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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第四章 ~記憶の祠~
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第四十一話 ~気ままな放浪者~

 バーンが構える双剣は黒い炎を纏った。初汰とユーニはそれを見ると真剣な眼差しになって剣を構えた。


「少し本気を出してやろう」

「来るぞ初汰っ」

「はい」

「数的有利をいかんなく生かすぞっ」


 初汰は返事をしようとするが、その前にバーンが動き出し、答える間もなく初汰とユーニはバーンの攻撃に備えた。

 バーンの動きは先ほどよりも遅く見えた。初汰とユーニは拍子抜けしたような気がして、少し調子を狂わされる。走り出してから目の前に移動してくるまで、初汰の視界から一度もバーンは外れなかった。

 これなら余裕だ。初汰はそう思って剣を構えた。黒い炎を纏った剣は、容赦なく初汰とユーニに振り下ろされる。


「ぐっ……!」

「ぐぬぬっ!」


 右手に持つ刃は初汰を捉え、左手に持つ刃はユーニを捉えた。黒炎を纏った刃は初汰とユーニの身体にどんどん負荷をかけていく。その莫大な力の前に二人は刃を受け止めるのが精一杯で、バーンはニヤリと微笑むと、さらに力を込めて二人を押し込める。すると二人の足場は沈み、ますます逃げ出すことが困難になる。


「初汰っ! そちらの剣も私が引き受ける」

「倍の圧力がかかるんですよ……?」

「ははっ。任せておけ」


 ユーニはそう言うと、受け止めている剣を吹き飛ばした。するとそれに伴って初汰が受け止めていた剣の圧力も消え、初汰はすぐさま横にローリングしてバーンから距離を取る。

 バーンは取りこぼした初汰を狙って踏み込む。しかしそれを遮ったのは実兄であるユーニであった。


「どけ兄者」

「悪いが退くことは出来ないっ」


 ユーニとバーンは見合ったまま、じりじりと摺り足で移動しながら間合いを取る。初汰は二人の動きから目が離せず、自分が生唾を飲む音がやけに大きく聞こえた。


「はあっ!」

「てやぁっ!」


 そうしてとうとう実の兄弟は剣を交える。刃がぶつかり合うごとに激しく火花が散り、二人は一進一退の攻防を続ける。しばらくして、初汰は自分が呆気に取られて戦闘を見入っていたことに気が付く。自我を取り戻した初汰は、右手の剣と左手のスタンガンを持ち直して立ち上がる。


「早く行くんだっ! 初汰っ!」


 ユーニはバーンの攻撃を受け流したり、受け止めたりしながら初汰に声をかける。


「お、俺だって、俺だって……」


 そうは言いながらも、初汰は自分の両腕が微かな震えを覚えていることに気が付いていた。しかしそれでも初汰は退かなかった。


「逃げるんだっ!」

「ユーニさんは?」

「私もすぐに後を追うっ! 初汰は早く仲間と合流するんだっ」


 ユーニは僅かな合間を利用して、初汰の方を向いてそう言った。


「よそ見をするな!」


 双剣がユーニに襲い掛かる。ユーニはそれを寸前で躱し、黒い炎が肌を掠めて行った。


「兄者、あまり甘く見ていると、そこの小僧も一緒に葬りますよ」

「ふん、私は絶対に倒すという事か」

「……決別のためだ」


 ボソッと呟くと、バーンは双剣を振り回して構え直し、ユーニに襲い掛かる。ユーニは真正面からその攻撃と思いを受け止め、何とかして時間を稼ごうとする。


「……一撃だけでも」


 初汰がそう呟くとともに、両腕の震えが止まった。そして剣とスタンガンをしっかりと握って走り出す。

 二本の双剣で全体重をかけているバーンに対し、ユーニは聖剣一本でその攻撃を受け止めている。バーンは怒りで視界が狭くなっているようで、走り出している初汰には気が付かない。つまりバーンは完全な無防備状態となっていた。


「そこだぁ!」


 初汰は左手に持っているスタンガンのトリガーを引く。バーンはそれに感づき、鍔迫り合いを抜けてスタンガンを回避する。


「よし、もらった……」


 伸びきっているスタンガンは初汰の力によって回収され、回避してまだ体勢が整っていないバーンに斬りかかる。しかし。


「少しは考えるようになったな。だが、甘かったな」


 初汰の攻撃はあと少しのところでバーンに受け止められてしまう。


「くそ……」

「初汰っ! 下がっていろ!」


 ユーニはすぐさま剣を構え直して初汰の助太刀に回る。


「雑魚には引っ込んでいてもらう」

「うあっ!」


 バーンは受け止めているのとは反対の手に持っている剣で初汰を吹き飛ばす。そして向かってくるユーニの攻撃に備える。


「逃げるんだ初汰っ! 君は十分やった。ここで君を失うわけにはいかないっ!」


 そう言いながら、ユーニはバーンに聖剣を振るう。


「初汰っ! あとは君のアイデアがあれば、戦闘の幅はどこまでも広がって行くっ!」


 その言葉を受けて初汰はハッとした。ユーニは本当に自分を逃がそうとしている。そう思った初汰は素早く立ち上がり、剣とスタンガンを腰に下げて時空結界の出入り口に向かって走り出す。


「うむ、それで良いのだ……」

「兄者、まずはあなたからだ」


 後方からは剣と剣が激しくぶつかり合う音が聞こえてくる。しかしそれでも初汰は振り向かずに前へ前へと向かって走り続け、そして時空結界を抜けた。


 ……時空結界を抜けて数時間。初汰はユーミル村を目指して走り続けていた。時空結界の中で一日に近いほどの時間を過ごしたはずなのだが、外はまだほの明るかった。平原を走り続け、沼地の横をすり抜け、そして初汰の視界にはユーミル村が小さく映り始めていた。


「はぁはぁ、早くみんなと合流しないと……!」


 今頃ユーミル村に戻っているであろう一行と合流し、獅子民たちを引き連れて戻ればユーニを救えるはずだ。初汰はそう思いながらユーミル村へ真っすぐに走り続ける。

 そうしてユーミル村がもう目の前に差し迫ったという時、突然村内で大きな爆発が起きた。


「な、なんだ。今の……」


 村の真後ろ側にいる初汰は驚きの余り立ち止まり、赤く燃え上がる火と立ち昇る黒い煙を見た。

 一方そのころ村の間正面入り口まで戻ってきていた獅子民たちもその爆発を目の当たりにしていた。


「爆発だと?」

「何かあったみたいですね……。早く向かいましょう」

「いや、向かうのは私とスフィーだけだ」


 獅子民は怪我を負っているリーアとクローキンスのことを見てそう言った。


「ちっ、俺は戦える」


 クローキンスはそう言いながら、既にリボルバーに手を伸ばしていた。


「クローキンス殿、あなたにはリーアを守っていてもらいたい」


 獅子民は力強く、鋭い眼差しでそう言った。


「……ちっ」


 クローキンスは伸ばしていた手を引っ込め、リーアの横に戻った。


「ありがとう。クローキンス殿」

「それじゃあ。行って来るっす」


 リーアとクローキンスを村の外に待たせ、獅子民とスフィーは村に向かって歩き出す。

 村の門前に立つと、村人たちが悲鳴を上げながら村の外に流れ出してきた。獅子民は誰でも良いから話を聞こうとしたのだが、誰も聞く耳を持たず、村の外に流れ出して、そして恐怖から村人たちは倒れ込んだ。


「大丈夫っすか?」


 スフィーは倒れ込んだ一人の村人に駆け寄り、そう聞いた。


「む、村に大剣を持った男が現れて。そ、村長が……」

「村長さんが危ないんすね? あなたたちは村からなるべく離れててくださいっす」


 スフィーはそう言うと、立ち上がって村の門を通過する。それに続いて獅子民も村に入って行く。

 村はあっという間にほとんど壊滅状態となっていた。燃え盛る村の中には一人の青年が立っており、右手に持っているギザギザの曲大剣には村長が突き刺さっていた。


「そ、村長!」


 スフィーはホルダーから苦無を取り出し、両手に構える。


「貴様は!」


 獅子民は村内に踏み入り、そして青年に向かって吠えたてる。その青年は、ブラックプリズンで戦ったファグルであった。

 ファグルは村長を突き刺したまま大剣を振り回し、そして村長を吹き飛ばす。村長は力なくゴロゴロと転がって行き、そしてそのままぐったりとしている。


「許せないっす……!」


 スフィーは風を操り、二本の苦無を宙に浮かばせる。獅子民も戦闘態勢を取り、ファグルを睨む。


「あぁ~、やっと面白そうな人たちが来たね~。って言っても、二人とも人間じゃ無いか?」


 ファグルはニヤニヤと笑いながら大剣を構える。


「なんだよ、どっちも答えてくれないなんて、つまんないな~」


 ファグルはそう言いながら、自分の持つ大剣に付着している血液を眺める。


「ここはあたしが時間を稼ぐっす。獅子民っちは村人たちの救助を頼むっす」

「だが、一人で抑えられるのか? 奴は幻獣十指だぞ?」

「任せるっす」


 スフィーはそう言うと、ゆっくりと歩き始めてファグルに近付いて行く。


「あはは、今日は君とタイマン? ま、ライオンさんは前回戦ったし、楽しませてくれるなら君一人でもいいよ?」


 大剣を弄び、そして構え直してファグルはそう言った。


「獅子民っち、任せたっすよ」


 風を操り、苦無を舞わせ、獅子民の答えも聞かずにスフィーは走り出した。


「ゲームスタート。だね!」


 ファグルも大剣を担いで走り出し、スフィーをターゲットしてその大剣を振るう。


「スフィー……。頼んだぞ……!」


 獅子民はスフィーの背中を見送り、残されている村人の救助の為に走り出した。

 宙を舞っていた苦無はファグルの背中を狙って飛んでいく。ファグルはそれに気付き、大剣を振り回して苦無を撃墜する。しかし苦無は風魔法によって再び舞い上がり、ファグルの周りを飛び回る。


「ちっ、むかつくな、この苦無」

「それがあたしの真骨頂っす」

「でも、本体を刻んじゃえば問題無いよね?」


 ファグルはニヤリと笑いながらそう言うと、大剣を構え直してスフィーに襲い掛かる。

 危険を察知したスフィーは、即座に苦無を手元に戻してファグルの攻撃を受け止める。


「へぇ~、ちゃんと手元でも扱えるんだ」

「飛ぶだけじゃないっすよ!」


 スフィーは両手に苦無を構えると、ファグルの大剣を押し切って連撃を繰り出す。ファグルは小刻みなその攻撃を、鈍い大剣で捌いて行く。


「うざったいなぁ~!」

「きゃぁ!」


 ファグルは力押しでスフィーを吹き飛ばす。スフィーの両手から苦無が零れる。しかし風魔法によってすぐに苦無はスフィーの手元に戻り、スフィーとファグルはしばし見合った。


「すぅー。はぁー。じゃあそろそろ本気出そうかな」


 にやけながらそう言うと、ファグルは先ほどよりも数倍の速度でスフィーに接近する。そして難無く大剣を振り回し、スフィーに攻撃を仕掛ける。その攻撃も先ほどより速くなっており、スフィーは防戦一方となる。


(やっぱりまだ本気じゃなかったみたいっすね……。これも恐らく……)


 スフィーはそう思いながらファグルの攻撃を躱しつつ、どんどんと村の隅に追いやられていく。

 そしてついにスフィーの背中が焦げた家屋にぶつかり、身動きが取れなくなるファグルは大剣を振り上げ、ニヤリと笑う。


「じゃ、そろそろ血を頂こうかなっと!」


 大剣が振り下ろされ、それがスフィーを喰らおうとした時。


「うぐっ!」


 大剣を振り上げたままファグルは静止した。そして数秒後には両手から大剣が滑り落ち、地面に突き刺さった。

 ファグルは小刻みに震えながら両膝を着き、震える右手で背中に刺さっている針を抜いた。


「な、なんだ、これは?」


 ファグルは針を捨て、自分の背後を見た。するとそこにはスタンガンの針を回収する初汰がいた。


「大丈夫か、スフィー!?」

「初汰! 助けに来てくれたんすね。でも修行はどうしたんすか?」

「あぁ、話は後でするから。とりあえずこいつを追い返そう」

「了解っす!」


 短い会話を終えた二人は、武器を構える。それとほとんど同タイミングにファグルは立ち上がり、地面に突き刺さっている大剣を引き抜いた。

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