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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第七章 ~西の大陸~
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第七十二話 ~新たな大陸へ~

 皆疲れていたせいか、その日はぐっすりと眠った。ギルは仮眠室と呼んでいたが、その割には寝心地は特段に悪くも無く、四人はベッドに入ると半日ほど目覚めることは無かった。そんな彼らを目覚めさせる一因となったのは、空腹感であった。だからと言って食事したさに起きる者はいなかったのだが……。

 そんな四人を目覚めさせたのは、仮眠室にバタバタと入って来たギルの足音と叫び声であった。


「起きるんじゃ! お前さんたちの仲間がどっかに行ってしもうたみたいじゃぞ!」


 ギルは出せる精一杯の声を振り絞り、仮眠室で爆睡している四人を無理矢理起こそうとする。しかし予想以上に眠りが深いようで、四人が声だけで起きることは無かった。仕様が無いので、ギルは一人ずつ揺り起こすことにした。


「ううん、どうしたと言うのだ……?」


 まずは目覚めの良さそうな獅子民から起こし、次にクローキンスの元へ向かう。


「お前さんたちの仲間の一人が小屋からいなくなってしまったらしいんじゃ!」


 ギルは獅子民にそう言いながら、クローキンスを揺する。


「な、なに!? ここの四人では無いとすると、リーアかスフィーのどちらかか……!?」


 寝ぼけている頭でもすぐその結論に至った獅子民は、ベッドから飛び起きてすぐ横で眠っているユーニを起こした。


「起きるんだ、ユーニ殿!」

「ど、どうかしたのですか。獅子民さん……?」

「起きるんじゃ、クローキンス!」

「……ちっ、騒々しいな」


 流石に獅子民とギルの二人が騒ぎ立てると、ぐっすり眠っていたユーニとクローキンスもすぐに目覚めた。


「うーん、なんだぁ? なんか騒がしいな……」


 四人が一斉にバタバタと動き出したので、一番眠りが深かった初汰も目を覚ました。


「どうやらみんな起きたようじゃな」

「ふぁ~あ、ったく何があったんだよ……?」


 初汰は上体を起こすと、間もなく大きな欠伸をしながらそう言った。


「そんなに大人しくもしていられないのじゃが、実はお前さんたちの仲間が村を抜け出したようなんじゃ。それにどうやらこの大型飛空艇に積まれている小型飛空艇で逃げ出したようで、その、本当に申し訳ない……」


 ギルはそう言うと、深々と頭を下げた。


「ちっ、この状況であのお嬢様が逃げだすとは思えない。となるとウサギ女の方か……?」

「その通りじゃ。リーアは今甲板で待っておる」

「ギル殿、過ぎてしまったことは仕方がない。それに皆疲れていた。私でも見逃していただろう」


 獅子民は未だ頭を下げているギルに向かって慰めの言葉をかけた。そしてその弱々しい両肩を優しく掴んで顔を上げさせた。


「獅子民さん。ありがとう……」


 感動で緩みそうな表情をあえて険しく引き締め、ギルはそう言った。


「詳しいことはリーアも交えて聞こう」


 そう言うと、獅子民は颯爽と仮眠室を出て行った。動きの滑らかさからして、だいぶ人間の身体に馴染んできたらしい。続いてギル、ユーニ、クローキンス、そして最後に初汰が仮眠室を後にして、一行は飛空艇の甲板に出た。


「待たせたな、リーア」


 飛空艇の縁に手を乗せ、野原を見つめていたリーアに向かって獅子民がそう言った。


「あ、皆さん目覚めたのですね……。その、すみませんでした……」


 リーアはそう言うと頭を下げた。


「お前さんが頭を下げる必要は無い。儂も油断をし過ぎておった」


 ギルはそう言ってリーアの頭を上げさせた。


「うむ、そうであるぞ。今は過ぎてしまったことを悔やむ時間では無い。どうやってスフィーの居場所を特定するかが大事だ」


 獅子民はリーアとギルを励ましつつ、次の目的を明確化した。


「だけどもう飛んで行っちまったんだろ? どうやって行き先を探るんだ?」


 階段を上がって来たばかりの初汰がそう切り出した。


「それなんじゃが、恐らく場所はすぐに分かると思うぞ」

「ちっ、どういうことだ?」

「彼女が乗って行ったのはこの大型飛空艇に付属している小型飛空艇じゃ。つまり儂の推測が正しければ、この大型飛空艇のハンガーには彼女が乗っている飛空艇が放つ魔力を検知するオーブが設置されているはずじゃ」

「その推測は正しいかもしれないっ。私自身が見たわけでは無いが、小型飛空艇に乗った者の生存を確認するためにそんな装置があると聞いたことがあるっ!」


 ギルの言葉を聞いたユーニは、ハッと思い出したようにそう言った。


「ならば早速ハンガーに向かおう。ギル殿、案内を頼んでも良いか?」

「分かった、こっちじゃ」


 獅子民とアイコンタクトを交わしたギルは、甲板の丁度中央辺りで屈んだ。そしてその足元にある蓋を取り外し、梯子を下りて行く。


「すげぇな。見た目だけ立派なわけじゃ無いんだな」


 初汰は興味津々にその穴を覗き込みながらそう言うと、続いて梯子を下りて行く。その後に続いてリーア、獅子民、クローキンス、ユーニも梯子を下って行き、六人はハンガーにたどり着いた。


「やはりここの飛空艇を使って逃げ出したらしいのう。一台無くなっておるわい」


 船尾に向かって綺麗に横一列に並んでいる小型飛空艇を見ながら、ギルはそう言った。丁度列の中心辺りに、明らかにそこにはもう一台存在していた形跡があった。不自然な空間、散らばっているチェーンロック。それらがここから小型飛空艇が持ち出されたことを物語っていた。

 並列している小型飛空艇の傍らには、各一つずつ青いオーブが台座に乗せて並べられていた。


「これがさっき話してたオーブか?」


 初汰は不自然に空いている場所のオーブに近づいて行き、そしてそれをじっと見つめた。


「そのはずだが、なんせ私は話しか聞いたことが無いからな……」


 ユーニも近づいてくると、初汰と同様にオーブを眺めながらそう呟いた。するとそこへギルが歩み寄って来た。


「恐らくこれじゃ。こいつを起動すれば彼女の居場所が分かるはずじゃ」


 ギルはそう言いながらオーブの周辺を探り始めた。しかしオーブを起動できるようなボタンやらスイッチやらは存在していなかった。


「まだ起動できないのか?」


 もたもたしているギルに向かって初汰はそう言った。ギルは焦ってスイッチを探そうとするのだが、そんな二人を見てリーアが静かに近づいてきた。そしてオーブの前で立ち止まると、そっと両手をかざした

 ――すると次の瞬間、オーブは薄く光を放ち、その表面にぼんやりと映像を浮かべた。


「この手のものは、大体魔力がスイッチになっていますわ」


 リーアはニコリと微笑みながらそう言うと、オーブから離れた。


「すまんな、お嬢ちゃん」


 ギルは照れ笑いをしながらそう言うと、オーブを覗き込んだ。それに続いて獅子民とクローキンスもオーブに近付いてきて、皆で映像を見始めた。


「どこだこりゃ……。てか黒い影が青い背景に映ってるだけじゃねーか?」


 目を細くしながらオーブを凝視していた初汰がそう呟いた。


「いいや違う。よく見るんだ」


 獅子民はオーブを睨みながらそう言った。


「うーん……?」


 言われた通り、初汰はじっくりとオーブを見つめた。彼がそうしている間に、他の仲間は皆、今スフィーがどこを飛んでいるのか理解していた。


「……まさか、海?」


 初汰はそう言うと、全員の顔を見回した。


「うむ、方角までは分からないが、恐らく彼女は今、海の上を飛んでいる」

「ま、マジかよ……。どこに向かおうってんだ……?」

「どうしてスフィーはビハイドを離れたのかしら……」

「うーん……。あ、確か沼地で戦った奴が、北の大陸が何とか言ってたよな?」


 初汰は思い出したようにそう言うと、クローキンスの方を見た。


「ちっ、確かにそんなこと言ってたな」

「話の途中で悪いんじゃが、どうやら彼女は西の大陸に向かっているようじゃぞ?」

「え、西!?」

「そうじゃ。ほれ、見てみぃ」


 ギルがそう言ってオーブを指さしたので、初汰は再びオーブを見た。するとスフィーが乗っている飛空艇のその先に薄っすらと大きな大陸が見え始めていた。


「この武骨で仰々しい佇まいは、西の大陸じゃ。あそこは確か、儂の記憶が正しければ、飛空艇の燃料が取れる魔鉱があるはずじゃ」


 かつて集めた情報を脳から絞り出し、ギルは皆に説明するようにそう言った。


「うーむ、しかし何故西の大陸に……」


 何も察しがつかない獅子民は、腕組をしながら唸った。その他の仲間も同様で、皆頭を悩ませているようであった。


「ちっ、単純に考えれば、逃げたってことじゃねぇか?」


 沈黙を破ったのクローキンスだった。しかしその言葉によって再び深い沈黙が生まれた。


「その、どういうことですか?」


 唯一事情を知らないリーアは、恐る恐る尋ねた。


「これはリーアにも話しておくべきだな」


 獅子民はそう切り出すと、一息入れて話を続ける。


「実はな、昨日沼地で戦った時、以前記憶の祠前で戦った雷の槍術士と鉢合わせたんだ。そしてその槍術士が逃げ去る時に言ったのだ。スフィーが幻獣十指の一人であり、クローキンス殿の故郷である工場街を襲った主要人物だと」

「そんな……。逃げる隙を突くために嘘をついたのでは無いですか?」

「それも考えられるが、彼女本人に聞いてみなければ……」


 そこで言葉を止めると、ちらりとクローキンスの方を見た。


「なるほど。それはそうですよね……」


 リーアもそれで納得したようで、ひとまずはスフィーが幻獣十指の一人であり、工場街を襲った一人として考えることにした。


「ちっ、さっさとあの女を追うぞ。もしかしたら西の大陸で情報を売るようなことをするかも知れねぇからな」

「それは言い過ぎです! 何故彼女を信じてあげられないのですか!」

「ちっ、てめぇに何が分かる」


 リーアのことを睨みながらそう言うと、クローキンスは梯子を上って行ってしまった。


「俺も説得はしたんだけど、スフィーのことになるとずっとあの調子なんだ。今はそっとしておいてやろうぜ」

「えぇ、そうするしかなさそうね……」


 微かに瞳を潤していたリーアを慰めるように、初汰はそう言う。対してリーアはクローキンスが上って行った梯子を眺めながらそう呟いた。


「すまんのぅ。昔から不器用な奴でな」

「いえ、私は全然大丈夫ですわ」

「それなら良かった。……ところで早速彼女を追おうと思うのじゃが、出発しても大丈夫そうかの?」


 ギルはその場にいる全員の顔を見回しながらそう言った。


「私はここに残ってオーブを確認しておきますわ」

「あ、じゃあ俺も残るよ」

「うむ、ならば私たちは上に戻ってギル殿の護衛をしよう」


 獅子民はユーニのことを見てそう言うと、ユーニは頷いて梯子を上がって行った。続いて獅子民とギルも梯子を上がって行き、初汰とリーアはハンガーに残った。


「よーし、では西の大陸を目指して出発進行じゃ!」


 ギルは舵の前に立ち、甲板に向かって陽気な声でそう言うと飛空艇を発進させる準備を整える。

 そしていよいよ飛空艇が飛び立つと、その音に気が付いた村人たちが外へ出てきて、初汰たちを見送った。甲板に出ている獅子民とユーニは彼らに向かって手を振り、飛空艇は西の大陸を目指して前進した。

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