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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第二章 ~ブラックプリズン~
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第十六話 ~地下二階~

 初汰たちはあまり離れず自由に牢獄を進んだ。


「それにしても不気味だな~」

「そうですね。罪人の集合団地みたいなものですからね」

「ちっ、まだマシな方だ」


 クローキンスは不愛想にそう言った。

 確かにクローキンスが言った通り、狂気じみた叫び声や行動は見られない。まだ地下二階と言うこともあり、罪が軽い連中が収容されているようだ。


「俺は無実なんだぁ!」

「出してくれ~!」


 そんな叫びが左右から飛び交い、初汰たちが歩く中央で共鳴している。


「はぁ~、ずっとこんなの聞いてたら頭がおかしくなりそうだ」

「そうね。早く用事を済ませて脱出しましょう」


 流石のリーアも少し顔を引きつらせ、不気味そうに周りを見回していた。

 地下二階は長いトンネルのようであった。おそらく一本道であるのだろうが、その先は暗く階段は見当たらない。そんな中を歩き続けていると、等間隔に配置されていた松明が無くなった。


「あれ、松明無くなっちまった?」


 初汰は最後の松明に駆け寄った。するとそれと同時に壁にぶつかった。


「いて! どういうことだ? 行き止まりじゃねーか!」


 近くを調べたが、それらしいスイッチやレバーは無く、隠し扉があるとは考えられない。


「ちっ、早速なにかの仕掛けか?」

「さっさと出たいのに謎解きしなきゃなんねーのか!?」

「そう騒ぐな。我々は真っすぐ歩いてきただけだ。見落としがあったかもしれん」

「獅子民さんの言う通りです。この道中に何か仕掛けがあったかもしれません」


 初汰は顔を渋らせながら、今来た道を戻り始めた。


「ちっ、面倒なことをしてくれる」


 クローキンスも首を横に振りながら、地下二階の捜索に当たった。


 …………。一行はしばらく辺りを探し回ったが、それらしいものは見つからず、地下二階の中間だと思われる場所に集合した。


「どうだった?」

「いいえ、こっちはなにも」

「私の方もだ」

「ちっ、俺もだ」


 スフィーも首を横に振る。


「かぁ~、誰も収穫なしか~!」


 初汰は少し大きな声をあげた。それも囚人の声に交じって消えていった。と思われたが、その声に反応する誰かがいた。


「おい、そこに誰かいるのか!?」

「やっべ……」

「ちっ、次から次へと」

「とりあえず隠れましょう」


 先ほどの捜索で、囚人がいない牢屋には鍵がかかっていないことを知っていた一行は、散らばって各々空いている牢屋に入った。初汰と獅子民。リーアとスフィー。クローキンスは一人で牢屋に入った。


「とりあえずこれで凌げればいいんだけどなぁ~」

「うむ、そうだな。目立たぬようにしよう」


 獅子民は牢屋の奥に消え、なるべく明かりが当たらない場所に座った。初汰は様子を見るために、柵を握って通路を見た。丁度初汰がいる向こう側にはリーアとスフィーがおり、二人も初汰とアイコンタクトを取ると、牢屋の奥に消えた。クローキンスはどこにいるのか見当たらない。初汰と同じ列の牢屋に入ったのだろう。と、初汰は通路に目を戻した。


「おい、ここら辺だったよな? 声がしたのは?」


 初汰たちは勿論返事をせずに息をひそめる。


「なんだよ、誰もいねーじゃねーか」


 暗がりの奥から現れたのは、一人の青年であった。徐々にその姿が露呈し、初汰は現れた青年を見て柵から離れた。それはここに来る道中で小石をぶつけてしまった大剣の青年であった。


「おーい! 誰もいねーよな!?」

「だ、出してくれ!」

「看守だ……。またしごかれる」

「看守か? あんな奴いたか?」


 青年の問いかけに、周囲の囚人たちがボソボソと喋る声が聞こえてくる。


「看守ではないのか……?」

「彼が所有しているのはあの大剣だけらしい」

「見た感じそうだよな」


 初汰と獅子民は青年から目を離さずに会話をする。獅子民は尚も陰に隠れている。


「誰もいないならまぁいいか」


 青年は背中に背負っていた大剣を抜き、ちょうど初汰たちとリーアたちがいる牢屋の目の前で、思い切り大剣を地面に突き刺した。すると、軽く地面が揺れ、隠し階段が現れた。


「あんなところに……!?」


 初汰は驚きで少し前のめりになる。おそらく向こう側にいるリーアも見ているはずだ。


「さてと、さっさと終わらせますか」


 青年は地面に刺さった大剣を抜き、再び背負った。そして階段を降りようと一歩踏み出す。――


「おいおい! 誰の指示でここに来たんだ~! あぁ? ファグル!?」


 ファグルと呼ばれた青年は、踏み出した足をもとの場所に戻し、そこからさらに少し後ずさりした。すると隠し階段から一人の男が姿を現した。髪はオールバックのようで、口髭と鋭い目つきが特徴的であり、それに加えてスーツ姿なのがより一層印象を強めた。


「あれ、なんでこんなとこにいるんすか? 虎間甚(とらまじん)さん?」

「そりゃこっちのセリフだ。帰れ」

「追放したくせによく言いますね。まぁ、自由になって気楽ですけどね」

「あ? 上では殺らなかったが、今ここで殺り合うか?」

「うーん、いいですね。こいつも血に飢えてる」


 ファグルは大剣を抜いた。虎間と呼ばれた男も階段を上り切り、地面を強く踏んだ。すると隠し階段が音を立てて消えた。


「五割の力は出してやるよ」


 虎間は腰に下げている刀を抜いた。


「なら俺も五割で行きますよ。公平にね」


 ファグルはそう言うと、ニヤッと微笑して大剣を構えた。その光景に初汰は唾を呑んだ。


「来いよ」

「じゃ、遠慮なくっ!」


 大剣を持っているとは思えないスピードでファグルは距離を詰める。

 虎間もその速度に対応し、刀で大剣を受け止める。


「けっ、これが五割かよ」

「あれ、弱くなりました?」


 虎間はファグルを弾き飛ばし、体制を整える。一方ファグルも受け身を取ると、すぐに大剣構えた。


「左手、使ってもいいんですよ?」

「あ? 五割だって言っただろ? 片手で十分だ」


 虎間は右手のみで刀を構え、自分から攻めようとはしない。


「丸くなりました? 本気で殺りますよ?」


 ファグルの眼が突然鋭くなった。そして先ほどとは倍のスピードで虎間に襲い掛かる。


「くっ、いきなりかよ」


 ファグルは虎間の背後に回り、その背中に大剣を振り下ろす。しかし虎間も容易く切られず、その攻撃を間一髪で受け止める。


「あ、今九割出しました?」

「八割だ。……そんで、これで九だ」


 虎間は空いている左手でファグルの大剣を掴んだ。


「ぐっ、マズい!」


 ファグルはすぐに大剣を引いた。そして少し距離を取り、大剣を見た。


「やってくれましたね」

「お前もな」


 ファグルの大剣は、虎間に触れられた部分が粉々に破損していた。


「グラムが泣いてますよ」

「まだそのキモイ名前で呼んでるのか」

「あなたの血で償ってもらいます……!」


 ファグルの顔つきがまたも変化した。冷徹な、氷のような表情になり、片手一本で大剣を振り上げる。


「しくじったな。ヤバい方だ」


 虎間はすぐに構えたが、既に脇腹を浅く切られていた。


「ちくしょう。やっぱお前は恐ろしいな。だが……」


 虎間は刀を納め、脇腹の出血を抑えた。そして地下一階に繋がる階段に向かって歩いて行った。ファグルに完全に背中を向けて。

 当のファグルは大剣をじっと見つめている。そして、


「やはりこの剣は、完全であるべきだ」


 そう言うファグルの手元にある大剣は、先ほど虎間に破壊されたはずの部分が修復されていた。


「あいつの血は美味しかったかい? そうか、ならよかった」


 ファグルはぶつぶつと独り言を言い終えると、大剣を地面に刺した。


「はぁはぁはぁ、今、俺は……虎間さんと……。また記憶が……」


 ファグルは突然頭を押さえて息を荒げた。少しすると落ち着きを取り戻し、大剣を抜いた。


「はぁはぁ、くそ。とりあえず下に向かおう」


 ファグルは先ほど同様に階段を出し、それを下っていった。


「ま、マジかよ。今の……」

「凄まじい戦闘だったな……」


 初汰と獅子民は、まだ夢から覚めていないような感覚に陥っていた。


「と、とりあえず俺らも下に向かおう」

「うむ」


 二人は少し開けていた牢屋の入り口を開け、通路に出た。しかしほかの仲間が出てこない。


「あれ、どうしたんだろ?」

「何かあったのだろうか。私はクローキンス殿を探そう」

「分かった」


 初汰は目と鼻の先にあるリーアたちがいる牢屋に向かった。


「おい、リーア?」

「初汰!」


 リーアが柵越しに現れる。


「早く出て来いよ?」

「それが、扉をしっかり閉めたら施錠されるシステムだったみたいで」


 初汰は急いで牢屋の格子戸を握った。しかし固く閉ざされていた。


「おい、マジかよ」

「本当にごめんなさい。注意が足らなかったわ」

「いや、良いって。すぐ鍵見つけてくるからな!」


 初汰は階段出現ポイントに戻った。すると獅子民もそこに戻ってきた。


「オッサン、そっちは?」

「クローキンス殿の牢屋はなぜか自動で施錠されてしまったらしい」

「そうか、そっちもか。どうやら扉をちゃんと閉めると自動で施錠される仕組みだったらしくてさ」

「なるほど。と言うことは、私とお前で鍵を探さねばならないわけだな」

「そう言うこった」

「ならば警備員から鍵を奪ってこよう」

「それしかねーよな」

「来たところ上とこの階に警備員はいない。となると……」

「下ってことだな」


 初汰と獅子民はファグルがやったように階段を出現させ、地下三階に向かって階段を下りた。

 …………。地下三階に辿りついた初汰と獅子民の目の前には、早速細い道がお出迎えした。


「すげ、上とは違って道が細いな。それに……」

「あぁ、分かれ道が多すぎる」


 まるで逆トーナメント表のように、一本の道が二本になり、二本の道が三本になり、と道が一本ずつ増えていっていた。これを初汰と獅子民だけで回るのは、相当な労力であった。しかしやるしかない。


「警備員も巡回してるはずだ。会った奴を片っ端から気絶させよう」

「うむ、そうだな。下手に殺してはバレ兼ねない」


 初汰と獅子民は作戦と覚悟を決め、細い道を歩き出した。


「初汰よ、実は話しておきたいことがある」


 獅子民は厳かな口調で話し始めた。


「ん? なんだ?」


 初汰は牢屋から聞こえる呻き声や、伸びてくる手を気持ち悪そうに眺めながら答えた。


「実はな、先ほどの虎間甚と言う男。どこかで見たような気がするのだ」

「は? どこかってどこだよ」

「それは分からん。気のせいかもしれんしな……」

「ふーん。ま、覚えておくよ」

「誰にも言うなよ。混乱を招く恐れがある」

「わーってるよ」


 初汰と獅子民の会話が終わるとき、ちょうど道が二手に分かれた。


「はぁ、分かれ道か」

「一人ずつ行くのは危険だ。右に行こう」

「いいや左だな!」

「リーダーは私だ。右に行くぞ」

「待て待て、むげんの森で寝てばっかだったくせに」

「そ、それは、それは関係ないだろう!」


 分かれ道で初汰と獅子民が喧嘩をしていると、右の道から足音とともに声が上がる。


「誰かいるのか!」

「はぁ、さっきと全く同じパターン」

「隠れ場所は無し……か。やるしかないな」

「そうだな。とりあえず俺は角で待つ。オッサン援護よろしく」

「うむ、承知した」


 初汰は素早く、そして静かに右の道に繋がる角につけた。獅子民は左の道に姿を隠し、初汰の背中が見えるように少し顔を出した。


「おい! 誰かいるんだろ!」


 警備員がランタンを持って角から現れる。それと同時に初汰は、剣を振りかざす。


「うわっ、何者だ!」


 警備員はランタンを大きく揺らしながらのけぞった。それにより初汰の攻撃は退けたが、のけぞった反動でこけてしまう。それを見た初汰はすぐに剣を喉元に持ってくる。


「しっ、静かに。鍵を持ってるよな?」

「か、鍵だと? どこの鍵だ?」

「とぼけるなって、上の階の牢屋の鍵だ」

「ふ、ふふ。バカだな。鍵なんて無いさ。牢屋の柵はすべて魔法がかかっている」

「んだと!? じゃあ解除しろ!」


 初汰は声を荒げて剣を少し喉仏に寄せる。


「ま、待て待て。俺は開けられない!」

「じゃあ誰が開けられるんだ!」

「し、知らない! 本当だ!」


 警備員は涙ぐみ、肩で息をしていた。初汰は罪悪感を感じ、剣を引いた。


「分かってるな? 誰にも言うなよ?」

「い、言いません!」

「こっちには鼻が利くやつがいるからな」


 初汰がそう言うと、背後の左の道から獅子民が姿を現す。


「ラ、ライオン……!」


 警備員は失神寸前であった。そんな警備員の前まで獅子民は歩み寄り、


「ガオォォ!」


 と、一吠えした。すると警備員は失神した。


「良い感じに気絶させられたな」

「うむ、しかしこの入り組んだ道を進むとなると、情報を聞き出してからでもよかったかもしれん」

「まぁ仕方ねーよ。しらみつぶしに行こうぜ。急いでだけどな」


 初汰と獅子民は警備員が来た方が順路だと推理し、右の道に進んでいった。

 相変わらず道は細く、先ほど来た道と何が違うのか全く見分けがつかない。そのせいか初汰と獅子民は同じ道を歩いている錯覚に陥りそうであった。


「ここ、さっきの道とどこが違うんだ?」

「私にもさっぱりだ……」


 初汰と獅子民が飽きてきたころ、ようやく次の分かれ道が現れた。


「助かったぁ~」

「だがここから分かれ道だ。どこに行く」


 今度は道が三方向に分かれていた。真っすぐ、右、そして左の三方向である。


「くっそ~、なんも手掛かりがねーからなー」

「先ほどのように叫んで警備員を呼ぶか?」

「んー、ありだな。行き止まりも面倒だし」

「だが今回がたまたま当たっただけの可能性もあるからな……」

「あ、そっか。行き止まりでも巡回しなくちゃいけないもんな」


 初汰と獅子民が頭を悩ませていると、正面の道から大きな音が鳴り響いた。


「何だ今の!?」

「行ってみるしかないな」


 初汰と獅子民は音に誘われて真ん中の道を選び、少し駆け足に細い道を進んだ。

 少し進むと、警備員が倒れていた。意識が無いと分かった初汰と獅子民は、すぐに近寄った。すると、警備員の腹は縦に大きく貫通した穴が開いていた。


「これ……」

「うむ、先ほどの大剣の青年の仕業かもしれん」

「でもあいつがこの道を進んでるってことは……」

「もしかしたら警備員から本当の道を聞き出して殺しているのかもしれんな」

「こいつらには悪いけど、道しるべになってもらうか……」

「うむ……」


 初汰と獅子民は少しの間目を瞑り、黙祷をした。


「行こう」

「うむ、戦闘の可能性もある気を引き締めよう」

「分かってるよ」


 初汰と獅子民は声と足音を潜めて道を進んだ。すると予想通り、今度は道が四つに分かれている道に出た。そしてすぐに警備員の死体を発見した。一番左のようである。

 二人は再び黙祷を捧げ、一番左の道を進んだ。

 しばらく歩くともう一人警備員の死体が見えた。左の壁に吊るされており、その奥には扉があった。


「扉だ。警備員が立ってたってことは」

「恐らく下への階段があるのだろう」


 二人は顔を見合わせ、コクリと頷いた。覚悟を決めた二人は扉を開け、その先にある螺旋階段を下って行った。そして下り切ったところには再び扉があり、初汰はその扉をゆっくり開けた。古びた鉄扉で、開けるときに不快な音が鳴る。しかしそれにも構っていられない。初汰は扉を開け切った。するとそこには円柱状の縦長い牢獄が待っていた。初汰と獅子民はゆっくりその中に踏み入った。


「出せ! 出せ!」

「殺す! 殺す!」

「血だ! 血だ!」


 円柱状の牢獄にも当然囚人はおり、その大半が狂った叫びをあげていた。


「き、気味わりぃ」

「うむ、狂気じみている」


 初汰と獅子民は各々円柱の上部を見回した。四方八方を囚人に囲まれ、殺す! やら、血を見せろ! やら、野蛮な言葉が飛び交っていた。


「あぁ~気味悪いよな~」

「誰だ!?」


 ザクザク。という足音が奥から聞こえてくる。その音で初汰と獅子民はようやく前を見る。すると地面には数多の白骨が転がり、土よりも骨の方が足場の主となっていた。そして奥から男が姿を現した。


「やぁ、君たちもここになにか用なのかい?」


 青年は微笑を浮かべながら、右手は既に大剣の柄を握っている。


「答えてくれてもいいじゃないか。あ、死人に口なしってこういうことなのかな?」


 ファグルは大剣を抜き、再び微笑した。それとともに収監されている囚人たちが叫びだす。


「殺せ! 殺せ!」

「血だ! 血だ!」


 初汰も腰に下げた木の枝を抜き、剣に変化させる。獅子民も四肢に力を入れ、前傾姿勢を取る。

 カチッ。

 ファグルは大剣を持つ両手に少し力を入れた。

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