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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第七章 ~西の大陸~
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第八十三話 ~霧の潜伏者~

 クローキンスがマスクをしたまま右へ左へと顔を動かすので、気になったユーニはそっと肩に手を伸ばした。


「どうしたっ?」


 肩に手を乗せてそう聞くと、クローキンスはマスクを外してユーニのことをじっと見た。そしてマスクを突き出した。


「見つけた。奴は奥に走って行った」

「なに、本当かっ……?」


 ユーニは声を潜めて尋ねた。するとクローキンスは黙って小さく頷いた。


「そうだ! このマスクがあれば少しは安全性が増すんじゃ無いか?」


 二人がぼそぼそ話し合っていると、マロウが突然そう叫んだ。それに対して部下たちは「流石キャプテン!」とか「名案ですね!」だとか言って担ぎ上げていた。


「よし、じゃあ早速こいつから情報を聞き出すぞ!」


 海賊たちはマロウの指示に従って、倒れていた男をズルズルと霧の薄い場所まで運び込み、余分に持ってきていたロープでしっかりと縛った。


「本当に彼女を見たのかっ?」

「あぁ、あのシルエットは間違いない。真っすぐ奥に進んで行った」

「まさか彼女が――」


 マロウたちのことを無視して霧の中で見たシルエットの話をしていると、背後から部下の一人がやってきてユーニの腕を叩いた。


「おい、さっきからキャプテンが呼んでるぞ」

「あ、あぁ、すまないっ」


 少しギクッとしたが、クローキンスとユーニは一旦この話を止めてマロウの元へ向かった。

 一番霧が薄いと思われる中心部に、先ほど霧の中で倒れていた男とマロウはいた。ユーニはマスクを手に持ったまま歩み寄り、そして声をかけた。


「どうかしたのかっ?」

「どうも何も、こいつから情報を聞き出す! そしてあんたはマスクをつけて人数分のマスクを確保するんだ! どうだ、名案だろ!」

「な、なにっ? 私がマスクを調達してくるのか?」

「そうだ! だって一番強いだろ!」

「ちっ、人数分のマスク何て必要ないと思うがな」

「嫌だ! 俺は安全に秘宝を持ち帰りたい! ちなみに言っておくが、お前のマスクは最後だからな」

「ちっ、勝手にしろ。俺はマスクなんていらない」


 クローキンスはそう言うとその場から離れた。


「へっ! 強がりやがって。とにかく、あんたはマスク調達。俺たちはこいつから情報を聞き出す。いいな?」

「はぁ、やれやれ……」


 ユーニは明確な返事はせず、大きなため息だけ残してクローキンスの元へ向かった。


「私はマスクを取って来る。君はどうするっ?」

「ちっ、恐らくあの女も秘宝を狙ってる。俺はさっさと奥に進ませてもらう」

「待てっ。そう焦るなっ。マスクはともかくあの男から情報を聞き出す価値はあるっ」

「……ちっ、あいつも自分の分のマスクがあれば黙るだろ。それまでの間なら待っててやる」

「よしっ。では行って来るっ!」


 ユーニはそう言うとクローキンスの元を離れ、マロウたちにもマスクを取ってくると伝えた後、マスクを装着して霧の中に入って行った。

 マスクのお陰で大分視界が開けたユーニだったが、念のためこの集合場所に迷わず帰ってくるために、微弱ではあるが不得手な魔法を使って小さな光の柱を立てた。それから聖剣の柄に手を添えていつでも戦える準備をしてから深い霧の中を歩き始めた。

 クローキンスたちがいる霧の薄い場所を離れてすぐ、一人目の標的を発見した。どうやら敵は既に一行の隠れ場所を把握しているようであった。ユーニはバレないように息を潜め、ゆっくりと敵の背後を取った。

 ――狙いを定めると、敵の背中目掛けて飛び掛かった。そして瞬時にぐっと首を絞めて気絶させ、ゆっくりと地面に寝かせるとマスクを剥いで素早くその場を去った。

 引き続きもう一つほどマスクを手に入れようと黒霧の中を徘徊していると、なぜかポツンとガスマスクが二つ落ちていた。その傍には気絶している男が二人おり、しばらく起きそうになかった。


「これは……。やはり彼女が……?」


 ユーニはそう呟きながら、マスクは多ければ多い方が良いと思い地面に放置されていたマスクを抱え、光の柱を目指して前進した。

 その頃マロウたちは未だに気絶している男を前にして睨みだけを利かせていた。


「こいつ全然起きませんね!」

「俺たちの恐ろしさに慄き、寝たふりをしてるのかもな! ハーハッハッハッ!」


 遠くでそんな笑い声が聞こえると、クローキンスはあからさまに舌打ちをしてぎろりと睨んだ。部下たちはそれに気が付いてすぐ顔を青くするのだが、マロウ本人は全く聞こえていないようで大笑いを続けた。


「う、うぅ……」


 と、そんな調子で笑い続けていると、その笑い声がうるさかったのか男が呻き声を上げてうっすら瞼を開けた。


「お? 起きたぞ!」


 当然腕を縛られていることを知らない男は無理矢理立ち上がろうとした。しかし見知らぬ人間を前にして男は立ち上がることが出来ない。


「誰だ、お前たちは!」


 捕縛されたことをすぐに悟った男はそう叫んだ。


「ハ-ッハッハッハッ! 俺たちは、トレジャーハンターだ!」


 マロウは堂々とそう言うのだが、相手には全く響いていない様子であった。


「俺を捕まえてどうする?」

「お前たちの隠れ家を聞き出すに決まってるだろ! それと変なマスクのこととこの霧のことと、それからそれから……」


 指折りしながら聞きたいことをいくつか挙げていくのだが、相手どころか仲間の全員がマロウの話に耳を傾けていなかった。


「ちっ、こいつのことはどうでもいい。お前たちはここで何をしてる?」


 下手くそな尋問を見かねたクローキンスは、銃口を男の額に向けてそう聞いた。すると男の方も急に危機感が増したと思い、油断していた表情が再び引き締まった。


「関係ないだろ……」


 男はそう言いながらも、連結銃の引き金にかかるクローキンスの指を心配そうにじっと見ていた。


「ちっ、俺はあまり冗談が好きな性質じゃない」


 そう言うと、クローキンスは連結銃の撃鉄を引いた。


「待て、待ってくれ。俺はただの傭兵なんだ」

「傭兵だと?」

「そうだ。元々俺も秘宝を狙ってここに来たんだ」

「それで、何故こんなことをやってる?」

「お前たちみたいな秘宝を狙ってくる奴らを仲間に取り込んでいるんだ」

「ちっ、つまりここには先住民が居るってことだな?」

「先住民かは知らないが、確かにいる。今となっちゃ取り込まれたトレジャーハンターの方が多い気もするがな。……これで良いだろ? 命だけは助けてくれるよな?」

「お前にはこれから拠点まで案内してもらう。後はお前の雇い主次第だな」

「ま、まだ協力しろってのか?」

「あぁ、当たり前だ。今お前の命を握ってるのは俺だからな」


 交渉を終えたクローキンスは、海賊たちを顎で使って男を立ち上がらせた。尚もクローキンスは連結銃を構え、そのまま男の背後に回って後頭部に銃を突きつける。


「戻ったぞっ!」


 丁度尋問を終えたその時、ユーニが霧の中から戻って来た。


「こいつに案内させる。一つはこいつに着けてやれ」


 ユーニが抱えているマスクを見て、クローキンスはそう言った。


「承知した。量はあるからとりあえず彼に装着しようっ」


 複数持っていたマスクを一度地面に置き、一つだけ持って男の前に行くと、手早くマスクを装着させた。その間地面に置かれていたマスクは無防備で、しめしめと思った海賊たちに音もなくひったくられてしまった。


「やりましたキャプテン、マスクですよ」

「ハーッハッハッハッ。俺の予想通りだ。奴なら取ってきてくれると分かっていたからな!」


 マロウはそう言いながら一番先にマスクを装着し、その後残っているマスクを部下たちに分配した。途中で一人行方知れずとなってしまったため、マスクの数はユーニが持ってきたもので事足りていた。


「さぁ、さっさと秘宝まで案内してもらおうか!」


 マスクを装着したマロウは突然活気づいてそう言った。


「へっ、こいつらも来るのか?」


 マスクを着けられた男の表情を読み取ることは出来なかったが、明らかにマロウたちを馬鹿にするような語調でそう言った。


「ちっ、守る気は無いがな」

「まぁ良いか。俺も案内だけはしてやる。その道中とその先のことは一切保証しないけどな」

「構わんっ! 一刻も早く案内してくれ」

「そう急ぐなって。お前ら本当にトレジャーハンターか?」

「なっ、当たり前だっ!」

「ちっ、グダグダ抜かしてないでさっさと歩け」


 あまりにもユーニの演技が下手だったので、クローキンスはそれをカバーするように男の後頭部に突きつけている連結銃をぐっと押し込んだ。


「おい待て待て! 案内はちゃんとするから」


 男はそう言うと、道案内をするために歩き出した。クローキンスもそれに続いて歩き出し、霧に突入する直前で男の服を空いている左手でしっかりと掴み、黒い霧の中へ入って行った。そしてその二人と間隔を空けずにユーニが続き、そのあとからマスクを装着して強気になっている海賊たちが続いた。


「この様子なら秘宝はすぐに手に入りそうだな!」

「ですねキャプテン!」


 海賊たちは先ほどの通夜ムードから一転し、意気揚々と霧の中を進んでいた。


「……お前らやっぱりトレジャーハンターじゃないだろ?」


 騒がしい海賊たちをよそに、男はひそひそと話し出した。


「……ちっ、確かにそうだ。だが秘宝に興味はある」


 観念したクローキンスはボソッとそう伝え、口下手だと自覚しているユーニはクローキンスに託して黙った。


「へっ、それもどうだかな。お前らからは宝への執着心を感じねぇ。うーん、そうだな。さしずめ俺たちを救いに来たとかか? へへへへ」


 男はそこまで言うと話を止めた。クローキンスとしても答える気はさらさらなかったのだが、突然黙るのも不自然だなと思い、試しにグッと自分の方に男を引き寄せた。

 ――すると男は引っ張る力に身体を任せてクローキンスの方にもたれかかって来た。


「ちっ、ふざけてんじゃ――」


 視界の悪いクローキンスは、逃げる隙を作るためにわざともたれかかって来たのだと思い、男を躱してすぐに銃を構えた。そして仰向けに倒れた男を見てクローキンスは構えを解いた。


「これはっ! 何が起こったのだっ!?」


 男の首には細く深い傷が付いていた。的確に動脈を切断されており、血が静かに首を流れて地面に滴った。


「ちっ、消されたか」


 クローキンスはそう呟きながら、急いでマスクを外して装着した。そして目を見開いている男の瞼を閉じ、まだ暗殺者が近くにいるかも知れないと思って辺りを見回した。


「すまんっ。マスクを着けていたにも関わらず見逃してしまった」

「ちっ、何が起こったんだ?」

「分からない。もしかしたら彼はわざとここに来たのかもしれないっ」

「誘われたってことか……」


 二人がそんな話をしていると、背後から大きな足音がしてきた。


「助けてくれぇ! お、襲われたんだ!」


 足音で既に察してはいたが、マスクを着けて先ほどまで意気揚々としていたマロウが震えた叫び声を上げながら二人に近付いて来た。


「どうしたのだっ?」

「はぁはぁ、あんたらと少し離れた瞬間に部下二人がやられたんだ」

「ちっ、同じ奴か……?」

「何とも言えんっ。今はここを離れようっ!」


 ユーニはそう言うと、二人が頷くのを確認してからスフィーが走り去って行ったと思われる方向に向かって走り出した。それに続いてクローキンスも走り出し、マロウも走り出そうとしたその時。


「ぐあぁぁっ! 痛い! 何かが足に!」


 マロウの悲痛な叫びが二人の足を止めた。二人が駆け寄って見てみると、マロウの左太ももに、確かにナイフが刺さっていた。


「待て、落ち着くんだっ!」


 ユーニは駆け寄ると、ナイフを抜かないように指示した。


「お、置いて行かないでくれよ!」

「大丈夫だ。見捨てはせんっ!」


 二人がそんなやりとりをしていると、クローキンスの肘が背中に当たった。偶然かと思って無視しようとしたのだが、もう一度トントンとクローキンスが肘をぶつけて来たので、ユーニは振り返った。


「なんだっ?」

「ちっ、囲まれたみたいだ」


 そう言われたクローキンスはぐるりとその場で一周した。するとクローキンスの言う通り、辺りには十人近い男たちが三人を見張っていたのであった。


「動くな。大人しくしていればそいつも治療してやる。武器を収めて我々について来い」

「……ここは大人しく従おう」


 ユーニは小声でクローキンスに伝えた。それに意義は無いようで、クローキンスはそっと連結銃をホルダーに収めた。

 その後三人は手を拘束され、マスクを剥ぎ取られた。そして暗殺者たちの指示に従って一人ずつ間隔を空けて霧の中を進むことになった。


「よし、ではついてこい」


 まず初めにマロウが運ばれて行き、その次にクローキンス、そして最後に声をかけられたのはユーニであった。黒霧の谷を訪れた一行は、謎の部隊によって半数の命を失い、残りの半数はまんまと捕縛されてしまったのであった……。

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