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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第七章 ~西の大陸~
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第七十五話 ~猛攻を退け~

 絡みつく足の他にも、船を叩き壊そうとする足が何本か存在しており、初汰たちはそれを対処しながら絡みついている足を切り落とさなければならなかった。それは当然簡単なことでは無かった。


「クソ、めんどくさいな。俺が動く足の相手するから、リーアとユーニさんは船に絡みついてる方を頼む!」

「任せておけっ!」

「えぇ、分かったわ」


 初汰は二人にそう告げると、船尾の端っこから離れて少し中央寄りに立った。するとタイミングよく巨大な足が振り下ろされる。

 ――まずはバックステップでそれを躱し、テーザーガンを打ち込む。そして若干怯んだところで右手の剣で切りかかる。足は攻撃を受けたことによって怯み、海の中へ引っ込めた。


「よし、この調子ならいけそうだ……!」


 こうして初汰が敵の攻撃をはじき返す役になり、リーアとユーニは船に絡まっている足を切り落とすのが一気にやりやすくなった。


「今のうちに一気に片付けようっ!」

「はい! 火の魔法を纏わせます!」


 リーアはそう言うと、ユーニの持っている聖剣に両手を添え、炎を纏わせる。


「この一太刀でっ! はぁぁっ!」


 炎を纏った聖剣を振りかざし、そして力強く振り下ろした。

 ――イカの足はまず炎に焼かれ、そしてその後には炎によって柔らかくなった表皮を聖剣が裂いた。するとイカの足には大きな火傷と切り傷が残り、ダメージに怯んで足を引っ込めた。


「よし、こっちは終わったなっ!」


 リーアとユーニが足を片付ける一方。獅子民とクローキンスも力を合わせて足を振り払おうとしていた。


「ちっ、しつこいやつだ」

「このままでは消耗するだけだ。同じ個所を同時に攻撃しよう

「あぁ」


 クローキンスは一度下がり、ウエストバッグから今一番火力が出せると思われる赤いリボルバーと赤い弾丸を一発だけ取り出した。


「ちっ、あと四発か……」


 そう呟きながらリボルバーを入れ替え、そして弾丸を一発装填した。そして残りの四発は再びウエストバッグにしまう。

 その間獅子民は次の一発で敵を仕留めるために、両手に装備している丸盾を駆使して敵の攻撃を防ぎ続けていた。短い間ではあったが、強力な数撃を喰らっていたので、変換の力を使うにはもう充分であった。


「準備完了だ」

「うむ、ではまずは私が敵の表皮を削る。後は任せるぞ!」

「あぁ、任せておけ」


 獅子民は敵の猛攻を掻い潜り、船に絡まっている足に急接近する。そして変換の力を解放し、両手の丸盾が回転し始める。


「ぬあぁぁ!」


 左ストレート、右ストレートと連続で繰り出し、イカ足の表皮を丸盾の鋸で削る。


「今だ!」


 そう言いながら獅子民は後退し、射線を確保する。そしてその一瞬生じた射線をしっかりと見ていたクローキンスは、表皮が削れた部分を狙って赤い弾丸を発射した。

 ――赤い弾丸は真っすぐ飛んでいき、そして間もなく表皮が削れた部分にめり込んだ。その数秒後、赤い弾丸はイカの足内で爆発し、大きくえぐれた。


「うむ、作戦通りだ」

「ちっ、今だジジイ!」


 足によるロックが外れたことを確認したクローキンスは、ギルに向かってそう叫んだ。


「合点じゃ!」


 クローキンスの叫び声を聞いたギルは船を全速前進させた。

 ――イカの足は再び船を捕らえようと躍動するが、協力して与えたダメージが相当大きかったのか、その動きはとても鈍く船に追いつくことは無かった。

 そうして一行を乗せた船は、目前まで迫っていた西の大陸に到着したのであった。


「もう少しで到着じゃ!」


 船のスピードを少し緩め、甲板で休憩している初汰たちに向かってギルがそう叫んだ。


「はぁ、ようやく到着か……」


 初汰は大きくため息をついてから、安堵したようにそう言った。


「うむ、ようやくだな。まさか海にまでアヴォクラウズの刺客が潜んでいるとは思ってもいなかった」

「えぇ、ですがもうここは西の大陸の領海。これ以上襲ってくることは無いと思いますわ」

「ひとまず安心と言ったところだな。だがゆっくり休んでいるわけにもいかない。スフィーのことが心配だ」

「そうですね。目的が分からない以上、探すのは困難になりそうですが……」

「うむ、確かにそうだな。まずは町を探して聞き込みをしよう」


 獅子民とリーアがそんなやりとりをしていると、階段の上からギルが顔を覗かせた。


「到着まではもう少し時間がかかる。少し仮眠を取ったらどうじゃ?」


 ギルは戦闘を終えた皆々を気遣って、そう声をかけた。


「俺はそうさせてもらおうかな」


 初汰はそう言うと、あくびをしながら仮眠室へ向かった。


「では、休めるうちに休んでおくか」


 獅子民がそう言うと、リーアとユーニも頷き、三人も仮眠室へ向かう。甲板に一人残ったクローキンスは、小さく舌打ちをして船尾の方へ向かって行った。


「まったく、素直じゃないのぅ」


 クローキンスの背中を見て、ギルは微笑みながらそう呟いた。


 ……仮眠室に入るや否や、短い会話をしている間に初汰たちは眠りに落ちてしまった。ギルはそんな彼らを気遣い、徐行で港へ近づいた。そのおかげか、初汰たちは数時間の仮眠を取ることが出来た。

 西の大陸の領海に入ってからと言うもの、つい先ほどまで巨大なイカに襲われていたとは思えないほど辺りは静かであった。そんな静かな領海には、ちらほら漁船が浮いており、時たまに漁師たちの陽気な笑い声も聞こえて来た。その様子からして、現在西の大陸は平和そのものなのではないかと思えてきた。

 そんな大陸が外からの船を厳しく検問することは無く、初汰たちを乗せた船は港町にあるドックに収容された。


「商人の方ですかな?」


 止まった船に木の板が掛けられ、三人の警備員が乗船した。その三人の応対をしたのは勿論ギルであった。


「いえ、ちょいと旅行にのぅ」

「ほう、あなた一人で?」

「いやいや、他の者たちは仮眠室で眠っておるよ」

「なるほど、そうだったのですね。では特に荷物は無いですかな?」

「そうじゃな」

「分かりました。あとその他にも少しだけ書類を書いてもらいたいので、一度全員下船してもらっても良いですかね? 念のため船も調べさせてもらいます」

「今起こしてくるわい」


 船を調べると言われたとき、一瞬ギルはドキッとしたが、ユーミル村に停泊している際にアヴォクラウズの国章を全て塗り潰しておいたので、我ながらあっぱれと思いながら仮眠室へ下って行った。


「みんな起きるんじゃ。到着したぞぃ」


 ギルは控えめな声で皆を起こした。当然その一回で全員が起きることは無く、何度か声をかけながら、身体を揺すりながらして全員を起床させたのであった。


「ふぁ~あ、結構寝れたな」

「えぇ、いつの間にか眠ってしまっていたわ」

「うむ、ここまで深く寝入るとは思ってもいなかった。襲われなくて幸いだ」


 ベッドの上に腰かけ、短い会話を終えた一行は甲板に出た。そして三人の警備員と挨拶を交わした後、下船して書類を書くために警備室へと向かった。

 案内された場所はプレハブ小屋のような簡素な場所で、来客に書類を書かせるためのテーブルが一つと、その他には小部屋の奥の方に警備員三人のデスクやらがごった返しているだけであった。


「これが入国審査ってやつか……」


 初汰はそう言いながら部屋の中を見回し、そして指定された席に着いた。


「書類は簡単なものです。名前と渡航理由を書いてもらうだけです。あと入国者にはこのリストバンドをつけてもらいます。念のため、犯罪防止用ということで」


 警備員はにこやかな表情でそう言うと、書類と青いリストバンドをテーブルに並べた。


「それでは一人ずつ署名をお願いします」


 最後にそう付け加えると、胸ポケットに差さっているペンをテーブルに置いた。

 ……それからは順番に名前を書いていき、口裏を合わせて全員渡航理由は旅行と書いた。そして人数テーブルに並んでいた青いリストバンドは全て無くなった。


「はい、ご協力感謝します。船はこちらで預かっておりますので、再び外海に出る際はお声かけください。では良い旅を」


 警備員三人は笑顔で初汰たちを送り出した。


「あっけなかったな」

「うむ、しかし変に疑われなくて良かった」

「そうですね。ここであらぬ疑いをかけられたらどうしようも無いですからね」


 思いのほか入国審査があっさりしていたため、初汰は少し気落ちしていた。しかしその他のメンバーは変に疑われなかったことの方が幸いだったようで、胸を撫で下ろしている様子であった。


「てか、クローキンスはどこ行ったんだよ」

「そう言えば見ていないなっ」

「何を言っておる。奴ならあそこにおるぞ」


 ギルがそう言って示した場所には、確かにクローキンスが居た。


「なんだ、先に降りてたのか」

「ちっ、やっと来たか。素直に審査を受けやがって」

「どうやってすり抜けたのかは分かりませんが、変な疑いはかけられないようにしてくださいよ」

「それなら大丈夫だ。青いリストバンドに似てるもんを巻いとけばいい」


 クローキンスはそう言うと、バッグから少し薄目の青いリストバンドを取り出して巻いた。


「はぁ、協調性の無い人ね……」


 リーアは呆れたようにそう呟くと、顔を左右に小さく振った。


「まぁまぁ、我々が喧嘩をしている場合ではない。今は港町にでも行ってスフィーの情報を集めよう」


 雰囲気が悪くなったのをすぐに察した獅子民は、そう言って悪い流れを断ち切った。リーアとクローキンスは少し不機嫌そうだったが、ここで争いを続けるような二人でも無かったので、言い争いは収束した。

 港から町までは少し距離があった。と言ってもその間の道はしっかりと舗装されており、ともに港町へ向かう商人は安心そうな顔でその道を歩いていた。


「そろそろ着きそうだな~」

「うむ、少し暗くなってきたが、出来る限り情報収集をしてから宿を取ろう」

「わしが宿を取っておこう。アヴォクラウズから少々金もふんだくってきたからのう。ふぉっふぉっ」

「では宿の方は頼みますわ。私たちは町を回りましょう」

「おう、有力な情報があれば良いけどな」


 そんな会話をしていると、一行は港町の門前に立っていた。丁度行商人が多く訪れる時間帯だったようで、初汰たちはその波に紛れて港町に入って行った。

 なだれ込むようにして訪れた町はとても賑わっていた。何やら祭りが開かれているようで、それも影響して行商人がわんさか訪れているようであった。


「大分賑わってんな~」

「そうね。これじゃ町の中にいても気づくことが難しそうね」

「うむ、あまり遠くには行かず、有力な情報が手に入ったらすぐ戻ってくるようにしよう」

「承知しましたっ。では早速行って参りますっ!」


 ユーニはそう言うと、先に別れて人波に消えていった。


「私も行って来ますわ」


 リーアがそう言ってその場を離れようとするので、初汰は獅子民とアイコンタクトを交わした。


「じゃあ俺も行って来るわ」

「うむ、何かあったらすぐに連絡を」

「わしはそこの宿を取っておく。あまり遅くなる出ないぞ」


 四人がそう言って別れるとき、既にクローキンスはどこかに行ってしまっていた。いつものことだとあまり気にも留めず、初汰たちは散り散りに町の中へ溶け込んでいった。

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