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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第四章  強壮なる山の巨人族の大地
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第七十二話   巨人の親子

「して、貴殿の孫とその一派は、今何をしているのですか」


「・・・・」


重成の問いに長とその息子は答えるか否か迷ったようだが、やがて意を決したように口を開いた。


「封印を解こうとしておる」


「封印・・・・?」


「孫は・・・・イズガは指輪が一つではなく他が銀河に散らばっていることを指輪そのものに教えられたのだろう。銀河に渡ることを宣言して、封印されている船を復活させようとしているのだ。そして神々や他の巨人族に戦を挑もうとしているらしい」


「もはや完全に正気を失ってしまったようだ、息子は」


イズガの父、グラールは苦悩を露わにしながら、血を吐くように言った。


「イズガとやらに付き従っている山の巨人の数はどれ程でござる?」


「約五百といったところだろう」


姜維の問いに長が答えた。


「五百・・・・。愚かな、そのような戦力で万を超えるムスペルや死者の軍勢に戦を挑もうなどとは・・・・」


姜維は指輪の魔力に魅入られた山の巨人の若者たちを憐れむように言った。


「貴殿ら山の巨人の膂力はムスペルや霜の巨人を凌ぐやも知れぬ。しかし所詮は多勢に無勢、たちまちにして殲滅されるのは火を見るより明らかにござるぞ」


「万を超えるだと?ムスペルや霜の巨人はそれ程までにいるのか」


長とグラールは愕然としたようである。


「知らなかったのか?」


又兵衛が呆れたように言った。


「うむ・・・・」


しかしこれは仕方がないことなのかもしれない。山の巨人族は遥か悠久の時を全く他種族と交わらずに過ごしてきた

他種族を攻めることも、また攻められることも考慮せずに済んだのだから彼我の戦力差を量ったことなどないのだろう。


「貴方達山の巨人族の総数はどれ程なのですか?」


「約千二百といったところか」


重成の問いに長は躊躇なく答えた。


「千二百・・・・。それでは死者の軍勢やムスペルに攻め込まれたらひとたまりも無いでしょう」


「いや、そのことならば心配はいらぬ」


長は断固たる自信をその老顔に表しながら言った。


「何故そう言い切れるのですか?」


「このヨトゥンヘイムの山々は生きておる。そして我らと意志が繋がっておるのだ。もし外敵が攻めてきたら、我々と共に戦ってくれるだろう。例え数万を超える敵でも持ちこたえて見せよう」


「ふむ・・・・」


「だがそれはあくまで敵が我らの領土に侵略してきた時の話だ。ヨトゥンヘイムの山々を離れて他所の地で戦ったならば、お前たちの言う通り、ひとたまりもあるまい」


長の表情から自信が消え、魔に魅入られた孫と若者たちを哀れみ、心配する老人の相が浮かんだ。


「孫たちを何としても止めねばならぬ。何か方法は無いのか?」


「指輪を取り上げるしかないでしょう」


ブリュンヒルデが言った。


「私たちがやりましょう。手を貸していただけますか?」


「無論じゃ。お前たちだけでは孫達に近づくことも出来ん。山がお前たちの存在を教えるだろうからな。だがわしらと一緒なら大丈夫じゃ。まずわしらがもう一度説得を試みる。その隙に上手く奪ってくれい、

小さき者達よ」


「その方らの孫を殺めて構わぬのだな」


顕家が落ち葉を覆う霜のように冷たく厳しい声で言った。


「な・・・・」


「生かしたまま指輪を奪うのは困難だし、失敗する公算が多かろう。だが殺めてから奪えば確実だ」


「顕家卿・・・・!」


祖父、父の気持ちを微塵も思いやることの無い顕家のあまりに酷薄無情な物言いに怒りを覚えた重成が咎めたが、無論顕家は歯牙にもかけなかった。


「その方らの一族の命運がかかっておるのだろう。ならば不確実な手は選ぶべきではない。大義の為、一族の為、我が孫、我が子を犠牲にする覚悟は当然出来ているのであろうな」


「・・・・」


「出来ていないのか」


顕家は冷笑し、巨人の親子を斬りつけるような視線で睨んだ。


「所詮は蛮族、血のつながりこそが全てで上に立つ者の高貴なる務めや大義は理解できぬか」


「・・・・」


巨人の親子だけではなく、他のエインフェリアとワルキューレも粛然として言葉も無かった。

巨人の怒りを微塵も恐れない顕家の胆力もさることながら、大義の為には非情に徹し全てを犠牲にすべきという彼の武と生を貫く信念、覚悟に圧倒されたのである。


「・・・・確かにお前の言う事が正しいのやも知れぬ」


長は呻くように言った。


「それに指輪を奪ったからとて孫が正気に取り戻す保障はないしな。我が一族を守る為には、孫は諦めるしかないのかも知れん」


「・・・・心中お察しします」


重成はそう言うしかなかった。

一族を率いる者としての長の決断は全く正しい。そして長に覚悟を決めさせた顕家の、大義を貫く為には私情を一片たりとも交えることは許されないという考えにも異論は無い。いや、武士として大いに賛同を示すべきである。

だが、やはり親子の悲哀を寸毫も思いやることのないあまりに冷酷で人としての情に欠けた顕家の態度には反感を抱かざるを得なかった。


「よいな、グラール。ヨトゥンヘイムを我が一族を守る為だ。イズガは諦める他あるまい」


「・・・・うむ」


グラールは唇を噛みしめながら頷いたものの、やはり顕家の酷薄な物言いに怒りを禁じえないらしく、その巨大な瞳で睨み付けた。


「では、その哀れな者共の元へ案内せよ」

 

顕家はグラールの怒りの眼に冷笑で応えながら言った。









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