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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第三章 ~人食い沼~
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第二十四話 ~一角の男~

 一方、初汰とリーアは雑魚の木人を倒しつつ、迂路を探していた。


「くっそ~、どこにも道っぽいのねーじゃん!」

「困ったわね、体力を奪われるばかりよ」


 二人は歩き回った挙句、獅子民たちと分断された根っこの場所に戻ってきていた。


「戻ってきちまった……」

「木人がいて自由に動き回れないのもあるわね」

「こんなんじゃゆっくり道なんか探してらんねーよ」

「……待って、木人は十何体もいるのに、全員がこちらに来ていないわ」

「……確かに」

「それに、ほら見て」


 リーアは木人が生成される巨木の梢を指さした。


「私たちは今木人を倒していない。なのに木人が増えているわ」

「ほ、本当だ!」

「つまりこの場に私たち以外の何者かがいるってことよ」

「よし! そいつを探すぞ!」


 初汰は勢いよく沼を歩き出す。しかしすぐに立ち止まって振り向く。


「どうやって?」

「はぁ、考えも無しに歩き出したの?」


 リーアは呆れて項垂れる。


「おう、体が動いちまったんだよ」

「全くもう、いい? 今生成されている木人が落ちてきて、それが向かった方向に誰かがいるはずよ。恐らく生成される木人は、自分を倒した人物にターゲットを変更するはず。だから迂闊に攻撃しないでよ?」

「う、うぃっす!」


 初汰とリーアは体力の消耗を抑えるため、立ち止まって新たに生成される木人を眺めた。そしてそれが人型に整うと、スカイダイビングをするように宙に投げ出され、そして沼に着地する。


「落ちてきたな」

「えぇ、あまり近づきすぎずに追うわよ」

「了解~」


 二人は静かに歩き出した。木人に視覚や聴覚が無いと分かっていても、尾行をする人間の本能が二人をそうさせた。

 落ちてきた木人はゆっくりと行動を開始する。ターゲットは確かに初汰やリーアでは無いようであった。歩き始めた木人の動向をうかがっていると、リーアが静かに話し始めた。


「初汰、あの木人、自分が生まれた枝の影に沿って進んでいるわよ」

「え、まじ?」


 リーアにそういわれた初汰は、上と下を交互に見る。するとリーアが言った通り、伸びる枝の真下を綺麗に沿って歩いていた。


「でも、どういうことだ?」

「……あくまでも予想だけれど、この何体もの木人を生み出している根源を攻撃しに行った人物がいる。としたら……?」

「ま、守らなきゃいけない……?」

「そう、つまり今は、私たちよりその根源を攻撃ている人物を真っ先に始末しようとしている。っていう妄想はどうかしら?」


 リーアはにこりと笑って初汰を見た。


「そりゃ楽しい妄想だね。それに賭けてみよう」

「ふふ、それじゃあ行くわよ」


 初汰はリーアの前に入り、木人を追って行く。木人はよろよろと時折沼地に足を取られながら、確実に歩を進めた。そして最終的には、獅子民らと分断された地点から、反時計回りに回った九時の方向に木人は進んで行った。


「あっちは見たはずだよな……?」

「えぇ、おかしいわね……」


 二人は声のボリュームを抑えて会話をする。


「もしかしたら抜け道があるのかも知れないわ」

「う~ん、それしか考えられないよな……」


 初汰はリーアから目を逸らし、再び木人の監視を始める。目を戻した瞬間、木人がこれまたゆっくりと身をかがめていた。そして両手を沼に突っ込み四つん這いになると、根っこが絡み合って進めさなそうなところを無理矢理に進んでいく背中が見えた。


「いやいや、あそこは通りたくないよな?」

「それは……でも通るしかないでしょ?」

「無理そうなら俺が根っこを切るぞ?」

「いいのよ、こういうこともしてみたかったの」


 そう言うとリーアは初汰の前に出た。そして先ほどのように忍ぶことは止め、水を大きく掻きわける音を立てながら絡み合った根っこの一つに右手を触れた。


「ちょっとリーア……!」


 声は潜ませるものの、初汰も足音を大きく立てながらすぐにリーアのもとに寄った。


「それじゃあ、行くわよ」

「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれよ。その、ねぇ?」

「はい? ……こほんっ。そうね」


 リーアは少し頬を赤らめながら、ひらついているロングスカートの乱れを正した。


「んじゃ、俺先に行くから」

「えぇ、その……少し切ってもらえると助かるのだけれど」

「スカートを?」

「違います! 根っこですよ!」

「あぁ、こっちね。任せとけって」

「向こうに着いたら合図をしてちょうだい」

「はいよ~」


 初汰は裾と袖をたくし上げると、躊躇なくその抜け道に入っていった。


「はぁ、初汰で助かったわ」


 時たまに根っこを切る音が聞こえる。その音が止むと再び水音を立てながら初汰が進んでいくのがリーアには分かった。そして、


「着いたぞ~」

「はい、分かりましたわ」


 初汰の声を聞くと、リーアはロングスカートが垂れないようにたくし上げ、中腰で抜け道に入っていく。


「冷たいっ!」


 中腰のせいで腰ギリギリまで沼に浸かる。


「大丈夫か~?」

「え、えぇ、心配ないわ」


 リーアは平静を取り戻し、抜け道をゆっくりと抜け終える。


「足びっちょびちょだな」

「ちょっと、どこ見てるんですか?」

「あ、いや! ごめん!」


 初汰はすぐに目を逸らす。リーアはスカートのポケットからハンカチを出し、濡れた太腿を拭き、そしてスカートを下ろした。


「さぁ、行きましょう」

「は、はいぃ~」

「なんですか?」

「何でもないですよ~だ」


 抜け道を抜けると、そこには追ってきた木人はそれに加えて数十体の木人がいた。


「何だこの量!」

「ちょっと初汰っ」


 リーアは初汰を引っ張って少しでも巨木に身を隠そうとする。


「なんだっ! 新手か!?」


 初汰とリーアの声に反応し、奥から勇ましい声が届く。


「答えるべきか……?」

「まだ様子を見ましょう……」


 初汰とリーアは少し様子を伺った。


「出てこないならこちらから行くぞ!」

「ヤバそうだぜ?」

「出ましょう」


 初汰とリーアはわざと大きな音を立てながら沼地を進み始める。


「博打に出るぞ?」

「えぇ、頼んだわ」

「よし……。おい! あんたも木人を相手にしてるのか!?」

「そうだっ! 貴殿らもか!?」

「おうよ! こっちからも攻撃すっから、そっち頼むな!」

「任せておけっ!」


 初汰が振り向くと、リーアは頷きながら微笑んでいた。


「うっしゃ! やるぞ!」


 初汰は木の枝を剣に変化させ、近くの木人に切りかかる。


「援護は任せて!」


 リーアも両手に魔法を纏い、いつでも発射できる体制をとる。


「おらぁ!」


 初汰は強引な剣捌きで木人をなぎ倒していく。


「初汰、後ろ!」


 リーアは初汰の背後を取った木人に向かって風魔法を放つ。


「っぶね! さんきゅ、リーア!」

「前ばかり見過ぎよ!」

「気ーつけるよっと」


 またしても初汰は直進していってしまう。


「はぁ、学習してよね……」


 リーアは呆れながらそれについて行く他無かった。

 その後木人を二三体倒した二人は、声が聞こえたほうに向かって走り続けた。抜け道を出てからしばらく真っすぐ進んできたが、最初の木を右に曲がると、そこには今までの木とは比べ物にならないほど大きい巨木、いや、神木が生っていた。


「で、でっけぇ!」

「こ、これはすごいわ……」


 二人はそのスケールのデカさに口を唖然とさせた。

 しかし木人の攻撃で二人はすぐに我に返る。


「こいつら、湧いてくるの早すぎるだろ!」

「仕方ないわ! ターゲットが一点に集中しているのだから。向こうからしたらむしろやりやすいわ!」

「クソッ。こんなの構ってねーでさっさと元を断ちたいのに!」

「焦っても仕方ないわ。一体ずつしっかり倒すのよ」

「わーってるよ」


 初汰は疲れが出始めており、握る剣を乱暴に振るう様になってきていた。そのせいで疲れは増すばかりであるのだが、初汰はそれに気付いていない。


「はぁはぁ、くそ! 寄ってくんな!」

「初汰、息が上がってきてるわよ」

「大丈夫だよ。はぁはぁ、それより、片付けたから少し進もう!」

「え、えぇ」


 ようやく二人を囲んでいた十数体の木人を片付けると、木の根元で激しい戦闘が行われているのが目に入る。


「あ、あそこに!?」

「きっとあそこに声の主がいるわ!」


 二人は息を上げながら沼地を急いで進む。


「おーい! 大丈夫か!?」

「ん? おぉ、ようやく援軍が来たか!」

「微力ながらお手伝いしますわ」

「ありがたい限りだっ! まずはこの木人を一緒に片付けようっ!」

「うぃっす!」

「はい!」


 囲まれている男性への道を作るため、リーアは遠くから風魔法で木人を二体倒す。初汰は出来る限り早くその集団に近付いて行き、リーアが開けた道に飛び込む。


「どけどけー!」


 初汰は木人数体に軽傷を与えながら囲みに中心部にたどり着く。


「大丈夫か!?」

「あぁ、問題ない。早速だが背中は任せるぞっ」

「おうよ!」


 初汰は逞しい背中に自らの背中を合わせ、木人数体と対峙する。


「一気に片付けて、一気に根源を断つぞっ!」

「了解ー!」


 初汰は目の前の敵に集中した。背中を任された以上、初汰は癖である特攻を抑えて敵の攻撃を待つ。

 一体の木人が攻撃を仕掛けてくる。その攻撃をギリギリで躱すと、仕掛けてきた右腕を切り落とし、その勢いのまま頭を切り落とす。


「よし、一体!」

「こっちは二体だっ!」

「負けてらんねーぜ!」


 初汰は攻撃を仕掛けてくる木人を次々と倒しいく。そこにリーアも合流する。


「遅れました!」

「こっちは任せておけ、もう終わるぞっ!」

「よし、リーア! こっちもサクッと片付けるぞ!」

「えぇ、やるわよ」


 初汰は一番近い木人を相手にし、リーアは遠くに位置する敵に魔法を放つ。


「あと一体だぜ!」

「腕は私が落とすわ!」


 リーアは風邪魔法で木人の両腕を落とす。


「もらったぜ!」


 初汰はがら空きになった木人の首を落とす。


「こちらも始末したぞっ!」

「ならさっさと根源を攻撃しようぜ」


 初汰はいち早く神木に攻撃をしに行こうとする。しかし大きな手が初汰の肩を引く。


「待て、私がやる。君たちには見張りを頼みたい」


 初汰が振り向くと、そこには額から一本の白い大角を伸ばした大男が立っていた。


「うおわっ!」

「敵かっ!?」

「い、いえ。貴方様に驚いたのかと……」


 そういうリーアも少し腰が引けていた。


「あ、あぁ。すまぬな。私はキメラでな」

「み、見りゃ分かるけど……」

「ははっ! そうだな。私はユーニと言うものだ。よろしくな」

「俺は初汰、よろしく」

「私はリーアです」

「引き留めて悪かった。今はこの木を切ることを優先しようではないか」


 ユーニはそう言うと、腰に下げている柄から剣先まで真っ白な剣を抜き、大股で神木に近づく。

 神木の前で立ち止まると、ユーニは白い剣を両手で持ち、天に掲げる。


「ぬらぁぁぁぁあ!」


 ユーニは雄たけびを上げると、掲げていた剣を振り下ろす。

 剣は神木の幹を深く抉る。それとともに数体の木人が泥に吸い込まれていく。


「なんちゅう馬鹿力だ……」

「あなたとは違って剣の扱い方が上手いのよ」

「ぐっ、その通りかもしれない……」


 ユーニはもう一度剣を振り上げ、そして抉られた場所目掛けて的確に剣を振るう。

 ザクッ! バキバキッ

 剣は幹の芯を捉え、横一線にヒビが入る。


「ふんっ! ぬらぁぁあ!」


 幹に咥えられた剣をヒビに合わせて振り抜こうとする。


「いやいや、無理だろ」

「いえ、どうかしら」


 リーアがそう言うので、初汰もユーニに目を戻す。すると剣を握る両手が神々しく輝きだす。そしてユーニは剣を左に向かって振りぬく。眩い一線が幹を走り、神木は重音を立てながら右側に倒れた。


「ま~じか~」


 出来ると思っていなかった初汰は、驚きのあまり半笑いとなっていた。


「なんて力……」


 これにはリーアも唖然と立ち尽くした。


「はぁはぁ、案外すぐに切れたな」

「アレで本気じゃなかったのかよ……」

「計り知れないわね。とにかく彼のもとに向かいましょ」

「おう、そうだな」


 初汰とリーアは数秒立ち尽くしたのち、神木の切り株を前に深呼吸をしているユーニのもとに向かった。


「凄いんすね! こんな大木を二振りで切るなんて」

「ははっ! そうかな?」

「えぇ! 圧巻でしたわ」

「ありがとう、素直に受け取っておくよ」


 ユーニは素直に喜びながら剣を鞘に納めた。


「ところで、貴方はなぜここに?」


 リーアは分かり切っていたが念のために聞いた。


「私は下の村の疫病を治すために薬を取りに来たんだ」

「そうだったのですか、実は私たちも村に入るために薬を取りに来たのですよ」

「なに、そうなのか?」

「そーだぜ! だけど途中で仲間とはぐれちまってよ」

「そうか……。ならばここは協力する。というのはいかがかな?」

「本当ですか? そう言ってもらえると、私たちも心強いです」


 リーアは思い通りに事が進み、笑いながら答える。


「ありがとう。脱出後には何かお礼をさせてくれ」

「いいんすか!?」

「ちょっと初汰っ」

「ははっ! もちろん。ここで助けられたのは事実だからね」

「んじゃ、お言葉に甘えて~」

「はぁ、すみません」

「良いんだよ。ただ、今は一刻も早く薬を村に届けたい」

「えぇ、そうですね。詳しい話は脱出してから。ですね?」

「ははっ、察しがよくて助かるよ。では奥に進もうか」

「おう! さっさと黒幕ぶっ倒してやる!」


 リーアはユーニとの交渉を成立させ、三人は行動を共にすることとなった。


「この木、いい感じに倒れてんな」

「えぇ、しばらくはこの木の上を進むのも悪くないかもしれないわね」

「ははっ、そうだな。これなら疲れずに済みそうだ」


 ユーニはそう言うと、自分が倒した神木に足をかけて上がり、木の上を歩いていく。


「私たちも行きましょう?」

「おう、そうだな」


 初汰とリーアも倒れた神木に上り、ユーニの後を追って木の上を歩き始めた。その三人を追う影はもう見受けられない。

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