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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第九十六話  地響き

凄まじい振動であった。重装備に身を纏った巨大な生命体の群れが怒涛の勢いでまっすぐこちらに向かって来ている。

彼らの深甚な怒りと殺意に呼応してヨトゥンヘイムの大地が揺れ動き、地震となって激しい死闘を演じていたエインフェリアとワルキューレ、そして真田十勇士を襲った。

戦いに勝利し、今まさに敵に止めを刺そうとしていた者も、敗北し、死を受け入れようとしていた者も皆等しく立っておられず、地震に耐えた。


「ちっ、これからだって言うのに・・・・」


いち早く振動に順応した猿飛佐助がすっくと立ち上がりながら言った。どのような体の使い方をしているのか、全く体が揺れ動いていないように見える。


「指輪に魅了されたあの哀れな巨人の若造が仲間を連れてやって来たわ。奴らは鈍重故、もう少し先だと踏んでいたのだが・・・・。思っていたよりも快足であるらしいな。甘く見ては足元をすくわれるやも知れんな」


ブリュンヒルデへの妄執と重成への憎悪などケロリと忘れたような佐助の態度である。


「あの巨人の祖父と父ももうすぐ仲間達とここにやって来るだろう」


グラールと長がいつの間にか姿を消していたのには気が付いていた。彼らもまた事ここに到っては、真正面から戦うしかないと覚悟を決め、同志たちを呼びに行ったのだろう。


「巨人同士の争い・・・・。見ものですね。まずは我らは特等席で見物させていただきましょう」


北畠顕家との戦いに敗れたはずの霧隠才蔵がいつの間にか猿飛佐助の側に佇みながら言った。


「ヘル殿は出来るだけ多くの命を冥府に送り込みながら任務を果たすことをお望みじゃ。山の巨人族同士で大いに相討ち、数を減らした後で指輪を戴くとしよう」


佐助が言うと、他の九人が頷いた。エインフェリアとワルキューレと戦い、勝利した者も、敗れた者も皆等しく結果のことは心に残していないようである。

忍びとして任務を忠実に果たす為、頭脳を瞬時に切り替える訓練を厳しく積んだ賜物に違いない。


「凄まじい怒涛の進軍よな。まさに大地の怒りと言うべきか。アース神族の方々よ。彼らの争いを身を挺して止めようなどとは間違っても考えてはいけませんぞ」


佐助は重成とブリュンヒルデを見ながら言った。その口調、表情には先程まで見せていたおぞましい漆黒の執念の色は微塵も無かった。それどころかまるで親しい友を心から心配するような友愛の念すら感じられた。

それがかえって猿飛佐助という男の底の知れない怪物じみた異常性を強調する結果となり、重成とブリュンヒルデは肌に粟が生じた。


「貴殿らの多くも最早戦う力はありますまい。しばらく身を潜めて休息なさるがよい。その上で、我らが指輪を戴くのを何としても阻止するというのならばご随意に。正面からの戦いならともかく、物を盗むことにかけては我らは天下一よ。絶対に貴殿らでは止めるのは不可能だと忠告しておこう。では、後ほど・・・・」


一陣の風と共に木の葉が舞い散り、真田十勇士の気配は消え去った。


「・・・・」


しばし、呆然として言葉も無かったエインフェリアとワルキューレであったが、南北からそれぞれやって来る山の巨人族の群れが後数分で激突することを知った。


「どうするんだよ・・・・」


海野六郎との戦いに敗れた傷心から未だ立ち直れていないらしいフロックが力なく呟くと、


「どうするも何も、奴らの言った通り、今のわしらに巨人同士の争いを止める力などあるはずも無い。身を潜める他なかろうが」


後藤又兵衛が憤懣やるかたないと言った様子で吐き捨てるように言った。


「とりあえず、けがの手当をしないと・・・・・」


そう言ってエイルは、最も重傷で意識を失っているローランの元に駆け寄った。


「ブリュンヒルデ・・・・」


しばし怒りと無念で歯噛みしていた重成であったが、やがて諦めの表情を浮かべ、ブリュンヒルデに決断を促すよう声をかけた。


「・・・・」


猿飛佐助への怒りと恐怖、そしてあの男の言う通りに従わねばならない屈辱に震えていたブリュンヒルデであったが、やはり彼女もまた諦めねばならなかった。


「皆、急いで身を潜めましょう・・・・」



一同は戦いの場から少し離れた位置にある洞窟に身を隠した。ブリュンヒルデがルーンの詠唱を行う。


「敦盛、皆の神気を回復する笛を吹いてください」


「え・・・・。でもそれだとイズガ達巨人に見つかりますよ」


「結界を張ったので大丈夫です。貴方の笛の音も神気も外に漏れることはありません」


「分かりました。では・・・・」


敦盛の清らかにして温かな神気が込められた笛の音が洞窟内に鳴り響く。勇者達と三人の戦乙女はじっと耳を澄まし、戦いの疲れと汚れを払い落した。


「む・・・・。ちょっと待ってください」


敦盛が演奏を止めた。


「どうしたの、敦盛くん?」


エイルが問いかけた。


「誰かが僕らを探して声をかけようとしている・・・・。これは、長とグラールさん?」


仲間を連れて戻った長とグラールがアース神族の面々に山の響きを使って声をかけようとしたが、結界に隠れているので出来なかったのだろう。だが、並外れて鋭敏な聴覚を持つ敦盛が首尾よくその声を拾ったらしい。


ブリュンヒルデが結界から出て、小声を発した。


「長・・・・」


「む。お前たち、無事か」


ブリュンヒルデの鼓膜に直接長の声が響いた。


「はい、私たちは何とか。ですが・・・・」


「お前たちももうわかっているな。孫とそれに率いられた若い衆たちの怒りと殺意を。いや、そんな甘いものではないな。完全に狂っておるようじゃ」


「・・・・」


「わしらに欺かれ、眼を傷つけられた程度で孫が、山の巨人がここまで怒り狂うはずがない。指輪の呪いで狂わされておるのだろう。もう止めることは不可能じゃ」


「それでは・・・・」


「力づくで止める。せめてわしか、グラールの手であの子の息の根を止めるしかあるまい」


「申し訳ありません。このような結果になってしまって・・・・」


ブリュンヒルデは長とグラールの心情を思い、心の底から済まなく思った。


「謝罪は無用。それより、あの得体の知れない者共。あれが邪神ロキの手下か?」


「はい。ロキの娘、ヘルの力で蘇った死者の軍勢の兵です」


「わしらと孫達が戦ったら、どういう結果になるか分からん。だが、あの者共にだけは断じて指輪を渡すな。あのような汚らわしい者共に・・・・」


そこで長の声が途絶えた。そしてこれまで以上の凄まじい地響きが起こった。




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