ねる前に彼女は口を開いた。


「私、こういうの大好きなんです。魔法使いと精霊さんのお話」

「ほぉ。カエデは将来大物になるな」

ニッコリ笑う彼女に、呆気にとられるばかりだった。



カエデちゃんと別れて家に帰った次の日。私は熱が出てほとんどベッドに寝たままだった。

「ヒナタのお父さんが出張中ってのは幸か不幸か分からんなぁ。ボクのことを説明する手間を後回しにできたけど、世話してくれるのがあの弟君じゃあちょっと不安だ」

ゾンニッチリ君は椅子の背もたれに留まってボヤいていた。

「大丈夫だよ。悟史はああ見えてしっかりしてるし、カエデちゃんも来てくれるみたいだから」

悟史は私がゾンニッチリ君を連れ帰ってきてもさほど驚かなかった。『姉ちゃんに似合わない位キレイな鳥だね』なんて憎まれ口を叩いた程だ。くぅ、思い出しただけで腹が立つ。


「ゾッチは何か食べる?」ふと気になって聞いてみた。

「ゾッチ?」

う、そっちに反応するの。

「ゾッチの方が呼びやすいかなっーて。 ダメ?」

布団の上で手を合わせてお願いすると、ゾッチは困ったような笑みを浮かべた。

「いや、別に。 それよりしっかり休め。ボクのことなんて気にしなくていい」

Don’t mind me.というヤツだな。羽を広げておどけて見せる彼にクスリと笑って私は目を閉じた。


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