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第六話 侵入

 突入部隊は、音もなく王都に侵入した。

 というか、圧倒的な実力差の前に門の警備をしていた兵士たちは為す術もなく倒れたために、戦闘らしい戦闘が起こらなかったのだ。

 後方——町の外からは、怒声が響き渡ってくる。

 突入部隊が街に潜入する10分前に始まったスタルカズル軍と正規・闇ギルド連合部隊の闘いは、想像以上に激化していると見える。これまで三度、中規模魔法レベルの爆発音が響いているのだ。

 しかし、突入部隊の誰一人として、救援には戻らない。

 連合部隊の中には突入した10人を除いても4人のSランク冒険者がいる。故に、よっぽどのことがない限り連合部隊の勝利は確定しているといっていい。

 また、突入部隊に選ばれたのはSランクの中でも強者に位置づけられる者たちである。

『神剣』ティルフィング。

『光槍』グングニル。

『無弓』ヒュドラ。

『絶楯』アイギス。

 この四者は、Sランクの中でもとりわけ最強と言われる者たちであり、彼らの持つ武具は彼らと同じ名を冠する『神器級』の逸品である。

 さらに続くのは、巨人たちの名を冠する者たち。

『巨躯』ユミル。『巨軍』テュール。『巨王』トール。『巨慧』フォルセイ。

 事実、この八人だけでも過剰戦力であるといわれていたが、相手の実力が未知数であるために、追加で配備されたのがボクとリッカ。

 故に、ボクたちが行うのは王の抹殺。戦力を必要としない、最も簡単な仕事なのだそうだ。

 そのことに対し、リッカは少し不満があったらしいが、ボクとしては、命の危険を冒さなくていいのならば、それに越したことは無い。この辺りは価値観の相違だろう。どうにもならない。

 そして、王城の前に付いた時、そいつは現れた。


 ***


「———はは、来たか、ゴミ共が」

 そいつが発した最初の言葉がこれだった。

 ブロンドの髪を持ち純白の鎧に身を包んだ彼は、余裕の表情をもってボク達を迎えた。

「私はレウス・R・ヴィシャスという。これから死にゆくお前らには関係のない話かもしれないが、彼の神獣討伐者、ロード・R・ヴィシャスが子孫である」

 神獣討伐者——その、ロード・R・ヴィシャスとやらは聞いたことがないが、仮にそうだとしたら——大陸級災害を滅ぼした『勇者』という存在なのだろう。その『証』は後世まで受け継がれ、強力な魔法として代々継承されていく。

 その言葉にひるんだのか、リッカが固唾をのんだ。

 けれど、ボクを含めたそれ以外の九人は冷めた目で彼を見つめる。

「私が受け持とう。どの神獣を討伐したのかは知らないが、私とて大陸級災害『神蛇』に対して重傷を負わせた身だ。なかなかいい決闘になるのではないのか?」

 そう言ったのは、『巨王』トール。

 突如大陸に発生した大蛇を、その双大剣をもって海へと追いやった英雄。

 彼が口にした言葉は、ともすれば挑発にも聞こえる。そして、実際にそういう意図も込めていったのだろう。レウスと名乗った〈敵〉は、わずかに眉をひそめた。

「ふん、力の差をわきまえぬ愚か者ということか。よかろう、全員を相手取ってやろうと思っていたが気が変わった。まずは貴様からだ」

「そうさせてもらう」

 レウスの口上に比べ、短く言い返したトール。

 そして次の瞬間には激突する両者。

 背負った双大剣を瞬く間に抜き去り、地を砕く踏み込みをもって一瞬で間合いを詰めたトールに対し、レウスはとっさにその長剣でガードする。

 振り下ろされた大剣を受け流し、次の剣線につなげようとするが、トールは一度振り下ろしたほうの大剣を手放してもう一方を横なぎにふるう。

 それすらも後ろに跳ぶことによって回避したレウスだが、一度離れたことでトールに十全に準備する時間を与えてしまった。

 ここまで、ほんの十秒にも満たない戦闘だったが、ボクたちS級レベルにならなくては何が起こったのか判断することすらできないだろう。確かに、相手もS級——それも強い部類だ。

「フォルセイ、残ってくれたまえ。それ以外の奴らは前へ進め」

「それがよさそうだね」

「ああ」

 まだここは王城に入る前なのだ。足止めを食っている場合ではないということだろう。

 見たところフォルセイというのは魔術師であり、確かにこの二人でこのレウスというのの相手をするのは得策といえそうだった。

「では、頼みましたよ」

 丁寧な口調でティルフィングが応じ、未だ戦闘中のトールたちを飛び越えていく。

 ボクもサッと飛び越え、何時の間にかティルフィングが切り分けた城の扉を通り抜けていく。見れば、かなりの分厚さと強固さがあったようだが、難なく斬り捨てているようだ。

 このあたり、ボクの職業では厳しいだろう。〈命摘ム鎌〉ならば切り捨てられるかもしれないが、そんなことをして開けたい程のものでもない。向き不向きだ。

王城はかなり広いが、正規ギルドから渡された王城の内部構造は頭に入っているから、迷うことなく王の居場所までたどり着けそうだった。

「——大規模戦闘が出来そうなのは謁見の間のみ、そこに戦力が集中しているでしょう」

 一応、この王城襲撃部隊のリーダーという位置づけになっているティルフィングが地図を見て言う。

 確かにこの王城のつくりは複雑であるが、三組の戦闘——それもSランクの強者たちの——を行える場所はといえば、謁見の間唯一つだろう。

 しかし、Sランクとはいえど派手な戦闘要員ばかりではないだろう。ボクのように隠密行動に特化した敵もいるかもしれないのだ。

「ここと、ここには伏兵がいるかもしれないよ?」

 そう思ってティルフィングに声をかけてみたボクだったが、睨まれてしまった。その程度で固まるボクではないが、彼がこちらの話を聞く気がないのが分かってしまう。

「王の直属部隊の構成が分からないなら、こういう些細なところに気を配っておかないと死ぬかもしれないよ?」

「ふん、闇ギルドのSランクはそんなことにも怯えるのか?」

 ヒュドラが口をはさんでくる。おい、偏見のない者を集めてくれるんじゃないのか?

「いや、ならいいが、正面戦闘以外にも一応でいいから気を配っておいてくれよ?」

 ヒュドラたち正規ギルドのSランク達は、鼻を鳴らしながら彼らだけで作戦会議に移ってしまう。ボクはそれを見て、溜息を吐きこそすれどさっきのように口を出したりはしなかった。


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