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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第十章 ~魔の海域~
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第百十九話 ~荒れる海~

 敵にも敬意を払おうと思った初汰は、ルーヨンの石像が見えなくなるくらいまで林道を戻り、スフィーと合流を果たした。そして軽く事情を説明し、初汰とスフィーはは下山を始めた。


「こっちもびっくりする発見があったんすよ!」


 下山し始めてすぐ、スフィーが口を開いた。


「何を見つけたんだ? この多島海を抜ける方法とか?」

「そう言うのでは無いんすけど、とにかく大発見っす! ユーニさんが見つかったんすよ!」

「ユーニさんが?」

「そうっす! 林道の途中で倒れてたんすよ。それで今は、獅子民っちが船に運んでいるところっす」

「ユーニさんはここに連れて来られていたのか……? まぁとにかく、船に戻ろう」


 初汰はブツブツと呟いた後、スフィーに向かってそう言うと、二人は下山の速度を速めて船へ急いだ。

 砂浜についてみると、小型飛空艇のもとにはクローキンスが立っていた。


「クローキンス! どうしたんだ?」

「ちっ、てめぇの迎えだよ」

「俺の?」

「あぁ、今あっちは看病で忙しそうだったからな」

「なるほどな。じゃあさっさと戻ろうぜ」


 初汰はそう言うと、気絶しているリーアを小型飛空艇のサイドカーに乗せ、自分はクローキンスの後ろに乗った。


「んじゃ、リーアのこと頼んだぜ。スフィー」

「任せてくださいっす」


 スフィーはリーアにヘルメットを被せながらそう言うと、小型飛空艇に跨って発進した。クローキンスもそれに続いて発進し、二台の小型飛空艇は無事船に戻って来た。

 初汰は先に甲板に降ろしてもらい、スフィーが操る小型飛空艇のサイドカーに乗っているリーアを抱き寄せると、そのまま仮眠室に向かった。


「オッサン、今戻ったぜ」


 ドアを開けながらそう言うと、椅子に座っている獅子民の背中とベッドで眠っているユーニの姿が目に入った。


「初汰か、すまないな。先に戻ってしまって」


 振り向いた獅子民はそう言うと、再び視線をユーニに戻した。


「良いんだよ。それより、ユーニさんの様子は?」


 初汰はそう聞きながら、ユーニの横の空いているベッドにリーアを寝かせた。


「息はしているが、まだ目覚める様子はない。それよりそっちは何があったんだ?」

「俺がヘマしちまって、リーアが一人で幻獣十指の一人を倒してくれたんだ。その代わり、気絶しちまったけど……。クソ、俺が気を抜いていなければリーアはこんなことにならなかったのに……」

「そう自分を責めるな、幸い軽傷で済んだのだから。それにそんなことを言っていたら、私たちは一歩も前へ進めなくなってしまうぞ。今はどうやって二人を目覚めさせるか。二人が目覚めるまでどう守り抜くかを考えよう。……二度と同じことが起きないように」

「……だな」


 二人がそんな会話をしていると、仮眠室のドアが開き、スフィーとクローキンスが部屋に入ってきた。


「二人ともまだ起きて無いみたいっすね。それにギルさんも」

「うむ、もうしばらくはかかりそうだ。少し様子を見よう」


 獅子民はそう言うと、立ち上がって甲板に出て行った。


「ちっ、そんな悠長にもしてられないがな」


 そう言って踵を返すと、クローキンスも甲板に出て行ってしまった。仮眠室に残された初汰とスフィーは、三人の看病に時間を割いた。


 ……一番最初に目覚めたのはギルであった。ルーヨンの魔法の効果が完全に切れたようで、突然むくりと上体を起こしてキョロキョロと辺りを見回した。


「ギルさん、体調の方は大丈夫ですか?」

「うーん? あぁ、なんだか数年分寝た気分じゃ」


 初汰が目覚めたギルのベッドサイドに歩み寄ってそう聞くと、ギルは満足そうな笑みを浮かべてそう返した。


「まだ優れないようだったら休んでて良いですから。もし再出発できるようなら、タイミングはオッサンに聞いてみてください」

「了解じゃ」


 ギルはそう言って立ち上がると、眠っているリーアとユーニの顔を一瞥して、甲板に向かって行った。


「すまんのう。迷惑かけて」


 ギルは甲板に出ると、海を眺めている獅子民の背中に向かって声をかけた。


「ギル殿。もうお体の方は?」

「大丈夫じゃ。いつでも出発できるぞ」

「本当ですか? それはありがたい」


 二人はそんな会話をしながら、舵のある船首に上がって行った。


「わしのことよりも、あっちの二人は大丈夫なのか?」

「リーアとユーニ殿のことですか?」

「そうじゃ」

「リーアの方はすぐに目覚めると思います。アレはただの魔法の使い過ぎで眠っているだけですから。しかしユーニ殿の方は分からない。もしかしたら特別な魔法で眠らされている可能性もある……」

「あまり重症なら出発は控えた方が良いと思っとるんじゃが、どうする?」

「海流が読めませんからな……。しかしここで立ち往生しているわけにもいきません。日が暮れる前に少しでも前進しましょう」

「合点じゃ」


 ギルはそう返事をすると、早速舵を握って出帆の準備を始めた。

 その後まもなく船は発進し、一行は第一の島を離れ、本格的に多島海へ足を踏み入るのであった。


 ……第一の島を迂回して、船は異なる海流に乗った。急に舵取りが難しくなり、ギルも苦戦しているようであった。先日までの穏やかな航海は終わりを告げ、荒々しく未知の恐怖を湛えている激流が一行を飲み込まんばかりに渦巻いていた。甲板で辺りを警戒している初汰たちは何にも掴まらず立っているのは困難で、欄干に腕を絡ませながら周囲を見回していた。


「くそ、急に揺れ始めたな」

「致し方ない。もう少しすれば慣れるだろう……!」


 そうは言いながら、獅子民も腰が引けていた。するとそこへスフィーが降りて来た。


「どうしたスフィー?」

「流石にこの揺れじゃ周りを見てる余裕が無いっす。だから船をコントロールするために下りてきたっす」

「おぉ、なるほどな。まぁでも確かに、この揺れじゃ危ないよな」

「うむ、今はまだ大丈夫そうだが、舵が利かなくなったら君だけが頼りだ。ここで失うわけにはいかない」

「任せてくださいっす。最奥の島にたどり着けるように頑張るっすよ!」

「頼もしい限りだ。早速だが、ギル殿のところに向かってくれ。今もなお厳しそうだからな。サポートをしてあげてくれ」

「了解っす!」


 スフィーはそう言うと、よろよろと甲板の上を千鳥足で歩きながら、船首に向かって行った。


「これで少しは良くなれば良いんだがな……」


 獅子民はそう呟きながら、曇り始めている空を睨んだ。


 ……ギルの手腕とスフィーの風魔法により、航海は安定へと向かっていた。しかしそれとは相反し、空には黒く分厚い雲が広がり始めていた。


「天気が悪くなってきたな」


 いまだ欄干に掴まっている初汰は、空を仰ぎ見ながらそう言った。


「うむ、何かが起こる前兆なのだろうか……?」


 獅子民は腕を組みながら、空の様子を伺ったり、海の様子を伺ったりと、頭を上下に忙しなく動かしていた。

 ――するとその時、激しい雷鳴と共に稲妻が走った。そしてそれを皮切りに、雨が降り始めた。


「クソ、降って来たな」


 初汰は欄干から離れ、なるべく船の真ん中に寄ってそう言った。


「これ以上先には行かせない」


 どこからともなく、声が聞こえて来た。それはその場にいる全員に聞こえていたようで、初汰も獅子民も、船尾にいるクローキンスも辺りを警戒した。


「誰だ!」

「悪いけど、答える義理は無い」


 天の声がそう言うと、雷はさらに激しさを増し、船の周囲に雷が降り注いだ。獅子民はそれを目にすると、船首に駆け上がった。


「ギル殿、スフィー、振り切れそうか?」

「ちょっと厳しそうじゃ!」

「なるべく加速させるっすよ! でもなんで船に直接当てて来ないんすかね……」

「確かに。何故か船の周りにだけ雷を……」


 三人がそんな会話をしていると、初汰も船首に上がってきた。そして舵の横に立つと、前方を見て叫んだ。


「島が見えて来た!」

「まさか、あの島に誘導しているのか?」


 第二の島を見た瞬間、獅子民は何かを察したかのようにそう呟いた。雷はなおも船の左右に降り注ぎ、まるで誘導灯のように船を真っすぐ走らせ、船は強制的に目の前の島に導かれていた。


「あそこに何があるって言うんだ?」

「分からん。とにかく今は下手に刺激しない方が良い。船が壊されたら元も子もない」


 獅子民は初汰の問いに対してそう言うと、ギルとスフィーに真っすぐ進むように指示を出して仮眠室前に戻った。初汰もそれについて行くと、彼はリーアとユーニの様子を診るために仮眠室に入った。


「二人とも大丈夫か?」


 ドアを開けながらそう言うと、リーアは静かに眠っていたのだが、ユーニが寝ていたはずのベッドはもぬけの殻になっていた。


「ユーニさんがいない?」


 ひとまずリーアの安全を確認した初汰が甲板に戻ろうとした瞬間、船が大きく揺れた。初汰は急いで甲板に戻り、丸盾を両手に装着している獅子民の背中を見た。


「何があったんだ?」

「また巨大イカだ!」


 獅子民はそう言いながら船尾に向かって行った。初汰もそれに続いて行こうとすると、今度は頭上を大きなドラゴンが横切った。


「おいおい、マジで何が起きてんだよ?」

「邪魔するな!」


 天から怒りの色を帯びた声がすると、雨のように雷が降り注いだ。


「黙れ。俺、こいつら、倒す」


 今度は海から重く太い声が響くと、船の後方に大きな波が立ち、巨大イカが姿を現した。


「ちっ、しつこい奴だ」

「どっちも追い払うぞ!」

「了解っす! ギルさん、少し舵を頼むっす」

「お、おう!」


 獅子民とクローキンスは船尾の巨大イカを、スフィーと初汰は頭上を飛ぶドラゴンの相手をするために船の中央に集まった。

 巨大イカは長く大きく、そして多い足を完全に船に絡ませると、空を飛ぶドラゴンに向かって高速かつ鋭い水魔法を飛ばした。


「ぐっ、傷が……。やり合うのは得策じゃないな」


 ドラゴンの動きは鈍く、水魔法を紙一重で回避すると、急降下を始めた。

 ――そして船体のすれすれを滑空すると、何もすること無く再び上昇した。船はドラゴンが通過した風圧で左右に揺れ、初汰は吹き飛ばされないように身を小さくして風が収まるのを待った。


「急に降りてきやがって……。あれ、スフィー?」


 風が収まって初汰が体を起こしてみると、先ほどまで目の前にいたスフィーがいなくなっていた。


「こいつは借りていく」


 ドラゴンはそう言うと、雷で誘導しようとしていた島まで飛んで行ってしまった。すると雷も降り止み、激しい雨だけが残った。


「初汰! ここは任せろ。お前はドラゴンを追え!」


 迫り来る巨大イカの攻撃を避けながら、獅子民はそう叫んだ。


「おう、分かった!」


 初汰はそう返すと、二人を信じて早速ハンガーに降りた。そして小型飛空艇に乗ろうと振り返ると、そこにはリーアがいた。


「リーア、もう大丈夫なのか?」

「えぇ、大丈夫よ。それより、問題が山積みのようね」


 リーアがそう言って小型飛空艇の方を見ると、飛空艇は一台しか無かった。


「一台しかない……。まさかユーニさんか?」

「それも行けば分かるわ」


 リーアはそう言うと、初汰にヘルメットを投げた。そしてリーアはサイドカーに、初汰は操縦席に跨り、二人はスフィーを助けるべく、ドラゴンの後を追った。

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