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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第八十三話  対峙8

ヨトゥンヘイムの澄んだ秋の空気を切り裂く衝撃音が二つ、同時に鳴り響いた。

引き金を引くと同時に紫電の如き俊敏さで身を躱したラクシュミーバーイであったが、銃弾が頭をかすめた衝撃を受け、全身に冷や汗が満ちる。

彼女が頭に着けていたベールを穿ち、頭皮、そして肉の一部までかすめていった。

あとほんの数センチずれていたら、こめかみを撃ち抜かれていたかも知れない。


(何という男だ。わらわが躱す方向まで予測して発砲するとは・・・・)


一方、筧十蔵はラクシュミーバーイの弾丸を完全に躱し切ったらしく、平然と次の一撃を放つべく銃口に弾丸と装薬を詰めている。


「ぐ・・・・。出遅れた・・・・」


ラクシュミーは焦りと屈辱でその高貴な美しい顔を歪ませつつ、大急ぎで銃口に弾丸と装薬を詰めた。そして撃鉄を少し起こし、ハーフコックポジションにし、ニップルへ雷管を取り付ける。

そこで筧十蔵の銃が再び火を噴いた。ラクシュミーはエインフェリアとしての超人的な五感を働かせて弾道を察知し、反射神経を奮い起して身を伏せた。

今度はベールをほんの少しかすめただけで傷を負うことなく、完全に躱すことが出来たようである。しかし、精神を極度に集中した為、疲労と倦怠が一気にラクシュミーを襲う。


(やはり、銃の撃ち合いではあの男には敵わぬ・・・・)


このまま撃ち合っていたら、必ず先に自分が急所を撃ち抜かれるだろう。無念であるが、その現実を受け入れるしかなかった。


(また銃弾を受けて死ぬのは御免じゃ・・・・)


ラクシュミーはほろ苦い笑みを浮かべた。大英帝国軍と戦いとの最中に敵の狙撃で一度死んだ無念が胸中に蘇った。二度同じ轍を踏む訳にはいかない。


(ならば、接近して剣で仕留めるか・・・・?)


ラクシュミーは腰に吊るしている美麗な装飾を施した細身の曲剣の柄を撫でた。彼女が得意とするのは銃だけではない。

むしろ、幼少の頃より何よりも好んだ剣術の方でも誰にも引けは取らないつもりである。

しかしそれは筧十蔵も同様であろう。あの男の身のこなしと醸し出す雰囲気は今川義元や木村重成と同じものであり、日本の戦士階級であるサムライであることは疑いない。

とすれば、剣の実力もラクシュミーを上回るのではないか。


「だが、剣に賭けるしかない・・・・」


エイルに教わった治癒の術で頭部の傷を癒しながら、ラクシュミーは覚悟を決めた。

下手に狙撃に拘るから、十蔵の弾丸を躱し損ねるのである。

ラクシュミーは愛用の銃をその場に放置した。


「・・・・!?」


身を潜めることを止め、銃を持たずに堂々と姿を現して真直ぐにこちらに向かって来るラクシュミーを見て、流石に冷徹な十蔵も面食らったようである。

しかしすぐに気を取り直してその秀でた額を撃ち抜くべく引き金を引いた。


「・・・・」


ラクシュミーは神気をその黒曜石を思わせる瞳に集中して動体視力を活性化して飛来する弾丸を捉えた。

そして身をひねって間一髪躱した。


(やはり、エインフェリアとしての能力を総動員すれば、弾丸を躱すことは充分に可能じゃ・・・・)


ラクシュミーは会心の笑みを浮かべた。その力強く神秘的なまでに美しい笑顔は、まさにヒンドゥー教の美と豊穣を司る女神ラクシュミー神の化身かと思われた。

ラクシュミーの笑顔に引き込まれたかのように、筧十蔵もまたその猛禽類を思わせる鋭角的な顔に笑みを浮かべていた。

ラクシュミーの判断、胆力に感嘆の念を抱いたのだろう。女性ながら優れた敵手に敬意を表すべく、十蔵は狙撃を止めた。

銃口に弾丸と装薬を詰める代わりに、懐から短刀と金具を取り出し、取りつけた。

日本の戦国時代に銃剣は無い。銃剣が軍隊に採用されるのは遥か後の時代、日露戦争になってからである。

しかし銃に異常な愛着を抱く十蔵は銃と一体になることを願い、常住坐臥銃と共にあった。そして狙撃のみならず、白兵闘争においても銃のみで戦い抜くべく、独自に銃先に剣を付けることを工夫し、槍兵としても戦えることを可能としたのである。

銃剣を取りつけ終えた十蔵は身を潜めることを止め、堂々と姿を現した、そしてラクシュミーの元へ己の五体そのものを弾丸と化したかのように突進した。

ラクシュミーもそれに応えるようにそのしなやかな五体を躍らせた。まさに獲物に狙いを付けた優美にして獰猛な黒豹を思わせる動きで跳躍し、細身の曲刀の横なぎを十蔵の頸部に見舞う。

だが十蔵は銃剣の刃で受け止めた。双方の刃から火花が生じ、鉄を焼く焦げた臭いが両者の鼻孔をくすぐる。

十蔵がラクシュミーの豊かな胸部を貫こうと突きを繰り出したが、ラクシュミーは手首を捻って受け流した。そして股間を狙って膝蹴りを繰り出す。十蔵は隼を思わせる俊敏さで後方に跳躍した。


「・・・・」


両者は無言のまま間合いを取り、相手の出方を窺う。お互い相手の技量に感嘆すると同時に、未知の体技に困惑を覚えたことだろう。

十蔵の侍の槍術を応用した銃剣術、ラクシュミーのインド伝統の剣術、体術。

両者は共に若くして多くの戦いをくぐり抜けた身であるが、全く体験したことの無い技術体系を持つ相手に戦うやりづらさを感じていた。

だがそこにこそ戦いの真の醍醐味と己の成長を促す糧があることをラクシュミーと十蔵は認めた。


「えーい!」


ラクシュミーは天を突くような高い気合を発しながら疾風のように迅速苛烈斬撃を浴びせ、十蔵は跳ね返して烈火の如き突きを見舞う。

両者の本格的な激闘が始まった。







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