王都到着前の一幕
今回からは少し間、緩めの回が続きます。
ずっとシリアスだと疲れますしね...(言い逃れ)
あの悲劇から2年弱。
ケイは12歳となった。
そう、12歳である。
このスカンジナビア王国では12歳になると冒険者ギルドに登録することが認められる。
ただ、学園入学が14歳なのを考えると早すぎるのでは無いか、と一部の貴族からは批判が上がっている。
それはさておき、二年間の間にケイは主に対人戦の技術を身に付けていた。
方法は至って簡単で、賊を見つけたところから次々に殺していったのだ。
まだ10歳そこらの子供に大人の賊が殺せるのか、と思うかもしれないが、よくよく考えて見るとケイの戦闘能力は大人から見てもかなりの腕だ。
いくら相手が同じくらいの歳の子供だと言っても、10歳になるまでにケイは村の他の子供の矢を剣で叩き落としたりできていた。
と言うより、10歳で魔物を狩っていたとなるとそれだけでどのくらい桁外れなのかは想像に難くない。
さて、今ケイは冒険者ギルドのある王都ヴェネットに向かっているわけだが、1つ思い出してしまったことがある。
そう、身分証だ。
あの夜、特に何も考えず一対の剣と当面の食料だけを持ち出してきてしまったために、身分証が無いのだ。
そして、ヴェネットに入るためには門で身分証を提示しなくてはならない。
しかし、
「さて、どうしたものかな...まぁ、どうにかなるか」
本人もこういった具合なのでなんとも言えないのだが。
などと1人物思いにふけりながらヴェネットへの道のりを進んでいると、突如道の脇の森の奥から鋭い悲鳴が聞こえ、思わず反射的にそちらを見てしまった。
目を凝らすと誰かが何者かに襲われているようだった。
「正直、面倒くさいのだがな...」
そう、面倒くさい。
しかし、あの夜以来、無辜の人間が死ぬことに対するヘイトが異様に高まっていたが故に、こういうことには反射的に反応してしまうのだ。
「仕方がない...」
1人そう呟くとケイはそちらに向かって駆け出した。
近くなると状況が見えてきた。
馬車を背後に戦う護衛と賊と思しき者4人が交戦しており、明らかに護衛が押されていた。
ただ、正直なところ賊は大して強そうに見えず、何を苦戦しているのかが微妙にわからなかったが、このままではあの一行が全滅だと思うと仕方がなく加勢、もとい抹殺しに掛かった。
少し離れたところから軽く火属性初級魔法【ファイヤーボール】を賊の背後の木に当て、意識がそっちに持っていかれた瞬間に2人の賊の首を一対の剣でもって斬る。
「テメッ!何しやガッ...」
残りの賊が何か言おうとしたがそんなものを丁寧に聞いてやるほど寛大では無い。
容赦なく残りの2人も殺した。
なんという事はない、簡単な仕事だ。
逆に何でこの程度のものに護衛が手こずるのかを知りたいくらいだった。
血を払い双剣を鞘に収めると、護衛達が駆け寄って来て、ケイに声をかけた。
「すまない、助かった。」
「いや、別にこんなのは大した事じゃない。」
「そ、そうか...」
「それよりも、この程度の賊を相手にあそこまで手こずるとは、それで護衛が務まるのか?」
こう言われると護衛達は何も言い返せない。
「本当に情けない...と言うより、何で俺たちが護衛と分かるんだ?」
何を言っているのだろうか。
そんなもの状況を見れば一目瞭然だろうに。
「何を寝ぼけたことを言っているんだ?
明らかに高級そうな馬車が一台。それを守ろうと戦う鎧姿の騎士。襲ってくる賊。これだけ状況証拠が揃えば誰だって護衛と分かるだろう。」
「お、おう...そうだな。」
ただ、騎士からして見れば外見はどう見ても10歳そこらの子供のため、そこまで推理できているとは想像もしていなかった。
この騎士達は”人を見た目で判断してはいけない”と言うのがどう言う意味なのかを深く痛感したのだった。
それはさておき
「いや、とにかく助かった、ありがとう」
「別に。ところで、その中の人ってのは誰なんだ?」
と聞くと、馬車の扉が開き、中から人が出て来た。
中から姿を現したのはケイと同じくらいの少女。
外見は年齢ゆえにまだ発達してはいないが可憐で大人しそうな顔をしていた...ただ、ケイからして見れば至極どうでも良い事なのだが。
すると、少女が口を開き
「もう、大丈夫なのですか?」
「ハッ、この方に助けて頂き何とか。」
すると少女はケイの方を向き少し驚いた顔をした後
「助けて頂きありがとうございました。お名前は何とおっしゃるのですか?」
「ケイだ。」
「ケイ様ですね。私はアリア・ヴェネツィアです。ケイ様、この度は本当にありがとうございました。」
「いや、別にこんな事、感謝されるようなものでもない。気にするな...ん?待てよ...ヴェネツィア?って事はお前、王族か?」
「はい。と申しましても妾の子ですので、王城から追い出されて今は貴族街で暮らしております。」
「なるほどな」
なるほど、王族と来たか。
しかし、一点不可解な点がある。
王族ともあろうものが、こんなにペラペラと身の上を話すものだろうか...?
などと思案していると
「どうした?お嬢様が王族と分かって少し緊張しているのか?」
と話してきたので思考を止めた。
「いや、何でもない。」
「お、おう...そうか...」
すると、アリアが口を開いた。
「その格好...ひょっとしてヴェネットに向かわれるのですか?」
「あぁ、そうだが?」
「よろしければ一緒に行かれますか?」
ケイにはなぜそこまでするのか分からず罠かと警戒したが、アリアの様子と護衛の戦力を見て問題ないだろうと判断した。
最悪、襲ってくるなら殺せば良い。
襲ってくる的は無辜の者では無い。
容赦は要らない。
「分かった。ならお言葉に甘えさせてもらおう。」
「はい。」
そうしてケイは馬車に乗り込み、一行はヴェネットへと向かった。
「ここをこうした方が良いよ」というのがございましたらコメントで書いて頂けたら幸いです。