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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第七章 ~西の大陸~
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第七十四話 ~海からの刺客~

 初汰たちが武器を構えると同時に、船尾にいたクローキンスが甲板に戻って来た。


「ちっ、さっきの爆発はなんだ?」


 甲板に戻って来たクローキンスはすでに連結銃を右手に持っており、険しい表情でそう言った。


「簡単に言うと敵襲だ!」


 初汰は武器を構え、海の方を見ながら叫んだ。


「ちっ、海からの敵か」


 船の左側に初汰とリーアが立っており、右側にはユーニだけが立っていた。即座に状況判断したクローキンスは手薄そうな右側に向かった。


「来てくれたのかっ!」

「ここで海の藻屑になる訳にはいかないからな」


 クローキンスはそう言うと、海面から飛び出そうとしている一匹の魚を撃った。すると弾丸が直撃して間もなく魚は爆発し、近くを泳いでいた数匹にもその爆発がおよび数か所誘爆が発生した。


「ちっ、このまま全員葬れれば楽な話なんだがな」

「そうはいかなかったようだな。次が来るぞっ!」


 魚一匹ずつが意識を持っているのか、それとも誰か指導者がいるのか、どちらにせよ魚たちは明らかに誘爆を避けるために水中で陣形を変更し始めていた。


「あっちは始まったみたいだな」


 初汰は反対側から聞こえて来た爆発音を聞いてそう呟いた。


「そうみたいね。という事はこっちもそろそろ――」


 そんな会話をしていると、早速一匹の魚が飛んできた。


「まずは俺がやる! リーアはゆっくり詠唱しててくれ!」


 初汰はそう言って前に出ると、右手に持っている剣で切り落とした。


「あぶね~。多分切れ端が船に乗っても駄目だよな……?」


 ギリギリで切り落としたせいか、海に着水する前に魚は爆散した。初汰はそれを見下ろしながら心の声を漏らしていた。


「なにか魚が寄り付かなくなる方法があれば良いのですが……」


 詠唱を終え、右手に火の玉を携えたリーアがそう言った。


「うーん、そんなこと可能なのか?」

「今は考えながら迎撃しましょう」

「おう、分かった!」


 その後も飛び込んで来ようとする魚を切り落とし、撃ち落とし続ける四人だが、魚たちはしぶとく船に並走してきた。しかし確実にその数は減ってきていた。


「どうやら送り出された魚には限りがあるようだっ!」

「みたいだな! ユーニさん、そっちも頑張ってくれよ!」


 死んだ魚は自然と爆発してくれるため、水面に残る魚の数は分かりやすかった。左右共に残りの魚影は片手に収まる程度となった。するとそのタイミングで半分の魚たちが船との並走を辞め、海の底へ沈んでいった。


「何匹か逃げたぞ!」

「こちらもだっ!」


 初汰とユーニは大声でやり取りを続ける。どちらも数匹取り逃したようで、これ以上逃げられると厄介なので、遠距離攻撃があるリーアとクローキンスが残りの魚たちをすぐさま始末した。


「ふぅ、何とか撃退できたようだな……」


 ユーニは聖剣を鞘に収め、甲板の中央に戻って来た。初汰とリーアも武装を解除した後、甲板の中央に集まる。


「危なかった~。まぁ何とか凌げたな」

「えぇ、あまり多く無くて良かったです。でもなんだかこれで終わるようにも思えないですね……」

「あぁ、どこか偵察部隊感があったなっ」

「これで偵察部隊かよ……」


 初汰はため息をつきながらそう言うと、マストに背中を預けた。


「とりあえず獅子民さんに報告をしてこようっ!」


 ユーニはそう言うと、二人を甲板に残して階段を上がって行った。クローキンスはというと、迎撃を終えた瞬間に再び船尾に戻ってしまっていた。


「獅子民さん、何とか敵の襲撃は抑えることが出来ましたっ!」

「うむ、ありがとうユーニ殿。本当は私も迎撃を手伝うべきだったのだが、どうも手を放すのが怖くてな」


 獅子民は申し訳なさそうに苦笑いをしながらそう言った。


「いえいえ、気にしないでくださいっ。舵を握れるのは獅子民さんだけでしたからっ!」

「ハハハッ! 気遣わせてしまって悪いな」

「いえ、事実を述べたまでですよ。それこそ船が止まっていたらやられていたかもしれないですから」

「うむ、確かにそうだな。今回はお相子ということにしておこう」

「はいっ! 私は少しギルさんの様子を見てきます」

「うむ、よろしく頼む」


 ユーニはそう言って獅子民と別れると、甲板に降りたのち、さらに階段を下って仮眠室へ向かった。


「失礼するっ」


 仮眠室のドアをノックしてからユーニは入室した。


「どうかしたのかい?」

「実は今、敵襲がありましてな」

「何じゃと? 全く気付かんかったわ」

「直接船に被害があったわけでは無いが、もしものことがあってはと思って」

「そうじゃったのか……。わしはこの通り元気じゃ。そろそろ上に戻ろうとするかの」

「無理は禁物ですが、そうしてもらえると助かる。なにせ次にいつ敵襲が来るか予測がつかないのでなっ」

「そう言うことなら戻らせてもらおうかの。この船が沈んだらそれこそ終わりじゃからな。君たちにはしっかり守ってもらわなくては。ふぁふぁふぁ」


 ギルはそう言うと、ベッドの上で軽くストレッチをしてから立ち上がった。


「行くとしようかの」


 そう言うとギルはユーニの横を抜けて甲板へ出て行った。続いてユーニも仮眠室を出て行き、二人は甲板で合流して獅子民のもとへ向かった。


「おぉ、ギル殿! 調子は良いのですか?」

「ふぁふぁ、もう大丈夫じゃ。手間取らせて悪かったのう」


 問題なく歩くギルを見て、獅子民は潔く舵のもとを離れた。そして空いた舵の前にギルは立ち、それを握った。


「ちゃんと真っすぐ舵を取れてたみたいじゃな」


 ギルは進路確認をすると、獅子民に向かってそう言った。


「ハハハッ。恐縮です。ようやくリラックスできますよ。慣れないことはするもんなじゃないですな」


 獅子民はそう言いながら軽く頭を下げた。


「ふぁふぁ、ここからは儂がしっかり責任を持って運航するからの」

「えぇ、船の操縦は全面的にお任せします」

「ささ、儂のことはもういいから、甲板に戻るんじゃ。船を守ってもらわにゃいかんからの」

「ハハハッ。そうですね。それではまた」


 獅子民はそう言ってギルと別れ、ユーニと共に甲板へ戻った。


「二人とも、敵を撃退してくれてありがとう」


 甲板に降りるとすぐ、初汰とリーアを見つけた獅子民は二人に声をかけた。


「おう、オッサンも操縦お疲れ」

「心なしか戦うよりも神経が削がれた気がしているよ」

「ったく、不器用な俺が代わってやっても良いぜ?」

「いや、お前の操縦では不安だ」

「そこまでじゃねーだろ」

「まぁまぁ、また敵が来るかもしれませんわ。内輪もめはそこら辺にしておきましょ」


 リーアが仲裁に入り、本格的に喧嘩が起こることは無くなった。


「すまない、そうであったな。各自散らばって海の様子を伺うことにしよう。何か不穏な影があったらすぐに報告を頼む」

「あいよ~」

「はい、分かりましたわ」

「了解っ!」


 四人は会話を終えると、それぞれ持ち場に向かった。獅子民は船首に戻り、初汰とリーアは甲板の右側、ユーニは甲板の左側へ移動した。

 ……各自持ち場について見張りを行ったのだが、その後敵が襲ってくることは無かった。船は順調に前進し、西の大陸までもう少しのところまで来ていた。


「もう島に着きそうだな」


 ともに見張りをしているリーアに向かい、初汰はそう言った。


「そうね。無事だと良いんだけど……」


 リーアは海を眺めたまま、物憂げにそう言った。


「スフィーなら大丈夫だろ。きっと。あいつはそんなに弱い奴じゃないさ……」

「えぇ、そうよね。ちょっとネガティブになりすぎていたわ」


 そう言うと海から目を外し、初汰の方を見て微笑んだ。それを見た初汰も自然と微笑みを返していた。


「おーい! もうすぐ西の大陸に着くぞい!」


 ギルは舵が勝手に動かないように抑えながら、振り向いてそう叫んだ。


「アレが西の大陸か……。ビハイドを出たことが無い故、他の大陸には初めて上陸するな」

「そうじゃったのか。と言っても大半がそうなのかのぅ」

「えぇ、そうだと思いますよ。なにせアヴォクラウズの監視が厳しいですからね」

「そう考えると儂らはよく抜け出せたもんじゃな」

「本当ですな。これでしばらくは敵の追跡を逃れられ――」


 乗船している全員が気を抜いた瞬間だった。突然の大きな揺れが船を襲い、獅子民とギルの会話は中断された。


「今のは何じゃ!?」

「敵襲かも知れん。私が行ってきます」


 獅子民は冷静にそう言うと、船首を離れて甲板へ向かう。


「オッサン! 敵が来たかも!」


 甲板に降りると、叫びながら初汰が駆け寄って来た。


「恐らく船尾の方ですわ」


 初汰と共にリーアも駆け寄って来てそう言った。


「では船尾に向かおう」


 三人がそんな話をしていると、ユーニも近づいてきた。そして合流した四人はクローキンスが居る船尾へ向かった。


「クローキンス殿、大丈夫か!」


 四人が船尾に到着すると、クローキンスは既に銃を抜いた状態で海の方を睨んでいた。


「ちっ、俺は大丈夫だが海の方で妙な影を見た。おそらく敵だ」

「わざと我々を泳がせていたのかっ……!?」

「その可能性も考えられるな。しかしこのままの勢いなら振り切れるかもしれない。倒すわけでは無く、追い返すことを目的としてその影と戦おう」

「確かに今ここで倒そうとするのは無謀ですわね。振り切りましょう」


 リーアはそう言うと、早速魔法の詠唱を済ませて火の玉を右手に構えた。


「よし、じゃあまずは敵探しからだな」


 初汰もそう言うと、武器を構えて船の後方に広がる海を眺め始める。


「また微かに波が立ってきたぞっ!」


 波が立ち、船が揺れ始めた。ユーニはそれに気付いて声を上げる。それを聞いた初汰たちは後方の海を見て身構えた。

 ――すると大きな波とともに超巨大なイカが姿を現した。そして間もなく十本の足を巧みに動かして船を叩き潰そうとし始める。


「ちっ、マズいな。片っ端から撃ち落とすぞ」

「おう!」

「うむ!」


 巨大イカの足は雨の様に天から振り下ろされる。それに対してクローキンスとリーアが遠距離攻撃で応戦し、それを掻い潜って船を攻撃しようとする足は初汰と獅子民、それにユーニが剣で攻撃をしてひるませた。


「はぁはぁ、クソ。あいつ全然疲れてねーぞ」

「うむ、こいつはなかなか手強いな」

「ちっ、しぶといな。このままじゃ捕まっちまう」


 五人は息を上げ始めていた。しかし敵の勢いは全く衰えておらず、怒涛の殴打を船に浴びせる。そしてついに足の一本が船を捕らえる。

 ――足が叩きつけられるとともに船の進行は止まり、船全体が大きく揺れた。それによって初汰たちはバランスを崩し、続いて振り下ろされる足に攻撃をすることが出来ず、船は四本の足によってしっかりとロックされてしまう。


「ぐぬ、これはマズいぞ! 退くんだ!」


 何とか歩けるようになった一行は、獅子民の指示で船の中央に戻る。


「がっちり掴んでやがるな……」


 初汰が言う通り、巨大イカの足はこれでもかと言わんばかりに船尾に絡みついていた。


「これは足を切るしか方法は無さそうですね……」


 リーアは巨大イカの足を見て冷静にそう呟いた。


「うむ、これ以上奴に構っている暇もない。さっさと切り落としに行こう。右半分は私とクローキンス殿で。左半分は初汰とリーアとユーニ殿で頼む」

「オッケー!」

「承知しましたっ!」

「分かりましたわ」


 初汰たちは船尾に絡まっているイカ足を切り落とすために左右へ分かれた。


「ギル殿! 今から敵を怯ませる。一瞬しか隙を作れないかもしれないから準備をしていてくれ!」

「了解じゃ!」


 船首から甲板を見下ろしていたギルに向かってそう叫ぶと、獅子民はクローキンスの後に続いて船尾の右側へ走って行った。

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