表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第四章  強壮なる山の巨人族の大地
74/178

第七十三話  二つの影

「本当にその巨人を殺めてしまうのですか?指輪の魔力に操られている犠牲者に過ぎないのに・・・・」


再び一行が騎乗の人となり、封印された船がある場に向かうべく下山している最中に平敦盛が重成に語りかけてきた。


「・・・・」


重成は何と答えていいか、言葉に迷った。敦盛が顕家の決断に到底納得できないのはよく分かる。

まだ十代半ばの年少の身であるということもあるが、あの例えようも無い程美しく澄んだ笛の音から思うに、平敦盛という少年は本当に心から優しく、清く純粋な魂の持ち主なのだろう。

何の罪も無い、呪いに束縛された哀れな犠牲者を、その祖父と父の前で殺めるなどという行為は何としても許しがたく思うのは当然と言えた。


「武芸に卓絶した重成殿と顕家殿と他の方々が力を合わせれば、生かしたまま指輪を外すことも不可能ではないでしょう」


「・・・・だが指輪を外したとしても、巨人が正気に戻る保証は無い・・・・」


いや、間違いなく正気に戻ることはないだろう。ニーベルングの指輪には神々の力をも超える宇宙規模の悪意が宿っているという。さらにその造り手であるヴァン神族の王ニョルズその人の呪いまでもが加わっているのだ。

その悪意と呪いは一度捕らえた者は決して逃さず、死でもってしか解放されないのではないか。

重成はそう確信していた。


「指輪を外すには死力を尽くさねばならないだろう。そしてそのイズガという巨人が正気に戻らなかったら、隙だらけになった私たちを苦も無くひねりつぶしてしまうだろう」


「・・・・」


「そのような犠牲者を出すかもしれない危険な賭けに出る訳にはいかない。惨いようだが確実な方法を選ぶしかないんだよ」


敦盛は重成の言葉に心から納得した訳ではないようだが、反論する術が見つからずしぶしぶ口をつぐんだようである。

重成はそれでよいと思った。武士は戦に臨む際には非情に徹しなければならないが、敦盛という少年だけは例外であって欲しい。

いつまでも仏神の眷属たる童子のように慈悲深く、清らかなままでいて欲しいと心から願う。

ラグナロクは熾烈を極める戦となるだろうが、この平敦盛だけには出来るだけ手を汚させないようにしよう。重成は秘かにそう決心した。


「む・・・・」


皆とは少し離れて馬を進めていた北畠顕家が何か気になることがあるらしく、左後方の木陰をじっと睨んでいる。


「・・・・?」


重成は顕家の様子が気になったが、問いかけることは控えた。問うたところで黙殺されるのが分かり切っているからだ。


「どうした顕家?何かあるのか」


代わりにフロックが問いただした。

だが顕家は答えずに相変わらず木陰をじっと睨んでいる。するとその木陰から兎に似た小動物が二匹飛び出し、走り去っていった。

顕家はわずかに苦笑したようである。そして無言で馬を進め、フロックもそれに続いた。


「・・・・」


それから数分後、山の巨人の親子、そしてエインフェリアとワルキューレの姿と気配が完全に去った後、木陰から二つの声が響いた。


「危なかったな。上手い具合にあの兎が動かなければ、見破られていたやも知れぬぞ」


「まさか完全に気配を断ったはずの我ら二人の存在に気づきかけるとは・・・・。流石太平記の英雄、北畠顕家といったところか」


「我らの主が好敵手と認めた木村重成殿や後藤又兵衛殿のさらに上を行くやも知れぬな」


「面白い・・・・。あの御仁の首は俺がもらうぞ・・・・」


「いや、私のものだ・・・・」


そう言い合った後、二つの声と気配は音一つ立てずに消え去った。



山を三つ超えたところで日が暮れたので、一行は移動を止めて休憩を取ることにした。

火をおこし、山の巨人が持って来ていた食料を料理し、茶を沸かして喫する。


「何だか、こういうのって楽しいね」


エイルが温かいお茶にフーフーと息を吹きかけて冷ましながら、嬉しそうに言った。

これから恐るべき山の巨人と一戦交えるというのに、まるで臆した様子も緊張した様子も無い彼女に一同は呆れると同時に感心した。

エイルは皆の緊張をほぐす為に気を使って言っているのか、それとも本当に何も考えずに思ったことを素直に口に出しているだけなのか、どうもよく分からない。

一息ついたところで、一同は今後について話し合った。


「やはり、成功は指輪を身に着けたイズガという巨人を他の巨人と引き離させるかにかかっておるな」


姜維が巨人の親子の雄大な肉体を見ながら言った。


「上手くその者を誘い出すことは出来そうかな?」


「難しいであろうな」


イズガの父、グラールが眉間にしわを寄せながら答えた。


「我が息子は元々誰よりも臆病で用心深い気性なのだ。指輪の魔力で人格が一変したとはいえ、その用心深さが消えたのかどうか・・・・。我らが話し合いを求めても応じるかどうか怪しいのに、まして護衛も無しで一人で出てくるなど・・・・」


「けど、何としても一人にしないと」


エドワードが青灰色の瞳に焚火の炎を写しながら鋭い口調で言った。


「僕たちの今の戦力で屈強な山の巨人複数と戦うことはできない」


「一応、後から他の者達も追いかけて来るのだが・・・・」


「もしもの場合、その者達に加勢に入ってもらわねばならぬ。だが、決して得物を振るわぬようにしてもらいたい」


姜維が長に懇願した。


「もし得物を振るって傷つけたり、最悪殺めてしまえば、山の巨人同士の仲間割れが本格的な争いに発展するであろう。そうなっては指輪を取り上げても収まらないであろうからな」


「うむ。わしとしてもそれだけは何としても避けたい」


長が姜維の言葉に深く頷いた。


「護衛がニ三人ならばわしと息子が命を張って抑えて見せよう。それ以上ならば他の者達にも加わってもらわねばならぬが、その者達にも決して手は出させん。一族の為に捨て石になってもらわねばならぬ」


「けれど、それはあくまで最悪の場合です」


重成が長の覚悟に敬意を抱いたがあえて釘を刺した。


「イズガ殿一人を誘い出す口実を考えてみてください。それが最善です」


「うむ、難しいと思うが・・・・。何とか考えてみよう」


長は息子のグラールと視線を交わしながら重々しく言った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ