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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第五章 ~治癒の村~
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第四十九話 ~結託~

 ノック後しばらくすると、木のドアがゆっくりと開いた。そしてその隙間からは召使らしい中年女性が顔を覗かせた。


「はい、どちら様で?」


 女性はそう言いながら獅子民たちの顔を見回し、最後にゴランのことを見た。


「村長に話があります」


 召使の女性と目が合ったゴランはそう言った。


「彼らは無害なんだろうね?」

「はい、この村を救ってくれるやも知れません」

「……分かりました。どうぞ」


 女性はそう言うと、木のドアを全開にして先に家の奥へ戻って行った。獅子民たちもそれに続いて村長の家へ入って行き、最後尾のクローキンスが家に入った次の瞬間、ドアは自動でしまった。

 四人は案内されるがままに暖炉がある一階の居間を抜け、木の階段を上がって二階へ向かった。数部屋あるうちのドアの装飾が古雅で、恐らく一番大きいであろうドアの前に立ち、召使は静かにノックをしてから一人で先に部屋へ入り、一、二分待つと再び部屋から出てきた。


「どうぞ、リーカイ村長が奥でお待ちです」


 古雅なドアを押し開けながら召使がそう言う。そしてすぐに引き下がり、獅子民たちの為に道を開ける。


「失礼します」


 ゴランはそう言ってから入室した。それに見た獅子民たちは一礼してから入室して、部屋の奥へ進んだ。

 室内左右の壁にはキチンと本棚が並べられており、本がびっしりと収納されていた。そして奥の方に大きな窯があり、その近くにテーブルとイス。そしてそのイスに一人の老人が背中を丸めて座っていた。


「リーカイ村長、お久し振りです。守衛のゴランです」


 ゴランがそう言うと、リーカイと呼ばれている老人はイスごと百八十度回転して獅子民たちの方を見た。


「いらっしゃい。何の用かな?」


 白髭白髪のリーカイは、獅子民たちが思っているよりもはきはきとした口調でそう問うてきた。


「村長が作る薬を分けてほしいとのことです」

「薬をか……。何に使うんじゃ?」


 リーカイはゴランから視線を外して三人の方を細い目で見つめた。


「仲間が重傷を負っていて、そのために薬を頂きに参りました」


 獅子民は言葉遣いに気を付けながら、ゆっくりとそう伝えた。


「なるほど、仲間が怪我を……」

「はい、しかしタダでとは申しません。今この村を狙っている輩を追い返す手助けをしたいと思っております」


 朗らかな顔で考え込んでいるリーカイを見て、獅子民はそう付け加えた。


「ほーう、なるほど。それは心強いですな。ならば、見事敵を追い返すことに成功した暁には、私が生成した薬を差し上げましょう」


 リーカイは皺くちゃな笑顔を見せながらそう言った。


「ありがとうございます」


 獅子民がそう言うと、それに合わせてスフィーは深々とお辞儀をした。クローキンスは軽く頭を下げながらも、視線は室内のあらゆる場所を見回していた。


「良いんじゃ、困ったときはお互い様じゃ」


 リーカイはニコニコと満足げな笑みを浮かべながらそう言うと、再びゴランの方へ向き直った。


「ゴランよ。用意は整っているのじゃな?」

「はい、村長」


 会話は二人の間のみで成立したようで、リーカイはコクコクと小さく頷くと、作業を再開するためにイスの向きを元に戻した。


「失礼しました、村長」


 ゴランは一礼と共にそう言うと、踵を返してドアを開け、部屋を出て行った。獅子民たちも短い一礼を残して部屋を後にすると、階段を下って一階の居間へ戻った。


「先ほどの会話は?」


 リーカイとゴランの間だけでのみ成立していた会話に不穏な影を感じ、獅子民は居間に戻ってくると同時にそう聞いた。


「それも含めて、俺の家で詳しく話す」


 ゴランはそう言うと、少しも立ち止まらずに村長宅を出て行ってしまう。このままここに滞在していても仕方が無いので、三人も後に続いて次はゴラン宅を目指して村内を歩き始めた。

 この村でも守衛を務めているらしく、ゴランの家は村の入り口付近にあった。家の近くには見張り台も設置されていたが、恐らくゴランは見張り台には上らないだろう。なぜなら台上にはひ弱そうな男が双眼鏡を覗き込んでいたからである。それにゴランのような屈強な男が見張り台に上る必要はこれっぽっちも感じない。


「ここだ。狭い家だがくつろいでくれ」


 ゴランはそう言いながら家に入ると、真っすぐ奥の部屋へ向かって行った。

 室内はリーカイ村長の部屋よりもがらんとしていた。部屋の右側にはキッチンと、食事用のテーブルと念のための木椅子が四つ。左側には小さな暖炉と無造作に置かれたソファ。そしてその前にはローテーブルが置かれており、その上には手入れ途中の斧が置いてあった。その他にも、左側の壁(特に暖炉付近の壁)には他の斧が掛けられていた。

 ある程度部屋を見たクローキンスは、木椅子を嫌い、真っ先にソファに座った。獅子民も邪魔にならない位置を探した挙句、ソファの横が落ち着くような気がしたのでそこへ腰を下ろした。残されたスフィーは部屋をぐるりと見回した末、木椅子の一つを反転させ、ソファの方へ向けて座った。


「そう言えば、初汰はどうしたんすかね?」

「ちっ、さぁな」


 沈黙を気にしたスフィーの質問も、クローキンスによってあっさり打ち消されてしまう。


「……いや、待てよ。分断されたのはラッキーかもしれない」


 会話はそこで終わってしまうかと思われたが、ぼーっとしていた獅子民が急に喋り始めた。


「どうしたんすか、急に?」

「一泡吹かされたんだ。吹かせ返してやろうでは無いか。ということだ」

「というとどういう事っすか?」

「通信機だ。恐らくルーヨンたちは国家軍。それを初汰に報せ、あえてこの村まで引っ張ってきてもらうのだ」

「なるほど。良いっすね」

「ちっ、だがそんなに上手くいくのか?」

「その作戦は上手く行く」


 ――そう言ったのは、奥の部屋から出てきたゴランであった。


「な、なにを根拠にっすか?」


 戻ってきたゴランに対し、スフィーは率直な疑問をぶつける。


「実はつい先日、リーカイ村長の古い友人……。五賢者の一人から連絡が届いたんだ。その賢者曰く、あんたたちが三人がここへ来て、そしてずっと俺たちの村に付き纏っている国家軍を追い払ってくれる。そう言う話を十日前くらいに聞かされたんだ」

「なるほど、それは完全な未来予知という事なのか?」

「いや、そこまでは分からない。しかしこうしてあんたらがここへ来て、もう一人の仲間が国家軍に潜入してここへ連れてくる作戦を聞いてしまった今、信じ始めている俺がいる」

「ちっ、なんだか怪しい話だな」

「あぁ、俺もまだ半信半疑だ。だがどちらにしても、今ここで追い払っておかなくては、俺たちが一方的に不利になって行くだけなんだ。だから賭けに出た。あの小屋であんたらを待ってみたんだ。もし来なくても、あいつらをおびき寄せてこの村ごと消すつもりだった。あの魔力貯蔵庫の魔力を使ってな」

「……そうであったか。まずは詳しい事情を聞かせてもらえて感謝している。そして今は我々が出会えたことを祝福して、目の前の敵を追い払うことを考えたいと私は思っている」


 獅子民はすくりと立ち上がり、ゴランの瞳を真っすぐ見つめてそう言った。


「あんたが前向きな方で助かったよ」


 ゴランは切実な口調でそう言うと、ホッと一息ついた。


「私はもう一人の仲間に連絡を取って来る。スフィー確か君が通信機を持っていたかな?」

「はいっす!」

「よし、では外に行って初汰に連絡を取ろう。それとゴラン殿、瞬間移動装置は起動したままなのか?」

「あぁ、一日だけ起動しているように設定してきた」

「承知した。では連絡を入れてくる」


 そう言うと、獅子民とスフィーは初汰と連絡を取るために一度外に出て行った。


「ちっ、一つ聞いていいか?」


 ゴランと二人きりになったクローキンスは、ドアが閉まった後にそう聞いた。


「何だ?」

「その賢者とやらの居場所は分かるのか?」

「うーん、俺は知らないが、村長なら知ってるかも知れないな……」

「そうか、分かった」

「気になることでもあったか?」

「ちっ、いや、予言だか予知だか知らないが、賢者とやらに会えるなら会ってみたいと思ってな」

「この村を救ってくれれば、薬だけじゃなくどんな物でもどんな情報でも渡すつもりだ。勿論、俺たちが知っている範囲でだがな」

「そりゃ助かるね。じゃあ聞くが、何かアヴォクラウズに行く手掛かりがあったらそれも聞きたいところだが、どうだ?」

「小型でもなんでも、飛空艇があればあっという間に着くんだがな……。後は繋がれている鎖を上って行くかだな」

「ちっ、そりゃ論外だ」

「ならばもっとデカい街を目指すしかない。……確か北東の大陸が飛空艇を作っているはずだ。と言っても、そこに行くためには海を渡らなくてはならない。つまり船が必要だ」

「ちっ、なかなか長い道のりになりそうだな。それに北東の大陸か……。確かあそこはアヴォクラウズの傘下だったな……」


 クローキンスとゴランがそんな話をしている中、外では獅子民が初汰に連絡を取っていた。


「初汰、聞こえるか?」

【あぁ、聞こえてるよ】

「今はまだ森の中か?」

【そうだよ。ちょっとした小競り合いがあって休憩中】

「無事ならば良かった。それに休憩中という事は、ルーヨンとは合流していないんだな?」

【あぁ、うん。してないけど?】

「実はな、奴らは解放軍と言っているが、その実は国家軍の一部だ」

【国家軍? アヴォクラウズのってことか?】

「そう言うことだ。リカーバ村の薬品を我が物にするため、解放軍と偽っていたらしい。だが、我々に助けを求めるという事は、恐らく相当少ない人数を割り当てられている。だから少ないうちにリカーバ村の人々と協力して奴らを追い払うのだ」

【ちょちょ、ちょっと待ってくれよ。オッサンたちはもうリカーバ村に着いてるのか?】

「おぉ、そうだった。それを言っていなかったな。そうだ。我々は既にリカーバ村にたどり着ている」

【マジかよ……。完全に分断されてるじゃねーか。ったく、俺一人残して行きやがって、俺一人だけ狙われてたらどうすんだよ】

「はっはっはっはっ。そこはお前の力を信じていたからこそ、我々はここまでたどり着けた。それに無事だったのだから良かったという事にしてくれ」

【まぁいいよ。今回だけはな。で、俺は何をすれば良いんだ?】

「簡単だ。ルーヨンたちをリカーバ村に連れて来てくれればいい」

【そう言うってことは、対策は出来てるってことだよな?】

「あぁ、リカーバ村にたどり着くまでには花畑があってな……」


 獅子民はリカーバ村と、村へたどり着くまでに辿る道についての説明を手短にした。それに加えて潜入口をくぐった先に小屋があり、その更に奥に瞬間移動装置があることを伝えた。


【なーるほどね。分かった。じゃあそいつらと合流したらそっちに連れて行くよ】

「うむ、頼んだぞ、初汰」

【おう、じゃあまずはルーヨンたちを探しに行くわ】


 獅子民がそれに対して軽い返事をすると、通話は終了した。通信機を所持できない獅子民は、スフィーに頼んで再び通信機を保管してもらい、二人は作戦をより濃いものにするために、ゴランの家に戻って行った。

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