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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第四章  強壮なる山の巨人族の大地
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第七十四話  イズガ

一夜明けた翌日、一行は再び移動を開始した。三時間は経過しただろう、山の巨人達の若々しく強大な生命力の波動をはっきりと感じられるようになった。


「あのあたりにいるな・・・・」


重成は前方の黒々とした一塊の山地を凝視した。

万年雪の山脈に囲まれたその山地は、類を絶する険しい山容を誇っていた。

山の巨人達の気配の他に、何か神聖にして巨大な力が眠っているのが伝わって来る。


「この力は・・・・。そうだ、確かに天翔ける船に似ている」


だが、自分たちが乗って来たアースガルドのワルキューレが操る船とは桁違いの規模である。

それは当然なのかもしれない。山の巨人達を星々の海に渡らせる船なのだ。

ブリュンヒルデの船の数十倍、あるいは数百倍の大きさはあるのかも知れない。


「船は一隻だけなのですか?」


「そう伝わっている」


ブリュンヒルデの問いに長が答えた。


「成程、だったら余程巨大な船なんだろうね」


エドワードが山地をじっと見つめながら言った。


「出来ればその船をこの目で見て、実際に乗ってみたい気もするけど・・・・」


「好奇心が強すぎるのも考え物だのう」


姜維が苦笑を浮かべた。


「そのような考えは今はしまっておけ。まずは眼の前の問題を片付けてからじゃ」


エドワードをたしなめ、長に視線を向ける。


「して、孫殿を呼び出す口実は?」


「船の封印を解くには、お前が知る呪文だけでは足りぬと言うしかあるまい」


長が言った。


「孫は我が家に伝わる船の封印を解く古文書を持って行ったのだが・・・・。それだけでは不完全だ、長の座に就いた者にだけ教えられる口伝が無ければならぬと言おう。そうすれば、孫は出てこざるを得まい」


「その口伝とは・・・・」


「そんなものはない。嘘じゃ」


長はほろ苦く笑いながら率直に言った。


「だがいかにも本当らしく聞こえるじゃろう。どうじゃ?」


「確かに。それならイズガは出てくるだろう。他の者には聞かせる訳にはいかない、長の座を継ぐ者にだけ聞く資格があると言えば、一人で出て来るしかないね」


エドワードが妙案だと賞賛した。


「では、孫に一人で来るよう伝えよう。お前たちは身を隠しておれ」


「この場所から?」


「山が声を伝えてくれる・・・・。早うせい」


長が静かに、だが決然と言うのを見て、エインフェリアとワルキューレはこれ以上問答は無用と無言で身を潜めた。

長とその子は万年雪に覆われた巍巍たる頂きをしばし見つめていたが、やがて意を決して何事か囁いたようである。

その囁きは重成達の耳には届かなかったが、何か神聖な力が働いて遠い場所まで達したのは感じ取れた。

数分の後、また長の口が動いた。イズガから反応があり、彼と問答しているらしい。

長親子が彫像のように不動のまま数十秒経過した後、エインフェリアとワルキューレの鼓膜に直接、


「孫が一人でここに来る」


と言う声が響いた。


(うまくいったか・・・・)


重成はひとまず安堵し、そして刀の目釘を確かめた。


(山の巨人か・・・・)


指輪の呪いに囚われた哀れな若者をその祖父、その父の前で斬らねばならない後ろめたさ、罪の意識はぬぐいきれない。

だが同時に単体の戦闘能力ならば霜の巨人や炎の巨人ムスペルをも超えると評される山の巨人の力とはどれ程のものなのか。

ふつふつと興奮してくるのを、どうにも抑えることができなかった。

どれ程の時が経過しただろう。巨人の気配が確かに近づきつつあった。気配は一つ。

強大な生命力を持つ巨人には己の気配を消すという技術は使えないはずである。

イズガは確かに一人でこちらに向かって来ているらしい。

それは指輪に呪縛されているとはいえ、祖父と父への信頼は消え失せていないからなのか、あるいは何としても船を復活させて銀河に渡らねばという思いに憑りつかれている故なのか。

重成は己の気配が悟られないよう細心の注意を払いつつ、我が眼に神気を集中して山の巨人の若者を観察した。

茶色の蓬髪に顔面が髭に覆われているが、成程顔立ちそのものはどこか幼い。年齢は人間で言えば、二十歳前後のように見える。

重厚な甲冑を身に纏い、恐ろしく巨大な戦斧を担いでいる。その太い腕で振り下ろされる一撃は想像を絶する威力に違いない。

エインフェリアやワルキューレの小さな肉体ではひとたまりも無いだろう。


(彼の一撃を躱せるかどうかに全てがかかっている・・・・)


重成がどのように躱すか脳裏でイズガの一撃と己の体捌きを思い描いたその時である。

突如身を潜めていたはずの北畠顕家が飛び出し、あらぬ方向に向かって矢のように疾走した。


(何を・・・・!)


あまりに意外な事態に虚を突かれ、一瞬顕家の正気を疑った重成であったが、すぐに異変を察知した。

エインフェリアとワルキューレ、それに山の巨人の親子以外の気配が突如複数感じ取られたのである。

しかもただの気配ではない。この禍々しい瘴気、命ある生き物とは全く異質の闇の波動は、かつてヴァナヘイムで再会した同胞達と同種のものに違いなかった。


(まさか死者の軍勢か!)


重成も潜んでいた岩陰から飛び出し、抜刀した。

その繊弱な顔貌に冷酷な殺意をむき出しにしながら疾走していた顕家だったが、突然刀を振るった。

彼を狙って飛来した飛び道具を防いだらしい。

顕家の剣に弾き返され、地面に突き刺さった得物を重成は見た。それは十字の形をした漆黒の鋼鉄の刃物であった。


(あれは手裏剣・・・・?まさか、忍びの者か!)


同時に乾いた音が鳴り響いた。火縄銃、それも己を狙ったものだと瞬時に察知した重成は右方向に思いきり跳躍した。

銃弾が元居た地面を穿つのを感じながら、受け身を取り素早く体勢を整える。狙撃手は恐ろしい程の腕前を持っているらしい。

己がエインフェリアとして生まれ変わり、人間を大きく上回る感覚と身体能力を持っていなければ、頭部を撃ち抜かれていたに違いない。

敵は最早気配を隠す必要を感じなくなったようだ。


「敵は全部で十人・・・・」


しかし一体何者だろうか。全く心当たりがない。重成は諜報や暗殺、秘密工作に従事する闇の世界の住人である忍びの存在は聞かされているが、直接に会ったことは無い。

いや、実は大坂城で過ごしていた時に会っているのかも知れないが、彼らは己が忍びだと決して名乗ることはないので、こちらはそうだと認識していない。


(大坂の陣の時、豊臣方は多くの忍びを放っていたと聞くし、徳川も当然こちらに忍ばせていたのだろうが・・・・)


そこまで考えた時、重成の脳裏に戦慄が走った。


(待てよ、十人・・・・)






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