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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第四章  強壮なる山の巨人族の大地
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第六十六話   謎の軍団

翌日、ヴァルハラのヴィーグリーズの野で大規模な軍事演習が行われることになった。

かつて行われたラグナロクにおいて魔と巨人の軍勢を迎え撃ったこの広大な平原にエインフェリアとオーク兵の軍団が整然と並び、煌めく甲冑の群れの中で風林火山の旗が雄々しく翻っていた。


「すごいねー!みんなかっこよくて強そう」


エイルが無邪気にはしゃぐと、


「物凄い大軍だね・・・・。一体全部で何人いるんだろう」


ヴァルハラの大軍の威容に圧倒されながら敦盛が呟いた。


「今のところ、全部で三万近くといったところだね」


フロックが答えた。


「三万ですか・・・・」


「この程度で驚くんじゃないよ。最終的には三十万にまで達する予定なんだから」


「三十万・・・・!!」


源平の合戦に比べれば途方も無い兵力である。平家物語では平家の兵力は約十万などと描写されているが流石にそれは誇張であり、実際には約二万程だっただろう。

すると銃撃音が鳴り響き、雄々しい武者声が続いた。


「ほう、鉄砲もそろえているのか」


「千丁程だがな」


ラクシュミーバーイが感嘆の声を上げると、グスタフアドルフが仏頂面で答えた。


「まだまだ少ない。少なすぎる。もっと大量に生産出来てから戦争に臨みたかったのだがな・・・・」


この並外れて長身の西洋人は余程軍事、特に銃火器に精通しているらしいと見て取った重成は彼にいくつか質問しようと近づいた。

その重成の耳に巨大な爆発音が鳴り響いた。立て続けに五発。


「あれは大筒か・・・・?」


白煙を吐く巨大な鉄の塊を見た重成が呟いた。胆力に優れた重成であったが、その端正な顔が若干青ざめている。嫌な記憶が思い起こされたからである。

大坂冬の陣において、徳川軍は大坂城の天守閣に大砲を打ち込み、その大音響に恐怖した淀の方によって大坂方が不利な和睦がむすばれてしまった。


「いかにも」


ヨーロッパ第一の兵器産業国であったスウェーデンの王であり、革新的な砲兵運用によって軍事史に永遠の名を刻んだグスタフアドルフが自慢気に答えた。


「まだ五門に過ぎんがな。ドワーフとやらに大砲ももっと製造してもらわねばならぬ」


「そうですか・・・・」


戦国時代の日本はヨーロッパをも遥かに凌駕する世界最大の銃所有国であったが、大砲は全く軽視され、大坂の陣以外ではほとんど使用されなかった。

その理由としては日本は山岳国であるから、巨大な金属の塊である大砲は移動の手間がかかりすぎるからだろう。

だがグスタフアドルフは大砲を軽量化させ、さらに車輪を付けることによって機動性を持たせ、実用的な兵器へと見事に進化させたのである。

神気が込められた法螺貝の勇壮な音がヴィーグリーズの野に鳴り響いた。

法螺貝の音を合図にエインフェリアとオーク兵の騎馬隊が馬蹄を轟かせ、砂塵を巻き起こしながら行軍を開始した。

軍の先頭に立つのはやはりきらびやかな雲竜を戴いた鬼面を被る北畠顕家である。その両脇には武田典厩信繁、法螺貝を手にした山本勘助。そして後方に紅の帽子を戴いた小柄な、いかにも剽悍そうな武将がいた。


「あの人が孫子の末裔にして呉の大帝孫権の父である孫堅殿か・・・・」


成程、あの武人が加わることによって風林火山の旗の神秘的な力がさらに増したようである。

付き従うエインフェリアとオーク兵が放つ神気が増し、その動きもさらに鋭さと雄々しさが備わっていた。


「素晴らしい軍勢だ。だがしかし・・・・」


これならばムスペルや死者の軍勢が相手でも大丈夫だろう、とは重成は楽観的になれなかった。

ヴァナヘイムにてヴァン神族を滅亡に追いやった敵軍の凄まじいまでの強剛さをまじまじと見せつけられたからである。

火炎を自在に操り、圧倒的な膂力と強壮無比な生命力を持つ炎の巨人族ムスペルのまさに地獄の業火そのもののような破壊と殺戮の意志に統一された軍団。

そして禍々しい瘴気を放つおぞましい死者の軍勢。彼らを率いるのはエインフェリアと様々な因縁を持つ各時代の英雄たちである。

特に大将格と目されるのは典厩信繁と勘助の主君であり、風林火山の旗の下に戦国最強の軍団を率いた武田信玄その人である。

さらにその麾下には重成と又兵衛が最も信頼を寄せた戦友である真田幸村、毛利勝永、長曾我部盛親、さらに兵法の天才と称された楠木正成、三国志の神話的な英雄とも言うべき関羽、張飛、諸葛孔明までもがいるという。


(彼らに勝利するには、我らには何かが欠けている・・・・)


その欠けたものは何なのか。重成は考えつつ、自分も演習に加わるべくオーク兵を動かした。

現在、重成に与えられたオーク兵は三百体。だがグルヴェイグや死者達との戦いによって重成の神気は高まっており、その気になればあと二百体は操れるだろう。


(だが・・・・)


重成の視線が白馬に跨る仮面の戦士に注がれた。北畠顕家は風林火山の旗を掲げる南北朝時代の古式ゆかしい甲冑を纏ったオーク兵を率い、相変わらず氷の刃のような冴え冴えとした神気を放っている。

その姿を一瞥しただけで分かるのである。顕家は死線をくぐり抜けて強くなったはずの己以上にオーク兵を精密に、かつ強烈に操ることができるであろうと。

個人的な武勇ならばともかく、戦術指揮官としての能力、軍事的な才能は明らかに顕家が上であり、この先いくら努力や精進を重ねてもその差を埋めることはできないであろうと。


(顕家卿が人格的に尊敬できる御仁ならば、このような悔しい思いはせずに済んだかも知れないのだがな・・・・)


苦笑を浮かべて己の胸中に燃える嫉妬の炎を鎮めようと心を澄ました、その時である。

突如、強大な神気が膨れ上がり、白銀色の炎で描かれた無数のルーン文字がアースガルドの天空を埋め尽くした。

何者かが、神に匹敵する存在がルーン魔術を発動したらしい。

するとヴィーグリーズの野に吹き荒れていた風がぴたりと止み、大地と大気にはらんでいた熱も消え去り静まり返った。

見れば、エインフェリアとオーク兵の軍勢の前方に突如見慣れぬ軍勢が現れたのである。

黄金色の輝かしい甲冑と兜に統一された、それでいて妙に存在感と迫力に欠けた茫洋とした気配の奇妙極まりない軍勢。

意気揚々と演習に従っていたエインフェリア軍はあまりに異常な事態にたちまち恐慌状態に陥った。


「馬鹿な!いきなり敵が現れただと・・・・?」


ローランが驚愕の表情を浮かべつつ聖剣デュランダルを抜き放つ。


「妙だ、あれは生物じゃなく、ルーン魔術で動く兵隊みたいだが、オーク兵とは違う。ヴァン神族のゴーレムとも違うらしい。一体何なんだ?」


正体不明の存在を探ろうとしたエドワードが困惑し、頭を抱えた。


「ヘーニル様が結界を張ったのに、何故何の前触れも無くやすやすと敵が侵入したのだ!」


叫びつつ重成は槍をしごき、我がオーク兵を動かそうと念を集中した。


「うろたえるな!」


顕家の男性にしてはかん高い、だが鋭気と烈気に満ちた声がエインフェリア達の鼓膜を打った。

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