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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第八十話   対峙5

「ほう、これが戦乙女の剣技か!なかなか見事なものだなあ」


ブリュンヒルデの舞うかのような華麗な体捌きから繰り出される紫電のような刺突を忍び刀でことごとく防ぎながら、猿飛佐助はまさに野生の猿のように猛々しく吠えるように言った。


「・・・・!!」


一方ブリュンヒルデは花の如き玲瓏な美貌に汗を浮かべ、唇を固く結びながら無言のまま攻撃に全神経を集中していた。

戦いの最中に敵に言葉をかけるなど、余程余裕がある証拠である。

侍が持つ太刀と脇差の中間の長さのそりの無い直刀を用いた剣技は、ブリュンヒルデが知る侍の剣技とは似て非なるものである。


(ニンジャ・・・・。このような特殊な技能を持つ戦士がいたとは)


ワルキューレはその役目上、ミッドガルドに存在するあらゆる戦士とその技を知り尽くしている。だが、日本の闇の中に潜み、戦い、決して武勲を誇らず己の痕跡を何一つ残さない忍者の存在は耳にしていても、その技量の程は知りようがなかった。

佐助の鉄壁の防御を崩すべく、ブリュンヒルデはこれまで以上に神気を剣先に集中させ、必殺の突きを見舞う。

すると、佐助の姿が消えた。どのような体術を用いたのか、一瞬にして五メートルも離れた位置に出現し、手裏剣を放った。

五つの鉄の塊が流星となってブリュンヒルデの急所を正確に目指して飛来する。

だがブリュンヒルデの宝剣が白銀の炎を纏って乱舞し、手裏剣をことごとく撃ち落とした。


「おお・・・・。全て防いだか。全く見事なものだ」


佐助は丸顔に驚嘆の念を表しながらブリュンヒルデの技量を賞賛した。

その顔貌は敦盛と同年代の少年のものとしか思えないが、声はしゃがれており、老人がしゃべっているように聞こえる。


「あれを防げる者は手練れの侍でもそうはいない。十中の九は仕留められる。まさか女子が防ごうとは・・・・。これが戦乙女か」


佐助の顔付が変わった。敵手への賞賛から、純粋な好奇心。そして執着、独占欲へと。


「命を奪うのは惜しいな。人間の娘とは次元が違う、神たる乙女。その神々しい肉と肌、是非とも我が物にしとうなった・・・・」


先程までの陽気で無邪気な仮面を脱ぎ捨て、陰惨な欲望を露わにする佐助を見て、ブリュンヒルデはかつてないおぞましさと不快感を味わった。


「この私をそのような汚らわしい目で見るなど・・・・!許しません・・・・!」


戦乙女としての誇りを汚され、生まれて初めて覚えたであろう眼も眩むような怒りを抑えられず、ブリュンヒルデはその柳眉を逆立てて殺気を露わにした。

そして佐助の喉をえぐるべく剽悍にして優美な牝獅子と化したかのように突進した。

すると童顔に下卑た表情を浮かべていた佐助の重瞳、灰色の二つの瞳にある四つの瞳孔が回転を始めた。


「な・・・・!」


奇妙な現象を目前にし、思わずブリュンヒルデはその足を止める。

黒い四つの瞳はその回転を速め、同時に巨大化していった。やがて佐助の体をも上回る程に。


「・・・・」


視界全てが回転する四つの黒い球体に覆われ、ブリュンヒルデは体が動かなくなり、その右手に握られた宝剣を取り落とす。

しかし思考も麻痺しており、己が危機的状況に陥っているという認識させ働かなかった。

目にも止まらぬ程の超高速で回転していた四つの黒円がやがて融けるように消え去った。

するとそれまでの景色が一変していた。紅葉に覆われていたヨトゥンヘイムの山々が消え、花咲き乱れる春の園に。

ブリュンヒルデ自身、武装した姿ではなく純白のブラウス姿となっていたが、そんな己に驚くことさえ忘れていた。

ただ視界に広がる美しい色とりどりな百花とその馥郁たる香気、鳥たちがさえずる妙なる調べに五感が満たされ、無上の幸福感を味わっていたのである。


「ブリュンヒルデ・・・・」


そんな彼女を呼ぶ声があった。


「誰・・・・?重成・・・・いえ、違う・・・・。聞いたことの無い・・・・いえ、ある・・・・。確かにある・・・・。懐かしい・・・・声・・・・これは・・・・」


ブリュンヒルデの前に一人の男が立っていた。

ずば抜けて背が高い、鍛え抜かれた四肢を持つ若者。やや癖のある黄金色の髪を肩まで伸ばし、透けるように白い肌で、その目鼻立ちは彫刻のように端麗。

瞳の色は冬の凍てついた湖を思わせる淡い水色で、かのフレイ神が顕現したかのような完璧な美貌の持ち主であった。


「貴方は・・・・」


ブリュンヒルデはこの男を知っていた。遥か悠久の昔に確かに出会い、かけがえのない大切な時間を共に過ごしたが、その記憶は絶対的な存在によって固く封印されたのだ。

以前からその封印は少しずつ解かれていたが、さらに大きく扉が開かれ、様々な思い、感情がほとばしるのを感じつつ、ブリュンヒルデは涙を流しながら唇を動かし、その名を呼んだ。


「ジークフリート・・・・」



フロックの朱の柄の短槍と海野六郎の黒柄の短槍がそれぞれ閃光となって走り、凄まじい音を発しながらぶつかり合い、絡み合う。

フロックの技が嚇怒する炎の女神から奔出する火の嵐だとすれば、海野六郎のそれは冬の海に鎮座する海神が起こす波濤を思わせるものがあった。

フロックは手数が多く激しいがやや軽く、海野六郎の一撃は重く的確に急所を狙い必殺の威力があった。


「全く見事な槍術の冴えよな!その赤い甲冑といい、我が殿配下の赤備えに入る資格は充分ぞ。よし、我が手で屠った後はヘル殿に蘇らせてもらい、死者の軍勢に加えることを約束しよう」


フロックをその強力な膂力で弾き返し、体勢を整えながら海野六郎は言った。

六郎は挑発や皮肉で言っている訳ではなく、本気でそう考えているらしい。

そのことが、誰よりも短気に見えてその実、敵の挑発には決して乗らない慎重さを持つはずのフロックを憤激させた。


「このあたしを、戦乙女であるこのフロックを死者の軍勢に加えるだって?よくもそのような侮辱を、よくも口にしたな・・・・」


フロックはその鮮やかな赤毛を怒りで逆立て、瞳に劫火を燃やしながらゆっくりと歩を進めた。

その噴出する怒気と殺意の凄まじさは千軍万馬の猛者であり、一度死して蘇った亡者である海野六郎を一瞬とはいえ、確かに震え上がらせた。


「その汚らわしい舌を切り落とし、その五体も二度と蘇らないようバラバラにして銀河にばらまいてやる。覚悟しな・・・・」

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