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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第五章 ~治癒の村~
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第四十七話 ~村への道~

 獅子民たちは武器を構えているルーヨンの隊に囲まれながらリカーバ村の潜入口に押しやられた。


「さぁ、さっさと村を奪還してきてもらおうかの?」


 ルーヨンがそう言うと、獅子民たちを囲んでいたルーヨンの隊が詰め寄ってきた。獅子民たちは村に入ることを強いられ、それはもう拒否できないところまで進められていた。獅子民たちは何も文句を言うことなく、その場はすんなりとルーヨンの言葉を呑んで村の潜入口である小さな穴に一人ずつ潜って行く。獅子民、クローキンス、スフィーの順で狭いダクトのような抜け穴を通り抜け、三人はリカーバ村の中に潜入することに成功する。潜入したと言っても、村を囲っていた木の柵を潜り抜けただけで、村の中にも大量の木々が並んでおり、風景としては森にいるのと何ら変わりなかった。


「村に……入ったのか……?」


 獅子民は辺りの様子を確認しながらそう呟いた。


「柵っぽいものは潜り抜けたから、多分そうじゃ無いっすかね?」


 スフィーは近くに生えている木に手を添えながらそう言った。


「ちっ、なんでも良いからまずは様子見だ」


 クローキンスはそう言うと、腰に下げている銃を右手に構え、ゆっくりと歩き出す。それに続いて獅子民とスフィーも歩き出し、一行は木々を避けて村らしき村を発見するために歩を進める。

 ほんの数分歩き続けると、一軒の小屋を発見した。獅子民たちは静かに、足音に気を付けながら小屋に近付いて行く。


「誰かいそうか?」


 獅子民は声を潜めながらそう言った。


「シッ……! 中から微かに物音がするっす」


 スフィーは口に人差し指を添えながら、囁くようにそう言った。獅子民とクローキンスは黙ってスフィーの後に続き、恐らく小屋の後方にあると思われる窓の下に三人は身を屈めた。


「……どうやらこの部屋にはいないみたいっす。ちょっと足音が遠い気がするっす」


 スフィーは続けて小声でそう言うと、それに反応するようにクローキンスが僅かに頭を上げて中を覗いた。そしてすぐ、再び身を屈めた。


「お前の言う通り、この部屋には誰も居ないみたいだ」

「うむ、そうか。では私はここで見張っていよう。私にこの窓は少し位置が高すぎる」


 獅子民はそう言うと、窓から少し離れて辺りを警戒し始める。スフィーとクローキンスは特に何か言い返すわけでもなく、離れて行く獅子民に対して小さく頷いた。見張りは任せると言わんばかりに。

 どちらかと言うとスフィーの方が接近戦を得意としているので、先に飛び込むのはスフィーになった。クローキンスは突入したスフィーを援護する形で、まずは窓の外から様子を見た後に続いて突入することにした。


「それじゃあ、行くっすね」


 スフィーがそう言うと、クローキンスは頷いた。

 ――確認を取ったスフィーは、静かに立ち上がって窓の横に着くと、中を伺いながらそっと窓を開ける。そして軽い身のこなしで屋内に侵入する。そしてスフィーが居なくなった窓の横にはクローキンスが続いて立ち、右手に銃を持ちながら中の様子を伺う。

 侵入したスフィーは、窓枠を越えてすぐにソファの後ろに姿を隠した。そして窓の外にいるクローキンスの方を見て、人影が見えているかどうか確認する。するとクローキンスは首を横に振った。スフィーもそれに頷きを返すと、ソファから転がり出して更に部屋の奥へ進む。なるべく身を小さくして、ドアの角に身を寄せる。再びクローキンスとアイコンタクトを取り、誰も居ないことを確認すると今度はクローキンスが徐に小屋へ突入する。スフィーと同じ経路を辿ってクローキンスもドアの角まで忍び足で進むと、二人は息を合わせて隣の部屋に突入する。

 ――スフィーがドアを蹴破り、クローキンスが銃を構えながら突入する。それに続いてスフィーもすぐに隣の部屋に突入する。


「だ、誰もいない……っすね」


 二人は構えていた武器を下ろし、室内を見回す。すると開け放たれているドアを見つけ、スフィーは真っ先にドアの先を調べようと全開のドアに向かった。

 ドアの向こう側を覗き見ると、先は森に繋がっていた。つまりここは玄関だったらしい。確かにそんなに大きな建物では無かったが、まさか二部屋とは。と思ってクローキンスの方を見ると、先ほどまで背後にいたはずのクローキンスが居なくなっていた。


「……あれ、クロさん?」


 玄関から離れ、自分たちが先ほどいた部屋の方を覗いてみたが、その先にクローキンスはいない。玄関とは反対側にもう一つドアがあり、スフィーはそのドアを調べに行く。

 息を整え、武器を構え、万全の準備をしたのちにスフィーはドアを蹴破った。――しかしドアの先にクローキンスはいなかった。

 あまり広い部屋ではなく、狭い脱衣所とトイレ、そしてその先に浴室が続いていた。念のため浴室も覗いてみるが、そこにクローキンスの姿は無い。

 頭の上にクエスチョンマークを浮かべたまま、スフィーは一度小屋を出て、獅子民と合流した。


「獅子民っち、クロさん戻って来ました?」

「ん? いや、戻って来ておらんぞ」

「うーん、どっかに行っちゃったみたいなんすけど」

「まさか一人でどこかに行ってしまったのか?」

「ここがどんな場所か詳しく分かってない以上、一人で行動するような人だとは思わないっすけどね……」

「うむ、確かにそうだな。もう一度小屋の中を調べてみよう」


 獅子民はそう言うと、スフィーの答えも聞かずに小屋の正面に向かい、そしてそのまま小屋の中へ入って行った。スフィーも慌ててそのあとに続き、小屋の中に戻る。

 改めてよく室内を見回すと、こじんまりとしたキッチンがあり、その近くに大きなテーブルと四つの木椅子。キッチンの横にはちょっとした食器棚があり、それらは玄関から入って目の前の所に固まっていた。そこから視線を少し右にずらすと、スフィーとクローキンスが突入してきた部屋へ続くドアがあり、更に右へ行くと脱衣所へ続くドアがあった。そしてそのドアとドアの間には、この部屋にはそぐわないほど大きなクローゼットが設置されていた。


「ふーむ、クローキンス殿はどこへ消えたんだ……?」

「全く分からないっすね。でも、調べられるところは限られてるっす」

「そうだな、手早く捜索しよう」


 獅子民がそう言うと、二人は二手に分かれて小屋の中を調べ始める。突入してきた部屋、脱衣所と浴室。そして最後に玄関があるダイニング。テーブルや椅子、それにキッチンや食器棚も調べ、最後に残ったのは大きなクローゼットであった。


「これで最後っすね」


 スフィーがそう呟きながらクローゼットを開ける。

 中には冬用だと思われるモフモフのジャケットや長靴が入っていた。


「これだけみたいっすね」

「待て、中もしっかり調べよう」


 獅子民がそう言うので、スフィーは足を上げてクローゼットの中に入り、かけてある洋服をかき分けて奥の方へ手を伸ばした。すると確かに伸ばした手はクローゼットの奥の板に触れたのだが、全体重を預けると、そのままスフィーを飲み込むように板が回転した。


「うわっ!」

「どうかしたか!?」


 スフィーの叫びが聞こえたので、獅子民もすぐクローゼットの中へ飛び込む。するとクローゼットの奥から微かに光が漏れており、獅子民は迷わず奥の板目掛けて突進した。

 ――すると案の定クローゼットの裏に隠し部屋が存在しており、スフィーもそこにいた。


「大丈夫か、スフィー?」

「いたたたた。まさか隠し部屋があったなんて。気が付かなかったっす」


 スフィーは照れながらそう言うと、すぐに立ち上がって見せた。


「お前ら、誰だ?」


 部屋の奥からする声で、二人は真剣な表情に戻って正面を見た。すると暗闇から、首に鉄斧を当てられているクローキンスとその鉄斧の主である男性が現れた。


「誰なんだ。まさか解放軍とか言う奴らか?」


 こういう時は獅子民に任せよう。と思い、スフィーは獅子民の方をちらりと見て一歩下がった。


「そうだ、我々は解放軍とやらにこき使われている旅の一行だ」


 スフィーの意志を汲み取り、獅子民は素直にそう答えた。


「へっ、やっぱりそうか。ってことは、この村を奪いに来たんだな」

「奪いに? 何を言っている。奪ったのはそちらなのだろう」

「そっちこそ何を言ってる。狙われてるのはこっちだ。解放軍と言って偽り、リカーバ村を狙ってるんだ、奴らは」

「やはりそうだったか、なんだか薄々そんな気はしていたのだよ。潜入口を前にした瞬間に我々の扱いが変わったからな」

「……じゃあお前らは、本当にただの傭兵ってことか?」


 男は獅子民たちのことを疑いながらも、その語調は明らかに弱まっていた。


「そうだとも。我々は戦いに来たのではない。むしろこちらに協力させてもらいたい。ただし条件付きでだがな」


 獅子民は男の目をしっかりと見据えながらそう言った。


「俺たちと協力して、奴らを追っ払うってのか?」

「あぁ、そうだ」

「……条件は?」

「我々の仲間が怪我を負っていてな。それを治癒するための薬が欲しいのだ」

「なるほど。確かにリカーバ村に来なくては手に入れられないものだな」

「私としてもこの村は守りたい。はっきりとは言えないが、なぜか一度世話になっているような気がするのだ。リカーバ村の誰かに……。とにかく、人を助けられるこの村を、悪の手に渡すわけには行かない」


 男はじーっと獅子民の瞳を見続けた。そして軽く鼻で笑うと、クローキンスの拘束を解いた。


「分かった。お前たちを信じてみるよ。俺たちも戦力が足りなかったところだしな」


 男はそう言うと、三人を残して再び暗闇の中へ消えて行った。


「流石っすね、獅子民っち」

「うむ、誠意が伝わってよかった」

「ちっ、さっさと来ねーから、危うく殺すところだった」


 クローキンスはそう言うと、不機嫌にテンガロンハットを被り直した。


「まぁまぁ、間に合ったから許してくださいっすよ」


 緊張も解けたところで、スフィーの能天気さが炸裂していた。しかしこれがまた和むので、獅子民とクローキンスは敢えてスフィーのことを無視して男を待った。

 そうしてそれから少し待つと、男は銀の斧を携えて戻ってきた。


「それは何すか?」


 スフィーはすかさず斧について質問した。


「これは村に入るために必要なんだ。まぁ、とりあえずついて来い」


 男はそう言うと、先行してクローゼットを抜けて行き、小屋に戻るとそのまま玄関を抜けて外へ向かった。獅子民たちはそのあとについて行き、一行は小屋を数十メートル離れた森のど真ん中で立ち止まった。


「ここいらで良いだろう」


 男はそう言うと、唐突に木を伐り始めた。三人はその姿を見て顔を見合わせたものの、何も言わず男が木を伐り続ける姿を見続けた。

 そして男は二本の木を半分まで伐り、その二本の木を互いの方へ押し倒し、大木のアーチを作り上げた。するとそのアーチの真下に立ち腰に下げているナイフで文字を書き始めた。

 ――文字を全て書き終えた瞬間、その文字が青く光り始め、そしてそこからみるみる青い光が広がっていき、最終的には男が作り上げたアーチの形に沿って光が満ちた。


「これはリカーバ村に繋がるゲートだ。言ってしまえば、瞬間移動魔法だ」

「ふむ、なるほど、こうやって村を隠しているわけなのだな」

「そうだ。俺は後始末があるから先にゲートをくぐってくれ」


 男はそう言うと、三人の横を抜けて最後尾に立った。


「よし、それでは行くとするか」

「はいっす!」


 獅子民を先頭に、三人は青い光が満ちているゲートに飛び込んだ。

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