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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第六章 ~雲の上の国~
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第七十話 ~嘘か誠か~

 初汰とクローキンスが駆け足で沼地に向かっている最中、沼地では戦闘が再開しようとしていた。


「早く終わらせないと、また虎間さんに怒られる」

「……怒られるの、嫌」


 ニッグとドールはそう呟くと、顔を見合わせて頷く。そしてニッグは槍を構え、ドールは両手を前に構えると魔法の詠唱を始める。


「二体二っすね」

「あぁ、気を抜けばやられる。足場の都合上受け身になることが多いと思うが、君の攻撃なら敵に届くと思う。なるべく後ろの女の子を狙ってくれ。私はなるべく槍の青年を抑える」

「了解っす」

「よし、来るぞっ!」


 先ほどよりも速度は遅いが、今度は一個だけではなく何個も何個も火の玉が二人目掛けて飛んできた。スフィーは右に、ユーニは左に回避した。しかし一度の回避を終えても次々に火の玉が襲い掛かるので、だんだんと二人の距離は離れて行った。そして二人の分断が終ると、ニッグはユーニに向かって走り出した。


「やはり分断が目的だったかっ。という事は、相当自信があるようだな」

「迅速に始末する」

「まだまだ若造に負ける気は無いっ!」


 再び足に雷魔法を纏ったニッグが突撃してくる。ユーニはそれに対して剣を構えると、真正面から剣と槍がぶつかった。


「その首、貰います」

「ぐぬぬっ。こちらも負けるわけにはいかぬっ!」


 気迫と馬鹿力でニッグを跳ね返すと、ニッグはバランスを崩した。しかし足場が悪いため、ユーニは追撃することが出来なかった。


「ぐっ、足が重い……!」

「力はあなたの方が上ですが、速さで勝てば問題ない」


 ニッグは雷魔法を駆使して沼地を滑るように移動し始める。ユーニはそれを必死に追おうとするのだが、体は全く追い付かず、目で追うこともままならなかった。


「このままでは押される一方だ……」


 ユーニは敵の影を追うことを止め、何か他に活路は無いかと敵の動きに神経を集中させながらも、辺りを見回した。


「そうか、今のうちにランドルたちを……!」


 ユーニとスフィーがここに到着した時は、ランドルと二人の老夫婦は大樹の根元にいた。ユーニはそのことを思いだしながら大樹の方を見た。

 ――そこには確かにリックとミック、それにランドルが居た。しかしなにやら様子がおかしかった。


「ランドル! 今のうちに二人を連れて逃げるんだ!」


 ユーニは違和感を覚えながらも叫んだ。それにランドルが反応するよりも前に、ニッグが襲い掛かる。歴戦の勇士は感覚だけでその攻撃に反応する。


「ぐぬっ! 良いのか、私にばかりかまっていて……。このままでは裏切り者を逃がしてしまうぞ?」

「面白いことを言いますね。アレがどうやって動くんですか?」

「ハハハッ。自棄になったか」

「どうやらあなたは少し衰えたようだ」

「なにっ?」


 ユーニはその言葉が気になり、自慢の力技でニッグを押し返した。そして再びランドルたちがいる大樹を見る。


「……なんだとっ! う、動いていないのか?」


 異変に気が付いたユーニは、驚愕して言葉を漏らすようにそう呟いた。


「彼らは止まっているんだ。こうしておけば死ぬときに苦痛を味わわなくて済むからね」

「何故だ……。時魔法は……」

「いずれ死ぬ人が真実を知る必要は無い」


 ニッグは槍を構え直すと、高速移動をしてユーニに急接近する。ユーニは困惑する気持ちを何とか誤魔化し、激しい戦闘を再開した。

 一方スフィーとドールは互いに足元が不自由なので、長い間中距離で戦闘を行っていた。スフィーは苦無を飛ばすために風魔法を使用し続け、対してドールは炎魔法で身を守る。そんなことをしている内に、二人の魔力は少しずつではあるが確実に削られていた。


「はぁはぁ、ちょっと魔力を使いすぎたみたいっすね……」


 スフィーは飛ばしていた二本の苦無を両手に戻した。それと同じタイミングで、ドールも魔法を放つ手を止めた。


「……しつこい」


 冷静にそうは言っているものの、ドールも相当体力を食われていた。その証拠に全く次の攻撃を再開しようとしない。


「こっからは根性勝負っすね!」


 苦無を両手で構えると、スフィーは全力で走り出す。それに対して接近戦を嫌うドールは再び魔法の準備を始める。


「距離さえ詰められれば……」


 敵を妨害するため、スフィーは左手に持っている苦無を投げた。苦無は真っすぐドールに向かって飛んでいく。

 ――ドールは苦無を撃ち落とすために火の玉を放つ。狙われた苦無は風魔法によってふわりと上昇し、火の玉を華麗に避けてドールの目前に迫る。


「我に時を止める力を与え、汝に我の生命の一部を授ける……」


 ――咄嗟に苦無を止めようとしたドールは誰にも聞こえない声でそう呟くと、両手を前に出した。すると苦無は見えない壁に阻まれたように、空中で静止した。


「決めさせてもらうっす!」

「ドール……!」


 ユーニと戦闘していたニッグだったが、その視界の端でドールが時魔法を使ったことを視認してすぐさま救援に向かう。

 ある程度距離を詰めると、スフィーは両足だけをウサギに変化させて大きくジャンプした。そしてその勢いを生かし、苦無を構えてドールに飛び掛かる。


「もらったっす!」

「させるか……!」


 ――唯一沼地を不便なく移動できるニッグは、素早くドールのもとに駆け付けると槍でスフィーの攻撃をガードする。


「くっ……。また邪魔するんすね」


 苦無での攻撃をガードされたスフィーは、そのまま空中で体勢を変えて右足での蹴りを食らわせようとする。しかしそれに対してニッグは俊敏に反応し、左腕で蹴りを防いだ。そして右手に力を込めてスフィーを跳ね返した。

 跳ね返されたスフィーは空中で体勢を整えて、ぬかるむ沼地にしっかりと着地を決めた。するとそこへのそのそとユーニがやってきた。


「すまない、奴の機動力についていけなかったっ」

「大丈夫っす。それよりあたしこそ仕留めきれなかったっす」

「いや、だが君の攻撃は役に立っているぞ」


 ユーニはそう言うと、視線を大樹の方へ向ける。すると先ほどまで固まっていたランドル右腕がゆっくりと動き始めた。


「あたしが時魔法を使わせたから……?」

「そうかも知れぬ」


 ランドルは自由になった右腕を、先端が鋭利になっている根に変化させ、それをドールに向かって伸ばしていく。スフィーとユーニはそれを悟られないように武器を構え、じりじりと敵二人に近付いて行く。


「ドール。その苦無への魔法はさっさと解いて奴らの方に力を戻せ」

「……うん」


 ランドルの奇襲が届こうという時。心配性なニッグのその一言でドールはランドルの方を向いてしまう。そして当然奇襲のことを知ると、スフィーの苦無にかけていた時魔法を解き、再びランドルを固める。


「我に時を止める力を与え、汝に我が生命の一部を授ける……」


 ドールは冷静に時魔法を唱えると、すぐそこまで来ていたランドルの奇襲はいとも簡単に止められてしまった。


「はぁはぁ……」


 しかしドールの体力消耗は著しいようで、その鼻からは静かに血が流れ出た。


「……マズい。そろそろ潮時か」


 ニッグはそう呟くと、以前の様にドラゴンへ変化しようとする。しかしそれよりも前に、スフィーが叫ぶ。


「待つっす! そう簡単に逃がさないっすよ!」


 スフィーは両手を前に掲げ、風魔法を唱えていた。苦無は二本とも見当たらない。


「動かない方が良いっすよ!」


 すでに苦無はニッグの背後に一本、ドールの背後に一本設置されていた。


「なにが狙いだ? こいつらの解放か?」

「それは勿論っす。それともう一つ。なんでその子は時魔法が使えるんすか?」

「……」


 沼地が静まり返る。ニッグは答えようとしない。それを見たスフィーは、右手を軽く動かしてドールの背後にあった苦無を移動させ、ドールの首元に持ってくる。


「はぁはぁ、これでどうっすか?」


 苦無はスフィーの操作によって少しずつ少しずつドールの喉に近付いて行く。そして刃先が鮮血を見せるかという時、ニッグは口を開いた。


「……魔女の力を吸い取っている」

「魔女の、だとっ!?」

「……生き残りの魔女だそうだ。詳しくは知らない」

「その場所はどこだっ!?」

「……北の、大陸」


 魔法に集中しているスフィーの代わりにユーニが詰問していると、敵の急所の前で漂っていた二本の苦無が急に落下した。


「スフィー!?」

「はぁはぁ、ごめんっす。もう限界っす……」


 スフィーはギリギリまで魔力を使い果たしたようで、その場にしゃがみ込みそうになる。ユーニはそんなスフィーを受け止めて、すぐに視線をニッグたちの方へ戻す。


「今の情報は誰も聞かなかったことになりそうだ」


 ニッグはそう言いながら既に移動を始めていた。槍を構えると、ユーニ目掛けて一直線に駆け寄って来る。


「ぐぬっ。ここでやられるわけにはいかんっ!」


 ユーニはスフィーを左側へ回し、左腕一本でスフィーを抱え、右腕一本で聖剣を握った。しかし体勢を立て直そうと、どう考えてもユーニが不利であった。このまま正面から来られても力負けする可能性がある。進路を変えて左側に回られたらスフィーがやられてしまう。かと言って右側に来られても方向転換に時間がかかってしまう。まさに絶体絶命であった。

 ニッグは距離を詰め終えると、抜かりなくスフィーが居る左側に回り込んだ。そして鋭い一閃を二人目掛けて繰り出す。

 ――その時、槍の一閃にも引けを取らない刹那の銃声が沼地に響き渡った。


「なに……! 誰だ?」


 右腕を撃たれたニッグは、何とか槍を握りしめながら高速で後退した。


「おーい、大丈夫か!?」


 沼地の入り口方面から、初汰の快活な声が届いた。その横には、銃声の主であるクローキンスもいた。


「初汰っ! それにクローキンスも!」

「ちっ、苦戦してるみたいだな」


 クローキンスは大股で沼地を進んで来ると、ユーニとスフィーの前に立ってそう言った。


「こっからは俺らに任しとけ!」


 初汰もそう言いながら二人の前に立つ。


「今日は帰ろう。流石に不利だ」

「……うん」


 ニッグとドールは小さい声でやり取りをすると、武装を解除した。


「なんだ、逃げるつもりか?」

「ちっ、簡単に逃げられると思うなよ」


 初汰とクローキンスは各々の銃を構えた。そして敵二人に照準を定める。


「……それは俺に向けるべきではない、クローキンス・バルグロウ。君が狙うべきなのは君の後ろにいる女だ」

「ちっ、何だと?」

「知らないのかい? 彼女も幻獣十指の一人。それに、あの工場地帯の急襲を率いていた一人でもあるんだよ」


 ニッグはそう言いながら、自分の槍をドールに持たせる。そしてすぐさまドラゴンに変化すると、ドールを乗せ、沼地を覆うように伸び広がる木々の枝枝を破壊しながら飛翔していく。


「おい! 逃げちまうぞ!」


 初汰はそう言いながらテーザーガンを発射するが、飛び上がってしまったニッグには到底届かなった。遅れてクローキンスも発砲するのだが、弾丸はあらぬ方向へ飛んでいった。


「ど、どうしたんだよ。らしくねぇな……」


 そう言う初汰も、スフィーが幻獣十指の一人だと聞いて明らかに動揺していた。


「彼女が、幻獣十指の一人……だとっ?」


 ユーニは自らの左腕の中でぐったりと気絶しているスフィーを見て、そう呟いた。


「ちっ」


 クローキンスは舌打ちだけすると、連結銃をホルダーに収めて一人入り口の方に向かって歩き出そうとする。


「待ってくれ! 今はこの三人の救出を手伝ってくれよ……!」


 初汰は歩き出そうとするクローキンスに向かってそう言った。しかしクローキンスは立ち止まらない。


「初汰っ。お前は彼を追うんだ。ランドルたちはテレポーターでユーミル村に連れて行く」

「でも、テレポーターはそんな連続して使えないはずじゃ……」

「大丈夫だっ! とりあえず三人をユーミル村に送ったら、私はスフィーを抱え、歩いて戻る。それよりも、今は彼の方が心配だっ」


 ユーニが力強くそう言うので、初汰もそれに応えるように頷いた。そしてクローキンスの後を追って沼地の入り口を目指した。

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