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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第七十六話  対峙1

猿飛佐助はその名の通りまさに野生の猿のように荒らしく跳躍し、手裏剣を驟雨のように地上めがけて降らした。

エインフェリアとワルキューレはそれぞれ得物を抜き放って防ぐ。

武器を持たないエイルをヘンリク二世がその方形の盾でかばい、技量拙い敦盛には重成が代わって防いだ。

その一瞬の防御の技でエインフェリアとワルキューレの技量と個性を見抜いた真田十勇士は、己が仕留めるべき得物を見定めた。


「大した剛力のようだのう、南蛮の騎士よ」


三好清海入道が首を鳴らし、関節をほぐしながら嬉しそうに言った。


「果たして拙僧とどちらが上か、試してみようではないか」


「ふん、異教の坊主か。いいだろう、真の信仰に生きる騎士の前では紛い物の力など通用せぬことを教えてやる」


ローランが聖剣デュランダルを構えながら昂然と嘯く。



「貴殿は紅毛の国の王太子であったらしいですな。高貴な御方に刃を向けるのは畏れ多いことなれど・・・・」


三好伊勢入道が絵にかいたような慇懃無礼な態度で語り掛けてきた。


「拙僧がお相手仕る。お互い武勇ではなく術を使って戦うのが本領の様子。全力を尽くしましょうぞ」


「成程、魔術の使い手か」


エドワードが印を結びながら応じるも、内心では不吉な予感に覆われていた。


(不気味な奴だ。一体どのような術を使うのか・・・・)



「どうやら、貴方がこの集団の首領格のようですな」


猿飛佐助が悠然とプラチナブロンドの戦乙女の前に降り立った。


「この佐助は、女子と言えど手加減できぬ性分。御覚悟召されよ」


「そのような忠告は無用」


ブリュンヒルデは華麗な装飾が施された細身の剣の切っ先を向けながら凛然と言い放った。


「戦乙女の武勇をしかと目に焼き付けてから、再び地に帰りなさい。不浄なる死者よ」



「女子相手とは、些か不本意であるが・・・・」


海野六郎が己と同じ得物である短槍を手にした真紅の甲冑の戦乙女との間合いを詰めた。

重々しい当世具足を纏いながら物音一つ立てず、動作も軽やかである。それだけで尋常ではない技量の持ち主であることを看破したフロックは不敵な笑みを浮かべた。


「女だからって舐めるんじゃないよ。このフロックこそが戦乙女一の武勇の持ち主であることを教えてやるよ」


フロックは眼の前にいる海野六郎だけではなく、ブリュンヒルデにも聞かせるべく声を張った。


「フロック、その男の相手は私が務めよう。君はエイルと敦盛を守ることに専念したまえ」


ヘンリク二世が進み出た。

フロックはその活力に燃えたつ緑の瞳をヘンリク二世に、そしてエイルと敦盛に向けたが、やがて首を横に振った。


「他人を守るのは性に合わないよ。それはあんたの役目だ」


「ふむ・・・・」


「奴らは戦えないガキ相手でも手加減しないだろうよ。早く行ってやりな」


「分かった」


ヘンリク二世は決して猛々しく狷介なだけではないフロックの一面を微笑ましく思いながらエイルと敦盛の元に歩を進めた。


「申し訳ありません。足手まといになってしまって・・・・」


敦盛が無念と羞恥でその紅顔を険しくしながら頭を下げたが、ヘンリク二世は爽やかに笑いながら応じた。


「何、君の役割は戦う事にあるんじゃない。何も恥じる必要はないさ」


「ヘンリクさん、頑張って!」


エイルが淡褐色の瞳を輝かせながら激励した。


「愛らしい戦乙女の期待に背かぬよう、持てる力を尽くそうじゃないか」


ヘンリク二世は槌矛を素振りした。軽い一振りであったが、空気を切り裂く物凄い音がした。


「おっかない武器だのう。そんなものを喰らっては、わしなどひとたまりも無いわ」


望月六郎がおどけた表情で言うと、ヘンリク二世は首を傾げた。


「そういう貴殿には武術の心得があまりないようだが・・・・?」


「その通り」


望月六郎は図星を指されても動揺することなく、むしろ嬉しそうに応じた。


「わしは武芸の方はからきしでの。故に犬を操る術でもって真田家に奉公しておった。そして死んで蘇った後は、ヘル様からこやつらを授かった」


そう言って望月六郎は指笛を鳴らした。するとどこからともなく三つの影が疾風のように現れた。


「あれは・・・・魔犬ガルムか!」


獰猛な唸り声を上げる漆黒の毛皮を持つ三頭の獣を眼の前にし、高貴なポーランド大公は息をのんだ。


「魔物特有の殺気だけではない。お前たちと同種の瘴気。まさか・・・・」


「いかにも。一度死んでヘル様の御力で蘇ったガルムよ。その上このわしが手ずから仕込んだ。前にヴァルハラに侵入したガルムとは訳が違うぞ」


「むう・・・・」


ヘンリクは思わず盾で己の首をかばった。ガルムの眼光に尋常ならざるものを認めたからである。

その濁った黄色い瞳には獣の野生と一度死して蘇った亡者の禍々しい妖気、そして人の手で殺戮の為の機械として鍛えられ硬質な賢明さが等しく宿っていた。


(勝てるか、この三匹を同時に相手取って・・・・)


「・・・・」


敦盛はそっと懐の青葉の笛を取り出そうとした。


「おっとそこまでだ、お若いの」


望月六郎の声に鞭うたれ、敦盛の動きが止まる」


「あんたは源平合戦で有名なあの平敦盛らしいな。その笛の音で味方を強化し、同時に敵を弱体化できると聞いた。そして隣のお嬢ちゃんは傷を瞬時に治せると。だが今回あんた達はお休みだ。そこで大人しく見ていなさい」


望月六郎は幼子に言い聞かせるような優しい口調で言ったが、それ故にかえって底知れない冷酷さと薄気味悪さを感じ取り、敦盛とエイルは震えあがった。


「もし余計な手出しをすれば、ガルムにその可愛らしい顔を喰い破らせるからね」



「変わった武器だな。鎖鎌というのか。拙者の国は無かったな」


姜維が由利鎌乃介が振り回す異形の武器を注視しながら呟いた。

鎖の長さは四メートル近くあるのではないだろうか。そしてその先には重い分銅が付けられてある。

それが超高速で回転しているのだから、その勢いのままぶつけられては、エインフェリアの肉体といえどひとたまりも無いだろう。


(あるいは、我が武器をからめとる気か・・・・?)


そして相手の動きを封じて左手で持った鎌で斬りつけ、とどめを刺す。

それがあの武器の必勝の法なのだろうと姜維は分析した。


「あんたこそ日本じゃ見たことの無い武器を持っているな。三国志で読んだことがあるぜ。確か、二郎刀だったけ?」


「左様」


姜維が手にした得物は二郎刀、あるいは三尖両刃刀と呼ばれる武器である。矛先が三又に分かれた幅広で両刃の武器で、本来は馬上で用いる武器であるが、姜維は徒歩でも使えるよう柄を短くしてある。

刀剣と槍の機能を併せ持った強力な兵器である。


「そしてそれを操るのが、強大な魏を討つ為に戦の鬼となって戦い続けた姜伯約・・・・。こいつは楽しめそうだ!」


鎖分銅が流星となって姜維の憂いを帯びた老顔めがけて飛んだ。









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