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神界三国志 ラグナロクセカンド   作者: 頼 達矢
第四章  強壮なる山の巨人族の大地
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第六十三話   衝撃

ヴァルハラに帰還し、天翔ける船から降りたエインフェリアとワルキューレ、そして彼らに守られた二柱の神をアース神族の王が自ら出迎えた。


「久しいな、ヘーニルよ。またこうしてヴァルハラで会う事は叶うまいと諦めていたのだがな」


「うむ・・・・」


ヘーニルは再会の喜びと恥辱が入り混じった複雑な笑顔を浮かべながら、言葉短く答えた。


「そしてフレイヤ殿、父君と同胞達の事は残念であった。お悔みを申し上げる」


「何の・・・・。御言葉、痛み入る」


フレイヤは傷心と疲労を面に出さず、優雅に答えた。


「そして我が戦乙女と勇者達よ、大義であった。皆疲れているだろうが、まず我が間に来て欲しい。念話で大筋は聞いたが、やはり詳細を聞かんことにはな」


王の間にはヴィーザルとヘーニル、フレイヤ、そして二人のワルキューレと八人のエインフェリアが集まっていた。そして今回の任務には参加せずに軍の教練に従事していたフロック、北畠顕家、武田典厩信繁、山本勘助、ヘンリク二世、夏侯淵、グスタフアドルフ、孫堅も呼ばれていた。


「死者の軍勢・・・・。その中には我が兄、信玄がいたと・・・・」


信繁が重々しく呟き、信じられぬとばかり首を振った。


「お館様と戦えというのか・・・・。何と惨い現実よ・・・・」


入道頭に鉢巻を巻いた勘助が蒼白な表情で呟くと、今川義元が彼に語り掛けた。


「そうは言いつつも、頭ではすでに信玄を倒す策を考えているのだろう」


「・・・・」


「相変わらずよの。貴様の中にあるのはただ「戦」の一文字だけだ。かつては貴様のそういうところが好かなんだのだが・・・・。今はかえって心強く思うぞ」


かつて義元は今川家に仕官を求める勘助をすげなく断っている。それは義元の慧眼が勘助の戦を好みすぎる性質を見抜いていたからだろう。


「おそらく信玄が死者の軍勢の大将格なのだろう。勘助、貴様は信玄の戦のやり方を知り抜いておるな。必ず奴の首を上げよ」


「・・・・」


勘助は無言で入道頭を下げた。


「今川治部大輔殿は相変わらず容赦がありませんな・・・・」


「今川・・・・?」


信繁が怒りを苦笑に紛らわせながら呟くと、北畠顕家が反応した。彼はかつての盟友である楠木正成が死者の軍勢にいると聞いても冷笑を浮かべるのみで何ら心を動かした様子も無かったのだが、今の彼には明らかに怒りと殺意が浮かび上がっていた。


「その名聞いたことがあるな。足利の山猿めに尻尾を振った犬共の中にその名があったように記憶しているが・・・・」


「確かに、我が駿河今川家の祖、範国は足利尊氏と同族故、建武の中興に失敗した後醍醐帝を見限った。だがそれは祖先の話よ。我に恨み言を言われても流石に困るな」


「ふん、所詮犬の血を引く者は犬に過ぎん。貴様も死者どもに餌を与えられたら、喜んで尻尾を振るのではないか?」


「お、おい顕家、ヴィーザル様の御前だぞ。口を慎め・・・・」


容赦なく冷厳極まりない毒舌を吐く顕家を流石に見かねて、フロックが制した。


「ちっ・・・・」


不本意ながら口を閉ざした顕家に対し、義元は気分を害した風も無く、微笑を浮かべている。太平記の伝説的な若き英雄の触れれば切れる氷の刃のような烈気を愛でているような表情であった。


「関羽と張飛がねえ・・・・」


孫堅が肩をすくめながら言った。


「奴らとは董卓討伐の時に一緒の陣営で戦った。呂布以外の奴であれ程腕は立つのは見たことがねえ。あの時は味方だったが、今回は敵になるのか。厄介なこった・・・・」


「関羽と張飛を死に追いやったのは汝の息子の孫権だぞ。奴らの恨みの刃は汝に向けられるやも知れんな」


「おいおい、勘弁してくれよ」


義元が皮肉気に忠告すると、孫堅は顔を青ざめさせた。


「いくら俺でも、奴らと正面からやり合うのは御免こうむるぜ。夏侯淵、お前さんの弓矢に任せるわ」


「・・・・」


夏侯淵はその鷹のような目に炯炯たる光を宿らせながら頷いた。「万人の敵」と称された関羽と張飛の武勇の凄まじさについては彼らと幾度も戦場で見えた夏侯淵は身に染みる程知り尽くしている。

だからこそ夏侯淵は言葉には出さないものの、かつてない昂りを覚えていた。かつて彼らの眉間を我が矢で射貫いて見せると己に誓ったにも関わらず、それが果たせぬまま戦場で一度生を終えた。

しかしまたその誓いを果たせる機会が巡って来たのである。

夏侯淵のその内に秘めた激情と神の領域に近づきつつある弓の技を察したヘーニルが笑みを浮かべた。


「確かにモンゴル騎兵がいたのだな」


常は温厚なヘンリク二世がかつて誰も見たことが無い程の険しい表情で聞くと、重成が答えた。


「はい。恐らく、モンゴル騎兵こそが死者の軍勢の主力ではないでしょうか」


「何という事だ。あの忌々しい悪魔の軍団がさらにおぞましい死者となって蘇るとは。我が悪夢はまだ続くのか・・・・」


優雅で瀟洒なヘンリク二世が頭を抱えるのを見て、


「気をしっかり持て・・・・。次こそは奴らを倒すんだ」


フロックがかつてない優しい表情と声色で慰めた。彼女らしからぬ振る舞いにブリュンヒルデとエイルは不思議そうな表情を浮かべた。

フロックだけはヘンリク二世が受けた衝撃の深刻さを知り抜いていたのである。

ポーランドに攻め入ったモンゴル軍が起こした身の毛がよだつ残虐な大殺戮の嵐。そして彼らを迎え撃ったヘンリク二世の無残極まる死。


(死体の山、ワールシュタット・・・・)


ヘンリク二世とフロックが同時に心中で呟いていた。


「炎の巨人族のみならず、各時代、各国の兵の死者による軍団か。これは何とも胸躍るな。かつて体験したことのない、想像も出来ん戦争になりそうだ」


グスタフアドルフが頬のこけた痩顔を情熱的に輝かせながら震える声で言った。

死者の軍勢の存在に新たな戦友たちがそれぞれ衝撃を受けているようだが、彼のみは純粋に好奇心による喜びと興奮に震えているようであった。


「話を聞くからに、鉄砲の存在を知っているのは信繁と勘助の主君であった信玄とやらが率いる軍勢のみのようだな。それ以外は鉄砲が出現する以前の時代の軍団。そこが我らが勝利する鍵であるな・・・・」




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