とある昔話。
昔々、とある小さな村に間抜けな子供がいた。
今代の勇者は弓使いであったが故に空前絶後の弓ブームの最中でありながら、近接魔法と剣の複合スタイル、所謂”魔剣士”を目指していた何ともが珍しい子供であった。
と言うのも、今代の勇者一行の1人が魔剣士であったと言うだけだ。
ただ、その魔剣士は勇者一行の中では特に影が薄く、他の4人と比べてパッとしなかった。
しかし、その子供の目には影ながら活躍するその姿が他の誰より輝いて見えたのだそう。
憧れを抱き、愚直に剣を振るい続けた。
1人、扱いにくいと世間ではもっぱらの噂の近接魔術を本を読みながら必死に学んだ。
村の他の子供は弓を使い、剣を使う彼は異端児扱いを受け、勝負をしても一度離れたところから打たれ続ければ避け続ける事もできず、他の子供から、だけでなく村の大人からも気味悪がられ、嘲笑の対象となっていた。
それでも剣を振り続け、魔術を磨いた。
力が足りないのなら必死に筋肉をつけ、速さが足りないのならいつまででも走り込んで、手数が足りないと思えば両手に剣を一対持ち、それでも補なければ新たな魔術を身につけ、磨き、できるあらゆる事をし尽くした。
まだ、10にも満たなかった子供が。
その子供の頃姿を彼の両親だけはずっと応援し、励まし続けた。
ただ一つ、”危ないと感じたら逃げろ。生きることが何よりだ”という約束をして。
次第に力を付け、弓を使う他の子供を相手にすれば矢を叩き落とし、必要ならば避ける、と言ったことが出来るようになり、やがて複数人で掛かってきてもその尽くを返り討ちに出来る実力をつけた。
何も、彼が天才であったわけでは無い。
ただ、他の子供とは掛けた時間と熱量が桁違いだっただけだった。
10歳になる頃には村の外の魔物の討伐も難なくこなすようになり、次第に村の住人にも認められ出した。
嬉しかった。
舞い上がっていた。
幸せだった。
10歳の秋、彼らの村にSランクの魔物が現れ、村が危機に晒された時、いくら鍛えたと言ってもたかだか10歳では叶うわけもないと思い、勇者一行が討伐に来るのを皆で息を潜めて待った。
そして、ようやく到着した勇者一行によってその魔物は討伐され、皆で無事を喜んだ。
その時に遠目に見た魔剣士の彼の活躍をその子供は一生忘れまいと思った。
そして、いつかああ言う風になると心に決めた。
ようやく村の皆に認められた。
村の皆は自分が守ると。
その夜、両親が殺された。
他でも無いその魔剣士によって。
彼は村人から金を受け取り、依頼として両親を殺した。
村人達は誰も彼を認めてなどいなかった。
村人達は魔剣士に「あの薄気味悪い一家を殺してくれ」と頼んだ。
彼は特に何でも無いことのように了承し、彼が魔物を狩りに行ってる間に手に掛けた。
帰ってきた子供に待っていたのはただただ真っ赤になった両親であった。
何も理解できずにいると、いつの間にか魔剣士が目の前にいた。
血まみれの剣と共に。
彼はより一層何が起きているか分からなかった。
そして魔剣士が剣を持ち上げるだ途端、彼は背筋の泡立ちを感じ咄嗟に避けた。
本来、勇者一行の1人である彼がその程度で剣を外すはずがないが、この時ばかりは外した。
相変わらず何も理解できずにいた彼だが、魔剣士が彼が避けたのを見ると少し驚いたような雰囲気を出し、何もせずに帰って行った。
魔剣士が去った後、這うように両親の元に行き、ひたすら泣いた。
そして、ようやく両親が殺されたと理解された時、誓った。
“必ず復讐する”と。
そして、両親を村はずれに丁寧に埋葬した時、ようやく気づいた。
あぁ、この死は自分の間抜けさが招いたのだと。
もう、涙は枯れ果てていた。
胸にはただ、燃え始めた復讐の炎と自戒の念だけが渦巻いていた。
今すぐにでも皆殺しにしたかった。
しかしその時、ふと思い出した。
“危ない時は逃げる”
両親と交わした唯一の約束だ。
今はまだ勝てない、危険だ。
だから、今は逃げよう。
そしていつか奴らを、魔剣士ロイを殺そう。
ケイは村を発った。
「ここをこうした方が良いよ」と言うのがございましたらコメントで書いて頂けたら幸いです。