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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第四章  強壮なる山の巨人族の大地
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第六十九話  第一の指輪

「ヴァ―リ様とは、そのようなお人か・・・・」


ヴァ―リの幻術によって演習を中止せざるを得なかったエインフェリア達は宴の間にて酒を飲んで鬱憤を晴らしながら、エドワードが盗み聞いた話に耳を傾けていた。

その気性といい、ラグナロクに対する思いといい、そしてエインフェリアへの見方といい、兄であるヴィーザルとは全く対照的というしかないようである。


「ニーベルングの指輪がもたらす破滅を回避する方法。ヴァ―リ様ならばきっと見つけてくれるでしょう」


ブリュンヒルデが期待を込めて言った。ヴァ―リのあの得体の知れない気性は苦手だが、その卓絶したルーン魔術と智謀には絶大な信頼を寄せていた。


「そんなうまい話があるものか。全く信用できん」


ローランが忌々し気に言った。彼の気性からすれば、幻術に長けた神などは到底味方と認められないのだろう。


「銀河の星々には神々すらも思いもよらぬ叡智や力が眠っているとその神は申したのだな?ならば拙者も星々を巡りたいものよのう」


姜維が杯を口にふくみつつ遠い目をしながら言うと、


「そうですよね!僕も今すぐにでも天翔ける船に乗って行きたいなあ」


エドワードが目を輝かせながら応じた。


「二人とも・・・・。気持ちは分かるがこれから本当の戦が始まるのだから、そのような考えは今は抑えられよ」


重成が生真面目に言うと、ブリュンヒルデが我が意を得たりとばかりに頷いた。


「重成の言う通りです」


フレイヤとヘーニルの件で自分でもよく分からぬ感情の昂りを覚え、重成に理不尽な怒りをぶつけてしまったことを密かに悔いていたが、やはり重成は自分が見込んだ通りの男と知って喜びを抑えられなかった。


「・・・・?」


重成はそんなブリュンヒルデを不思議そうに見つめた。つい先日、己の不用意な発言に怒りと失望を露わにした彼女だったが、機嫌を直してくれたのだろうか。


「早う戦がしたいのう・・・・」


又兵衛が骨付き肉にかぶりつきながら言った。せっかくの軍事演習が中止に追いやられ、不完全燃焼の彼は呑気な声色に似ず、内心は恐ろしく不機嫌である。

そのことを察した重成は彼に話しかけることを控えた。


「あの神の幻術によって、我が軍はいともたやすく翻弄された。ヴァ―リ様程の幻術の使い手は他にいないとのことだが、やはり幻術の対抗手段を講じないとな・・・・」


重成は一人呟き、後で軍の編成と訓練を司る山本勘助とグスタフアドルフの元を訪ねようと考えた。そこに、


「今すぐ王の間に来るがよい」


とヴィーザルの念話が届いた。無論、重成だけではなく、ここにいる六人全員であるらしい。

恐らくニーベルングの指輪の所在について何か進展があったのだろう。そう直観したエインフェリア達とワルキューレは頷きあい、足早に王の間に向かった。


「皆の者、よく聞け。ニーベルングの指輪の一つがどこに落ちたのか分かったぞ」


ヴィーザルが居並んだ十五人のエインフェリア、すなわち木村重成、後藤又兵衛、ローラン、エドワード、姜維、北畠顕家、武田信繁、山本勘助、ヘンリク二世、夏侯淵、平敦盛、今川義元、ラクシュミーバーイ、グスタフアドルフ、孫堅、そしてブリュンヒルデ、フロック、エイルの三人のワルキューレに告げた。


「一つだけ?他の九つの所在は分かっておらぬのですかな」


今川義元が神王に対して微塵も気後れした様子も無く問うた。


「他の九つの指輪は今も留まることも無く銀河を飛び続けておるようだ。その動きを捕捉することは余にも出来ぬ」


「して、どこに落ちたのですかな」


「ヨトゥンヘイム。山の巨人たちが住む世界だ」


「山の巨人?炎の巨人族や霜の巨人族の他にもまだ巨人族がいたのですか」


重成が唸った。


「うむ。彼らは先のラグナロクに参戦していなかった。他の巨人族とは違い理性的で我ら神々を敵視してはおらぬからな」


そう言ってヴィーザルは己の顎を撫でながら思案にふけった。


「故に彼らをラグナロクに巻き込みたくはなかったのだがな。やはりこれは指輪に宿った巨大な悪意が彼らをも戦の渦中に陥れようと図ったのかも知れんな・・・・」


「ヴィーザル様、私たちは山の巨人族の存在自体は知っていますが、その種族の特性や能力についてはあまり知れません。お教えくださいませんか」


ブリュンヒルデが言うと、フロック、エイルも頷いた。


「うむ・・・・。先程も言ったが、彼らは破壊と殺戮の為に生まれたムスペルや獣同然の霜の巨人とは違い、基本的には穏やかな気性で知能も高い」


「では、彼らとは戦わずに済むでしょうか?」


「ところがそうとも言い切れぬ」


ブリュンヒルデの問いにヴィーザルは慎重に答えた。


「彼らは己から戦をしかけることは決してないが、同時に己の領域を犯す者には容赦がないとも聞く。彼らは数こそ少ないが、その膂力はムスペルや霜の巨人族をゆうに超えるだろう。敵に回すと非常に厄介だ」


「山の巨人族相手にロキやムスペルはどう動きますかな?大軍を動かして彼らを滅ぼして力づくで神器を奪おうとするでござろうか」


山本勘助が独眼に深い光を湛えながら問うた。


「いや、おそらくそれはあるまい。ヨトゥンヘイムは山岳だらけの世界で大軍を展開しずらい場であるし、地の利を得ている山の巨人族相手に勝てると考える程ロキもシンモラも愚かではなかろう」


「では、それがしらはどう動きましょう?」


「うむ、ここはやはり山の巨人達とまずは話し合うべきであろうな」


ヴィーザルは答えた。


「彼らにニーベルングの指輪の存在について教え、ロキやムスペルがそれを狙っていることを警告する。恐らくロキめは得意とする隠形の術を使って盗み出そうと考えるであろうから、彼らと協力してこれを防ぐことも考えねばならん」


「山の巨人とやらが指輪を我が物にしようとは考えないかな?」


義元が奇妙な笑みを浮かべながら揶揄するように言ったが、ヴィーザルの答えは明快だった。


「それはあるまい。彼らの気性からすれば、他の種族を敵に回してまで危険な神器を得ようなどとは考えぬはずだ。理を持って説けばニーベルングの指輪を破壊することが目的の我らに与してくれるだろう」


「分かりました。では早速私たちはヨトゥンヘイムに向かいます」


ブリュンヒルデが言うと、ヴィーザルは頷き、黄金の瞳を彼女に真直ぐ向けた。


「うむ。先程言ったが、ロキが侵入してくるやも知れん。腕の立つ者を連れて行くがよい。可能性は低いと思うが、軍をいつでも動かせるようにしておくのも忘れずにな」




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