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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第七十八話  対峙3

「先程の手合わせくらいでは、到底満足できませんぬ。もっと太平記の英雄の武勇を堪能しとうございます」


霧隠才蔵がその妖しいまでに白い顔貌を執念と殺意の黒い炎で火照らせながら言ったが、


「身の程知らずめが」


それに対して北畠顕家はムスペルヘイムに吹く氷雪の如き冷厳さで応じた。


「貴様のような賤しい手妻使い如きにこの北畠顕家が武の真髄を尽くすと思うか?」


「尽くさせて見せまする」


才蔵は二刀を十文字に構えながら、なおも執拗に言った。


「貴方様は知りますまい。戦国乱世の闇夜の中を跳梁した忍びの恐ろしさを。我が師、百道三太夫から叩き込まれた伊賀忍術の奥義の凄まじさを。まずはご覧あれ」


才蔵が華奢な五体から妖気を濃厚に噴出させながら奇妙な足運びで動き始めると、残像が生じた。

やがておぼろだった残像ははっきりと才蔵の姿を描き出し、その数を増やしていった。

二人から四人、そして八人へと。


「これぞ分身の術。どうです、顕家卿。我が術を破ることが貴方様に出来ますか・・・・?」


才蔵の中性的な艶めかしい声が八重奏となって顕家の鼓膜に鳴り響いた。

分身全てが肉体と声帯を得て声を発したとしか思えない。八人となった才蔵は瞬く間に顕家を包囲し、十六本の刃を煌めかせながら一斉に襲い掛かって来た。

だが顕家は微塵も狼狽の色を浮かべない。繊弱な顔に冷笑を浮かべながらその瞳に神気を集中させた。



「貴殿が着ているその服・・・・。もしかして、琉球の物だろうか」


重成は愛刀道芝露を油断なく構えながら、問いかけずにはいられなかった。


「いかにもその通り」


根津甚八は快活に答えた。暖かな日光の香りがするようなその朗らかな表情といい、陽気な声色といい、とても暗黒の力で蘇った亡者とは思えない。


「貴殿は琉球人なのか?」


「いや、そうではない。生まれは瀬戸内海の名も無き島で、海賊のせがれよ。十二の時に故あって琉球に流れ着いて、しばらくそこで暮らしたのだ」


「貴殿のその武器は十手に似ているが少し違うな・・・・。何という名の武器なのだろうか」


「サイと申す。琉球に古来から伝わる武器だ」


包み隠さず率直に答えてから、根津甚八は白い歯を見せながら笑った。


「これから命のやり取りをする相手に随分と気軽に話しかけてくるのだな。若き勇将木村長門守重成殿らしからぬ振る舞いではないか?」


そう言われて重成はわずかに赤面した。


「いや、許されよ。琉球という地には、かねがね興味があった故・・・・」


「秀頼君をその地に逃す予定であったから・・・・か」


重成は思わず根津甚八の日に焼けた浅黒い精悍な顔をまじまじと凝視した。


「貴殿もその計画を聞かされていたのか?」


「うむ。我が主、左衛門佐幸村より命令されたのだ。秀頼君を薩摩の島津家久殿の元へ送り届け、さらに琉球に逃がす故この甚八に案内し護り奉れと。だが俺はその命を拒んだ。主と仲間と共に戦場で果てたかったからな」


「そうか・・・・」


「結局、秀頼君は落ち延びることを拒んで自害なされたそうだな。何とおいたわしい・・・・」


「・・・・」


「あの御方に見て欲しかった美しい琉球の島々を。この世で最も清らかな海を。聴いて欲しかった、かの地で受け継がれる二六抜きの旋律を。知って欲しかった、本土の侍の武とは全く異なる琉球の武を」


その時、重成の脳裏に未知の光景が広がった。

薩摩南西の洋上に浮かぶ神秘的な島。雪かと見紛う程の白い砂浜に狂おしいまでに青い空と緑玉を溶かしたかのような海。

そして浜辺に立つ琉球の民族衣装に身を包んだ力士のような巨漢。我が主君、豊臣秀頼に他ならない。

彼は琉球に吹く暖かな風に戦国乱世の汚れを洗い清められ、全ての重責から解放された喜びと安堵に満ちた表情を浮かべている。

そして彼の側にいるのは同じ衣装を纏った己自身と妻、青柳・・・・。


「どうなされた、木村重成殿よ」


根津甚八の声でしばし忘我の状態にいた重成は我に帰った。


「いや、申し訳ない。白昼夢を見てしまったようだ。ひょっとしたら得られたかも知れない、だが最早決して得ることはかなわない人生の夢を・・・・」


重成は瞼にあふれそうになった涙を意志を奮い起こして堰き止めながら、かすかに震える声で答えた。


「そうか・・・・」


根津甚八は穏やかな、憐れむような表情で言った。


「お主は秀頼君とは兄弟同然に育ったと聞く。ならば、俺の言葉は酷だったかも知れん。許してくれ」


「・・・・」


「だが!」


根津甚八がサイを構え、烈火のような闘志をむき出しにした。


「かつては同じ主を仰いだが、今は敵となった。もはや道は交わらぬ。その命、琉球武術の奥義を尽くして断たねばならぬのだ」


「いかにも」


重成もまた全ての感傷を振り払い、道芝露を大上段に構え、吠えた。


「もはや言葉は不要。邪神に魅入られた哀れな魂をこの木村長門が解放して進ぜよう。かかって来られよ」


「応!」


根津甚八は琉球を守護すると言う獅子の聖獣、シーサーを思わせる雄々しさと猛々しさで疾駆し、重成の喉を刺し貫くべくサイを紫電のような激しさで突き出した。








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