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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第九章 ~滝の洞窟と血の真実~
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第百五話 ~兄の行方~

 兄、宗周の居場所を確実に知っているであろう曜周を中心に、作戦会議は行われた。


「兄は、元アヴォクラウズがあった場所の北側に位置する廃村にいると思う。そこはたまたま、戦時中に私と兄が隠れ場所を求め彷徨っていた時に見つけたのだ。それ以来、私もそうなのだが、特に兄が秘密基地としてよく利用していたので、恐らくここにいると思われる」

「どんな場所なのだ?」

「巨大な滝の裏にある洞窟の最奥にその廃村はある」

「おぉー、確かに隠れ家っぽいな」

「そうっすね。でも滝の裏って意外とバレそうっすけどね」

「それなんだが、兄もそれを危惧してか、そこには岩壁に見えるようにする結界が張ってあり、他人から見るとただの滝として映るようになっているのだよ。しかし私なら入る場所を知っているから、例え岩壁に見えようとも滝の裏側に行けるわけだ」「なるほど、用意周到なタイプなんすね」

「あぁ、その通りだ。もし誤算が生じるとするなら、弟である私の存在だろうな」


 曜周はそう言うと、意地悪な微笑を浮かべてみせた。


「では、準備に取り掛かろう」


 獅子民はそう言いながら全員の顔を見回す。どの瞳にも炎が宿ったかのようなやる気が漲っており、それは獅子民の瞳や心にまで引火する。そして全員が頷いたことを確認すると号令をかけ、一度解散して各々準備を始めた。

 ……準備を済ませた者からなるべく身軽な装備でゴラン宅を出ていく。そんな中、最終確認のためにギリギリまで室内の掃除をしていた曜周は、同じく居残って後片付けを手伝ってくれていたスフィーを呼び寄せた。


「スフィー、少しいいか?」

「なんすか?」

「共有の力を解こうと思ってな」

「あ、喉のことっすか?」

「あぁ、もうずいぶん前から必要なかったようだが、前回会った時に解くのを忘れてしまったからな」

「そうっすね。あれから結構時間も経って、皆のことをいろいろ知って、いろんな修羅場を潜り抜けて。精神的に強くなれたおかげっすかね」

「そうだな。君は変わったんだ。守られる側から、守る側へ。何かあったらみんなのことをよろしく頼むぞ。恐らく今、仲間のことを一番よく見れているのは君だと思うからな」


 曜周はそう言いながら、右手をそっと伸ばしてスフィーの喉に触れた。すると手元が一瞬だけパッと光り、すぐに消えた。その光が消えるとともに、曜周は手を引いた。


「どうだ?」

「あー、あー、大丈夫そうっす。……その、あたしに出来る範囲で、みんなのことを守ろうと思うっす。もちろん曜周さんも」

「ハハ、ありがとう。だが私のことは気にするな。これでも君の倍は生きて来たからな」


 曜周は優しい微笑みを浮かべながらそう言うと、食器を棚に戻して玄関ドアに向かった。


「行くとしようか」

「はいっす」


 立つ鳥跡を濁さず。二人は室内を来た時とまったく同じ状態にしてゴラン宅を後にした。

 スフィーと曜周が外に出ると、クローキンスとメリアの二人しか目に入らなかった。


「獅子民と初汰はどこに?」


 曜周が二人にそう問うと、「村長のお宅へ挨拶をしに行きましたわ」と、メリアが教えてくれた。なので今度は初汰と獅子民が戻って来るのを待つこととなった。

 その頃村長宅に赴いた初汰と獅子民は、家政婦の案内でリーカイがいる部屋まで案内されたところであった。


「失礼します」


 獅子民は軽いお辞儀の後にそう言うと、部屋に入って行く。初汰もそれに続いてお辞儀をし、二人は部屋の中央辺りまで歩くとそこで立ち止まってリーカイの丸まった背中を見つめた。


「挨拶が遅れてしまって申し訳ない」

「ほっほっほっ、良いんじゃよ。ゴランも快諾してくれたことじゃ。これからはあの家を好きに使って良い」

「ほ、本当ですか?」

「困った時はお互い様じゃからな」

「ありがとうございます」


 獅子民は礼を申し上げると、数秒間頭を下げた。初汰もそれに倣い、共に頭を下げた。


「まぁまぁ、頭を上げなされ。見たところ急いでいるようじゃしな」


 その返答に驚いた二人は、ニコニコと笑っているリーカイの顔を見た。


「な、なんで分かったんですか?」

「君の瞳がそう言ってるんじゃよ。わしとはまた今度ゆっくり話したいとな。ほっほっほっ」

「流石はリーカイ殿」

「何でもお見通しってことか」


 部屋に入って来た時は緊張で固くなっていた二人だったが、リーカイのこの言葉を前にして、急に緊張が解けてしまった。なんと言うか、見通されているのなら隠し立てする必要も感じなくなったのであった。


「実はこれからリーアを助けに行かなくちゃいけなくて」


 肩の力が抜けた初汰は、砕けた調子でそう言った。


「ほっほっほっ。そうか。くれぐれも気を付けるんじゃぞ。他の仲間にもそう伝えておいてくれ。後、お主ら二人にはゆっくり話したいことがあるでのう。お嬢さんを救出したらまたこの村に来とくれ」


 リーカイは終始笑顔でそう言うと、頷く二人を見て、「ほれ、はよ行ってやりなさい」と言って二人を送り出した。

 こうして村長宅を出た二人は、リカーバ村の門で待っている仲間たちと合流し、アヴォクラウズ跡地の北部にある廃村を目指して出発した。

 ゲートを抜けると、すぐにゴランが駆け寄って来た。


「どうした、もう行くのか?」

「うむ、これから仲間を救出しに行く。そしてまた戻ってくるつもりだ」

「そうか、そりゃよかった。小さい家だが、俺の家なら好きに使って良いからよ」


 ゴランは嬉しそうにそう言うものの、顔色は一切変えずにゲートの解体を始めた。


「村に行くときはまた声を掛けてくれ」

「うむ、感謝する」


 獅子民はゴランとの会話を手短に済ませると、一行はゴランに感謝を述べて森を出た。


「確かこの森は、ユーミル村から真っすぐ北に来ただけだったから……。ここから南東に向かって行けば良いわけか?」


 アヴォクラウズの跡地を見たことがない初汰は、誰かが答えてくれるだろう。と言ったような口調でそう聞いた。


「そうっすね、もう少ししたら丘が見えてくると思うんすけど」

「丘もそうだが、アヴォクラウズが無くなったせいで大きな穴が空いているからな。そこを目印にしてもいい」


 記憶の祠へ赴いた時にアヴォクラウズの跡地を知っている獅子民とスフィーは、後方を歩いている初汰に向かってそう教えた。


「へぇー、なるほどね。案外目印があるんだな」

「そのようだな。実は私もアヴォクラウズが飛び立ってすぐに投獄されてしまったから、二人が今のビハイドに詳しくて助かるよ。跡地まで行ったら後は私に任せてくれ」


 三人の話を聞いていた曜周は、安心したようにそう言った。


「うむ、廃村の位置は曜周殿にしか分からないからな。よろしく頼んだ」

「あぁ、必ず兄を捕まえよう」


 ……それから十分強ほど歩き続けると、スフィーが大声を上げた。丘と大きな穴を発見したのであった。穴を発見した一行は、隊列を変更し、曜周を先頭にして再び歩き始める。穴があった場所から真っすぐ北上し、まずは峡谷に踏み入った。そこは曜周曰く、元々大きな一つの山だったらしいのだが、戦争の影響で真っ二つに割れてしまい、今では山二つと峡谷一つの構図になっているらしい。一行はそんな大きな山と山の間にある獣道のように不格好な場所を一人ずつ、一列になって進んで行った。

 進むこと数分、道は徐々に開けて行った。数人が横一列になっても通れるくらいの場所に出たかと思うと、奥の方に大きな川が見えた。川は初汰たちがいる方向には流れておらず、途中で右に曲がっていた。一行はその川辺に歩み寄ると、川が伸びている右を向いた。川はどこまでも、ゆるやかに伸びているようで、今いる場所からは終着点は見えなかった。


「曜周さん、どっちに行くんだ?」

「こっちだ」


 曜周はそう言うと、川の流れに逆らって上流を目指して歩き始めた。ま、そうだよな。と思いつつ、初汰と仲間たちはその後に続いた。

 しばらく歩き続けると、辺りの雰囲気が俄かに変わり始めた。あるところを境に、マイナスイオンが初汰たちを包み始めたのであった。その変化と同時に、


「もうすぐ到着するな……」


 と、曜周が呟いた。

 そこからはただひたすら、滝を視界に捉えるまで川に沿って緩やかな傾斜を北上するのみであった。一行は黙々と凹凸の険しい道を行き、徐々に強まるマイナスイオンをその身に感じながら、滝の接近を察知するのであった。

 緩やかに長く続いていた傾斜は次第に平坦な道へ変わって行き、それと共に視界も開けて行った。すると山の陰から日が昇るように、地平線からひょっこりと滝が姿を現した。それを視認した一行は、遠足気分から一転、戦闘の匂いを嗅ぎつけて目つきを鋭くした。


「この滝の裏側に洞窟がある。その最奥の廃村では、恐らく戦闘が待ち受けているだろう。どうだ獅子民、ここで少し休んでから奥に進むか?」


 先頭を歩いていた曜周は、すぐ背後に続いていた獅子民に向かってそう聞いた。


「うむ、そうだな。万全の状態で臨むために一度休息を挟もう」


 獅子民と曜周が話し合って判断を下すと、それを全員に告げ、滝から少し離れた場所にある倒木の集まりに腰を下ろした。


「こんなところで呑気にしてて大丈夫なのか?」

「急いては事を仕損じる。と言うだろう? 大事な局面だからこそ、一度立ち止まって状況を把握するのはも大事なのだよ」


 獅子民が返事をするよりも前に、言い出しっぺの曜周が声を荒げずに初汰を諭した。


「まぁ曜周さんがそう言うなら、俺は従うよ」


 初汰は唇を尖らせて不満そうではあるものの、最低限納得した様子であった。

 滝が流れ落ちる音に耳を満たされながら、一行は各々思う所に目をやった。初汰とスフィーは滝の先が気になるようで、泳ぐ視線は最終的に滝へ向いていた。クローキンスは何か気になることがあるようで、連結銃の点検をしつつ、時折メリアを瞥見していた。そんなメリアは見られているとは露知らず、目を閉じて深呼吸を繰り返していた。残る獅子民と曜周は倒木の集まりから離れ、川辺に立っていた。


「皆の様子を見るに、あまり疲れているようには見えなかったのだが、何か引っかかることでもあったのか?」


 川辺に屈んで水を飲んでいる曜周の背中に向かって獅子民はそう聞いた。


「……この滝裏にある洞窟は一本道なんだ。つまり挟み撃ちをされたら我々が至極不利になる」


 水を飲み終えた曜周は、口元を拭いながらそう言った。


「ここら辺に敵が潜伏している可能性があるという事か?」

「無いとは言い切れないからな。念のためだ」


 曜周はこの作戦が杞憂だったかのような微笑を浮かべると、回れ右をして倒木の集まりに戻って行こうとする。

 ――するとその時、スフィーが勢いよく立ち上がった。そして辺りをキョロキョロと見回し始めたと思うと、その視線は次第に疑惑の眼差しに変わった。


「どうかしたか?」


 何かを察知した獅子民は、何も気づいていないフリをしながら初汰たちのもとに戻った。そして苛立っているスフィーにそう問いかける。


「何かが隠れてるか。何かが追って来てたみたいっす……」


 戻って来た獅子民に小声で伝える。


「そうかそうか、まぁそこまで気にすることじゃない!」


 敵が監視していることを考え、獅子民は小声で話すことを控え、あえて大きな声で雑な返事をした。


「よし、では滝の裏に行くとするか!」


 大声でその場にいる全員に聞こえるように言うと、半ば強引に仲間を歩かせ、一行は流れ落ちる滝の裏に回った。


「ちょっと獅子民っち……!」

「しっ、あそこでひそひそ話をしたら逆に疑われる。ここなら滝の音で遮断できるはずだ」


 今度こそ潜めた声でそう言うと、それでスフィーも納得したようで、冷静になってくれた。


「それで何だが、ここは二手に分かれようと思う。私と曜周殿とメリア殿で洞窟の奥へ行く。初汰とスフィーとクローキンス殿はここで追っ手を倒し次第合流してほしい」


 獅子民は全員にギリギリ聞こえるほどの小声でそう言うと、全員のレスポンスを待った。


「……何も無いようだったらこれで行くぞ」

「待ってくれ。俺が洞窟に行きたい」


 待ったをかけた初汰は、力強く獅子民を見つめた。獅子民はその瞳の奥に沸き立つ覚悟を見た。そしてゆっくりと頷いた。


「よし、では初汰と曜周殿とメリア殿は洞窟の奥へ。残る我々は追っ手の処理に回る。異論はないな?」


 獅子民がそう言うと全員が頷いた。


「スフィー、すまんが風魔法で私たちを上に運んでもらってもいいか?」

「良いっすよ。止めてほしい所で言ってください」

「分かった。よろしく頼む」


 こうして洞窟へ行く三人はスフィーの風魔法に助けられ、滝の中ほどにある見た目はまんま壁になっている洞窟の入り口に運ばれた。それを下で見ていた獅子民たちからすると、彼らはまるで壁に飲み込まれていったようであった。


「よし、我々も行くとしよう」


 初汰たちを見送った三人は、獅子民の号令で滝の裏側から飛び出した。

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