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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第七章 ~西の大陸~
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第八十話 ~海からの来訪者~

 三人の前に立ち止まったギルは、一旦息を整えてから事情を説明し始めた。


「いつでも出られるように船の点検をしておったんじゃが、そしたら急に海が荒れ始めたらしいんじゃ。なにせ船はドック内じゃからな、しっかりとこの目で見て来た訳では無いんじゃが、警備員の二人がそう言っとったんじゃ」

「ふむ、なるほど。少し見に行ってみるか」

「だな」


 三人の意見が合致したので、初汰たちは町の者たちに不審がられないようにそっと町を抜け出して港の方へ向かうのだが、町を出てすぐ、確かに海が荒れていることを視認した。それと言うのも、町にはまだ届いていないものの大きな竜巻のようなものが海上に発生していたからである。


「ありゃ海も荒れるわな……」


 初汰は竜巻を見ながらそう呟いた。


「まさかこのまま町に向かってくるのではないか……?」

「その可能性もありそうですね。町に報せが届いているか心配ですね」

「それは流石に警備員が連絡してるんじゃないか?」

「うむ、そう信じて我々はドックに向かってみよう。ギル殿は宿屋で待っていてくれ。もし身の危険を感じたら高台に避難していてくだされ」

「分かった。くれぐれも気を付けるんじゃぞ」


 ギルはそう言うと、踵を返して宿屋の方へ歩いて行った。初汰たち三人はそれを見送ると、舗装された道を真っすぐ進んでドックに向かった。

 初汰たちがドックに近付くにつれ、竜巻もドックに近付いているような錯覚を抱きながら、三人はドックの前に到着した。するとドック内から慌ただしい声が聞こえて来た。どうやら警備員たちがこれから避難をするようで、扉のもうすぐそこまで迫っていた。三人はここに来ていることがバレないように一度ドックから離れ、近くの草むらの隠れた。


「後で合流するから俺の荷物を持って先に行ってくれ! 俺は防衛魔法を発動してから町に向かう!」

「分かった! さっさとボタンを押して戻って来いよ!」


 そんなやりとりが交わされると、扉から数名の警備員が出て行った。三人はそれを見送り、そして数秒後、警報のようなものがドック内に(扉が開け放たれていたせいで音は漏れていた)流れた。そしてそのまた数秒後、先ほどやり取りをしていた警備員と思われる男性が、警備員の一群を追って舗装路を走って行った。


「どうやらドックは魔法で守られるようだな」


 獅子民は草むらから体を出し、ドックをじわじわと包み込んでいく魔法の障壁を見上げながらそう言った。


「これでちゃんと守れるのか?」


 いささか不安に思った初汰は、獅子民の後ろから障壁を見上げてそう言った。


「大丈夫よ。とても強固な風魔法だから。すべてのものをこの障壁に沿って海の方へ受け流すように出来ているようだわ」

「へぇ~、ちゃんと考えられてるんだな。じゃあ俺たちの船も安全だな!」

「我々の船と言うのが正しいかどうかはひとまず置いておくが……。恐らくドックは大丈夫そうだな。我々も町に戻るとしよう」

「だな~。このままここにいたら俺たちが竜巻に飲み込まれそうだしな」

「でもなんで急に竜巻が発生したのかしら……?」

「これじゃ祭りも中止だな」

「うむ、まぁ致し方ないだろう。自然災害には敵わん」


 三人はドックと自分たちの船の安全を確認し終えると、先ほどよりも幾分か町に近付いてきている竜巻を確認してから歩き出したその瞬間。


「助けてくれ!」


 と、ドックの中から急を要する声が聞こえて来た。当然三人はその声を聞き逃すことは無く、一斉に振り返ってドックの方へ戻った。


「今声聞こえたよな!?」

「えぇ、聞こえたわ」

「まさか逃げ遅れがいたとは……!」


 三人は急いでドック内に滑り込んだ。幸い魔法障壁は人間だけを通す仕組みになっているようで、何も考えずに突撃した三人が障壁に阻まれて無様にこける様が露呈することは無かった。


「おい! 誰かいるのか!?」


 ドックに入るとすぐ、初汰は救助を求める声の主を探すために叫んだ。既に封鎖済みのドック内では初汰の声がよく響いた。これほど大きい声ならばすぐに返事があっても良いはずなのだが、こだまはあっという間に消えて静まり返った。


「どういうことだ……?」


 獅子民は辺りを見回しながらそう呟いた。なぜなら今見える範囲には人影などあらず、それどころかドック内に竜巻の被害が及んでいる様子すらなく、時折ドックの外壁が竜巻の風圧によって唸りを上げる程度であったからである。


「これ、助け呼ぶ必要ねーよな」

「えぇ、これは――」


 初汰とリーアも異変に気付いたその瞬間、三人の背後で開け放たれていたはずの出入り口が突然閉まった。


「うぉ! 勝手に閉まった……」


 初汰は大きな音を立てて閉まった扉に驚きすぐさま振り返ると、嫌な予感がして扉に近付いた。


「……はぁ、開かなくなった」


 扉の取っ手を強く握って勢いよく前後させてみたが、それでも扉は開かなかった。なので初汰は大きくため息をついてから二人の方を見た。


「罠だったのね」

「しかし狙いは何だ?」

「さぁな、てかこのままここにいた方が安全なんじゃないか? ここは魔法障壁が貼ってあるわけだし」

「ふむ、確かに一理あるな」

「憶測だけで物を言うのは危険よ。ほら、見てみて」


 リーアはそう言うと、町側の窓を二人に勧めた。二人が言われた通りその窓から顔を覗かせて町の方を見ると、なんと既に巨大な魔法障壁が町を包み終えていた。


「マジかよ……」

「あちらの方が安全そうだな……」


 二人はあんぐりと口を開けながらそう呟いた。そしてそのげんなりした気持ちのまま窓を離れ、再び扉の方に向かって押したり引いたりして無理矢理こじ開けようとしてみるのだが、扉はビクともしない。


「……もう、ここで耐え忍ぶしかないだろ」

「うむ、そのようだな」

「ごめんなさい、気を悪くさせてしまって」

「いいんだよ、気にすんなって。罠に嵌っちまったもんは仕方ないし」


 初汰はそう言ってリーアを励ますと、近くにあったパイプ椅子を引きずり出して腰かけた。


「だがやはり気になるな。何故我々はここに連れて来られたんだ?」


 少しの沈黙があった後、獅子民がそう切り出した。


「私もです。声の謎もそうですが、なぜか竜巻が近づいてきていないように感じます」

「ほんとか?」


 リーアの言葉を聞いた初汰は、すくりと立ち上がって窓際に移動した。そしてしばらくの間海上に漂う竜巻の様子を伺い終えると初汰はスタスタと戻って来た。


「動いてない。結構近くまでは来てるけど、今以上は近づいてきてない気がする」


 ドックの出入り口に戻ってきて、扉にもたれかかりながら初汰はそう言った。


「ふむ、これは何かあるかも知れないな……」

「えぇ、あまり大胆に気を緩めない方が良いかも知れないわ」


 二人がそんな会話をしていると、初汰が急に扉から離れ、ドックの奥の方を凝視し始めた。


「どうしたのだ、初汰?」

「早速おでましだ」


 初汰がそう言ったので、獅子民とリーアの二人もドックの奥。つまりは海側の方を見た。すると船々の間から、もっと正確に言えばドックに溜めている海水の中からズルズルと人が這い出てきたのである。


「気を付けろ。様子がおかしい」


 獅子民は小さな声で、二人にだけ聞こえるような声でそう言うと、マントの内側に収納している丸盾をそっと両手に装備した。それを見た二人も危機感を覚え、静かに戦闘態勢を整えた。

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