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第五話 連合軍

 ———荒野に、黒い波が見える。

 アレは、恐らくスタルカズル帝国軍だろう。

 総力を結してここに集合しているのか、思った以上に数が多い。


「———Sランクの者は、さすがに出張ってねぇだろうな?」

 そんなつぶやきが、隣の男から洩れる。確か名前はクヴァシルとか言ったか。正規ギルドから派遣されてきたA+ランクの『戦士』だった。

「どうしてそんなことを気にするのさ?」

 ボクはふと尋ねてみる。

「Sランクってのは、一人で一個大隊分くらいの戦闘力があるんだよ。だから、大抵のものには負けねぇのさ。A+ランク20人でも倒せるか倒せねぇかってところだろうよ。計画じゃあ、王城までたどり着いて仕事するのはSランクの10人だけだよ。何故かってぇと、相手の王直属部隊にSランクが4人いるから、そいつらと1対2でぶつけ合って、その隙に一人が帝王を殺すためだわな」

 ごつい見た目に似合わず、説明好きなようだ。随分と饒舌に話す。

 ランク制というのは、正規・闇ギルドのそれぞれが独自に定める、登録者たちの強さの格付けだ。まだ登録したてのFランクから、人類を超えた強さとすら言われるSランクまで、職業や能力によって区分けしているのだ。

「つまり、Sランク以外の者がSランクに挑んでも、無駄死にするってこと?」

「そうだな。……ってか嬢ちゃん、随分とサバサバしてんのな」

「嬢ちゃんじゃないけど。……まあ、仕方ないから。死んじゃったら」

「それもそうさな!」

 そう言ってクシヴァルは豪快に笑う。

「あまり笑うな———集中がそがれるだろう」

 そんなクシヴァルを窘める声が聞こえた。

「んあ? って、おう! ニレの警備隊長じゃねえか。つい最近『聖人』になったっていうのはアンタのことか?」

「その通りだが、さっきの話は聞いていたのか?」

「集中が削がれるって話だろ? もちろんだぜ!」

「そうか。なら黙っててくれ」

 随分とあっさり斬り捨てるものだ。

 というか、ニレの警備隊長って、あの時戦ったやつなのだろうか?

 今では『聖人』という人類最強レベルのジョブを持っているらしいのだが、全くそんなそぶりは見せなかったな。三年でよく成長したものだ。

「——『暗殺者』」

 そんなことを考えていると、ボクに向かってニレの警備隊長が話しかけてきた。

「私はリッカ・エムブレという。ジョブは『聖人』。———あの時は世話になりましたね。私だけでなく、あなたも『Sランク』になっていたとは、驚きです」

 少しだけ、もう覚えていないことを期待していたが、そんな期待は辛くも打ち砕かれてしまった。

 そう、ボクもこの間職業が『死神』に職業進化したのを機にSランクの称号を授かっていた。

「ああ、ボクはディンというんだ。久しぶり」

 少しからかうような口調でしゃべってみたのだが、剣呑な顔をされる。やはり、かなり根に持っているようだ。ディンというのは、無論偽名である。

「闇ギルドとの合同依頼、良く了承したね」

 ボクが持っている彼女のイメージは、清潔で、間違ったものを嫌うというもの。そんな彼女が『犯罪者集団』といっても過言ではない闇ギルドとの合同任務に参加することが、ボクにとっては意外だった。

「スタルカズルの民のためよ。本当なら、今すぐにでもあなたを捕えたい」

「——そっか。まあいいけど、仕事中には邪魔しないでね」

 そう、それだけ守ってくれれば何も言うことは無い。

仕事が終わり次第襲って来ようとも問題はないけど、仕事中に来たらホントに殺すからね?——という意味だったので、言葉にも少し殺気をのせたのだ。

それを敏感に感じ取った彼女は、すっと目を細めて「いいわ」といった。この殺気に当てられてもその程度で済んでいるあたり、彼女は本当に実力者らしい。

隣にいたクシヴァルなんかは、突然襲ってきた寒気と不快感に顔を顰めていた。まあ、卒倒しないだけましかも。

 とはいえ、これでは本当に勝負にはならなそうだなぁとも思う。

 確かに、SランクとAランクの間には隔絶した強さの壁があるようだった。

「仕事中は——ねぇ。大丈夫なのかしら? あなたも突入部隊のはずだけど?」

 そいつは初耳だった。突入部隊というとあれか? 王城まで突っ込んでってSランクどもと戦って、王様殺すあれか?

「な、なんだおめぇ、Sランクだったのかよ……ったく、じゃあ正規ギルドの奴じゃねぇのな」

 クシヴァルはそう言って乾いた笑みを浮かべる。

 正規ギルドのSランクともなれば有名なので、ある程度顔と名前は分かっているのだろう。その中ではボクに覚えがなかったということか。

「そうだよ。ゴメンね、失望した?」

「いや、別に。闇ギルドにも強い奴はいるってのは、常識みてぇなもんだからな。そういうやつの一人なんだろ?」

「そう思ってくれていいよ」

 クシヴァルは、もう一度、今度はさっきよりも豪気に笑って、

「ほら、もう行かねぇとニレの警備隊長が睨んでんぞ?」

「ああ、ありがとう」

 そう言ってボクはクシヴァルと別れた。

 中々に気持ちのいい奴だったな、と思い、彼の無事を祈る。

「もういいの? 彼も今回の戦で死ぬかもしれない一人。もう少しゆっくりしても良かったんじゃないの?」

 口ではそう言いつつも、さっき僕のほうを見ていた目つきはそう言ってなかったよ。

 そう思ったが、口に出すのは良くないだろうと思い、

「大丈夫だと思うよ? 最前線にいたのは確かだけどさ」

 かりにもA+ランクの保持者だ。そう簡単にはやられないだろう。

 最前線は、真っ向から敵と衝突する最も危険な場所だ。しかし、自身の実力を過信しないタイプの人間であろうクシヴァルは、それに見合った実力なんだと思う。敵の脅威度もわからないから、何とも言いようはないけれど。

「そう。じゃあ、集合場所に行きましょうか? ——ついてくるといいわ」

 そう言って、リッカ・エムブレは駆け出した。

 付いていけない速さではなかったが、さすがにSランクであり、相当速い。これならトネリコの中央警備局でも十分やっていけそうなのになぁ……と思った。

 そして、この間出会った『クロ』と名乗る悪魔とも、十全に戦えるだろうと、ボクは彼女の評価を上書きしたのだった。


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