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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
外伝 ~花鳥風月~
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第十四話 ~縺れ~

 話が再開されたのは、それからおよそ十分後であった。気を取り直したダゴットはベルトをフェルムに返し、何かを誓うようにロケットペンダントを天にかざしてから左のポケットにしまうと、近くの岩に腰を下ろして自らの過去を語り始めた。


「俺のフルネームはダゴット・レイガード。元傭兵だ。とは言っても、当時はアヴォクラウズに行くか反乱軍で犬死するかの二択しか無かったから、俺はアヴォクラウズに付いていた。蜂起する反乱を何度も返り討ちにし、周囲の村々を制圧し、信頼と評価を獲得して一年くらいが経った頃だ。正規国家軍への勧誘が来た。さっきも言った通り、実質国家軍か反乱軍かの二択しか無かった状況に、俺はアヴォクラウズが勝ち馬だと信じて誘いに乗った。が、それが間違いだった。配属された途端家に帰れる日も無くなり、怪しい実験で仲間が減っていき、変な力を持った奴が方々で現れて小規模な争いが頻発し始めた。そこで俺は家族を連れて国を離れようと考えた。だが、もう遅かった。翌日、二枚の通達が来たんだ。一枚は俺に、西の大陸への出向命令。そしてもう一枚はエルクスに、国家下部組織への強制入寮の報せだった。息子は軍部の奴に連れ去られ、俺は半ば流刑扱いで西へ出た。……その日を最後に俺たちは、俺の家族は、バラバラになったんだ」


 伏し目がちに話をしていたダゴットは所々で間を取りながら経緯を語り終えた。すると彼は疲れ切った様子で更に項垂れ、目を瞑って深呼吸をした。そんなダゴットの姿を見て、スフィーはどんな言葉を掛けるべきか悩んだ。その場にいる他の仲間に期待をしてみても、クローキンスは励ますとも思えず、ロークはダゴットに同調して暗い表情を浮かべていた。しかしただ一人、フェルムだけはスフィーよりも先に動き出し、ダゴットの両肩にそっと手を乗せた。


「月並みな励まししか浮かばないし、私もアヴォクラウズの一員だから一緒に国を滅ぼそうとも言えない。けど、一人の人間として、あなたの願いを手伝うことは出来る。それに、私もエルクス兄さんに会いたいし、救いたい」


 フェルムの切実で澄明な言葉を耳にしたダゴットは頭を上げた。そしてしばらくフェルムの顔を見つめると、ため息とともに再び俯いた。その様子を見ていたスフィーは、このままでは押しが足りない。と感じ、すかさず口を開いた。


「そうっす。あたしたちも手伝うっすよ!」


 フェルムの発言を強調するために数歩前進しながらハキハキと声を上げ、スフィーはじっとダゴットのことを見つめた。すると彼はゆっくりと立ち上がり、全員の顔を見回した。


「……俺は奴の、青い不死鳥の正体を知って、それでいて部下全員を危険に晒した。今は奴を討ち取る覚悟でいるが、いざアイツを目の前にしたら何が出来るか分からん。それでも良ければ付いて来てくれ」


 まるでその場にいる全員の答えを知っているかのような口ぶりで締め括ると、ダゴットは踵を返して無人島の奥へと続く道を歩き出した。その背中には、何者をも受け付けず、突き放すような孤独やら責任やら迷いやらが混淆して纏わりついていた。常人ならばその背中を見て気圧されただろうが、幸いにもこの場にはそれで気が滅入る者は一人もいなかった。フェルムを筆頭に、スフィー、クローキンス、ロークも歩き出し、四人はダゴットの後に続いた。


「お、お前たち。付いて来るのか?」


 足音でスフィーたちの存在に気付いたダゴットは、その場で立ち止まって振り返り、付いて来るのが信じられないと言ったような調子で四人のことを見た。


「何言ってるんすか。付いて行く以外に選択肢なんか無いじゃないっすか」

「まさか、私たちが付いて来ないと思ったわけ?」

「あ、いや……」


 スフィーとフェルムの勢いに圧倒されてダゴットは口ごもった。するとその間に二人の女はダゴットの横を通り抜け、情報を伝え合いながら先を歩いて行った。


「ははは、パワフルですよね、あの二人。でも、言ったことは曲げないですし、戦闘能力も高いので、とても心強いんですよ」


 ロークは笑顔でさり気ないフォローを入れると、先を行くスフィーとフェルムを追った。するとそんなロークとは対照的に、クローキンスは無言でダゴットの横を抜けて行った。


「こいつら、想像以上だったな……。だが、利用できるものは利用させてもらう」


 前を行く四人の背中を見つめて独り言ちると、ダゴットは再び歩き出した。

 その後スフィーとフェルムは互いに得た情報を提供し合いながら先を歩き、男三人はその背中を黙って追った。そして間もなく一行は山岳地帯を越え、荒野が一望できる峠まで上った。


「ニッグの話通りなら、例の研究所はこの荒野のどこかっすね」

「火浦花那太の研究所。こんなところに隠していたのね……」


 クレーターだらけの荒野を見下ろしながら、スフィーとフェルムは自分たちの会話を中断して目を見張った。するとそこへクローキンスたちも到着し、同じく荒野を見下ろした。


「やっと視界が開けましたね。まぁ、決して良い景色とは言えませんが」

「そうね。ま、人が住んでないんだから当然っちゃ当然よね」

「それに、コレくらい不気味な方が人も寄って来なくて都合が良さそうっす」


 スフィー、フェルム、ロークの三人はそんなことを話しながら荒野へと続く傾斜を下り始める。


「この先に……」


 残されたダゴットは他者の目を気にする様子もなくそう溢すと、クローキンスを残して傾斜を下って行く。そんなダゴットに続いてクローキンスも歩き出そうとしたその時、ズボンの左ポケットに入れていた通信機が振動した。クローキンスは先を行く四人の様子を伺った後にポケットから通信機を取り出すと、ボタンを押して通信を開始した。


「ちっ、どうした?」

【腕の調子はどうかなと思いましてね】

「至って平常だ。……用はそれだけか」

【いえ、伝えたいことがありましてね】

「ちっ、今更なんだ」

【今まで、ありがとう、ございました。サヨウナラ】

「ちっ、おい、ライレット。ふざけてんじゃ――」


 クローキンスが思わず相手の名前を漏らした直後、通信が途絶えた。かと思うと、今度は一行の背後の空に青い炎がバッと灯り、クローキンスが立つ峠目掛けて降りかかって来た。しかしクローキンスがそれに気付く様子もなく、燃え滾る青い火の玉はクローキンス目掛けて真っすぐ落下してくる。そして炎が数メートルまで迫ったその時、


「クロさん!」


 先に傾斜を下り始めていたはずのスフィーがクローキンスに飛びつき、二人はそのまま上って来た傾斜を半分ほど転げ落ちた。するとその直後、先ほどまでクローキンスが立っていた峠に大きな炎が直撃し、壮大な爆風と衝撃波が生じた。


「ゴホッゴホッ! ちっ、なんだ、今のは?」

「あたしにも分からないっす……」


 砂埃や爆風や衝撃波が収まった頃を見計らい、スフィーとクローキンスは足場の悪い傾斜に立った。そして未だ薄く残る砂埃の向こうに目を凝らすと、そこに泰然と立つエルクスを認めた。


「ちっ、あの野郎」

「待つっす、クロさん。今あたしたちは挟み撃ちに出来てるっす。幸い、相手はこっちに背を向けてるし、慌てて飛び出す必要はないっす」

「向こうの連中が無事とは限らねぇだろ」

「大丈夫っす。急いで傾斜を下っておくように言ってから来たっすから」


 スフィーはそう言って腰を屈めると、近くの岩場に身を隠した。それを見たクローキンスも渋々岩の裏に隠れて敵の様子を伺おうとしたその時、峠に立つエルクスは背中に青い炎で出来た翼を顕現させ、少しだけ浮遊するとそのまま峠の向こう側に飛んで行ってしまった。


「ちっ、待て!」


 クローキンスは咄嗟に連結銃を抜くと、瞬時に翼へと照準を合わせてトリガーに指を乗せた。そしてそれを引こうとした瞬間。

 ――クローキンスの脇腹を鋭利な何かが掠めた。それで体勢を崩されたクローキンスは発砲することが出来ず、すぐさまスフィーがいる岩場に身を隠した。


「な、なにが飛んできた……」


 先ほど自分がいた場所から少し先の坂道には、氷柱が突き刺さっていた。


「氷柱ってことは、氷魔法っすかね」


 スフィーがそう言った直後、今度は火球と雷が岩場に降りかかる。


「ちっ、こいつは……!」


 何か勘付いたクローキンスは連結銃を構えて岩場を飛び出した。そして廃村がある方をパッと見渡すと、そこには見覚えのある白いシルクハットに真っ白いコートを来た男が立っていた。


「お前……」

「貴方たちのお相手は僕です」


 男がそう言ってシルクハットを横へ放ると、先ほどまで通信していたはずのライレットがその正体を露にした。


 ――一方峠の向こう側。時は青い炎落下前に遡る――

 後続を気にしながら先を歩いていたスフィー、フェルム、ロークだが、突然スフィーが何かを聞き取ったように耳を直立させて立ち止まったことでその前進は一時中断された。


「どうしたのよ、スフィー」

「クロさんの様子がおかしいっす」

「クローキンスさんが?」

「ここに来るまでずっとそうだったんすよ。隠れて誰かと通信してるみたいで……。あたし、ちょっと見てくるっす」


 二人にそう告げてスフィーが踵を返したその時であった。丁度空中に巨大な青い炎の玉が出現したのは。


「二人とも走るっす! ダゴットさんも!」


 スフィーは三人に指示を出すと、足を一部変化させて傾斜を駆け上り、そしてその勢いのままクローキンスに飛びついて廃村の方角へ消えて行った。


「あっ。スフィーさん!」

「あの子なら大丈夫よ! むしろ、このままじゃ私たちの方が危ないわ!」

「た、確かにそうか。分かった。もう少し下って、僕の岩魔法の裏に隠れよう」


 ロークの提案に頷いて応えると、フェルムは少し引き返してダゴットの背中を両手で掴み、自らの背に赤い炎で出来た翼を生やして低空を疾駆した。そして予め先に下っていたロークと合流すると、すぐその場で岩魔法を唱えてもらい、簡易的な障壁を作った。と安心した次の瞬間、青い業火は峠に着弾し、衝撃波と砂埃を巻き上げた。

 多少地響きが収まったことを感じ取ったロークが岩魔法を解くと、三人は峠を見上げた。すると砂埃の中で薄く映る人影があり、それを三人が認めた直後、突如双翼が羽ばたいて砂埃をかき消した。そして隠されていたエルクスの姿が露呈し、間もなく彼は飛び上がり、フェルムたちに火球を放ちながら上空を通り過ぎ、荒野に再び着地した。


「だいぶ動くようになってきたな。それにしても、少しやり過ぎたか?」


 安全地帯に着地したエルクスは首やら指やらの骨を鳴らして独り言を漏らすと、自らの魔法で濃く立ってしまった砂埃が収まるのを待った。

 そして数秒間そこを見つめていると、だんだん砂埃が晴れて標的の姿が浮かび上がって来たのだが、その影を見てエルクスは思わず眉をひそめた。砂埃の向こうには、大きな岩が一つ存在するだけなのであった。


「ふんっ。これくらいは出来るか」


 ひそめていた眉を瞬時に戻すと、エルクスは一転して微笑みを浮かべた。するとそれに応えるかの如く、岩がバラバラと崩れ、その中にいた三人がエルクスの目に留まった。ダゴットは既に武器を構えており、ロークは片膝立ちで地面に両手を着いており、フェルムは真っすぐとエルクスのことを睨んでいた。


「あなたには悪いけど、私は全力でやらせてもらうわよ」

「あぁ、もちろんだ。俺も全力でアイツを止める」


 フェルムとダゴットの二人はそう言いながら数歩前進する。


「良かった。それじゃ、遠慮なくやらせてもらうわ!」


 そう宣言すると、フェルムは腰の左右にぶら下がっているホルダーにそれぞれ手を突っ込み、そこから素早く何かを取り出した。そしてフェルムが構えると共に、それは真の姿へと変貌する。


「この鉄扇で思い出させてみせるわ」


 絢爛豪奢な絵が描かれた二つの鉄扇を各々の手で軽やかに扱うと、フェルムは再び戦闘態勢を取った。


「ぐっ、なんだ。こんな時に頭痛なんて……。そうか、それほど奴らに魔力が宿ってるってことか……!」


 一瞬目眩と頭痛に襲われたエルクスだが、武器を構えているフェルムとダゴットに後れを取らないよう、自らも剣を構えてそこに青い炎を纏った。

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