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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第六章 ~雲の上の国~
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第六十八話 ~予知夢~

 その後リーアの体調と気持ちが落ち着いたのを確認し、三人は話がバラつかないよう丁寧に今まであったことを伝えた。ファグルからユーミル村を守り終え、リーアが気絶してしまったこと。その後薬草を求めてリカーバ村へ向かったこと。そこで薬草を手に入れたものの、初汰とはぐれたこと。獅子民とクローキンスは村長であるリーカイから飛空艇を借り、獅子民の身体を取り戻すためにアヴォクラウズに向かったこと。その裏でスフィーが薬草を持ってユーミル村に帰ってきたこと。そしてその薬草によってユーニが目覚めたこと。ここまでを順を追って丁寧に説明を終えた。


「なるほど、私はそんなにも長い間皆さんに迷惑を……」


 リーアは申し訳なさそうにそう言うと、深々と頭を下げた。


「全然平気っすよ! リーアの意識が戻って良かったって心から思ってるっすから!」


 慰めるようにそう言うスフィーの言葉には、何一つ濁りが無かった。


「ありがとうスフィー……」


 そう呟くリーアをスフィーはそっと抱きしめた。


「もうそろそろ夜だな。今日はここに泊まって行くかい?」


 話がひと段落したタイミングで、曜周がそう切り出した。そこにはこれ以上話し続けていると共有の力やリーアの時魔法、それに魔女の伝記のことまで口滑らせてしまいそうで切り上げたい思いもあった。


「そうっすね。今日は喋り疲れたっす」

「私もだっ。少し外の空気でも吸ってくるとしよう」


 ユーニは伸びながらそう言うと、席を立って外に出て行った。


「喉が渇いただろう? 私が飲み物を持ってくるよ」

「ありがとうございます」

「助かるっす!」


 曜周もそう言って立ち上がると、ユーニの後に続いて寝室を出て行った。こうしてリーアの時魔法のことと共有の力で命を繋いでいること、それとフラント・クロッチのことについては伏せたまま、会話は終了した。


「お待たせ、ホットミルクだ」


 曜周は両手に持っているそれぞれのカップを二人に差し出した。スフィーが先に受け取り、その後に続いてすぐリーアがカップを受け取った。それからは湯気が立ち上がっており、ほのかに甘い匂いが鼻を通った。


「いただきます」

「いっただきまーっす」


 二人は同時にカップへ口をつけ、冷ますために息を吹き始めた。すると立ち上がっていた湯気がやんわりと宙に紛れて消えて行った。


「これ、すごく温まるわ。心も体も」


 ホットミルクを味わい、淑やかに喉を潤した後リーアはそう呟いた。


「ほんとっすね。とっても温まるっす」


 スフィーもそう呟きながら、ちびちびとホットミルクを飲んだ。


「口に合ったようで良かったよ。さて、私は夕飯の準備をしてこようかな」

「私も手伝いますわ」

「あ、あたしも手伝うっすよ」

「はっはっはっ、ありがとう。今日は久しぶりに楽しく食事が出来そうだ」


 二人がホットミルクを飲み終わるのを待った後、三人は寝室を出てキッチンへ向かった。リーアが野菜を切り、それを曜周が煮込み、スフィーは味見をしたり皿を用意したりして時は過ぎて行った。そして料理が出来ることにはユーニも酒場へ戻ってきて、出来上がった物を皿に盛りつけ、丸テーブルへ運んだ。


「少し作りすぎてしまったかな?」

「そんなこと無いっすよ。久しぶりにお腹いっぱい食べられそうっす」

「そうだなっ。私も久々の食事だ」

「えぇ、私もです」

「それは良かった。では頂くとしようか」

「いただきまーっす」


 元気よくそう言うと、その勢いのままスフィーは食事を始めた。それに続いて三人も挨拶をして食事を始める。

 ……その後四人はたわいもない話で盛り上がりつつも、食事を済ませた。そして各々食器を片付けると、休息を取るために寝室へ戻り始める。


「すみません、少し夜風に当たってきますわ」


 寝室に戻る直前でリーアがそう言った。そして踵を返して酒場を出て行った。


「あたしも行ってくるっす」


 スフィーはそう言うと、リーアの後に続いて外に出て行った。


「どうかしたっすか、リーア?」


 外に出てみると、町を眺めながらリーアが立ち尽くしていた。


「この村が襲われてから、まだ一度も訪れていなかったのを思い出して少し外に出ようと思ったのです」

「そうだったんすか……」

「もっと前に来ていたら、今よりも凄惨な有様だったのでしょう……。この村の人々は強いのですね。地道にですが、着実に村を元通りにしようとしています」


 リーアは胸の前で祈るように握り合わせていた両手を解いた。


「結構冷えるっすね」

「えぇ、そろそろ戻りましょうか」


 二人は復興が地道に進んでいる村の様子を記憶した後、酒場に戻って床に就いた。

 ……四人は疲れを癒すために数時間の安眠を得られるはずであった。しかしベッドに入って数時間後、リーアが勢いよく目覚めたことで他の三人も釣られて目を覚ました。


「どうかしたんすか……?」


 リーアの横のベッドで眠っていたスフィーが、寝ぼけてながらそう聞いた。


「はぁはぁ、すみません。何だか良くない夢を見まして……」

「どんな夢だったんだい?」


 曜周は優しく問いかけながら、部屋の隅に置いてある真新しいタオルの一つをリーアに手渡した。


「またユーミル村に敵が攻めてくる夢を……」

「なにっ!? それは誠か?」

「はい……。ですが見えたのはぼやけたビジョンだけで……」


 リーアはタオルを受け取り、額の汗をぬぐいながらそう言った。そんなリーアの話を聞き、三人は顔を見合わせた。もしもこれがリーアではない他の誰かが見た夢ならば、あまり信用しないかもしれないが、時魔法を扱う彼女が見た夢となれば、予知夢だという可能性も考えられる。三人は同時に同じようなことを考え、そして頷いた。


「念のため戻った方が良さそうだ。もしかしたら傷付いている私やリーアを狙って援軍を寄越したのかもしれないっ!」


 ユーニはそう言うと、ベッドから飛び出て支度を始めた。


「そうっすね。その可能性はありそうっす」


 スフィーはユーニの意見に同意してそう言うと、ベッドから出てリーアに肩を貸した。


「私はまだこの村でやることがある。ユーミル村のことは頼んだぞ」

「はいっす。曜周さんも無理せず頑張ってくださいっす」

「あぁ、私のことは気にするな。それと一つ言い忘れていたが、君もすっかり強くなったのな」

「え? という事は……」

「君との共有は切っておいたよ」

「曜周さん……。お世話になったっす」

「はっはっはっ。良いんだよ。次に君が私の下へ来た時、どちらにしても解こうと思っていたからね」

「そうだったんすね。……リーアのことは任せてくださいっす」

「頼もしい限りだ。私の方も何か情報が得られたら連絡するよ」

「はいっす!」


 こうして曜周と別れ、リーア、スフィー、ユーニの三人は酒場の外へ出た。


「スフィー、ありがとう。もう自分で歩けるわ」

「了解っす。でも無理は禁物っすよ」


 リーアはスフィーの肩から離れると、続いて彼女の両手を自分の両手で包み込むようにして握った。


「ど、どうしたんすか?」

「すみません、ただこうするしか感謝の意を表すことが出来なくて」

「リーア……。全然気にしなくて大丈夫っすよ。困ったときはお互い様っす」

「ありがとう」

「それではそろそろ向かうとするか」

「はいっす。テレポーターを起動するっすね」


 スフィーはポケットから釦を取り出し、それを村の開けた場所に投げた。するとテレポーターが起動し、紡錘形の青白い光が生じた。


「さぁ、行くぞっ!」


 ユーニが先陣を切って走り出す。それに続いてリーアとスフィーもテレポーターに飛び込んだ。

 ――瞼越しに青白い光が強くなる。花火のような一瞬の煌きの後、再び暗闇が三人を包み込む。それによって三人は目を開ける。


「着いたようだな」


 ユーニはそう言いながら足元に落ちている釦を拾い上げ、スフィーに渡した。


「ありがとっす。まだ村は襲われてないみたいっすね」

「えぇ、そのようですね」


 リーアは安心したようにそう言うと、早速村に向かって歩き始めた。


「我々も行こうっ」

「はいっす!」


 続いてユーニも歩き出した。スフィーは返事をすると、戻って来るために置いて行ったもう一つのテレポーターを回収してから村へ戻った。

 真夜中であるために見通しは悪かった。それでもテレポーターがド派手に光るので、村の番兵二人は三人の到着に気が付いていた。


「おかえりなさい。随分と早いお戻りですね」


 番兵の一人がそう言った。


「あぁ、あまり向こうに長居する理由も無かったのでな」

「そうですか。こちらとしてもあなた方が居てくれると安心します。窮屈な小屋ですが、自由に使ってください」

「助かるっす!」

「ありがとうございます。ゆっくりさせてもらいますわ」


 三人はそれぞれ挨拶を終えると、村の中へ入って行った。そして村内を見回して、やはりまだ村が襲われていないことを確認した。どこかホッとしたような、しかしこれから厄災が降りかかることを考えると、気が抜けないようでもあった。


「どうやらまだ村は襲われていないようだなっ」

「はいっす。でもいつ来るか分からない以上、気は抜けないっすね」

「えぇ、今晩は何事も起きなければ――」


 三人が村の入り口でそんな話をしている時であった。雨も降っていないのに一条の雷が北方に落ちた。


「か、雷っすか?」

「そのようですわね。ですが雨は全く……」

「これはなにやら嫌な予感がするな。何かの兆候かっ?」


 ユーニは雷が落ちた北方の空を眺めながらそう呟いた。


「様子を見に行った方が良さそうっすね」

「うむ。私とスフィーで行こう」

「私も行きますわ」

「いいやダメだ。君にはここに残って体調を万全にするんだ。それに初汰たちが戻ってきたときの伝令役も頼みたいっ」


 ユーニは相手を圧倒するような強い眼力でそう言うと、リーアは黙って頷いた。


「すまんな、村のことは頼んだっ。その小屋は自由に使っていいようだから、休むならあそこで休んでくれ」

「分かりましたわ。村は私が全力で守ります」

「じゃあ行ってくるっす」

「えぇ、気を付けてね」


 リーアとスフィーは短い会話を終えると、リーアは村内の小屋へ、スフィーはユーニと共に再び村の外に出た。


「み、見ましたか、今の雷!?」


 外に出るや否や、番兵の一人がそう言った。


「あぁ、私たちも見ていた。様子を見てくるから村のことは頼んだぞっ!」

「は、はい!」

「あと、村の者たちを心配させるようなことは言いふらすなよ。辛く恐ろしいだろうが、気丈に振舞うのだ」

「了解しました!」


 二人の番兵は背筋をピンと伸ばして敬礼をした。ユーニはそれを見て力強く頷くと、村を大回りして北の方へ歩き始める。スフィーも番兵たちに敬礼すると、すぐにそれを解いてユーニの後を追った。

 二人が歩き始め、丁度村の真横に達したころ、再び空が光った。この暗さは真夜中だからと言うわけでは無く、暗雲がビハイドを覆っているのかとも思われた。しかし今の閃光で暗雲に包まれているのは局所的で、その場所は丁度元人食い沼がある場所であった。


「あそこは、ランドルが居るところかっ?」

「みたいっすね。まさか裏切ったランドルくんを抹殺しに来たとかっすかね……」

「考えすぎだ。とは言い切れないな」


 二人はそんな会話をしながら、元人食い沼がある場所を目指して歩を速めた。若干ではあるが、辺りが白んだ。時間のせいなのか、あの落雷のせいなのかは定かではない。定かなのは、世界はまだ眠っている時間であるという事である。

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