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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第四章 ~記憶の祠~
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第三十九話 ~動き出した暗雲~

 スフィーは軽く数回ジャンプしながら自分の周りに苦無を戻した。


「獅子民っち。ここはあたしがやるっすよ」

「うむ、そうか。分かった」

「リーアたちに攻撃がいかないように守っててほしいっす」

「承知した」


 獅子民は背中に盾を背負っているだけで装備することは出来ないので、今回はスフィーの援護をする形になった。


「風使いで二本の苦無……」

「行くっすよ!」


 何かを考え込んでいるニッグをよそに、スフィーは二本の苦無を手元に戻し、苦無を構えると走り出した。


「あなたを倒せば虎間さんが喜ぶかもしれない」


 ニッグはそう言うと槍を構え、スフィーの攻撃を受け止めた。


「いい反応っすね。でも」


 スフィーは右手の苦無を宙に投げ、するとすぐに右足の蹴りを繰り出した。

 ――ニッグはそれに反応し、すぐさま雷の盾でガードした。


「雷……?」


 スフィーはそれを見ると一旦退き、その退き様に先ほど投げた苦無をニッグの背後に回して始動させた。


「読めますよ」


 ニッグはそう言うと、飛んできた苦無を易々と弾き、再びスフィーに向かって槍を構えた。


「槍に雷っすか……」


 スフィーは弾かれた苦無を呼び戻し、右手でキャッチして構える。


「何か問題でもありましたか」

「ちょっと引っ掛かることがあっただけっすよ!」


 スフィーは二本の苦無を投げ、己の手足でニッグに挑む。と見せかけて、足で敵に攻撃を仕掛けた瞬間に左右の手でしっかり風を操り、苦無をニッグの周りに浮遊させる。


「同じ手ばかり」


 ニッグはスフィーの攻撃を捌きながら、雷の魔法で苦無を撃ち落とす。しかし苦無はスフィーの操作で再び舞い上がり、そして再びニッグに襲い掛かる。


「何度やれば気が済むんですか」

「もう君を狙うのはやめたっす」


 それを聞いたニッグは、槍でスフィーを薙ぎ払ってドールの近くに駆け寄った。そして対峙する獅子民ら四人を見て、ニッグは槍を地面に強く打ち付けた。すると槍は短くなり、ニッグはそれを腰に下げてスフィーを見た。


「今回は分が悪いから帰る。じゃあね、同士さん」


 ニッグはそう言って右手の甲をスフィーに見せた。すると右手の人差し指の爪には灰色のマニキュアが塗られていた。それを見せ終えたニッグはドールを抱き上げると、大きなドラゴンに変化して飛び去って行った。


「……退いてくれたようっすね」


 スフィーは操っていた苦無を手元に戻し、腰のホルダーに苦無をしまった。


「奴も幻獣十指であったか」


 獅子民は飛び去って行くドラゴンを見てそう言った。


「助かりましたわ」


 まだ少し息は荒かったが、リーアは落ち着いた様子で獅子民とスフィーにそう言った。


「ちっ、迷惑かけたな」


 クローキンスも今の間に息が整ったようで、立ち上がりながらそう言った。


「二人とも無事で何よりだ」

「そうっすよ。間に合って良かったっす」

「スフィーも獅子民さんも、見た感じ試練はクリアした。ということで良いのかしら?」


 リーアは額に汗をにじませながらそう言った。


「はいっす! あたしも獅子民っちも試練を乗り越えて武器をゲットしたっす」

「ふふ、そのようね」

「うむ、私のほうはまだ扱うことは出来ないがな」

「記憶の方はどうでしたか?」

「それも私だけが戻らなくてな。私が思い出せたのは、この武器の扱い方だけだ」

「そうなんですか……」


 リーアは会話をしながら息を整え、ようやく立ち上がると服を軽くはたいた。


「あたしのほうはバッチリっすよ! それに、洞窟の中ではロークさんに会ったっす!」

「ロークさんですか? むげんの森で出会った?」

「そうっす! それもこれも全部、この洞窟の奥にいるあたしの親友、フェルムのおかげなんすけどね」

「フェルム?」


 当然フェルムの存在を知らないリーアとクローキンスにフェルムの説明をし、それと合わせてこの洞窟の仕組みや、かつてこの洞窟が虎間に襲われたことや、その時虎間に連れられていた男の子と女の子の話をし、洞窟での出来事を話し終えた。


「そんなことがあったのですね。ということは、獅子民さんの記憶は虎間という先ほどの男が持っている可能性が高いのですね?」

「そういう事になるが、今先ほどと言ったか?」

「え、えぇ。つい数十分前までは目の前に虎間とその軍隊がいたわ」

「虎間め……今更何をしに来たというのだ」

「……女の子の記憶。もしくはフェルムの完全抹殺。とかっすかね?」

「あの男ならやりかねないわね」


 四人は虎間の不可解な行動に考察を深めたが、今は考えたところで何か答えが出るはずもなく、四人は目的を達成したので、一度ユーミル村に戻ることにした。


「着々と幻獣十指が揃いつつありますね」

「うむ、そうだな。残りは三人か?」

「そ、そうっすね」

「ちっ、だがあの角男のように良いやつもいる。残りの三人が敵じゃないといいがな」


 クローキンスはそう言うと、三人の傍を離れて一人先を歩いて行ってしまった。


「今回負けたのが悔しかったんすかね?」


 少し暗くなった雰囲気を気にしてか、スフィーは苦笑いをしながらそう言った。


「それは私も同じです。先ほど戦ったニッグという彼の後ろにいた女の子。ドールと言うそうなのですが、なぜか彼女も時魔法を……」

「時魔法? リーアが使う特別な魔法ではなかったか?」

「はい。そうなんです。私には妹もいませんし、何が起きているのかいち早く調べなくてはいけません」


 リーアは遠くを見ながら、しかし確かな眼差しでそう言った。


「虎間って人。ますます気を付けなきゃいけない存在っすね」

「うむ、そうだな。幻獣十指、それに時魔法を扱う謎の少女か……。虎間軍、要注意だな」

「国家軍が動き出していると言うことは、本格的に何かが起きるかもしれませんね」

「とりあえずは初汰の帰りをユーミル村で待つとしよう」

「はい、そうですね。きっとは初汰は強くなって帰ってきます」

「そうっすね。あたしもそんな気がするっす」


 三人が顔を見合わせて笑い、前を向くと、クローキンスが立ち止まっていた。


「おいウサギ女。お前、奴となにか関係があるのか?」

「え、や、奴って誰っすか?」


 スフィーは突然の質問にしどろもどろする。


「ちっ、あの槍使いだ」

「……特にないっすよ。ただ、十指に槍と雷を使う子がいるっていうのを思い出してただけっす」

「そうか、ならいい」


 不愛想にそう言うと、クローキンスは再び黙って歩き始めた。


「はは、やっぱり自分に怒ってるんすかね?」


 スフィーも再び苦笑いをしながらそう言った。

 どこか不自然な空気のまま、一行はユーミル村を目指して暗い平原を進んだ。


 …………時は少し遡り、獅子民とスフィーが試練を始めた裏では初汰の特訓も始まろうとしていた。


「よし、ここら辺でいいだろう」


 ユーニはそう言うとまとめてきた荷物を木の根に置き、座り込んだ。


「ここら辺って……」


 初汰が周りを見回すと、目に入るのはユーニが腰かけている大木一本くらいで、超えてきた沼地すらも見えず、ただのだだっ広い平原であった。


「ただの平原じゃないの?」

「ただの平原ではない。この大木から数十メートルに結界が張られており、私、それにその他数名しかこの場には入ってこれない。ここが私の修行場だったのだ」

「へぇ~、そうだったのか……。殺風景な場所だな」

「まぁそう思うのが普通だろう。しかし何かがあっては集中できないのも事実だ」

「確かにそうだけど」

「ならつべこべ言わず修行を始めるぞ。しかしその前に茶を一杯」


 ユーニはそう言うと初汰を手招きし、横に座らせた。そして鞄の中から一本の太い枝と木で出来た器を取り出し、器を初汰に持たせた。


「なんだこれ?」

「まぁ持っていろ」


 ユーニは太い枝を器の上に持ってくると、そこで思い切り枝を絞った。すると枝から薄茶の液体が漏れ、それが器に注がれた。


「さぁ、飲め」

「こ、これ平気なのか?」

「何を言っている。平気に決まっているだろうっ!」

「はい、飲みます」


 初汰は素直にそう答えると、器を口に持っていき、茶と言われる薄茶の液体を飲んだ。


「ん、美味い」

「だろう? これで修行に身が入るというものだ」


 薄茶の液体は、現世のお茶と何ら変わりない味をしていた。詳しく言えば麦茶のような感じがしたが、味が悪くない限りどうでもいいと思い、初汰はそれを飲み干した。


「良い飲みっぷりだ」

「かぁ~、美味かった!」

「よし、じゃあ準備はいいな?」

「っし!やるか!」


 初汰は器をユーニに返して大木から離れた。ユーニは受け取ったそれらを鞄にしまうと、初汰に続いて大木を離れた。


「行くぜ!」

「どこからでも来いっ」


 初汰は腰に下げていた木の枝を剣に変化させ、左手にはクローキンスからもらった銃を構えた。それと同時にユーニも剣を抜き、本格的な修行が始まった。

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