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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第九十七話   小さきもの

超重量の生命体同士のぶつかり合い、巨大な鋼鉄の武具と武具が絡み合う衝撃と大音響がヨトゥンヘイムの大地を震動させる。

さらに山の巨人の強壮無比な生命力、闘気、そして同族同士で相争わねばならない慟哭が休息をとっていたエインフェリアとワルキューレの心身を震わせた。


(駄目だ、このまま何もせず彼らの争いから身を避けるなど出来ない・・・・)


そう決意し、立ち上がろうとした重成よりも先に北畠顕家が洞窟内から出ようとしていた。


「おい、顕家!」


フロックが呼び止める。


「休息は充分だ。私は行くぞ」


顕家は静かに言った。元々彼は霧隠才蔵と激しい戦いを繰り広げていたが、身にはかすり傷一つ負っていない。

その瞳に神気と龍の気を集中させて戦った為に体力と精神力を消耗していたのだが、敦盛の笛の音と自身の卓越した集中力で回復に努めた為、一足早く万全に近い状態に戻ったらしい。

そしてそのフロックに答えた声にかすかな興奮の響きがあるのを鋭敏な幾人かは気づいた。

冷徹にして傲岸な北畠顕家と言えど、山の巨人同士の戦いには身も心も震えるのを如何ともしがたいらしい。

顕家は足早に洞窟を出て行った。


「わしもじっとしておられんわ」


そう言ったのはやはり後藤又兵衛であった。愛刀青江助次を失い、得意の槍も弓も馬に預けている為、彼の手元には脇差しか無いのだが、そのようなことを理由に戦いから逃げ隠れする又兵衛ではない。


「行きましょう」


顕家と又兵衛に鼓舞された重成が言った。


「重成・・・・」


「ブリュンヒルデ、貴方はここに残ってくれ。まだ回復しきれていない者達を守ってもらわないと」


神気を完全に使い果たしたエドワード、それに深手を負ったローランとラクシュミー。それに戦う技量の無いエイルと敦盛はここに残していかねばならない。不測の事態に備えて彼らを守る者が必要だろう。


「分かりました。気を付けて・・・・」


「あたしも行くよ・・・・」


フロックが立ちあがった。だがその声と表情には常の勝気と闘志が不足しているのは明らかであった。


「・・・・大丈夫なのか?」


「あたしにとって戦いこそが最良の薬なのさ」


重成の心配げな声にフロックは静かに、だが凛然と答えた。重成が無言でブリュンヒルデを窺うと、彼女はやはり無言で頷いた。フロックならば、新たな激しい戦いに臨めば、たちまち敗北の傷心を克服するに違いないと確信しているようである。


「ならば私も行こう」


ヘンリク二世も立ち上がった。この時、この状況ではブリュンヒルデとエイルよりも、フロックの側にいた方が良いと判断したのだろう。


「致し方あるまいな。拙者も参ろう」


若者を守る為、二度と戦いを放棄しないと誓いを新たにした姜維が三尖両刃刀の刃を確認しながら言った。


「又兵衛、待って」


そう言ってエドワードは短くルーンの詠唱を行った。すると又兵衛の手に馬の鞍に掛けているはずの愛用の大身槍が握られていた。


「いくら何でも、その短い剣じゃ山の巨人とは満足に戦えないだろう?それに剣より槍の方が得意だって言ってたよね?」


「おお、気が利くではないか、エドワード」


又兵衛が嬉しそうに槍を振るいながら礼を言った。この槍は本来馬上で用いるものだから徒歩で用いるにはいささか長大すぎるが、山の巨人と戦うにはかえって丁度よいだろう。


「僕も神気が回復したら、駆け付けるから。みんな気を付けて」


エドワードが青灰色の瞳に強い光を灯しながら言った。その光は元々備わっていた才知の色だけではなく、さらに勇気という種類の鮮やかな光沢も得ているようである。

思えば出会ったばかりの頃のエドワードは己の高貴な出自と聡明さを鼻にかけ、いささか軽薄で胆力に欠ける面があった。

だが幾多の戦いと試練を経て軽薄さは消え、重厚さが増したように思える。


(良い面構えをするようになった)


重成、又兵衛、姜維は等しく認めた。


「この聖騎士様が敗北の痛手から回復して本調子に戻るのはもうちょっと時間がかかりそうだけど」


意識は取り戻しているものの、まだ肉体の傷が完治していないローランを見ながらエドワードが言った。

どんな状況にあっても、どれだけ人として成長してもやはりローランに嫌味を言わなければ気が済まないらしい。

舌打ちしながら顔を背けるローラン以外の者は皆苦笑を浮かべた。


「では、行こう」


重成、又兵衛、姜維、フロック、ヘンリク二世が顕家を追って洞窟を出た。


「・・・・」


結界から一歩足を踏み出すと、神に匹敵する膂力を持つ山の巨人の鋼の武具と武具がぶつかり合う音と衝撃が大気を震わせ空気を切り裂いており、離れた場所にいる彼らの鼓膜と肌に強い痛みを感じさせた。

イズガに率いられた若い巨人達も、長とグラール達に率いられた年配で穏やかな巨人達も本気で殺し合っているのだろう。

単体ならば巨人族の中で最強であろう山の巨人達同士の戦いは、かつて行われたラグナロクに引けを取らない激しく壮大な戦なのではないだろうか。


(我ら如きが、割って入れるのか・・・・?)


人間の身であることから超越し、神となりつつある勇者達であるが、我が肉体の小ささを思うと、そう疑問を抱かずにはいられなかった。

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