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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第八章 ~隔離された大陸~
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第九十四話 ~窮地~

 四壁にあるすべての独房の鉄柵が開き、その奥には薄っすらと人影が浮かび上がり始めた。三人はその影たちから獰猛な気配を。ないしは血の香りを嗅いだ。より一層戦闘に集中したその時であった。

 ――突如部屋を明るませていた僅かな明かりが全てショートしたのであった。つまり初汰たち三人は、敵襲を前にして突然暗闇の中に放り込まれたのであった。


「くそ。これもデスマッチの一環か?」

「初汰、離れるな! リーアの近くに寄るんだ!」


 獅子民はこの環境を見て素早く判断を下した。リーアは攻撃用に唱えていた火の魔法をさらに大きくし、明かりとして左手に浮かばせた。


「すまないリーア。全力で君のことは守る。その代わり索敵を頼む」

「えぇ、分かりました。私も空いている右手で最低限の援護はします」

「うむ、よろしく頼む。初汰、お前は反対側を頼む。できるだけリーアから離れるな」

「オッケー、全力で迎え撃つ」


 統率が取れたことを確認した獅子民は、続いて耳を澄ませて敵が近づいて来ているかを確認した。……微かにだが、全方向から足音が聞こえてきており、それはしっかりと真ん中に向かって。つまりはリーアの左手に灯っている火を目指して進んできていた。


「来るぞ。集中を」


 獅子民が一言だけそう言うと、三人は黙り込んで敵の接近を察知するために全神経を研ぎ澄ませた。

 周囲を警戒し始めた初汰は、前方からとてつもない殺気と足音が近づいて来るのに気が付いた。となると当然初汰は武器を構え、暗闇から襲い掛かって来るであろう敵の攻撃に備えた。

 ――すると正面の暗闇から、ナイフの先端が初汰に向かって飛んできた。初汰は右手に持っていた剣でナイフを弾き、あてぷっぽうにテーザーガンを放った。


「ぐああああ!」


 どうやらテーザーガンは命中したようで、ナイフが地面に落ちる音とともにガリガリの男が初汰の足元に倒れ込んだ。殺す必要は無いな。そう思った初汰は、剣の柄の部分を使って頸椎を思い切り殴り、男を気絶させた。

 その後もリーアが保っている明かりを中心に、初汰と獅子民が敵を捌いて行った。勿論無駄に殺生をする必要は無いので、二人は極力敵を傷つけないように、一撃で気絶させていった。


「変換のエネルギーが溜まった! 一気に蹴散らす!」

「オッケー!」

「了解です!」


 獅子民の掛け声を聞いたリーアは、左手で火の魔法を保ちながら、空いている右手で自分と初汰が吹き飛ばないように石の壁を作った。それを確認した獅子民は、右手を大きく振りかぶり、思い切り地面を殴った。すると獅子民を中心に強烈な衝撃波が生じ、石の壁に守られていない襲撃者たちは大きく後方に吹き飛び、全身を壁に強く打ち付けた。


「ふぅ~。大丈夫か、二人とも?」


 強大な一撃を放った獅子民は、深呼吸をしたのちに振り返ってそう言った。


「えぇ、なんとか……」


 今の衝撃波で石の壁は崩壊し、中に隠れていた初汰とリーアが姿を現した。


「それで、全員蹴散らせたのか?」


 服の上に零れ落ちた石のかけらを払いながら、初汰はそう聞いた。


「あぁ、恐らくな」

「少し見てみます」


 リーアはそう言うと、左手の火に魔力を集め、辺りを照らし出した。……見た感じ敵の姿は無く、耳を澄まそうとも足音はせず、この階にいる敵は全員気絶させることに成功したようであった。

 ――そんな確認をしていると、パッと部屋の明かりが灯った。視界に突如光が飛び込んできたので、三人は咄嗟に顔を伏せた。そしてしばらくした後、顔を上げて光の中に目を慣らしていった。


「お見事、まずは君たちの勝ちだ。しかしもっと血が見たいところだな、俺様としては。ひっひっひっひっ」


 ルーズキンによる外道なアナウンスが短めに流れると、部屋は静かに上昇し始めた。


「畜生が。こうなったら全員気絶させてお前んとこまで行ってやるからな」

「うむ、私も今、無性に腹が立っている」

「えぇ、彼らには罪はないもの。悪の親玉だけはしっかり絞ってあげましょ」

「もちろんだ。だけど、あとどれくらいかかるんだろうなぁ……」


 上昇して行く部屋の中で、天井を見つめながら初汰はそう呟いた。対して獅子民とリーアも分からないと言った態度を示したが、この無限地獄のなかで誰も諦めていないのは確かであった。


 そんなデスマッチが開始されてしまったとは露知らず、スフィーたちはダクトを抜けて真っ白い廊下に降り立っていた。そこは丁度十字路になっており、前後左右、どの方向に進んでも新しいものが見られるような気がした。


「なるほど~、ここに出たか……」


 廊下に着地してすぐに辺りを見回したカイナは、廊下のそれぞれの道をチラチラと流し見ながらそう呟いた。


「こんな何もない十字路を見ただけでどこか分かるんすか?」


 スフィーは服についている汚れをはたき落としながらそう聞いた。するとカイナはうんうんと頷きながらスフィーの顔を見た。


「あぁ、バッチリ頭に入ってるからな。ちなみにこっちは大部屋だ。流石に分かるよな?」

「ちっ、当たり前だ。ダクトはずっと真っすぐだったからな」


 大部屋からこの廊下まで、ダクトは一本道だったので大部屋の位置は必然的に特定されていた。三人はその道を後方として、前と左右。どの道を進むか話し合い始めた。


「もしもの話しなんすけど、今日のつい数時間前、この大陸で捕まったとしたらどっちの施設に連れていかれるっすか?」


 手っ取り早く初汰たちを探し出したいスフィーは、単刀直入にそう聞いた。


「今日この大陸でだと? となるとどっちに運ばれてもおかしくないな……。こっちでキメラのスパーリング相手をさせられるか、向こうの施設で屈強な志願兵どもに嬲り殺しにあうか……」

「ならそのスパーリングが行われるところか、こっちで収容できそうな部屋に案内してくれ」

「おいおい、俺はここから出ることが目的なんだぞ? なんでわざわざ捕まりに行かなきゃいけないんだ」

「ちっ、なんなら部屋さえ教えてくれればそれでいい。後は俺たちだけで行く」

「それじゃあお前たちを誘った意味が無いだろ。どうしても最後は力押ししなきゃいけないところがあるんだから」

「ちっ、何を今更。最初に伝えておくべきだったな」


 クローキンスは吐き捨てるようにそう言うと、勝手に右の通路を歩き始めようとする。


「ちょっとクロさん! 待つっす!」


 それを見たスフィーはすかさずクローキンスの腕を掴んで引き留め、何とか十字路の真ん中に引き戻した。そしてその腕を掴んだまま、カイナの方を向いた。


「カイナさん、頼むっす。あなたのことは絶対に守るっす。だから案内をしてほしいっす」

「……」

「腰抜けは放って置け。時間の無駄だ」


 クローキンスはそう言うと、スフィーの腕を振り払って踵を返した。


「待ってくれ。分かった、案内するよ。だから俺のことはしっかり外まで連れて行ってくれよ?」

「約束するっす!」


 スフィーはそう言うと、カイナの右手を無理矢理引っ張り、そして両手でぎゅっと握った。


「よし、じゃあ早速スパーリング相手を収容している部屋に向かおう。さっきも言った通り、ブラックプリズンから運ばれてきた粗暴な連中もいるかもしれないから気を付けてくれよ」


 カイナはにっこりと笑みを浮かべながらそう言うと、こっちだ。と言って十字路の左の通路を歩き始めた。何とか交渉成立に持ち込んだスフィーは、ほっと一息ついてから彼の後を追った。

 三人は通路を直進し、接敵することなくとある一室の前に到着した。スライドドアの右横には黒いオーブが設置されており、これをどうにかしなければドアは開きそうになかった。


「何か方法は無いっすか?」

「誰か関係者が来るのを待つか。こじ開けるか。それくらいしか思い浮かばないな。残念ながら頭に入ってるのは地図だけだ。ドアの開け方までは入ってない」


 カイナは肩をすくめながらそう言うと、辺りを見回し始めた。


「……中の音は聞けるか?」


 考え込んでいたクローキンスは、ふとスフィーにそう聞いた。


「確かに、その手があったっすね」


 言われて思い出したスフィーは、ささっとドアに近寄って耳をぴたりとくっつけた。


「……う~ん、それっぽい声は聞こえないっすね。初汰ならワーワー喚いてそうっすけど」

「おいおい、そんな確かめ方で良いのか?」

「でもこれくらいしか方法が無いっすよ」


 スフィーはドアを離れると、口を尖らせながらそう言った。


「そうだ、監視室だ! そこに行けば全部の部屋の様子が分かるはずだ!」

「そんな部屋があるんすね!」

「あぁ、今の今まで忘れてた。早速そこに行こう。そこでお仲間さんらしき人が映ってなかったら、さっさとここを出るからな」

「了解っす」


 三人は今来た道をそっくりそのまま引き返し、速足で十字路に戻った。

 ――もうすぐで十字路のたどり着こうという時、二番目を歩いていたスフィーが突然立ち止まった。するとその直後、十字路に宗周とその部下である黒スーツ三人が姿を現した。一本道で身を隠す場所など存在せず、三人はあっけなく黒スーツの一人に見つかってしまった。


「そこで何をしている!」


 一人が声を上げると、全員が一斉にスフィーたちの方を向いた。


「クソ、今日はやけに早いな。後ろに引こう!」

「でも後ろに引いたって行き止まりっすよ!」


 スフィーはカイナを引き留めようとしたが、当の本人は既に走り出してしまっていたので、スフィーとクローキンスは彼を追うしか無かった。


「奴等を追え! 私は戦えるキメラを連れて来る」

「承知しました!」


 黒スーツの男たちは声を合わせてそう言うと、颯爽と走り出した。


「ちっ、目の前のドアをぶっ壊すしか無いな」


 クローキンスはそう言うと、ウエストバッグから炸裂弾を取り出し、一発だけ装填した。


「早く撃たないと巻き込まれるっすよ!」

「分かってる。最悪お前の魔法でどうにかしろ」


 早口にそう言うと、スフィーとカイナの意見は聞かずに発砲した。

 ――炸裂弾はドアのど真ん中に命中し、ドアは綺麗に吹き飛んだ。加えて爆風も多少発生しており、三人はそれを利用して部屋に突入した。

 部屋に入るとすぐ、三人は隠れる場所を探した。しかし隠れる場所など一つも無く、殺風景な広い空間が待ち受けていた。


「ちっ、ここは収容部屋だったんじゃないのか?」


 クローキンスが疑問を口にするのも当然で、収容されている人もいなければ、そもそも収容するための小部屋、ないしは牢屋のようなものは一つも見受けられなかった。


「そ、そのはずだ。俺が記憶している限り。ここは収容部屋だったはず」

「それは後で良いっすから、今はとにかく部屋の奥に逃げるっす!」


 スフィーはそう言うと、発生していた爆風を風魔法で集約させ、それを追っ手が来るであろう出入り口に向かって放り、簡易的な煙幕を作り上げた。その間に三人は大きな丸部屋の奥まで逃げ、どこかに逃げ道が無いか探った。しかしそう都合良く隠し通路が見つかるはずも無く、追っ手は煙幕を振り払って部屋に入って来た。


「……やるしかないみたいっすね」

「ちっ、みたいだな。さっさと片付けて監視室に行く。分かったな?」


 クローキンスはカイナのことを睨みながらそう言うと、連結銃を構えて数歩前に出た。


「ここはあたしたちがサクッと片付けるっす。カイナさんは息を整えて監視室までの道のりを思い出しておいて欲しいっす」


 呆然としているカイナのことを見て優しくそう言うと、スフィーも数歩前に出て苦無を両手に構えた。対する敵三人もそれぞれ剣やら棍やら杖やらの武器を構え、先に攻撃を仕掛けてきた。

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