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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第九十八話  巨人相討つ

「顕家卿!」


重成達五人は走って先行する顕家に追いついた。だがやはり顕家は彼らの存在など歯牙にもかけず、振り返りさえしない。

それは常は血が通っていないのではないかと疑われる程冷たき蒼白な面貌が微かに紅潮し、冷笑とは違う興奮と喜悦の笑みを抑えられないのを彼らに見られたくないが為かも知れない。

そして遂に彼らは遂にたどり着いた。山の巨人族同士が相討つ闘争の場へ。


「・・・・!!」


山の巨人の中にあって一際雄大な肉体を持つ巨人の若者が見るからに恐ろしい長柄の戦槌を渾身の力を込めて振り下ろす。

その威力はおそらく大岩をも砕き、あらゆる生命体を無残な肉塊へと瞬時に変える絶対的な死の一撃であるに違いない。

だが相対する中年の年頃であるらしい巨人は手にした円形の盾でこれを防いだ。巨大な衝撃音が鳴り響き、大地が踏みこたえる巨人の足に穿たれる。

盾で防いだ巨人は相手の戦槌をいなし、右手に握られた方手斧を薙ぐ。若き巨人は避け損なってその兜が吹き飛んだが、致命傷には至らなかったらしく、戦槌の柄を相手の胸に叩きつけて突き飛ばした。

そして間合いを取り、再び全力で相手の頭蓋を叩き潰すべく戦槌を振るう。


「・・・・」


巨人同士の凄惨な戦いを五人の勇者と燃えるような赤毛の戦乙女は興奮と戦慄の目で見た。そしてやがて冷徹な分析する眼差しで観察した。

イズガに率いられた巨人は若く強壮な者がほとんどで、その戦いぶりは勇猛そのものだが、技量が拙く特に防御がおろそかであった。

それは若く鍛錬の量が足りていないのもあるのだろうが、それ以上に指輪の力に魅了されて操られている為に思考が硬直しているせいであろう。

一方長とグラールに率いられた巨人は年配の者が多く、その動きは熟練しており、攻撃よりも防御に重きを置いている。それはやはり呪いに操られた若者達を出来る限り殺めたくはないという思いがそうさせるのだろう。


「お主ら・・・・!何をしに参った?」


悲壮な表情で一族が相討つのを見守っていた長が重成達の存在に気づき、声をかけた。


「貴殿らが同族で争うのを見て見ぬふりをするなど、到底出来ません。微力なれど、助太刀致します」


「愚かな・・・・。お主ら小さき者達が、我ら山の巨人の戦いに巻き込まれたらひとたまりもあるまいに・・・・」


重成の返答に長は憐れみと蔑みの表情を浮かべた。


「小さき者共め、そこにいたか!殺せ殺せ、皆殺しにしろ!原型を留めぬひき肉に変えてやれ!」


イズガが憤怒と殺意に荒れ狂いながら絶叫し、配下の者達を駆り立てる。それに応じて両手持ちの見るからに恐ろしい巨大な両刃の戦斧を担いだ巨人が大地を踏み荒らしてやって来た。

五メートルに達する雄大な巨躯に重厚な鋼鉄の武具を身を纏わせた巨人の戦士の姿。それはまさに生命を育み、鉱物を生む大地の力の結晶であり、この銀河にあって地を踏みしめて生きる生命の中にあって最も強壮な存在であるに違いない。

その巨大な生命体が神王の呪いに突き動かされ、怒りと狂気をまき散らしながら突進してくる。

その魔的なまでの圧力を前にして光の神に選ばれ、死を克服したはずの勇者達、そして彼らを導く為に生まれた勇猛な戦乙女も全身が冷や汗に満たされ、動悸が高まり、呼吸が苦しくなるのを抑えられなかった。

いや、ただ一人常と変わらぬ表情で動き出す者がいた。上級公卿のみ纏う直衣の上に胴丸を身に着け、烏帽子を戴いた貴公子。その顔貌はうら若き乙女と身紛う程繊細でありながら、双眸には峻烈にして神々しい光が灯っていた。


「顕家!」


若くして戦場に散った貴公子を選び、ヴァルハラに招いた戦乙女が彼の無謀を止めようとその名を叫ぶ。

だが貴公子は冷然と一笑して応えた。


「黙って見ていろ」


そう無言のまま語っていた。


「・・・・」


顕家の無言の言葉を受け取った重成は山の巨人族に対する戦慄も、平素顕家に抱いている複雑な感情もこの時ばかりは完全に忘れた。

そして息を飲み、まばたきもこらえて顕家の動きに注視した。一足早く神の域に達したその武勇が圧倒的な暴力、大地の力の化身をどう捌くかをしかと見届け、そしてその動きを取り入れて自身のさらなる成長を促す為に。

巨人は両刃の斧を高々と振り上げた。屠る相手が巨人ですらない小さき種族、しかも細身で軽武装であっても手加減する気は一切無いらしい。

それは指輪の力もあるだろうが、それ以前に山の巨人族本来の気性なのかも知れない。

両刃の戦斧が巨大な光の滝となって顕家の頭上に落ちる。だが顕家は軽く大地を蹴って神速の体捌きで左に移動して分厚い刃を躱すと、すぐに跳躍した。

凄まじい力で振り下ろされた巨大な戦斧が大地を穿ち、振動が起こって他のエインフェリア達とワルキューレは体勢を崩したが、顕家は空中にいることによって巧みに逃れる。

そして山の巨人の太くたくましい腕を足場として軽やかに駆けた。その動きはまるで体重が無いかのようであり、風に翻る羽毛の如きであった。そして一瞬の内に巨人の懐に入って刃を横なぎに振るった。


「・・・・!!」


甲冑に守られていない頸部を切り裂かれ、真っ赤な鮮血を滝のように振りまきながら巨人は己の身に何が起こったのか理解出来ていないような呆然とした表情を浮かべた。

だがやがて失血の為にその髭に覆われた顔貌を蒼白に染め上げ、がっくりと膝を大地に落とした。


「ふん・・・・。図体がでかいうえ、筋肉の厚みも固さも大したものよ。急所を裂いたというのに、一撃で屠ることはできぬか・・・・」


顕家は山の巨人の血に染まった首筋を凝視しながら、忌々し気に呟いた。





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