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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
外伝 ~花鳥風月~
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第十七話 ~魔力暴走~

「あっ、一個目見つけたっすよ!」


 敵の攻撃を回避しながら、巨体の左足にある月花晶石を見つけたスフィーが声を上げた。すると、


「ちっ、こっちもあった」


 続けてクローキンスは右足にある月花晶石を発見し、二人は敵から少し離れた場所で合流した。


「で、ここからどうするっすか?」

「さぁな。とにかく――」


 パッと思いついた作戦を伝えようとしたクローキンスだったが、突然右腕に激痛が走り、その場に頽れた。


「どうしたっすか、クロさん!」

「くっ……。大丈夫だ、この程度……」


 そう言って無理に立ち上がろうとするクローキンスの顎から、束の間に汗が数滴落ちた。


「すごい汗っすよ……。とりあえず、あたしが敵の気を引くっす。だからそのうちにどこかに隠れるっす」

「ちっ、大丈夫だと言ったはずだ……」


 瘦せ我慢をして立ち上がって見せたものの、激痛が引かない右腕は寸分も上がらず、流れる汗もしとどで、どこからどう見ても危険な状態であった。


「ガッハッハッハッハッ。魔力暴走を起こしても立ち上がるとは。その根性は誉めてあげますよ」

「魔力暴走?」


 巨体から発せられた低く胃を震わせるようなおぞましい声を耳にしたスフィーはクローキンスの右側に回り、そして灰色に変色したその右腕を発見した。


「これが魔力暴走……。確かに本で読んだ通りの見た目っす」

「はぁはぁ、緩和する方法は、ねぇのか……」

「無いっす。あるとしたら……」

「ちっ、腕を落とすってことか」

「はいっす。……いや、でも」


 スフィーは何かに気付いたようで、クローキンスにコソコソと耳打ちをした。


「フッ、今更何かに気付いても遅い。まとめて粉々にしてやりますよ!」


 ひそひそと策を練る二人を見下しながら嘲笑すると、ライレットは両腕を振り上げ、思い切り振り下ろした。


「それじゃ、ひとまず逃げるっすよ」


 返事をする体力も惜しんだクローキンスは小さく頷くと、スフィーと同じ方向に逃げ出した。起伏が激しく勾配が続く山岳地帯は巨体になったライレットとは相性が悪く、登ろうとしてもその巨体故にずり落ちてしまった。それを察知していたスフィーはクローキンスを連れて上へ上へと逃げ、敵の攻撃がギリギリ届かない岩裏に逃げ込んだ。


「ここまで来れば、少しは、時間が稼げるはずっす」


 息を切らせながらそう言うと、スフィーは苦無をホルダーに収めて両手をフリーにした。


「すぅー、はぁー。やってくれ……」

「少しの辛抱っす」


 汗だくのクローキンスを見つめて頷きながら声をかけたスフィーは、両手を差し出し、クローキンスの右腕にかざした。と言うよりは、月花晶石にかざした。そして一気に魔力を注ぎ込むと、それに反応した月花晶石が青く光った。


「ぐっ、がぁっ……!」


 スフィーの風魔法が強くなるにつれ、月花晶石もその輝きを増す。そして忽ち石が緑色へと変色したかと思うと、今度はクローキンスの全身が光り、その直後、その光の全てが月花晶石へと吸収されてしまった。


「はぁはぁ、終わった、のか……?」


 全身の発光が収まったクローキンスは、ぐったりと身体を岩に預け、気だるげに言った。


「終わったっす。これでもう、二度と魔法は使えなくなったっす」

「ちっ、上等だ」


 クローキンスは精一杯の微笑みを浮かべて言うと、右腕に装着されているギプスを外し、そして足元に転がっている掌サイズの岩を、生気を取り戻した右腕で拾い上げ、そしてギプス目掛けて振り下ろした。

 ――甲高く激しい音とともに、ギプスに埋め込まれていた月花晶石が外れて落ちた。するとクローキンスは再び右手を振り上げ、今度は地面に落ちた月花晶石に振り下ろし、それを粉々にした。


「馬鹿ですね。愚かですね。僕の攻撃が届かないと思ったのでしょうが、甘いですよ」


 余裕の様子でそう言うと、ライレットは全身を震わせた。すると紫色の大粒が何滴か地面に飛び散り、それがあっという間に人間体のライレットに擬態して、スフィーとクローキンスが身を隠している岩目指して走り出した。


「分離も出来るんすね……。クロさんはここで弾丸を作っててください。あたしが小粒たちの相手をするっす」

「ちっ、頼んだ」


 クローキンスはそう答えながら地面に散らばっている月花晶石を寄せ集めた。スフィーはそれを横目に岩陰から飛び出すと、ホルダーから苦無を取り出し、雑魚の掃討を開始した。


「ちっ、弾は最低でも六発ありゃ良い……」


 何発も作っている時間は無いと考えたクローキンスは、ライレットの体内に潜むコアの数ぴったりの六発だけを作ることにした。集めた月花晶石の欠片の中から、小さい欠片は除去してなるべく大きい欠片を選りすぐり、まだ感覚が優れぬ右手で欠片を拾い、それをやすり、形を整えた月花晶石を弾頭代わりに薬莢へ詰める。次いでウエストバッグからシリンダーを取り出すと、チャンバーに一発一発特製の弾丸を込めていき、六つの穴すべてに弾丸が装填されたことを確認すると、シリンダーをポケットにしまい、クローキンスも岩陰から姿を現した。


「ようやく出てきましたか」


 分裂体をスフィーにけしかけて高みの見物をしていたライレットは、岩の陰から出て来たクローキンスを認めて呟いた。しかしそれとほぼ同時にクローキンスが連結銃を右手に持ち、照準を自分に向けたことを目にしてライレットは身構えた。


「右手で構えている? どうやって魔力暴走を……」


 クローキンスの射撃を警戒したライレットは、もう一度身体を震わせて自らの分身体を生み出し、それらをクローキンスに向かわせた。


「ちっ、やっぱりこいつの出番はもう少し後だな」


 ズボンの左ポケットに入っているシリンダーの質量を感じながらクローキンスは呟いた。そしてウエストバッグから普通の弾丸が込められている弾倉を取り出すと、それを連結銃にはめて斜面を下って行く。


「準備完了だ」

「もう終わったんすか?」


 考え無しに襲い掛かるライレットの分身体を蹴り飛ばしたスフィーは、後方から声を掛けたクローキンスの方をチラリと見てそう返した。


「あぁ、弾はぴったり六発分だけ作って来た。接近して確実に撃つ」

「オッケーっす。援護は任せるっすよ!」


 スフィーは作戦を聞き取りながら分身体の第一波を退けると、次いで第二波に向かっていく。クローキンスはその背後からノーマル弾でスフィーを援護しつつ、その視界の端には常にライレット本体を捉えていた。


「あたしのことは気にせず、先に行っちゃって良いっすからね!」

「分かってる。が、確実性を上げるためにも、一歩ずつ行くぞ」

「はいっす!」


 魔力を貯蔵するための月花晶石が埋め込まれていない分裂体たちは、スフィーの体術でも、クローキンスの弾丸でも、何か一発でもモロに喰らえば爆散するので、二人はあえて焦ることなく、的確に一体一体を処理してライレットの足元まで迫って行く。


「フッ、もう分裂体は必要なさそうですね。では、試合再開と行きましょうか」


 戦闘開始時よりほんの少しだけ小さくなったライレットは、迫り来る小粒同然の二人を見下ろしてそう独り言ちると、今度は腕を振り上げるような大きな動作では無く、少し腰を曲げ、地を走るアリを摘まみ上げるが如く、スフィーとクローキンスに狙いを定め、じっくりと敵の行動を伺った。


「攻撃パターンを変えてきたっぽいっすね」

「ちっ、想定通りだ。ここからはまず、両足を狙う」

「オッケーっす。なるべく弾丸の存在は悟られないように陽動するっす」


 スフィーは駆けながらそれだけ伝えると、クローキンスの答えを聞く前に全速力でライレットの足元に飛び込んだ。


「ちっ、あからさまに飛び出しやがって……」


 あっという間に走り去るスフィーの速さをクローキンスなりに賞賛しつつ、彼自身もライレットの体内に埋まっている月花晶石を撃ち抜ける射程に走り込んだ。


「なるほど。機動力で攻めて来るつもりですね」


 目にも留まらぬほどの速さで接近して来るスフィーに釘付けとなったライレットは、摘まみ上げようと広げていた両手をグッと握り締めて拳を作ると、やたら滅多らに地面ごと殴り尽くす手数、パワー型の戦闘スタイルに変化させた。


「うわっと! 戦い方を変えてきたっすね。でも、速さなら負けないっすよ!」


 隕石のように降り注ぐライレットの拳を掻い潜りながら、スフィーは更に加速する。


「これ以上加速するというのか……!」


 少しだけ焦りの色を見せながら、ライレットも拳を振るう速度を上げる。


「はぁはぁ。クソ、クソクソクソ! ちょこまかと動くな!」


 身体と共に気も大きくなったライレットは、声を荒げながら右腕を地面に叩き付けると、そのまま地面の上を思い切り滑らせ、薙ぎ払いを繰り出した。


「普通の人なら避けられないかもっすけど――」


 迫り来る右腕はまるで紫色の壁であった。しかしスフィーは両足のみを変化させると、ウサギの驚異的な跳躍力を以て空中に飛び上がり、そのまま薙ぎ払いを仕掛けて来た右腕に飛び乗った。


「あたしなら、こんなことも朝飯前っすよ!」

「くっ、振り落としてやる!」


 自らの腕に乗ったスフィーが目に入ったライレットはすかさず右腕を浮かせた。次いで腰も浮かせると、なるべく高い位置からスフィーを振り落とせるように立ち上がった。


「かかったっすね――」


 スフィーがそう言うも束の間、痛烈な発砲音が二回鳴り響いた。通常とは違う発砲音にライレットが疑問を抱いた直後、突然ライレットの身体がガクッと沈んだ。


「な、なにっ!」

「ちっ、まずは両足だ」


 連結銃の先からは煙が薄く立ち昇っていた。加えて中空には微かに青緑色の軌跡が残されており、その二本のラインは真っすぐライレットの両足深くに埋まる月花晶石に到達していた。


「ば、バカな! この身体を貫いただと?」


 弾丸が直撃した月花晶石は即座に小爆発を起こしたかと思うと、忽ちジェル状の両足が爆散し、そこにはゼリー状の海が広がった。すると支えを失った巨人の上半身は当然の如く落下を始め、つい先ほど出来たばかりのクッションに腹から落ちた。


「よっと。やったっすね」


 弾丸が月花晶石に到達する刹那に離脱を成功させていたスフィーは、クローキンスの手前に着地を決め、少しだけ振り返ってそう言った。


「あぁ、だがこれからが正念場だ」

「そうっすね」

「まだだ! まだ僕は負けていない!」


 腹ばいになっていた巨体は怨嗟の声を上げると共に強靭な両腕で上半身を起こした。そしてまるで地面から上半身だけが生えているかのように腰部を地面に接地させると、両腕を大きく広げた。


「こちらの方が却って動きやすい。それに魔力の流れも良くなった様だ!」


 ライレットがそう言って高笑いを始めると、彼の周囲に火の球やら氷柱やら岩石やらが浮遊した。


「ぶっ壊す! ぶっこわす! ブッコワス!」

「ちっ、何が起きてんだ」

「これも一種の魔力暴走かもっすね。まぁとにかく、今は月花晶石を壊した方が良さそうっす」

「だな」


 二人は短い会話を交わして再び散ると、飛び交う様々な魔法を回避しながら敵の隙を伺った。しかし我を失い、魔力が尽きるまで際限無く放たれるライレットの魔法を完璧に掻い潜ることは不可能だと思い至った二人はある程度離れた場所で合流した。


「ちっ、無理だ。流石にアレを躱しながらコアは狙えねぇ」

「狙う事だけに集中出来たらどうっすか?」

「なに? そんなことどうやって」


 クローキンスのその問いに対し、スフィーは苦無を収めてその場で四足歩行に切り替えた。


「ちっ、お前一人で陽動に回っても危険なだけだ」

「違うっすよ。あたしの背中に乗るっす!」


 スフィーはそう言いながら全身に金色の毛を纏うと、額の角がみるみるうちに伸び、あっという間にアルミラージへと変化を遂げた。その姿は以前よりも一回り大きくなっており、クローキンス一人だけならば十分に乗れそうではあった。


「正気か? 振り落とされるだろ」

「大丈夫っす。あたしの風魔法と、この角があれば」

「……ちっ、やるしかねぇか」


 ここまで来てスフィーが止まることはないと悟ったクローキンスは、諦めてスフィーの毛むくじゃらな背中に飛び乗った。


「おっ、クロさん案外軽いっすね」

「ちっ、んなことはいい。提案したんなら全部躱せよ」

「もちろんっす。さぁ、行くっすよ」

「あぁ」


 淡白な返事を背中で受けると、スフィーは自らとクローキンスを覆うように風魔法を纏い、スタートダッシュを切った。

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