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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第二章 ~ブラックプリズン~
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第二十話 ~共有の力~

 初汰、獅子民、曜周の三人は、傷付きながらも出来るだけ早いペースで上階を目指していく。

 地下四階、コロッセオのような円柱型の牢獄を経て、地下三階の迷路に戻る。その迷路を出口まで示すのは、道端で気絶している警備兵である。初汰と獅子民は心の中で少しファグルに感謝した。こうして三人はようやく地下二階に帰還する。


「や、やっと戻ってこれたぁ~」


 曜周に肩を貸す初汰は、地下二階にたどり着くとすぐに座り込む。


「ありがとう少年。大分体調も良くなった。あとは私が自分で歩こう」


 曜周は初汰の肩を抜け、一人で立った。


「初汰、獅子民さん!」


 大袈裟な音を立てて開いた隠し階段に気付いたリーアとスフィーが駆け寄る。その後ろにはクローキンスもいる。


「良かった、無事だったのですね?」


 リーアは安堵から、ほっと一息つく。


「あぁ、悪かったな。時間かかっちまったわ」

「もう、これからがあるんですから無理しないでくださいよ? 獅子民さんも」

「う、うむ、すまない……」

「あ、えっと、取り乱してすみません」


 ここでようやくリーアは曜周の存在に気づき、ペコリと頭を下げる。


「いやいや、いいんだよ。助けてもらった身だからね」


 曜周はにっこりと笑いながらリーアに返す。


「あなたが最下層に閉じ込められていた……」

「えぇ、反逆の罪で囚われていた、網井戸曜周と言います」

「私はリーアです。よろしくお願いします。こちらはスフィーです」


 スフィーはリーアからの紹介を預かり、軽く頭を下げる。


「よろしく。私に聞きたいことがあったら何でも聞いてくれ。私はこれからも君たちの協力をしていくつもりだからね」

「あざっす、曜周さん」

「ありがとうございます。ですが今は休むことを優先しましょう」

「うむ、それがいいな。ひとまずサスバ村に戻ろう」


 …………。

 こうして一行はブラックプリズンを脱獄し、山岳地帯まで戻ってきた。

 初汰、獅子民、リーア、それにスフィー。この四人は少し先を歩き、曜周にはクローキンスが肩を貸していた。


「はっはっ、悪いね肩を貸してもらって。して、君の名前は?」

「クローキンス・バルグロウだ」

「バルグロウ……」

「その口ぶり、やはり知っているのか?」

「あぁ、あの時は私も国家軍に属していた。私が強い意志で反発していたら工業地区は……」

「後悔話はいい。俺が聞きたいのは国家軍についてだ」

「分かった。私が知りえる範囲で話そう」

「助かる」


 曜周は少し間を開けて、再び話始める。


「あの時の国家軍は戦争に勝利したばかりであった。皆がその功績を我が物のしようと内紛が各所で起こった。しかしそんな大事を国王が見逃すはずもなく、各所の内紛は密かに鎮圧された」

「だがなぜ今再び……?」

「それは、国王が病床に伏せたからだ」

「国王が、か?」

「そうだ、国民には知らされていない。それこそ、その当時の国家軍幹部だけが知っている話だ」

「ちっ、なるほどな。だからあいつは……」

「なんだ? 誰か接触してきたのか?」

「あ? あぁ、そうだ確か……」


 ――クローキンスが答えようとしたそのとき、初汰が二人に声をかける。


「おい! 二人とも早くしろよ!」


 初汰の声に会話を遮られた二人は、ほっと一息をついてから足早に初汰たちのもとに向かった。


「悪かったな、少年」

「初汰がすみません。怪我をされているのに急かすようなことを言って」


 初汰の横にいたリーアは頭を下げながらそう言う。


「だって曜周さんに聞きたいことがいっぱい……すんませんした」


 初汰は焦る気持ちを露にしたが、リーアが鋭くこちらを睨んでいることに気づいて頭を下げた。


「はっはっはっ、仲が良いんだね。ほら、頭をあげて村へ向かおうじゃないか」


 曜周は二人の頭を上げさせると、クローキンスに引き続き手伝ってもらいながら山を下り始めた。それに続いて初汰たちも山下りを再開した。


「あ、そー言えば。着くまでに何個か聞きたいことがあんだけど」


 初汰は後ろから曜周に話しかける。


「ん? なんだい?」

「えっとまずは、何歳なんすか?」

「はっはっはっ、そうだね。この見た目じゃ年寄りに見えるね。と言っても四十間近だよ」

「へぇ~、早く髭剃った顔見たいなぁ~」

「はっはっはっ、そうかい?」


 曜周は嬉しそうにそう言った。


「あと、この右手。どういう原理だったんだ?」


 初汰は治療してもらった右手を少し上げてブラブラさせる。


「うむ、それは私も気になっていた。話せるのなら聞かせてもらいたいところだ」


 獅子民も初汰の意見に賛同する。


「そうだね、皆にも説明しておくべきだとは思っていたよ。まずは力を解除しよう」


 曜周はそう言うと、初汰の右手に触れた。すると初汰の右手にはたちまち痛みが蘇ってくる。


「いってぇ~!! なんだこれ! また折れたのか!?」

「はっはっはっ、違う違う。私の力は『共有の力』と言ってね。相手に自分の一部を貸すことが出来るんだ。あくまでも私の一部だから……」


 曜周は再び初汰の右手に触れる。


「おぉ~、痛みが消えた! ん? でも何も起きないぞ?」

「よし、じゃあ動かすよ?」


 曜周はそう言いながら自分の右手を高く上げる。するとそれに連動して初汰の右手が勝手に動き出す。


「な、なんだ!? どうなってんだ!?」


 初汰は自力で腕を下ろそうとするが、腕はまったく下がらない。


「言っただろう? それは今、私の腕になっているって?」

「なんちゅう力だよ……」

「でもね、今君に腕を貸しているってことは、今君の腕が損傷を受けると僕にダメージが入るんだ。だからこうやって……」


 曜周は左手をクローキンスから離し、足元に落ちていた木の枝で初汰の右腕に傷をつけた。すると痛みを感じるどころか血も出ない。


「全然痛くね~」

「そうだろうね。ほら、これを見てごらん?」


 曜周はそう言って自分の右手を前に出した。するとじんわりと血が滲み出ていた。


「大丈夫すか!?」

「あぁ、これくらいなら全然」


 曜周はそう言って笑いかけた。


「私治療します」


 リーアはそう言って曜周の右手に両手を添えた。


「君は……」

「どうかしましたか?」

「い、いや。ありがとうね」

「いえ、どういたしまして」


 曜周は治療を施してくれたリーアの顔をじっと見つめると、ニコリと笑って初汰の方に向き直った。


「とまぁ、私の力はこんなところかな?」

「ふむ、なるほどな。曜周殿も不思議な力を扱う一人なのだな」

「……あぁ、そういうことだ」


 曜周は少し不服そうに獅子民の言葉に返す。


「ちっ、もういいだろ。さっさと情報屋がいるとか言う場所に向かうぞ」


 クローキンスは半ば強引に曜周の腕を自らの肩に回し、先に歩き始める。


「なぁ、ずっと喋ってない奴が一人いるだろ?」


 クローキンスはぼそっと曜周に呟きかける。


「あぁ、彼女がどうした?」

「あいつ、声が出ないんだ……それだけだ」


 そう言うとクローキンスは口を噤んだ。


「そうだったのか、分かったよ」


 曜周は先ほどとは違ったクローキンスの一面を見れて笑った。


「怪我人を強引に引っ張るなよ!」


 初汰は小走りにクローキンスと曜周のもとに向かった。


「私たちも行きましょうか?」

「うむ、そうだな」


 先行した三人に続いて、獅子民、リーア、スフィーと続いて下山していった。


 …………。下山し終え、一行は平原に戻ってくると来た道をそのまま戻ってサスバ村に帰ってきた。


「はぁ~、すっかり日も暮れたな~」


 初汰は既に暗闇を纏い始めているそれを見上げてそう言った。


「そうですね。今ですと丁度酒場が活気づいているかもしれませんね」

「普段ならそうかも知れぬな」


 獅子民はまるで閉店しているような口ぶりであった。


「どういうことですか?」

「あぁ、実は釦型のテレポーター兼テレフォンで連絡を入れておいたのだ」


 ここに向かう途中、獅子民は予め酒場に連絡していたことをみんなに伝える。


「そうだったのですか」

「ちっ、用意周到だな。助かる」


 クローキンスは棒状のラムネを口にくわえながらそう言う。


「早く酒場に戻ろうぜ~。腹減ったよ~」


 初汰は両手を前にだらーんと垂らしながらそう言った。


「そうだな、私もゆっくり座りたいところだ」


 曜周も笑いながら酒場への到着を急かした。


「話していたら見えてきたぞ」


 獅子民の言葉で全員が一斉に前を見た。するとそこには今朝出発した酒場が構えていた。


「帰ってきたぁ~!」


 初汰は走って、クローズと掛けられた酒場の扉を開けた。それに続いて全員が酒場に入店する。


「ご無事で何よりです」


 それをすぐにスワックが迎えた。そして例の通りスタッフルームに案内されると、そこにはテーブル一杯の料理が用意されていた。


「飯だ~!」

「朝食以来ですね」

「私も力を使いすぎたせいか空腹だ」


 初汰を筆頭に全員が食事を求めて席に着く。


「いただきます!」

「えぇ、どうぞ」


 スワックがそう言うと、初汰は他の皆を待たずに食事を始める。


「はぁ、まったく……。すみません」


 リーアは申し訳なさそうに少し頭を下げる。


「いえ、いいんですよ。私にはこれくらいのことしかできませんから」


 スワックは微笑みながら返す。


「そうですか、ありがとうございます。私もいただきます」

「それでは、私も頂くとするか」

「ちっ、そうだな。冷めちまう方が勿体ない」


 スワックの気遣いに感謝しながら、ほかの仲間も食事をとる。


「オッサンでもクローキンスでも良いんだけどさ、次はどこに向かうんだ?」


 初汰は骨付き肉を頬張りながら切り出す。


「ちっ、俺は明確な目的地はもうない。聞きたいことも聞けたしな」


 クローキンスはぶっきらぼうにそう答える。


「うーむ、そうだな。安直だが、山岳の向こう側にあるユーミル村には興味があるところだな」

「なんでだ?」

「今のところ、情報屋を近づけていなかった。と言う点だけだ」


 獅子民は明言し終えると、皿に頭を突っ込んで残りカスまで綺麗に食べ終える。


「そうですね。私もそれは気になっていました」


 リーアはテーブルナプキンで口を拭きながら、獅子民の意見に同意する。


「どうだ初汰?」

「ん~、まぁとりあえず前進あるのみか!」


 この世界を全く知らない初汰にとっては、獅子民やリーアに付いて行く他無かった。


「うむ、ならば決まりだな。曜周殿もそれでいいか?」

「……そのことだが、すまない。私はこれ以上ついてはいけない」

「なんですか?」

「自分のことだからよく分かる。私はもう長くない」

「あ、えっと……」


 初汰は勢いを失って口ごもる。


「それでしたら、ここに残ってはどうですか?」


 少し忍び無さそうにスワックが言葉を挟む。


「い、いいのですか?」


 曜周も想定外だったようで、目を丸くしながらスワックを見る。


「はい、ここでなら獅子民さんたちのサポートも出来ます」

「なるほど、通信機か……」

「ご存知だったのですね?」

「ここに来る道すがら、獅子民から聞きました」

「なら話は早いです。是非私とともにサポート役に回ってください」

「私としても、曜周殿がサポートにいると助かる」

「俺も俺も!」


 獅子民と初汰は声を出して曜周が酒場に残ることを願った。声を出してはいないものの、リーアとクローキンス、それにスフィーも頭を縦に振っていた。


「はっはっはっ、ここまで期待されては残るしかないですね。分かりました!」


 曜周は全員からの期待に応えるため、スワックとともに酒場に残り初汰たちをサポートすることを誓った。

 その後、全員が夕食を終え、一行は再び酒場で一泊してから出発することとなった。そしてその夜。


「スフィー、だったかな?」


 スフィーが寝付けず椅子に腰かけていると、曜周がゆっくりとその隣に腰かけた。


「…………」

「声が出ない。だったかな?」


 曜周はそう言うと、暗がりで視界が悪いようで目を細めてスフィーの顔を覗き込む。


「喉に触れてもいいかな?」


 目の前で共有の力を見ていたスフィーは静かに頷く。

 それを確認した曜周は、そっと右手を伸ばしスフィーの喉に触れた。


「ぁ……あ、あ。こ、声が出る……」

「良かった良かった。とりあえずは応急処置だからね。あとは君が乗り越えるんだよ」

「は、はいっす……!」


 スフィーは音を立てないようにそっと立ち上がり、喉を軽く鳴らして小声を出しながらリーアが寝ている部屋に入っていった。


「これでよかったのかな?」


 曜周は地べたに寝転がるクローキンスを見た。


「ちっ、かもな」


 クローキンスは寝言のようにそう呟くと、テンガロンハットを目深に被った。曜周はそれを見て少し微笑むと、用意された自分の布団に戻った。


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