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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第五章  我ら冥府より蘇りし真田十勇士
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第七十五話  真田十勇士

「父様、爺様、これはどういうことだ!」


イズガが巨大な戦斧を構えながら叫んだ。声そのものは若々しく活力に満ちたものだったが、やはり呪いに囚われた故か、硬質で陰湿な響きがあった。


「俺はあんた達を信じて一人でここまで来たというのに、そのような得体の知れぬ小さき者共を伏せていたとは・・・・。恥を知れ!」


計画が失敗し、我が孫、我が子から罵倒された長とグラールはどうしていいか分からず、ただ困惑するしかない。そこに再び銃声が鳴り響いた。


「ぐあっ!」


イズガが苦痛の声を上げ、顔を背けた。その顔の右半分が血に染まる。どうやら右目を撃たれたらしい。


「よ、よくも・・・・!絶対に許さんぞ。父様も爺様も、それに与する者共も皆殺しにしてやる。仲間を連れて来るからな、そこで待ってろ」


イズガが憎悪と殺意をむき出しにしながら仲間達の元に戻ろうと走り出した。


「ま、待て!」


重成がそうはさせじと追うが、後方から空気を切り裂いて得物が飛来するのを察知して、大きく飛鳥のように宙に飛んだ。そして見た。鎖のついた分銅が地を穿つのを。


(やはり、忍びの技の使い手か・・・・)


重成はイズガを追うのを断念するしかなく、着地して刀を正眼に構えた。


「これで良い。山の巨人同士大いに争ってもらおう。そしてその隙にニーベルングの指輪は我々が頂戴する。そのような芸当はエインフェリアの方々にはとても出来ぬでしょう」


その声の主に顕家が斬りかかった。顕家の烈剣に対し、主は忍び刀の二刀流で堂々と渡り合った。その剣筋、体捌きはやはり正統な剣術とは全く異質なものである。

顕家はその繊弱な顔に冷徹そのものの表情を浮かべ、微塵の動揺も見せないが、内心は感嘆していたに違いない。


「十勇士・・・・」


いつの間にか重成の側に来ていた又兵衛が呟いた。


「真田殿の側近の手練れの十名がそう呼ばれていた。彼らの多くが忍びの技に通じているらしい」


「真田十勇士、ですか・・・・」


重成は姿を現した総勢十名の新たな敵を値踏みした。いかにも闇の世界を生きてきた忍びの者らしい装束を纏った者もいれば、二本差しの正当な武士らしい者、そして僧形の者までいた。


「む、殺ったか?」


又兵衛が唸った。顕家の剣が変幻自在の二刀をかいくぐってその心臓を貫いたかに見えた。

しかしその瞬間、二刀を操る忍びは煙のように消え失せた。


「ふう、危ない危ない」


男性とも女性とも判別し難い中性的な声がした。見れば、顕家から十メートルも離れた位置にその忍びはいた。


「まったく恐ろしい武勇ですね。流石は北畠顕家卿・・・・・。正面からやり合うのは無理らしい」


「小癪な術を使いおって・・・・」


顕家が舌打ちをした。ルーン魔術とは違ったまた別の体系の幻術らしい。おそらく忍びの術を暗黒の力でさらに進化させたものなのだろう。


「名乗らせていただこう」


十勇士の頭目らしい小柄な男が頭巾を脱いで言った。丸顔で髪を短く刈り込み、一見すると十代の少年のような幼い顔立ちだが、同時に老獪さと狡猾さを濃厚に漂わせている。全く年齢が読み取れぬ得体の知れない男であった。

さらに強い印象を与えるのはその目である。一つの眼球に二つの瞳孔がある、いわゆる重瞳であった。


「我が名は猿飛佐助。お見知り置きを、エインフェリアとワルキューレの方々」


「私は霧隠才蔵」


顕家と渡り合った二刀の忍びが名乗った。長い艶やかな黒髪を束ね、その肌は妖しいまでに白い。すらりとした長身で、重成に匹敵する程の美しい顔立ちである。


「拙僧は三好清海入道である!」


胴間声で荒法師が名乗った。その巨躯は関羽と張飛をも凌駕しているやも知れない。恐ろしく巨大な錫杖を持ち、まさに源平合戦における武蔵坊弁慶の再来とも言うべき豪傑であった。


「拙僧はその弟の三好伊勢入道。よろしくお願いしますよ」


弟と名乗ったが、エインフェリアとワルキューレにはとても信じられなかった。

兄の清海入道が六尺五寸、つまり百九十七センチはあろうかというのに、その男、伊勢入道は五尺、百五十センチにも満たぬ小男だったからである。

成程顔立ちそのものはよく似ていたが弟ではなく、父親の間違いなのではないかと思える程皺深く老いて見えた。


「俺は由利鎌乃介だ。鎖鎌の妙技、楽しんでってもらうぜ」


鎖分銅を振り回して空気を切り裂く凄まじい音を奏でながら、その男は伝法な口調で名乗った。


「筧十蔵だ・・・・」


種子島銃を肩に担いだその男は、やはり銃を構えたラクシュミーバーイを猛禽類を思わす鋭い目つきで睨みながら、ぼそりと呟くように言った。


「それがしは海野六郎」


その人物は又兵衛と同年代だろう。当世具足を身に纏い、手槍を持った堂々たる武者姿である。


「そしてこいつが穴山小介だ」


海野が隣の男を紹介した。その男は縞の着流しで、刀の鯉口を斬りながらきつい三白眼を爛々と輝かしている。

見るからに陰鬱そのものな印象の男だが、相当な剣の使い手、それも居合術に通じていると重成は見た。


「俺の名は根津甚八。名高い勇者と手合わせできるのが楽しみだ」


その男が纏っている装束は明らかに日本のものとは違っていた。明国や朝鮮のものとも違う南国風の鮮やかな文様と色彩で丈が短く、和服と違い帯を前で結んでいる。

そして左右の手それぞれに十手に似た金属製の武器を握っていた。


「そしてわしが望月六郎。十人揃って真田十勇士だ」


十人目の男は毛皮を纏った猟師風の地味な中年男で、取り立てて腕が立つように見えないが、野生の獣のような剣呑な体臭を放つ異色の存在だった。


「我らの任務は山の巨人から指輪を奪う事であって、エインフェリアとワルキューレの始末は命じられていないのだが・・・・」


猿飛佐助がその重瞳を妖しく輝かせながらエインフェリアとワルキューレを一人ずつ観察しながら言った。


「これ程の御馳走を前にしながら、我慢することなど到底出来んわな。鈍重な山の巨人共がやって来るのはまだまだ時間がかかろう。その間に我らが新たに得た力を試すと同時に、御馳走の味見としゃれこもう」



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