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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第五章 ~治癒の村~
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第四十五話 ~解放軍~

 立ちっぱなしでリーダー格の男の帰りを待つわけにもいかず、初汰たちは何もない家屋を見回してから、空いている場所に腰を下ろした。部屋の中心に囲炉裏のようなものがある程度で、その他にはこれと言って家具も無く、部屋の片隅に藁の布団が一つあるだけであった。それら家具に触れるのは避け、初汰たちは囲炉裏を囲むようにして会話を始める。


「なんか、解放軍にしては規模が小さく無いか?」

「うむ、確かに規模はそれほど大きくないように見えるな」

「治癒の村自体がそんなに大きくなかった記憶があるっす。だから解放軍も人数が少ないのかもしれないっす」

「そっか。少ない人数で村を奪還しようとしてるなんて、尚更俺らが張り切らないとな」

「そうっすね。なるべく早く村を奪還して、村の皆さんを、それにリーアとユーニさんを助けないとっすね」

「うむ、そうだな。今は少しでも休んでおこう。クローキンス殿のようにな」


 既に寝転がって眠っているクローキンスのことを見ながら、獅子民はそう言った。初汰とスフィーはそれを見て笑い、自分たちも寝転がって目を瞑った。


 ……初汰たちを目覚めさせたのは、彼らをここへ連れて来たリーダー格の男であった。しかしその目覚めはお世辞にも良いものとは言い難いものであった。


「起きろ。これから会議がある。お前たちにも参加してもらう」

「ふぁ~あ、あぁ。すぐ行くよ」


 初汰は欠伸をしながら答えた。眠っていたのは初汰だけだったようで、他の三人は気だるさを見せずすぐに起き上がり、念のために自分の装備を確認してからリーダー格の男に続いて家屋を出て行った。初汰も眠たい目を擦ってから少し遅れて外に出た。

 外に出ると村の中心部に設けられている折れ枝の山に火がつけられており、その手前に置かれている数個の丸太の上にリーダー格の男と似たような風貌の男たちが数人腰かけていた。


「端の方にはなるが、解放運動を手伝うのならお前たちにも作戦を聞いてもらいたい」

「これから作戦会議があるっすか?」

「あぁ、我々としてもそろそろ本格的に動かなくてはならない」

「ふむ、なるほど。とりあえず話を聞かせてもらおう」


 獅子民はそう言いながらも、毛づくろいをするフリをして立ち止まった。それを見たクローキンスも立ち止まり、遅れて出てきたはずの初汰にも追い越され、会議の輪から少し離れた場所でクローキンスがボソッと呟いた。


「ちっ、協力するのか?」

「……しようとは思っている。だが、するとも言い切れない」

「ちっ、疑うことを知っている奴が一人でもいて助かった。このままじゃ俺一人が嫌われ役になるところだった」


 クローキンスはそう言うと、会議が始まろうとしていることを確認してから足早に向かった。獅子民も疑われないように村の中央へ移動し、地面に腰を下ろした。

 リーダー格の男が火に近い丸太に腰を下ろすと、その焚火の向こう側からこの解放軍の隊長的存在である人物が姿を現した。


「待たせたわね。全員揃っているかしら?」


 口調や声からして、隊長は女性であることが分かった。女は古代エジプトを彷彿とさせる、白基調に煌びやかな金や白銀の装飾が施されている服を纏っている。顔は瞳以外を布で覆っており、僅かに覗く瞳周りは濃いメイクが施されていた。そんな見ているだけでも眩しい女は、背後に炎を背負う形で丸太に腰かけた。

 初汰たちを連れて来た男がそれを確認すると、まずは全員揃っていることを伝え、それに続けて初汰たちのことを軽く説明した。


「ほ~う、良かろう。してお主ら、実力はあるのだろうな?」


 煌びやかな女はそう言いながら、目を細めて初汰たちの顔を見回した。


「任せとけ! なんせここまで生き延びてきたんだからな」

「うむ、最低でも自分の身を守ることは出来る」


 このまま初汰に喋らせていると要らないことも口走りそうだったので、獅子民がサラッとまとめて会話を打ち切った。


「そうかそうか、まぁ良い。付いて来れない者は置いて行くまで」


 初汰とスフィーはその言葉を聞き、あからさまに顔をしかめた。しかしすぐに表情を戻し、女の方を見る。


「ルーヨン様。そろそろ会議の方を」


 会議に参加している一人がそう言った。


「おぉ、そうであった。そろそろ始めようとしよう」


 ルーヨンと呼ばれた女はそう言うと、小さく咳ばらいをしてから全員の顔を確認して、会議を開始した。するとルーヨンは静かに座り直し、口を慎んだ。そして側近である初汰たちをここへ連れて来た男が話し始める。


「まずは現状を伝える。現在我々はリカーバ村から追いやられ、村から数百メートル離れた臨時拠点であるここで機を伺っている。その間に村の様々な情報を得て、潜入口を発見した。と言うのが現状だ」

「ふむふむ、良い働きだ。後はそこから潜入して敵の長をひっ捕らえるのみであるな」


 ルーヨンは満足気に目を細めながらそう言った。


「はい。我々の力で村を奪還しましょう」


 側近の男がそう言うと、他のメンバーも次々に賛同の声を上げ、あっという間に村奪還作戦が纏まって行く。初汰たちは特に口出しすることも無く、黙って纏まって行く作戦を耳に入れ、現状とこれからの動きを個々でかみ砕いて理解した。

 時間が経つにつれて会議の熱も冷めていき、側近の男が会議を締めくくると集まっていた男たちはそれぞれの家屋に戻って行った。初汰たちをここへ連れて来た男は会議が終ると、初汰たちを自分の家に案内し、ルーヨンがいる広場に戻って行った。


「はぁ~あ、なんか無駄に長い会議だったなぁ~」


 初汰は囲炉裏近くに寝転がると、全身をうんと伸ばしながらそう言った。


「まぁそう言うな。彼らの話を聞くことによって大分現状が掴めた」

「そうっすけど、なんか違和感があるんすよね~」

「ふむ、違和感か……。それはどんな違和感なのだ?」


 彼らのことを疑わしく思っている獅子民は、スフィーの言葉にすぐさま反応した。


「う~ん、正直分からないっす。何となく感じてるだけっす」

「ちっ、根拠は無いってことか」


 クローキンスも聞いていたようだが、スフィーから有力な返答が無いと見ると、壁に寄り掛かって座り込み、テンガロンハットを目深に被った。


「仕方ないじゃないっすか、最初からそんなに疑えないっすよ……」

「ま、確かにそうだよな。違和感があったとしても今はあいつらに従ってないと、俺らここから一生出られないかもしれないし」


 初汰がそう言うと、他の三人は深い眠りに落ちてしまったかのように黙り込んだ。誰からの反応も無いことがむず痒かった初汰は、上体を起こして三人を見た。


「え、俺なんかマズいこと言った?」


 初汰は気を遣い、微笑みながらそう聞いた。


「いや、そうではない。初汰の言う通り、今は従うしか選択肢が無いの事実だな。と考えていただけだ。実は私も完全に彼らを信用しているわけでは無いのだ。どこかで綻びが見えると今は考えているが、疑いすぎるのも良くない。とにかく、作戦決行の日が来たら全力で彼らに協力しようと今は思っている」


 獅子民はそう言うと、初汰とスフィー、そしてクローキンスのことを順に見た。


「だな。今は全力でリカーバ村を目指すのみ!」

「そうっすね。困ったときは助け合いっす」


 初汰とスフィーはそう言うと、顔を見合わせてニコリと笑った。


「ちっ、だからと言って気を許すんじゃねーぞ」


 クローキンスはそう言うと、本格的に寝転がってテンガロンハットを顔の上に乗せた。


「皆意見は同じようで良かった。今日は歩きっぱなしだったから、ゆっくりと休ませてもらおう」

「あぁ、さっさと寝ようぜ~」

「あたしも急に眠くなってきたっす……」


 初汰とスフィーは囲炉裏近くでそのまま横になり、静かに寝息を立て始めた。獅子民は全員が眠るのを確認すると、自分も丸くなって瞼を下ろした。


 …………微かに聞こえる小鳥のさえずりで目を薄く開く、もう朝なのだろうか。獅子民はそう思いながら丸まっているはずの身体を伸ばそうとする。しかしいつものように寝ておらず、自分が仰向けになって寝ていることに気が付いた。なぜなら薄く開いた視線の先が天井だったからである。

 獅子民は起き上がろうと全身に力を入れるのだが、鈍痛と疲労感で手足を動かすことが出来ない。仕方なく視線だけで辺りを見回すと、明らかに今まで見たことの無い風景が広がっている。洋風な壁に大きな窓、それにこのフワフワ感。私は恐らくベッドに寝転がっている。獅子民はそう思った。だが私は今、全く整えられていない仮設家屋で雑魚寝をしているはずだ……。その矛盾点から考えられる結果は、これは夢である。という事であった。

 目だけで辺りを確認しようとしていると、次第に首回りが楽になっていき、軽く首が動くようになった。そのおかげでもう少し辺りを見回すことが出来るようになり、ベッドの横に置いてあるテーブルに祠で取り返した盾が二つ置いてあることを発見する。それを見て、これは私の妄想から作り上げられた夢なのだな。と獅子民は考え、何とかして自分の顔が見える物を探そうとする。しかし全く体は言うことを聞かず、結局獅子民は疲れた首を枕に戻し、再び天井を眺めた。すると急に意識が遠のいて行く。ダメだ。もう少し夢を見ていたい。そう思っていると、扉がガチャリと開いて女性の声が聞こえる。


「大丈夫ですか!? しっかりしてください!?」


 獅子民は答えようとするが声は出ない。


「苦しそう。薬が効かなかったんだわ。待っていてください。村長を呼んできます!」


 女の声はそう言うと、バタバタと足音を立ててどんどんと遠ざかって行く。行くな。行かないでくれ。私を一人にしないでくれ……。獅子民はそう思いながら、意識を失った。


 …………急に息苦しさを覚える。思わず獅子民はせき込んだ。それにパチンパチンと何かが跳ねるような、しかしどこか不吉な音に目を開いた。すると家屋の壁が燃えており、黒い煙が上がり始めていた。獅子民は慌てて立ち上がり、自分が四本の足で立ち上がったことを確認して、これは夢じゃないとすぐに察した。そして他の三人を叩き起こすと、身を屈めながら家屋の入り口に向かった。

 既に火によって倒壊が始まっており、入り口前には邪魔な丸太が倒れ込んでいた。四人で力を合わせ、何とか丸太を取り除き、四人は扉を蹴り破って外に出た。


「こ、これは……!?」


 外に出た四人の目に映ったのは、燃え盛る複数の家屋。そして解放軍のアジトを囲むように聞こえるざわざわと言う声のような物音であった。

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