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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第十章 ~魔の海域~
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第百二十四話 ~分断~

 獅子民とギルが船首で前方の島々を眺めている背後で、ハンガーから上がって来るユーニの姿があった。彼は顔色一つ変えず、真っすぐ仮眠室に向かって行った。

 ゆっくりと開く木戸は怪しげな軋みを立て、薄暗い仮眠室がユーニを迎えた。彼は半開きのドアをすり抜けるようにして入室し、初汰、リーア、スフィーの三人がぐっすり眠っていることを確認した。


「まずはこの小娘からだな……」


 ボソッと呟きながら、ユーニはスフィーの枕元に歩み寄り、聖剣に右手を置いた。


「おい、あんた何してんだ?」


 半開きになっていたドアの裏から、連結銃を構えたクローキンスが現れた。


「バルグロウか……。なに、少し仲間の様子を見に来ただけだ」

「ちっ、いまいち信用ならねぇな」

「なにをすればその信用が戻って来るかね?」

「さぁな、そもそも俺はあんたのことを信用してねぇからな」

「……なるほど」


 そう言いながら振り向くと、ユーニは凍てつくような眼差しでクローキンスを睨んだ。


「ちっ、いつからなのかは知らねぇが、邪魔者は消させてもらう」


 先ほどまでは脅しで構えていた連結銃を、いよいよ本格的に構え直したクローキンスがその引き金を引こうとした瞬間であった――


「敵襲だ! 皆起きろ!」


 甲板から獅子民の叫び声が聞こえて来た。その声を聞いたクローキンスはすぐさま銃を下げ、その直後に初汰たちが目を覚ました。


「て、敵? っしゃ、今行くぞ」


 初汰はベッドから飛び起きると、右手に木の枝を、左手に壊れたテーザーガンを持って甲板に駆けだしていった。そんな彼に続いてリーアとスフィーも目を覚まし、茫然と立ち尽くしているユーニとクローキンスを見た。


「なにしてるっすか? さっさと行くっすよ」


 一言だけそう言うと、スフィーはリーアと共に甲板に出て行った。


「ちっ、良い機会だな。もしかしたら俺以外の奴は信用してくれるかもな」


 クローキンスは鼻で笑いながらそう言うと、仮眠室を出て行った。


「……ふん、予定より早いが、まぁ良い」


 そう呟くと、聖剣を抜いてユーニも甲板に出た。

 甲板に出て空を見上げると、無数の大鷲と大型飛空艇、それに一匹の巨大なドラゴンが飛び回っていた。


「クソ、何だこの量……。急に仕掛けてきやがったな」


 再生の力で剣とテーザーガンを両手に構えた初汰は、いつでも対処できるようにグルグルと辺りを見回しながらそうぼやいた。すると彼の背中に獅子民がぶつかった。


「いや、よく見るんだ初汰」

「どういうことだよ?」

「我々を襲っているんじゃない。奴ら、お互いに潰し合っているんだ」


 そう言われて見ると、確かに空では大鷲の大群が大型飛空艇に襲い掛かり、対して大型飛空艇からは大鷲の群れ目掛けて対空砲が発射されていた。


「この海域上空で争っているという事は、やっぱりどこかにユンラン老師がいるのね」


 空の様子を伺っていた二人のもとにリーアが合流し、そう言いながら空を見回した。


「俺らは眼中に無いのか?」

「いや、そんなはずはない。どこかで急襲を仕掛けて来るはずだ」

「でも、ここまで数が多いと、どこから仕掛けて来るか分からないわ」


 三人が纏まってそんな会話をしていると、早速流れ弾が船の真横に落下してきた。それによって船は大きく左右に揺れ、三人とも滑り落ちないようにその場にしゃがみ込んだ。


「なるほど、我々は流れ弾で充分という事か……!」

「早くここを抜けねーとマズいな」

「でもこの状態でギルさんに操縦を任せるのは危ないっす。あたしが変わってくるっす」


 船尾で見張りをしていたスフィーは、船の中心部でうずくまっている三人にそう言うと、早速船首に向かおうとする。しかしそれを同じく船尾で見ていたユーニは光魔法で合図を送り、砲台の一つが初汰たちの乗る船に照準を合わせた。


「ちっ、待て! 今行くな!」


 ――それにただ一人気付いていたクローキンスは、スフィーが階段を降りようとした瞬間にそう叫んだ。しかしそれが悪手となり、砲弾が発射される猶予を与えてしまい、砲弾は見事船の右側すれすれに着弾し、船体は左側に大きく傾いた。

 どこにも掴まっていなかったスフィーは、着弾の衝撃で船の外に投げ出された。クローキンスは全力で走って彼女の腕を掴んだのだが、走った勢いも相まって、二人は海に放り出されてしまった。


「スフィー! クローキンス!」


 初汰は甲板に突っ伏しながらそう叫ぶが、声を張り上げただけで二人が帰ってくるはずも無く、激しい戦闘音で二人が着水した音さえ聞こえてこなかった。


「三人はここを頼むっ。私が二人を救ってくるっ!」


 ユーニは階段を駆け下りながらそう言うと、答えも聞かず颯爽とハンガーに下りて行った。


「ユーニさん、俺も!」

「待て初汰、今は迂闊に動くべきではない。それに。……言いたくはないが、これ以上仲間を失うわけにはいかない。目的のためには時として非情にならねばならんのだ」


 初汰の腕をしっかりと掴みながら、獅子民はそう説いた。しかししばらくの間初汰はその腕を振り切ってハンガーに下りようとしたので、ユーニが乗る小型飛空艇が海に出るまでがっちりと初汰の腕をロックし続けた。


「はぁはぁ、行っちまったじゃねーか!」

「二人のことはユーニ殿に任せるんだ。我々は前に進むしかない」

「……クソッ!」


 初汰は甲板を思い切り殴りながら、悔恨の念を口にした。

 するとそこへバタバタと足音を立てながらギルが下りて来た。


「すまん、舵が言うことを聞かんのじゃ」

「むう、致し方ないか……。幸い奴らは我々のことをターゲットにしていないみたいだし、空の戦いが収まるまで仮眠室に身を潜めよう」


 隠れることを提案した獅子民だが、その表情は不服そうであった。しかしここで命を落とす方が不毛なので、四人は転がり込むようにして仮眠室に入って行った。


 ……それから数十分後、船の揺れが収まり、周囲から激しい戦闘音が消え去ったころを見計らい、四人は表に出た。


「いなくなった……。みたいだな」

「うむ、ひとまず難は逃れたようだな」

「スフィーたちは無事かしら……」

「そう信じるしかねーだろ。早速探しに行くぞ」

「そうしたいところだが、このままではユンラン老師が先に見つかって――」

「何言ってんだよ……! オッサンは仲間を見捨てるのか?」

「……この海域に踏み込む前に覚悟を決めたはずだ」

「でも俺は、まだ助かるかも知れない命を見過ごしたりはしたくない!」

「それは私も同じ気持ちだ。だが今は、二人のためにも責務を全うするべきだと私は思う」


 獅子民はそう言うと、踵を返して船首に向かって行った。そして舵の様子を見に行こうと階段に足をかけた瞬間であった。


「話は終わったか~い?」


 甲板の真上から声がした。四人が一斉にその方を見ると、見張り台に腰かけているファグルがいた。


「ファグルか……?」


 初汰はすぐさま武器を構えたものの、シグかもしれないという微かな可能性も考えられたため、こちらから手を出す覚悟は無かった。


「覚悟だとか仲間だとか、聞いてるこっちの身にもなって欲しいよ。ふぁ~あぁ」


 ファグルは欠伸をしながらそう言うと、四人をぎろりと睨んで見張り台から飛び降りた。そして船の中央部にすたりと着地を決めると、ゆっくりと背筋を伸ばして大剣グラムを構えた。


「空で戦うのも悪くない。でもドラゴンの力で敵を蹂躙したって面白く無いだろ? 結局こいつで人間をぶった切ってる時が一番楽しいんだ」

「今はファグルみたいだな。ってことはやらなきゃな」


 海上にいる今、逃げ場は無い。つまり初汰はファグルと戦わなくてはならなかった。それも相手が死なないように。この身体を傷付けてしまったら、シグの魂が戻る場所が無くなってしまう。初汰は武器を構え、すり足で間合いをはかった。


「ギルさんは隠れていてください」


 初汰とファグルが船の中央で見合っている間に、仮眠室を出たばかりだったリーアは再びギルを仮眠室に連れ戻した。


「初汰、加勢するぞ」


 獅子民は上りかけていた足を戻し、丸盾を装備してファグルの背後に立った。


「いいね~、この感じ。最高だ。もっと戦いを楽しもう」


 ファグルはそう言うと、少し油断を見せてしまった初汰に駆け寄り、大剣を振り下ろした。

 ――すんでのところで初汰は攻撃を受け止めたが、衝撃の余り片膝を着いた。そのまま弾き返せれば良かったのだが、上から加わる大剣の重みとファグルの力によってビクともしない。


「ぐっ、クソ……」

「初汰!」


 押さえつけられている初汰を助けるため、獅子民は走り出して無防備な背中に殴りかかる。しかしファグルがそんな簡単に背中を空けるはずも無く、押さえつけている初汰を思い切り蹴り飛ばし、遠心力を乗せた薙ぎ払いを獅子民に浴びせた。


「ぐわっ!」


 その殺気に瞬時に気付き、両手の丸盾でガードをしたは良いものの、獅子民も相当な距離を吹き飛ばされた。


「話にならないな。もっと本気で戦ってくれよ。それとも、もっと死が間近に迫らないと本気が出せないとか?」


 ファグルは倒れている二人を交互に睨みながらそう言うと、ふんっ。と鼻で嘲笑い、大剣を甲板に突き立てた。


「この船。ぶっ壊すことも出来るんだよ? 俺は空を飛べるけど、あんたらは無理だよね?」

「クソ……。お前に構ってる暇は、ねーんだ!」


 初汰はテーザーガンをホルダーにしまい、両手で剣を構えて突進した。ファグルは下げていた大剣を構え直し、真っ向からぶつかり合った。


「その意気は認めるよ。でもね、戦いで一番大切なのは焦らないことだ。今の君は面白くない」


 鍔迫り合いをしながらファグルはそう言うと、全力で初汰を弾き飛ばした。


「ぐあっ!」

「よし、じゃあこうしよう。俺を満足させることが出来たら、仲間の居場所を教えてあげるよ」

「ほ、ほんとか?」

「もちろん。その代わりしっかり戦ってくれよ? 後ろのあなたも」

「良かろう。どちらにしても私はお前をここで倒すつもりだったからな」

「ふーん、あっそう。で、君は?」

「やってやるよ。絶対に居場所を吐かせてやる」

「……ふっ、いい眼になった」


 嬉しそうに微笑むと、そう呟きながら大剣を構え直した。そして今度はファグルから攻撃を仕掛けた。

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