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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第八十八話  三好伊三入道

伊三入道の術によってその醜悪な姿を現した式神は全部で二十四体。その四分の一は翼を得て空に舞っている。

人間の体を基本に、鳥類を融合させたような姿である。奇妙な装束を纏い、棒を所持している。

無論エドワードは知らないが、日本の伝承に現れる鴉天狗と呼ばれる妖怪の姿をしている。


(全く悪趣味というしかないな・・・・)


エドワードは好々爺を思わせる温和な顔貌の伊三入道を睨みながら毒づいた。


「貴殿の式神は随分と重そうな甲冑を纏ってますな。ちゃんと動くのですかな?」


「式神じゃない。オーク兵と呼んでもらおうか」


全部で二十体のオーク兵に隅々まで神気と念を送り込みながらエドワードは答えた。


「君の紙なんかで出来た薄っぺらい化物では、鋼鉄の武具で身を固めた騎士には傷一つつけられないんじゃないかな?」


「ほっほっほ、そうかも知れませんな。何せ、この術を実戦に使うのはこれが初めてですからな。まあ、何にせよ試してみましょうか」


伊三が短く呪文を呟くと、式神が一斉に動き出した。鳥獣の部分を持っているものの、全く生命の躍動が感じられない機械的な動きである。

地を走る者は十八体。空を飛ぶ者は六対である。

その空を舞う式神を狙ってエドワードのオーク兵がクロスボウを発射した。

強力な威力と速度を持つ矢を躱すことが出来ず、三対の式神が地に落ちた。だがそれで活動を停止することは無く、何事もなかったかのようにすぐにまた動き始める。

地を走る式神の内、もっとも速い動きを持つ式神が腕を振るった。その腕には熊の前足を思わせる巨大な爪が備わっている。

鞭のようにしなる一撃を先頭にいるオーク兵が盾で防いだ。その一撃の速度、威力は猛獣をも昏倒させる威力があることをエドワードは認めた。

盾で防いだオーク兵は反撃に転じ、戦斧で頭部を破壊しようとなぎ払う。だが式神は巧みに身を捻って躱した。

オーク兵の長大な槍が一際巨大な式神の脇腹を貫く。だが式神はその程度ではまるで動ぜず、豪腕を振るい、その爪でオーク兵の胴を薙いだ。

オーク兵はよろめいたものの、すぐに体勢を整え、また槍を振るう。

オーク兵の鋼鉄の武具と式神の爪牙が激しくぶつかり合い、異様な響きがヨトゥンヘイムの大地に鳴り響いた。


(どうやら、僕のオーク兵と奴の式神の戦闘力はほぼ互角らしい)


青灰色の瞳に冷たく燃える炎を灯しながらエドワードは戦況を分析した。


(勝敗は、術者である僕らがいかに精密に念を送り続けるかにかかっている・・・・)


集中を乱し、念を送れなかった術者にたちまち攻撃が向くだろう。そうなってはひとたまりもない。


「このままでは、埒が明きませんな」


伊三入道が温厚な笑みを消し、渋面で言った。


「貴殿のオーク兵とやらも、拙僧の式神も多少の攻撃ではびくともしない。念が消えるまで動き続ける。しかし、お互い数時間は念を送れるでしょう。数時間このまま配下同士を戦わせ続けるのはあまりに退屈ですな」


「・・・・」


「術比べは次の段階に進むべきですな」


伊三は懐からさらに霊符を取り出した。


「お互い、式神とオーク兵を動かしつつ、さらに術を使って相手の念を断つ。これで行きましょう。さあ、よろしいですかな、王太子殿」


「何だって・・・・」


エドワードは予想していなかった事態に当惑を隠せなかった。


(奴は式神を動かしつつ、別の術を使う事も出来るのか。僕にはそんなことは・・・・)


出来ない。かつてヴァルハラに侵入した霜の巨人の軍団相手にオーク兵を戦わせつつ術を放とうとしたが、やはり同時には出来なかった。どちらかにしか念を集中できないのである。

さらにルーンの詠唱を行えばオーク兵の動きは止まり、オーク兵を動かしたくばルーンの詠唱を止めるしかない。

伊三は霊符を一枚空中に放った。するとたちまち槍に変じ、エドワードに向かってうなりを生じて飛んできた。


(ぐ・・・・!オーク兵は間に合わない。だが光の矢を発動さればオーク兵の動きは止まる。そうなれば式神はすぐにオーク兵を突破して僕に攻撃してくる。そうなったら、ひとたまりも無く殺られる・・・・)


ならば、どうするか。


(やるしかない。伊三入道と同じように、オーク兵を動かしながら術を発動するしかない。あいつに出来るんだ、僕にだって出来るはず・・・・!)


エドワードは意識を集中し、神気を高め、印を組む。


(意識を、神気を二つに割るんだ。七割をオーク兵に、三割をルーン魔術に。焦るな、研ぎ澄ませ。僕になら必ず出来る・・・・)


意識と神気の大半をオーク兵に向けつつ、エドワードは光の弾丸を作り出した。


「出来る!」


そしてそのまま光の弾丸を放出し、伊三入道の槍を迎撃させた。光が弾けて槍が砕け散り、紙の破片となって風に吹かれ散って行った。


「ハハ・・・・」


エドワードは思わず笑った。命のやり取りの最中とは言え、新しい技術を身に着け、己の成長を実感するのは他に代えがたい喜びである。

それでも気を抜かず、再び意識と神気の全てをオーク兵に向けた。エドワードの成長に応じ、オーク兵の動きがさらに精密に、力強くなったようである。


「やりますな」


伊三入道が言った。先程までの軽薄な慇懃無礼さは消え、表情と声に真摯な響きがあった。エドワードの力量を認め、己に敗北の可能性があることを悟ったのだろう。


「まだまだ行きますぞ」


伊三は霊符を二枚取り出し、空中に投じた。二本の投槍に変じ、飛ぶ。

だがエドワードは最早取り乱さない。こう来ることは既に予測し、素早く印を組んで光の弾丸を二つ作り出した。そしてそのままぶつける。


「今度は僕の番だ」


空中で生じた鮮やかな銀色の爆発には目もくれず、エドワードは先程とは違う印を組んだ。エドワードの指先に炎が生じた。そして勢いよく爆ぜ、雄大な翼を広げる鳥へと姿を変え、飛翔した。


「!」


己にその嘴を突き立て、燃やし尽くさんと飛来する炎の鳥を見て、伊三入道はその好々爺然とした仮面を脱ぎ捨てた。

強力な再生能力を誇る亡者とは言え、全身を焼き尽くされて灰となってはもう二度と復活することは出来ない。

あのような少年がこれほどまでの術を使うとは、流石に予測していなかった。

伊三は殺気だった表情で三枚の霊符を取り出し、放った。三枚の霊符はひとつになって水龍と化し、その身をうねらせた。

光を放ち炎を纏った真紅の猛禽類と、日の光を受けて耀く水の鱗を持つ蒼龍が空中で衝突した。

嘴を突きいれ、牙を立て、爪で切り裂かんと激しく格闘し、身をぶつけ合った末、二匹の神獣は共に蒸発し、ヨトゥンヘイムの大地に吸収されていった。


「・・・・」


「・・・・」


二人は顔面を蒼白にし、息を切らしながら無言でにらみ合う。お互い強力な術を使ってしまい、更なる術を行使する余力を失ってしまった。

なおもオーク兵と式神は戦い続けているが、その動きは目に見えて鈍っていた。

数分程戦いあったが、やがてオーク兵は凍り付いたようにその動きを停止し、それと同時に式神は元の霊符へと姿を変えた。

エドワードと伊三入道は全ての気と精神力を使い果たし、言葉を発する余裕も無く、その場にへたり込んだ。

二人は息を整え、体力と精神力を回復することに専念した。やがて伊三入道が皺深い顔に苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がった。その手には黒い扇が握られている。ただの扇ではなく、その親骨の部分は鉄で出来ているらしい。いわゆる鉄扇である。

護身用の武器であるが、伊三入道は鉄扇術を極め、手練れの武士を討ち取る程の妙技を会得している。

数瞬遅れてエドワードも立ち上がり、剣を抜いた。


(重成に剣を習っていて、正解だったな・・・・)


元々エドワードは生前から学問を好み、あまり武術には身を入れなかった為、薔薇戦争ではほとんど武勲を立てることなくあえなく戦死した。

その反省と、また生来の好奇心の強さもあって東洋の戦士サムライの特異な剣術に興味を抱き重成に教えを乞い習ったのだが、ここに来て役に立ちそうである。

重い手足を引きずりながら、エドワードは重成の雄壮な姿を脳裏に思い描き彼になり切って剣を上段に構えた。

伊三入道もそれに応えて上半身を捻って半身となり、鉄扇を構える。見事に脱力が効いており、全く隙が無い。

精神も肉体も消耗の極みにありながら、お互い本領ではない武術を使って戦おうとする両者の耳に、重々しい響きが届いた。

雄大な肉体に重厚な武装を纏った巨大な生命体が大地を揺るがし、走っている。しかもかなりの数らしい。


「山の巨人か・・・・!イズガが仲間を連れて戻って来たのか!」












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