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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第五章 ~治癒の村~
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第五十話 ~誘導~

 通話を終えた初汰は通信機をポケットにしまい、ゆっくりと立ち上がった。そして疲労感の溜まっている全身をほぐすために軽いストレッチをする。そしてその後、深呼吸をしながら辺りを見回した。


「探すと言ったはいいけど、この森の中でどう探せば良いってんだ……。まぁ、とにかく歩いてみっか」


 初汰はそう呟くと、腰に木の枝とテーザーガンがあるのを確認してから森の中を歩き始めた。

 東西南北、前後左右。どこへ向かっても全く同じ景色が続く。ずっと同じ場所をぐるぐると回っているような錯覚に囚われながらも、初汰は前進した。

 しばらく歩き続けたが、全く変わらない風景に飽き飽きしてきた初汰は一度立ち止まった。そして木に寄り掛かり、辺りを見回した。


「はぁ~。全然見つかる気がしねぇ……。これじゃあ村に案内するもくそも無いな……」


 このまま歩いていても疲れるだけなので、初汰は小休止を取ることにした。そして疲れた足を休めようと座り込もうとした時、微かにだが、人の話し声のようなものが聞こえた気がした。初汰は座り込むのを中断して、中腰のまま身動き一つせず耳を澄ませた。


「奴ら、なかなか帰って来ませんね」

「そうね。そろそろ私たちも向かうとしましょ」


 そんなような会話が聞こえると、続いてすぐに複数人の足音が聞こえてきた。これは間違いなくルーヨンたちだ。そう思った初汰は声と足声がした方に向かって走り始めた。


「待ってくれー!」


 初汰は声を上げながら、茂っている木を避けながらひたすら前進した。すると少し開けた場所に出て、潜入口から離れて行こうとしているルーヨンたちを発見した。


「待ってくれ! ちゃんとその先に村はあるから!」


 立ち去ろうとしているルーヨンたちに向かい、初汰はそう言った。するとルーヨンとその他十人ほどの男たちは立ち止まり、初汰の方を見た。


「ほーう? そなた、生きておったのか?」

「は? どういうことだ?」

「クフフ、まぁよい。本当にこの先に村があるのね?」

「あぁ、あるよ。行ってみれば分かる」


 初汰の言葉を聞き、ルーヨンを取り囲んでいる部下たちは顔を見合わせた。まるで、こいつはなにを言っているんだ。とアイコンタクトを取り合っているように。


「良かろう。だが私は這いずってそこを通りたくない。お前たち、道を作れ」


 ルーヨンがそう言うと、部下たちは「はっ!」と声を合わせて返事をすると、持っている武器で柵を破壊し始めた。


「何故この奥に村があると言い切れる?」


 部下が作業を始め、初汰と二人きりになったルーヨンはそう言った。


「他の場所から見たんだ。柵に穴が空いてて、そこから見たんだ。瞬間移動するための魔法が起動してあった」


 獅子民から得た情報を用いて、初汰は若干の嘘も交えてそう伝えた。


「ほーう、そうか。後は自分の目で確かめろという事じゃな?」

「ま、絶対にあるから確かめるもくそも無いけどな」


 初汰とルーヨンの会話が終ると同時に、柵の一部が大きな音を立てて崩れた。丁度人一人が通れるほどの穴が空き、部下の一人が報告に来た。


「潜入口確保しました」

「見ればわかるわ」


 そう言って部下を押しのけると、ルーヨンはスタスタと柵の前へ行き、たった今作業を終えた部下たちを柵の向こう側へ押し込んでいく。そして最終的に初汰とルーヨンが残ると、ルーヨンはすっと潜入口から退き、初汰に先に通るようにジェスチャーをした。初汰は大人しく従い、先に潜入口を抜けて柵の向こう側へ行った。そうして初汰と部下たちが柵の向こう側に集まると、それから少し間を置いてから、ルーヨンが悠々と現れた。


「さて、起動している瞬間移動魔法の場所を探そうかの?」


 ルーヨンは挑発的に初汰のことを見ながらそう言った。そしてその後部下たちを散り散りに探索させ、ルーヨン自身は潜入口からすぐ近くの所にある小屋へ向かって行った。瞬間移動魔法が起動されている場所を知らない初汰は、とりあえずルーヨンに続いて小屋へ向かい、何か獅子民たちが歩いた痕跡が無いかを探し始める。

 初汰が小屋の周りを歩いている間、ルーヨンはじっと初汰の動向を伺っていた。初汰はそれにやりづらさを感じながらも、小屋から少し離れた場所を歩いていると、他よりも若干柔らかい場所を発見し、それとともに獅子体の足跡を発見した。


「オッサンの足跡は分かりやすくて助かるな……」


 初汰は小さくそう呟くと、獅子民の足跡をさり気なく消しながら辿って行った。

 足跡はずっと真っすぐ続いていた。次第に地面が硬質化しており、足跡も徐々に薄れていっていた。これならもう消す必要は無いな。そう思った初汰は視線を上げ、前方を見た。するとそこにはもう、瞬間移動魔法が起動されているゲートが存在していた。


「あ、あった……!」


 ゲートを発見した初汰は、ポケットに入っている通信機を取り出して、獅子民たちに連絡を入れる。


【初汰っすか?】


 応答したのはスフィーであった。


「おう、俺だ。ゲート見っけたぜ」

【良かったっす。ちょっと時間がかかってたから心配してたところっす】

「わりぃな。森の中が複雑でさ」

【全然大丈夫っすよ! こっちも体制を整えて待ってるっす!】

「おう、頼んだ! 十分後くらいにはそっちに行くから」

【了解っす!】


 通話を終えた初汰は、通信機をポケット深くまで押し込み、今来た道を真っすぐ引き返してルーヨンが待つ小屋へ戻った。


「ありましたよ、瞬間移動魔法のゲートが」


 初汰は少し離れたところから、小屋に寄り掛かっているルーヨンに向かってそう言った。報告を聞いたルーヨンは、右手を口元へ持っていき、そして指笛を吹いた。甲高い音が森に響き、数分もすると部下全員がルーヨンの下へ戻ってきた。


「これで全員か?」

「ひー、ふー、みー……。うーん、そうね」


 ルーヨンはそう言うと、気だるそうに歩き始めた。それに伴って部下たちも歩き始め、初汰が先頭になって一行は瞬間移動用のゲートを目指した。

 ただ真っすぐ歩くだけなので、一行はあっという間にゲートへたどり着いた。


「これが瞬間移動魔法のゲートか?」


 ゲートを見つけたルーヨンは、その前に立ってそう言った。


「そうだ、俺が見たやつと同じだ」


 初汰は適当な嘘をついてその場をやり過ごすが、内心はルーヨンたちをゲートまで連れて来ることが出来て安心していた。

 ルーヨンも含め、部隊全員がゲートに釘付けになっている間、初汰はポケットに手を突っ込んで一瞬だけ通信機を起動して、すぐに終了した。これが合図になれば。初汰はそう願いながらルーヨンたちの下へ戻った。


 ――そのころリカーバ村では、ルーヨンたちを迎え撃つために獅子民とゴランが中心になって陣形を整えていた。そんな折、初汰から例の合図が入った。

 

「あ、切れたっす……」


 出ようとした時には通話は既に終了しており、そんな一瞬で通話が終了してしまったことに疑問を覚えたスフィーは、近くの獅子民に近寄ってそのことを告げた。


「うーむ、それは初汰からの合図かも知れないな」

「合図……。初汰なりに気を遣ったんすかね?」

「そうかもしれないな。ではその合図を蔑ろにしないよう、そろそろ隊形を整えよう」


 獅子民はそう言うと、スフィーから離れてゴランの横に着き、細かい指示を出し始める。

 弓兵は高台に配置して、索敵と遠距離戦を。歩兵はとにかく村の唯一の出入り口である門の付近に設置し、村内への侵入を最優先に防ぐことにした。その他には、村の周りはあの花畑で囲まれており、それに加えて高い木の柵で囲まれているので重厚なケアは施さず、もし万が一木の柵を越えて侵入する者があった場合は、中距離戦を行えるスフィーとクローキンスがケアすることになった。残るは司令塔である二人、獅子民とゴラン。この二人は歩兵に交じり肉弾戦をしつつ、陣形の指示を取り、かつ士気を高める役となった。


「よし、では弓兵は位置に着け!」


 ゴランが号令をかけると、弓を持っている村の兵士は高台へ上って行った。


「よし、我々は入り口付近で待機だ!」


 ゴランはそう言うと、隊の先頭を切って歩き出す。続いて獅子民、そしてそれに続いて槍を持った村人たちが入り口付近へ向かって行った。


「さてと、あたしらは二人きりで侵入の監視っすね」

「ちっ、正面以外から入ってくるとは思えないけどな」


 クローキンスはそんな愚痴を漏らしながらも、村の左半分を囲っている柵の方をしっかりと向いていた。スフィーはそれを見てクスクスと笑いながらも、自分も仕事を全うしようと村の右半分に体を向けた。こうして二人は村の中心で背中合わせとなり、リカーバ村でルーヨンたちを迎え撃つ準備は整った。


 そのころ初汰サイドでは、ひとしきり瞬間移動魔法の仕組みや、その魔法陣の考察をして、それらをメモし終えたルーヨンたちがいよいよその瞬間移動用のゲートを通ろうとしていた。


「仕組みはしっかりメモしたか?」

「はい、終わりました!」

「よろしい。これは上に報告するために私が預かっておこう」


 ルーヨンはそう言うと、部下の手に握られているメモをふんだくり、自分のポケットにしまった。


「準備はよいか?」


 ルーヨンがそう問うと、部下たちは全員敬礼をした。ルーヨンは満足気にうんうんと頷くと、部下たちよりも後方に立っていた初汰のもとへ歩いてきた。


「お主も準備はいいか?」

「あぁ、俺はいつでも」


 初汰は妙に気取った風にそう言った。どうやらルーヨンにその態度が気に入ったようで、ニヤリと微笑を浮かべながら初汰の顔を見た。


「意気込んでおるな?」

「え? あぁ、そうですかね?」


 初汰が首を傾げながらそう言うと、ルーヨンは再び微笑を浮かべた。何故かはハッキリしないが、ルーヨンに気に入られたらしい。ゲートを見つけたからであろうか?


「さぁ、リカーバ村を奪還しに行くわよ」


 ルーヨンはそう言うと、最前列の部下に命令を下し、命令を受けた部下たちは一列になってゲートに吸い込まれていった。


「じゃ、先に行きますよ」


 初汰はそう言うと、列の最後尾に向かって歩き始める。


「待って」


 ルーヨンはそう言うと、歩き出した初汰の腕を握って引き留めた。それによって初汰は若干のけ反り、直ぐに振り返ってルーヨンの方を見た。


「な、なんだよ、リカーバ村に行くんだろ?」

「それも良いが、私たちはここで待っていてもよいのではないか?」

「え、いや、それは……。あの少数で奪還できるんですか?」


 初汰は何とかしてルーヨンをリカーバ村に連れて行きたいがために、部下たちの方を見ながらそう言った。


「クフフ、大丈夫よ。どうせこの作戦に成功しなきゃ、彼らはどっちにしても死ぬんだもの」

「あんたの部下じゃないのかよ?」

「部下なんかじゃ無いわ。あいつらは道具よ」


 ルーヨンがそう言った瞬間、怒りを覚えた初汰はルーヨンの手を振り払った。


「なら尚更俺はこのゲートをくぐります。俺にとって、人命は平等だ」


 初汰が睨みを利かせながらそう言うと、ルーヨンは呆れたようにため息をつき、腰の背面に下げていた弓を左手に構え、右手には背中に背負っている矢筒から一本の矢を取り出した。


「何のつもりだ?」


 初汰はそう言いながら、腰に下げている木の枝とテーザーガンに手をかける。


「いやなに、ちょっとあんたを逃がすのが惜しくなってね」

「逃がす? 何言ってるんだ?」

「分かっておるぞ。私たちがリカーバ村で迎え撃たれること」

「な、何言ってるんだ?」

「本当のことであろう?」

「そんなの俺は知らない」

「クフフ、やっぱり気に入った。あんたは私のモノにする」


 ルーヨンはそう言うとゆっくり弓を構えた。それを見た初汰も右手に剣を構え、左手にテーザーガンを構えた。


「もう邪魔者はいないわ。あんたは私が持ち帰る」


 その言葉通り、初汰の背後には誰一人として残っていなかった。部下全員は既に、ゲートに飲み込まれてリカーバ村に向かってしまったようである。


「残念だけど今は無理だな。仲間が待ってるんだ。俺はリカーバ村に向かわなきゃいけない」


 作戦もバレてしまったので、初汰は包み隠さずそう言った。


「よろしい、では力づくでいくわ」


 ルーヨンはそう言いながら右手を振るう。すると細かい砂が宙に舞った。初汰はその目隠し攻撃を避けようとルーヨンから目を離し、視線を前方に戻した時にはもう既にルーヨンは森の中へ溶け込んでしまっていた。


「連続で女性相手とはな……」


 初汰はそんな愚痴を漏らしながらも、両手の武器を構えた。

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