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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第五章 ~治癒の村~
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第四十八話 ~旧友の今~

 そのころ初汰は古き友を前にして、武器を構えていた。


「あらあら、物騒なお友達ですのね」

「ふっ、ちょっと血気盛んなだけだよ」


 花那太はそう言うと、スケッチブックに梢子棍しょうしこんを描き、それを具現化して優美に手渡した。


「これを使うほどなのですか?」

「あぁ、久しぶりに君の本気を見たくなってね」

「フフ、分かりましたわ」


 優美はそう言いながら梢子棍を受け取ると、手慣らしに軽く振り回して見せた。


「そっちもやる気満々って感じだな」


 初汰はそう言いながら、右手に握っている剣と左手に握っているテーザーガンの状態を確認してから、優美を睨んだ。


「まだ話し合いで解決することも出来ますわよ?」


 優美は冷笑を浮かべながらそう言うが、両手で支えている梢子棍は明らかに初汰を食い殺そうと牙を剥く怪物と化していた。


「どの口が言ってるんだか」

「私は本気で言ってますよ。ただ、それ以上に闘争心が昂っているだけです」


 既に気休めの冷笑も消え、優美は真剣な眼差しで初汰のことを睨んでいた。初汰もそれに対して睨み返し、緊迫した雰囲気が流れ始める。


「まだ始めないのかい? 僕は音が頼りなんだ」


 静かな空気を感じ取り、戦闘を始めていないことを知った花那太がそう言う。


「花那太さんのご要望です。戦いましょうか」


 優美はそう言うと、いかにも嬉しそうに微笑を浮かべると、梢子棍を構えて走り出す。それに対して初汰も武器を構え、なるべく攻勢には出ず、守衛の構えで戦闘に入る。

 長い棍棒の先に短い棍棒がヌンチャクの様に繋がれた梢子棍は、予想外の動きをして初汰に襲い掛かる。棍棒よりもリーチが長く、それに加えて先端の短い棍棒が変幻自在に動くので、攻勢に出ようにもなかなか前に踏み込めずにいた。


「どうしたの? 流石に歯ごたえが無さすぎるわよ」


 攻撃の手を休めることも無く、息を上げている様子も無く、優美は淡々と梢子棍を振り回す。初汰は防戦一方で、かつ優美の背後にいる花那太のことも気になっており、百パーセントの集中を戦闘に向けられずにいた。


「はぁはぁ、くっそ……」


 初汰は一度優美から距離を取り、木の後ろに姿を隠す。


「フフ、かくれんぼ?」


 足音は初汰が隠れている木に向かって進んでくる。恐らく隠れ場所は既にバレている。今はもう、戦闘に集中するしかない。そう決めた初汰は木の裏から奇襲をかけようとする。しかし優美もそれを読んでおり、初汰が木の裏から飛び出した瞬間、既に梢子棍の先が初汰に向かって伸びてきていた。


「うおっ!」


 初汰は声を上げながらしゃがみ、何とか攻撃を避ける。そしてあたかも攻撃を回避しただけに見せかけて、前かがみになりながら一気に距離を詰め、剣による攻撃を優美に仕掛ける。

 ――これには優美も驚いたようで、初汰の攻撃を紙一重のところで回避すると、素早く後方へ下がって距離を取った。


「少しはやるようね」

「あんただってまだ全然本気じゃ無いだろ」

「それはどうかしらね」


 よく見ると初汰の攻撃は優美の左腕を掠めていたようで、真っ赤な鮮血が白い肌を伝っていた。

 初汰がだいぶ逃げ回ったおかげか、初汰の視界には花那太の姿は無かった。これで多少は思い通りに戦えると思った初汰は、剣を握り直して追撃の為に走る。その姿勢を見た優美もすぐに武器を構え直し、今度は優美が初汰の攻撃を防御する側に回る。

 何回かの鍔迫り合いを経た後も、敵の隙を作り出そうと初汰は攻撃の手を止めない。このまま剣だけでは隙が作れないと思った初汰は、近くの木に向かってテーザーガンを発射する。これによって優美の回避範囲を限定しつつ、右手一本で攻撃を続ける。


「なるほどね。これがあなたの戦術なのね」


 優美は納得したような、しかしどこか馬鹿にしたようにそう言うと、急にギアを上げて初汰に攻撃を仕掛け始める。

 再び未知の動きをする梢子棍の動きに翻弄されはじめ、初汰は泣く泣くテーザーガンを回収した。こうして戦闘は初期状態に巻き戻り、二人は再び見合った。


「そろそろ倒してもいいかしら?」

「やっぱり本気じゃなかったんだな」

「えぇ、ようやく半分の力を出そうかと」


 優美はそう言うと、両手で握っている梢子棍を強く握り直した。すると梢子棍が淡く光りだす。どうやら『強化』の力を利用したようで、涼しげな顔で走り出す。


「こいつも咎人か……!」


 初汰は剣を構え直し、なるべく攻撃を受けないよう回避に専念する。


「あらやだ、回避に専念するなんて」

「光った武器の攻撃を当たるやつなんていないだろ」

「それもそうね」


 そんなやりとりをしながらも、初汰はじりじりと追い詰められていく。回避を続けるうちに、ついに背中に木が触れた。それを狙っていたようで、優美は早めのテンポで梢子棍を振るう。しゃがむしか回避方法が無く、初汰は木に体を預けながらしゃがみ込んだ。

 ――振るわれた梢子棍は木にぶつかって跳ね返るだけだと思われたが、梢子棍は勢いのまま木をなぎ倒した。

 初汰は倒れゆく木を横目に、すぐ立ち上がると優美から距離を取った。


「マジかよ、まさか木をなぎ倒すなんて……」


 初めて見た『強化』の力を前にして、初汰は少したじろいでいた。


「確かあなたも咎人よね? その両手に持ってるのは、既に力を使っているの?」

「答えるかよ」

「答えてくれれば花那太君も喜んでくれるんだけど」


 優美がそう言って再び攻撃を仕掛けようとした時、その背後から車いすに乗った花那太が現れた。


「優美、君は止めてくれっていつも言ってるだろ?」

「あら、聞こえていたのですね」

「耳ばかり達者でね」

「フフ、そうでしたね。それはそうと、まだ戦闘中ですので」

「良いんだ。もうやめよう」

「良いのですか?」

「あぁ、もういい。今日はもう帰って寝たい気分なんだ」

「承知しました」


 優美はそう言うと、深く一礼した後に梢子棍を花那太に返した。すると花那太は受け取った梢子棍をスケッチブックに近付けた。すると梢子棍はスケッチブックに吸い込まれ、跡形もなくなった。


「それでは、私たちはこれで」


 優美はすでに車いすの取っ手を握っており、手短に挨拶をするとその場を立ち去ろうとする。


「おい花那太! お前はここで何をして、これから何をしようとしてるんだ?」


 初汰の声に反応し、花那太と優美は背中を向けながらピタリと静止した。


「僕はこれから王になろうとしてるんだ」

「それでどうなるってんだ!」

「僕が元いた世界に戻るんだよ。そして破壊する。この力でね」

「元いた世界を破壊する……? 帰れるのか……?」

「あぁ、噂ではね。その真意を確かめるというのも含めて、僕は王になるんだ。止めても無駄だよ。僕があの日自殺しようとしたように、僕は王を目指すことを止めない」

「一緒にこの世界から脱出することは出来ないのか!? 俺たちは手を取り合えないのか!?」

「僕の道に君はもういないんだよ、初汰。邪魔するなら君でも殺す。なんせこの世界で僕は英雄だからね」


 花那太はそう言うと、軽く右手を挙げた。すると優美は静かに車いすを押し始め、二人は森の中に消えて行った。


「花那太……。お前はもう、あの頃のお前じゃないのか……?」


 森の中に一人取り残され、初汰はそう呟いた。

 戦闘を終えると、急に全身に気だるさがのしかかってきた。初汰は近くの木にもたれかかり、そして座り込んだ。オッサンたちを助けに行かないとな……。そんなことを思いながらも、初汰の脳内の大半は花那太のことで満たされていた。どうすれば花那太は戻ってきてくれるだろうか……。それに、元の世界に戻れるってのはなんだったんだろう……。初汰はそんなことを思いながら、木の葉の隙間から覗く日光を仰いだ。


 そのころワープを終えた獅子民たちは、リカーバ村周辺に到着していた。辺り一面に花が咲いており、その中でしっかりと村へ続く一本道が用意されていた。花々のせいか先ほどいた森よりも空気が澄んでいるように感じ、スフィーと獅子民は思わず深呼吸をしていた。


「すぅー。はぁー。なんかここ数日で一番リラックスしてる感じがするっす」

「うむ、そうだな。……この空気、懐かしくも感じる」


 二人がそんな会話をしていると、少し遅れて木こりの男が瞬間移動してきた。


「ゴホゴホッ。何度やっても慣れんな……」

「大丈夫っすか? えっと……」

「ゴランだ」


 未だ名前すら聞いていないことを思い出して口ごもったスフィーに対して、ここまで案内してくれた張本人である男、ゴランが答えた。


「してゴラン殿、この道を真っすぐ行けば村にたどり着くのか?」

「あぁ。この道を真っすぐ行けば村にたどり着く」


 四人の目の前には、綺麗な野花に囲まれた一本の道が存在していた。真っすぐ伸びた道の先に村の陰は少しも見受けられないが、案内役であるゴランがあるというのだからあるに違いない。そう思って獅子民は歩き始めた。

 獅子民を先頭に、スフィー、クローキンス、ゴラン。と続き、四人は真っすぐ連なって村を目指した。花が大量に咲いているせいか、辺りにはそれに伴って多くの蝶々が舞っていた。そんな優雅な景色を眺めていると、花畑の中に一人の女性を見出した。野花で作った冠を被り、蝶と共に晴れやかな舞を見せる女性が。女性に見惚れた獅子民は、ふと立ち止まった。


「どうしたんすか?」


 スフィーがそう聞こうとも、獅子民は答えない。


「マズい、幻覚だ!」


 最後尾にいたゴランはそう言うと、最前列にいる獅子民のもとに駆け寄って思い切り顔を叩いた。相手がライオンだと言うにも関わらず。


「おい! 目を覚ませ!」


 獅子民が反応するまではたき続け、数回往復したところで獅子民の焦点がゴランに合った。


「な、何だ……?」

「大丈夫か? 今花畑の中に何かいただろう?」

「う、うむ」

「それは幻覚だ。花畑の中に誘い込んでいるんだ。誘い込んで、そしてじわじわと体力を食い尽くす。この花畑は、一度入ったら出られないようになってる」

「お、恐ろしいっすね……」

「ちっ、そう言うことだったのか」


 スフィーとクローキンスにも思い当たる節があったようで、二人は納得したようにそう呟くと、獅子民が回復するのを見守った。


「すまない。時間を取らせてしまった」


 獅子民はそう言うと、ブルブルと顔を左右に揺らして正気を取り戻すと、一行は再び歩き始めた。

 その後詳しくこの道の話を聞くと、ゴラン曰く、侵入者が来た時の対処としてこの花畑が作られ、罠に嵌った侵入者は死ぬまで魔力を吸い尽くされ、吸った魔力は村の魔力貯蔵庫に送られるらしい。そしてその貯蔵された魔力を使って特殊な機械を動かしているようで、その特殊な機械で薬を生成しているとのことであった。そうは言っているものの、薬を生成する薬師が健在なので魔力貯蔵庫には魔力が溜まる一方であるらしい。

 ……道と罠とその流通の話を聞いていると、不思議と幻覚が目に入って来なくなり、四人はいつの間にか村の近くまで歩いて来ていた。この村も幻覚では無いのかと疑ったが、全員が村を視認できているので、何よりゴランが村を視認できていることにより、獅子民たちは安心して村に踏み入った。

 村内にはレンガ造りの堅固な家屋が並んでおり、村の最奥には工場のような、大きな建物が鎮座していた。恐らくアレが魔力貯蔵庫なのだろう。

 ゴランは村に立ち入ると、キョロキョロと辺りを見回した後に再び歩き始めた。獅子民たちはそれに続いて行き、何人かの村人とすれ違うが、ここまでたどり着いたなら、彼らに害は無いだろう。と言う風に通り過ぎて行った。

 そうしてそのままゴランに付いて行くと、彼は最奥の魔力貯蔵庫の傍にある、他の家屋よりかは少し大きなレンガの造りの家の前で立ち止まった。


「ここが村長の家だ。そして村長こそがこの世界で唯一の薬師だ」


 ゴランは振り返り、三人に向かってそう言うと、ドアの前まで進んで木のドアをノックした。

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