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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第三章 ~人食い沼~
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第三十一話 ~最奥の神木~

 クローキンスらがサスバ村襲撃を阻止しているころ……。


「あの二人大丈夫かな~」

「大丈夫に決まっているわ。ユーニさんもクローキンスさんも、実力は相当よ」

「うむ、そうだな。彼らならきっとサスバ村を救ってくれるはずだ。ならば私たちはユーミル村を救うことに尽力しよう」

「そうだよな。今はこっちに集中しなきゃ」


 初汰は気を取り直し、三人は再び歩き始めた。

 獅子民、リーア、初汰の順番で、開けた沼地を歩き続ける。


「ここ……なんだか入り口に似た空間ですね」

「ん、確かにそうだな」

「うむ、もしかしたら出口が近い。または行き止まりが近いのかもしれないな」


 初汰たちは辺りを見回しながら沼地を進んでいく。そしてもうすぐで沼地の中央に着こうとしたとき、


「だ、誰か~! 聞こえないっすか~!」


 上から声がする。それに反応して上を見上げると、巨木の梢に取り込まれているスフィーがいた。


「す、スフィー!」

「こんな奥まで来ていたのですね。今助けます!」


 リーアは風魔法で枝を切る。初汰はその着地点に潜り込み、スフィーを受け止めた。


「うっし、大丈夫か?」

「は、はいっす……」


 助けたは良いものの、スフィーはなんだか元気が無かった。


「大丈夫か、スフィー?」

「な、なんか力が入らなくって……」

「むぅ、何があったかは覚えているか?」


 駆け付けた獅子民がそう聞く。


「それが、ここに来たらいきなりあの枝につかまれて……。気づいたら宙吊りだったっす……」

「何者かが操っているとしか考えられませんね……」


 初汰たちが考え込んでいると、急に地鳴りがし始める。


「な、なんだ!?」

「近いようですわ!」


 考えている頭を止め、獅子民とリーアは後ろに下がった。初汰はスフィーを抱えながらそれに続いた。

 ゴゴゴゴゴゴ。

 地鳴りは激しくなり、沼地の中央部分から神木と同等の木が生える。


「おい、これって……」

「えぇ、私たちが切り倒した神木にそっくりですね」


 しかしユーニと倒した神木とは違う部分があった。それは神木の幹に人間らしきものが埋まっていることであった。


「あ、アレは人間か?」


 獅子民は神木に目を凝らしながらそう言った。


「ま、マジだ。あいつも飲み込まれそうなのか?」

「どうなのでしょうか……。でもスフィーのように叫んでいないところを見ると、もう死んで……」


 リーアは言葉を濁して飲み込んだ。

 地鳴りが止み、神木らしきものの動きも止まった。


「これが生えたからって何だってんだ?」

「分からないわ。とりあえず様子を見ましょう」


 初汰たちは静けさの中神木を眺めた。すると風のせいか、神木の枝が揺れ始める。


「何か来そうですね……」

「うむ、構えよう」

「スフィー、立てるか?」

「はいっす……」


 初汰はスフィーをゆっくりと下ろし、腰の枝を剣に変化させた。

 神木らしきものは激しく揺れ始める。辺りの木々は然程揺れていないことから察するに、この木自体が揺れているのだと初汰でさえ分かった。


「初汰、リーア、来るぞ!」

「おう!」

「はい!」


 三人はスフィーを囲むように構えた。すると枝の一本がスフィー目掛けて飛んでくる。


「やっぱりこいつがスフィーを吊り上げてた犯人だな!」


 初汰は伸びてきた枝を切り落とす。


「む、こっちも来たぞ!」


 獅子民も伸びてくる枝を噛み千切る。


「こっちも来ました!」


 リーアの方にも枝が迫ってきていた。リーアはそれを風魔法で切り落とす。


「クソ、どこからでも襲ってくるな」

「今は耐えましょう」

「そうだ、向こうも魔法か何かで枝を動かしているはずだ!」


 三人はしばらく伸びてくる枝を切り落とし続けた。足元に落ちたはずの枝は沼地に吸い込まれ、再び枝が生え始める。


「初汰、これは最初の神木と同じシステムかもしれません!」

「ってことは……。切っても意味が無い!?」

「そう言うことよ。少し私を守れるかしら?」

「お、おう。でも何すんだ?」

「あの木に飲み込まれている人に魔法を放ってみるわ」

「なるほど、賭けだけどやるしかねーよな」

「はい。ではお願いします」


 初汰はリーアの傍に寄り、迫り来る枝を切り落とし始める。リーアはその間、大きな風魔法の詠唱に移った。

 少し時間はかかったが、初汰が十本近い枝を切り落とす間に威力の高い風魔法を練り終えた。


「行けます!」

「こいつが邪魔だな」


 初汰はリーアと神木の間に伸びる枝を切り落とした。


「よし! 行けるぜリーア!」

「はい! 届いて!」


 リーアは木に飲み込まれている人物目掛けて風魔法を放った。

 風魔法は真っすぐ飛ぶ。それを遮ろうと枝が何本も立ち塞がるが、強力な風魔法によって全て切り落とされていく。その間、すべての枝が防御に回っているようで、初汰たちに襲い掛かる枝は無くなった。


「はぁはぁ、助かった……」

「ありがとうね。初汰」

「いやはや、枝はあの人物を守ろうとしているのか……」

「見た感じそうみたいですね」

「あいつを切り落としてさっさとワクチンを手に入れようぜ」

「うむ、そうだな」


 三人は風魔法の行方を目で追った。スフィーは立っているだけでも辛そうで、膝に手をついて項垂れていた。


「私がスフィーの傍にいます。お二人には木の方をお願いしてもいいでしょうか?」

「おう、任せておけ!」

「うむ、スフィーを頼んだぞ」


 初汰と獅子民は風魔法が飛んでいった軌道に沿って気に近付いて行く。


「ごめんなさいっす。リーア」

「いいのよスフィー、気にしないで」


 スフィーは項垂れたままリーアに謝った。その声は沈み切っていた。


「お、もう少しで魔法が当たるぞ」


 風魔法は威力が高いことに引換、速度はそこまで出ていなかった。それがようやく木に当たろうとしていた。


「よし、もう少し詰めるぞ」


 獅子民と初汰が更に近づこうとしたとき、魔法が木に直撃した。


「うあぁぁぁぁあ!」


 木に飲み込まれていた人物が声を上げたようであった。


「あいつ、生きてたのか!?」

「ならば尚更追撃をせねばならんな!」


 初汰と獅子民は走って木に近付く。枝はもう襲ってこない。


「はぁはぁ、木からいなくなってる……」

「沼に落ちているわけでもない……か」


 パシャパシャ。

 木の向こう側から足音がする。二人はそれを聞いて木の裏に回った。するとそこには一人の少年が歩いていた。


「あいつが元凶か?」

「そうなのかもしれないな」


 獅子民は木の裏側を見てそう言った。初汰は獅子民の視線を追って木の裏側を見た。するとそこには無数の人間が飲み込まれていた。全員が養分を吸われており、残るは皮一枚と言ったところであった。


「な、なんだこれ……。こいつ、人間を食って成長してきたのか……?」

「うむ、これは人間を食う植物……マンドラゴラなのかも知れんな」

「マンドラゴラ……か」


 初汰と獅子民は木の裏側を見終わると、足を引きずっている少年を追った。


「はぁはぁはぁはぁ」

「おい待て」


 初汰は走っていた少年を捕まえ、強引に振り向かせる。


「お前が黒幕か!?」

「はぁはぁ、そうだよ……。父さんと母さんの為にやったんだ」

「親のために?」

「そうだよ。車いすの男の人に言われたんだ。ユーミル村を襲えば、上にいる父さんと母さんに危害を加えないし、この沼に誰も近づけないって」


 少年は涙目でそう訴えた。初汰はそんな少年に手を伸ばし、起き上がらせた。


「悪いけど、それ騙されてると思うぜ?」

「そ、そんなことない!」

「じゃあ沼は平和だったか?」

「それは……」

「君を人殺しにしようとしていたんだぞ?」

「……ってるよ。分かってるよ! でも下っ端の僕はこうしないと父さんと母さんを守れないんだ!」


 少年は初汰の腕を振り払い、右手を初汰に向ける。


「おいおい、何すんだよ。さっさとワクチン渡してくれよ」


 初汰は半笑いで少年に近付こうとする。しかし初汰に向けられていた少年の腕が木に変わり、初汰に伸びてくる。


「うおっ! なんだ!?」

「下がれ初汰!」


 獅子民が初汰と少年の間に入る。


「オッサン、気を付けろよ?」

「あぁ、彼がマンドラゴラなのだとしたら、アレに触れれば私たちの養分は吸われるぞ」

「だよな。俺も思ってたところだ」


 初汰と獅子民は少年の腕から伸びる木を避ける。


「はぁはぁ、僕は負けられないんだ!」


 少年は左手も前に出し、木に変化させると初汰に向かって伸び始める。


「あいつ、左手もかよ!」

「手強いな、近づけんぞ」


 初汰と獅子民は伸び迫る木に恐れをなし、なかなか少年に近付けない。


「クソ、切るしかねぇか!」


 初汰は枝を剣に変え、伸びてくる木に刃を立てる。


「初汰! 迂闊に振ってはダメよ!」


 少し遠くにいるリーアはそう言うと、風魔法を放つ。魔法は伸びてくる木に向かって飛んでいき、初汰の剣が木に当たる直前、先に魔法が木を切り落とした。


「ぐあぁぁあ! 僕の腕を……」

「あっぶねぇよリーア!」

「あなた、自分の力のシステム分かってるんでしょうね?」

「あ……。さ、サンキュなリーア!」


 初汰は冷や汗をかきながら少年の方を見た。


「はぁはぁ、僕が何したって言うんだよ……。僕が幻獣との合成に成功したのがいけないの……?」

「げ、幻獣ってことは……」

「うむ、やはり彼はマンドラゴラとのキメラ。そして……」

「十指の一人か」


 少年は変化を解除し、両手を下ろす。

 初汰と獅子民も武装を解除し、ゆっくりと少年に近付いて行く。


「おい、落ち着いたか?」

「僕に近付くな!」


 少年に逃げる気配は無く、両腕をぶら下げながら初汰に向かって叫ぶ。


「初汰、もっと慎重にだ」

「わーってるよ」


 初汰と獅子民は一度足を止め、ひそひそと話す。


「そうだ、ここに来る前、リックと言う老紳士に会ったぞ。彼は君の知り合いなのではないか?」

「リック……」

「そういや、俺もミックって婆さんに会った!」

「ミック……」


 少年は項垂れたままブツブツと呟いている。


「リックおじさん……ミックおばさん……。僕の世話係だ……」

「世話係とな?」

「……そうだよ。執事さんとメイドさん」

「なるほどなぁ~。それで君を守ってたってわけか」

「あの二人に何をしたの……?」

「え、いや、何もしてないぜ?」

「うむ、そうだ。何もしていないぞ。むしろ君を助けてくれと頼まれたぞ」

「僕を……?」


 少年は顔を上げて獅子民を見た。


「おい、それ本当なのか?」


 初汰は小声で獅子民に聞く。


「うむ、そのようなことは言っていた。私はそう解釈した」

「な、ならいいけどよ……」


 獅子民はひそひそ話を止め、少年の方を見返す。


「名前も伺ったぞ。君の名前はランドル。だろう?」

「そ、そうだよ……。じゃあ本当に二人に会ったんだね?」

「あぁ、そうだとも。彼らは君のことを心配していたぞ。君が悪人になることは望んでいない」

「二人が……。分かったよ。ワクチンは渡す。でも条件があるんだ」

「なんだ? 何でも言ってみろよ?」

「僕の父さんと母さんを救ってほしいんだ。僕はこの沼を出れないから付いて行くことは出来ないけど、情報なら提供するから! 約束してくれたら、ワクチンも渡すよ」


 初汰と獅子民はランドルの真剣な目を見ると、一度顔を見合わせた。


「良かろう。私たちも上に用があるのでな。君の両親を助け出すと誓おう」


 獅子民は力強くそう言った。しかしそうは言ったものの、獅子民には助け出せる確信など無かった。


「ありがとう!」

「いいのだ。困っている人を助けるのも目的の一つだからな」


 ランドルは尚も両腕を下げながら、初汰と獅子民に近付いてくる。


「実はワクチンなんて無いんだ。僕が能力を解除すれば村の人たちはみんな治るよ」

「え、えぇ!? マジか!?」

「本当はお兄さんたちみたいな人が来るのを待っていたんだ……。ここはきっと、僕を閉じ込めるために作られた沼地なんだよ」


 ランドルは微かに笑いながらそう言った。


「じゃあ本心では……?」

「うん。僕の意志では無いよ……。でも僕のせいで爺やと婆や、それに村の人たちに迷惑をかけちゃったのは事実だよ……」


 ランドルはそう言いながら跪いた。


「僕を殺してよ……。そうすれば村の人たちは救えるし、両親も、爺やも婆やも救われるはずだもん……」

「それは違うと思うぜ?」

「え?」

「お前がいるから、爺やも婆やも、両親も、苦痛を耐えられるんだと俺は思うぜ?」


 初汰はそう言いながらランドルに右手を伸ばした。


「お兄さん……」

「うむ、初汰の言う通りだ。人はな、何かを守るために強くなれる生き物だと私も思うぞ」

「ライオンさん……。僕、村の復興を手伝うよ。勿論能力も今すぐ解除する!」

「よし、よく言った!」


 初汰はランドルの手を掴み、立ち上がらせた。初汰が掴んだランドルの右手小指には緑色のマニキュアが塗られており、それを見た初汰と獅子民は、顔を見合わせて軽く頷いた。


「じゃあ、解除頼むな?」

「うん、早速今から取り掛かるよ。お兄さんたちが村に戻るころには、きっと終わってるはずだよ」

「おう、頼んだぜ!」


 初汰はそう言うと拳を突き出した。


「えっと……?」

「お前もこうやって手を出しみ?」

「うん……」


 ランドルは言われるがままに右手を握って前に突き出した。初汰はそれを見ると、右手を近づけてグータッチをした。


「よし、これで約束だ!」

「……うん!」


 初汰とランドルは約束を交わし、ひとまず神木の近くに戻る。そこにランドルを下ろし、初汰と獅子民はリーアたちと合流した。


「どうやら、交渉成立のようですね?」

「あぁ、ばっちしよ!」

「危うかったがな。はっはっはっ!」

「でしたら早く村に戻りましょう。曜周さんからの連絡があるかもしれませんし」

「そうだったな。あっちも上手くやってくれてると思うんだけどな……」

「うむ、それでは脱出するとしよう」


 獅子民を先頭に、一行は来た道を戻ろうとしたが、それをランドルが引き留める。


「待ってください! こちらで出口を作ります」


 ランドルがそう言うと、沼地の木々がざわめきだし、沼地の最奥が開け、見覚えのある平原が視界に飛び込んできた。


「うぉぉお! 懐かしさすら感じる!」

「ずっと薄暗い沼地の中でしたからね」

「さぁ、ここから脱出してください!」

「ありがとな、ランドル!」

「うん! 約束。守ってよね!」

「任せとけ!」


 初汰は右手を天に掲げ、ランドルが開いた道を進んでいった。


「助かったぞ、ランドル殿。時間はかかるかもしれないが、必ず両親を救って見せよう」

「うん! ライオンさん!」


 獅子民は鋭い眼差しでランドルを見ると、目でさよならを訴えて、初汰を追った。


「それでは失礼しますわ」

「うん。その、すみませんでした。ってそっちのお姉さんに伝えといてください……」


 ランドルは、リーアが肩を貸しているスフィーを見てそう言った。


「えぇ、分かったわ」


 リーアは優しい笑みとともにそう言うと、獅子民の後に続いた。

 リーアが歩き始めると同時に、初汰が引き返してきた。


「わり! 俺も手伝うよ!」


 初汰はそう言って、スフィーの左についた。


「ふふ、ありがとう」


 こうして沼地を脱出した初汰たちは、平原を南に進んでユーミル村を目指して歩き始めた。するとその時、初汰のポケットに入っていたテレポーターが振動した。


「お、連絡が来たみたいだ。ちょっと止まってもらってもいいか?」


 初汰の声で獅子民とリーアは止まった。そして初汰はボタンを押し、電話に応じる。

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